HOWL BE QUIET竹縄航太インタビュー|ラストアルバムで「きれいに飛び立てるのは幸せ」

HOWL BE QUIETがラストアルバム「HOWL BE QUIET」をリリースした。

2010年に結成されてから渋谷や下北沢を中心に活動し、2016年3月にシングル「MONSTER WORLD」でメジャーデビューしたHOWL BE QUIET。「ラブフェチ」「ギブアンドテイク」「染み」など多くの恋愛ソングで支持を集めたHOWLだが、2023年3月開催の東名阪ツアー「Evergreen」をもってその活動に幕を下ろす。

彼らはなぜ解散という道を選択したのか。音楽ナタリーではメンバーを代表して竹縄航太(Vo, G, Piano)にインタビュー。13年の歴史に終止符を打つ理由や、楽しくレコーディングできたという最後のアルバムへの思い、ラストツアー「Evergreen」を前にした現在の心境を聞いた。

特集の最後ではHOWLとともにバンドシーンを駆け抜けてきた井上竜馬(SHE'S)、せとゆいか(Saucy Dog)、松本大からのメッセージを紹介する。

取材・文 / 真貝聡撮影 / 星野耕作

HOWL BE QUIETに甘えたまま生きていくのは違う

──HOWL BE QUIETの解散を知ったとき、驚きと同時に大きなショックを受けました。まずは、解散に至った経緯を教えてもらえますか?(参照:HOWL BE QUIETが3月に解散、ラストアルバム&ラストツアーを発表

オフィシャルのコメントでも書いたように「やりきった」というのが一番大きな理由ですね。僕らは2年前にAPARTMENTというレーベルを立ち上げて、いろいろと動く中で去年3月に「ばかやろう」と「Wonderism」の2曲を出しました。そこで、初めて未来の予定がなくなったんですよ。インディーズのときから「曲がこれだけあるから、いつ頃にリリースしよう」とか「今度はこのライブに出よう」とか、「次はメジャーデビューだ」とか、それぞれの目標の間隔の差はあれど、未来にやるべきことがずっとあったんです。

──それが去年3月に途絶えた。

「これからどうする?」という話になったとき、僕の中ではHOWLとして次のビジョンが見つからなかった。「あ、これが俺の中でやりきったということなのか」って……その感情が芽生えたことが、自分の中では一番大きなきっかけでした。それをメンバーとも共有して「俺もその感覚わかるな」「いや俺としてはまだ続けたい」という意見の違いがあって、衝突も起きたんです。だけど、話し合っていく中で全員が「確かに今こういう状況において解散が一番いいかもね」という結論に至りました。やっぱり自分が30代になったのも大きくて。24歳でメジャーデビューして、20代の頃と30代になってからの今を比べたら、活動に対する考え方がフレキシブルになったなという感覚があるんです。なんでもポジティブに考えられるようになった。だから解散に関しても、自分の中ではネガティブな選択ではなくて「バンドを畳んで、新しい未来の道を行ったほうが面白くない?」みたいな。それで解散に踏み切ったのはありますね。

──まだHOWLを見ていたいと思う人間からすると、休止という方法もあったと思うんですよね。

……そうですよね。休止という選択はある種のエゴで、とにかく中途半端は嫌だったんです。確かに、今のままでもよかったんですよ。多くはないかもしれないけど、応援してくれる人や音楽を聴いてくれる人がいる。HOWL BE QUIETをわざわざ畳まなくても生きてはいけるし、重荷になるようなこともない。だけど、ここに甘えたまま生きていくのは違うよなって。それは自分の中にも、メンバーの中にもありました。「活休です」と言うのは、自分たちとしては筋が通ってない感じがした。辞めるなら辞める、やるならやるっていう。そこもいろいろ話しましたね。去年の3月以降、ちょっとふわふわした活動が続いたんですよ。リリースが決まってるわけでもないから、曲を書いてもいいけど書かなくてもいい、みたいな。漠然と「これからどうしていきます?」みたいな感じが、すごく気持ち悪かったんです。みんなにタスクがないっていうか、何もやらないからって誰かに咎められることもない。それが本当に嫌で「白黒ハッキリつけようぜ」という話から、1つの答えとして解散に至りました。

竹縄航太(Vo, G, Piano)

まだ辞めんなよ──「ラブフェチ」バズに引き止められた

──最初はどなたに気持ちを打ち明けたんですか?

飲んでいたのか、家で制作していたのか曖昧ですけど、ドラムの岩野(亨)と2人で話してるときに「このままのHOWLだったら、解散して華々しく散ったほうがカッコよくない?」って話をしたんですよ。なんとなく続けていくよりもカッコいいと思うし、それぞれの未来にもつながると思うって。そしたら「確かに、それもあるかもね」みたいな話になって。そこからギターの黒木(健志)、ベースの(松本)拓郎に話しました。

──1人目に話した岩野さんの反応はどうでした?

バンドの状態として、そういう意見が出ても仕方ないよな、という感じで驚いてはなかったですね。それこそ3年ぐらい前ですかね、本当は2020年の頭にも似たような理由で解散しようと思ってて、「HOWLはここで1回終えよう」と決めました。スタッフにも「解散しようと思います」と話をしていたときに、「ラブフェチ」が「まだ辞めんなよ」と言ってるかのようにTikTokでバズってくれて。いろんな人が聴いてくれて、僕らのことを知ってくれて、その声に引き止められたんです。改めて僕らはアクセルを踏み直すことができた。でもそこから約3年が経って、あのときに積んだ燃料が切れてしまったのもありますし、タイミング的にちょうどよかったのかなって。

──それ以外にも解散の危機は何回かありましたよね。バンド内の空気がピリピリした時期もあったし。

はい、ありましたね。

──でも今回は「出せるものは全部出した」という、すっきりした気持ちなんですね。

そうですね。清々しい気持ちが一番大きくて。ベースの拓郎は途中から入ってくれたメンバーで、それでも5年も一緒にいるんですけど、亨とクロ(黒木)に関しては高3から一緒ですし、付き合いで言えば高1に始まってる。そう考えると人生の半分もともにしていて、もう兄弟みたいなもんなんです。一緒にいて会話しなくても場が成り立つし、仲がいいとか悪いの次元じゃない関係なんですよね。もちろんピリついたときもあるけど、今がバンドのモードとして一番よくて。僕らはバンドという1つの生命体ですから、一蓮托生で同じ方向を向いて活動していたと思うんですけど、それでも各々が見る細かい針の先端っていうのは、ちょっとずつズレていて。「ラブソングを書いたから、ラブソングが好きな人に届けばいいな」と思ってるメンバーと、「ラブソングだけど、とにかくメロディがいいからメロディを第一に届けたい」と考えているメンバーがいて、そういう寸分の差で針先がブレることがちょこちょこあった。だけど、このラストアルバムは初めてと言えるぐらい4人の針先がピタっと合ったんですよ。みんなのフォーカスが完全に合った。こんなに気持ちよくアルバムを作れたことがないぐらい楽しかったんですよね。

竹縄航太(Vo, G, Piano)
竹縄航太(Vo, G, Piano)

失恋を経験してきた子がついに結婚を決断

──アルバムには全18曲のうち「メアリー」「解体君書」「煙に巻かれて」など新曲8曲が収録されています。このうち「メアリー」はどんな思いで作られたんですか?

第一に思ったのは、“バカ幸せな曲”を書きたいなって。僕らはいろんなラブソングを歌ってきたし、中でも失恋ソングが多かったんですよね。自分の性癖みたいな感じで、そういう曲を歌いたい気持ちがあったんですけど、解散するときはやっぱり大きく手を振りながら笑顔で「さよなら」を言いたかった。めちゃめちゃ幸せな歌を書きたいと思って生まれたのが「メアリー」で、この曲でアルバムを始めたいなと思いました。数々の恋愛をして、いろんな失恋をしてきたHOWL BE QUIETという“子”が、こんなことを言うようになりました、みたいな。華々しく清々しい曲を書きたいという思いは、一番強くありましたね。

──僕はずっと解散を受け入れらずにいたんですけど、「メアリー」を聴いて「ああ……本当にラストなんだな」と納得したんですよね。この曲はHOWLの“メタ”だと思うし、最後の「僕と結婚しようよ」というフレーズが感慨深くて。散々、失恋ソングを歌ってきた人が最後に持ってきた言葉がこれだったんだって。

そうそう! うれしいです、そんなふうに言っていただけて。まさにその通りで、しっかり言い切ってやろう、というのが自分の中でありました。

──コーラスがゴスペルなのもいいですよね。

いいですよね! 至極の幸せであり、ハッピーなものをとにかく表現したいなと思って作りましたね。

竹縄航太(Vo, G, Piano)

──HOWLの提示するポップスって、パッと聴くと誰もが共感できるラブソングなんだけど、その裏にバンドとしてのメッセージが紛れ込んでいて、その間口の広さと多角的に楽しめる点が魅力だと思うんですよね。でも「ぼくらはつづくよどこまでも」は、珍しくバンドとしての芯をストレートに歌った印象がありました。

これはアルバム制作の最後に書いた曲なんですよ。もちろんバンドが解散したあとも音楽を続けていきたいなと思ってますし、いろんなところで曲を書いたり歌ったりしたいと思ってるんですけど、でも今後HOWLには曲を書けないと思ったときに「ああ……最後の1曲か」と思ってね。これを書くときにいろいろ思い出しちゃって、バンドの歴史というか、いいことも悪いことも本当にいろいろあったバンドだったので、思い返しながら最後に書いたのが「ぼくらはつづくよどこまでも」でした。

──ドキュメントの曲ですよね。

そうですね。この曲を書きながら頭の中で思い出旅行をしてました。結成を決めた瞬間からさかのぼって、メンバーが辞めたりとかもあったので、本当に話題の尽きないバンドだったなあと。あれは四国だったかな? サーキットの前日に俺とクロが大喧嘩して、ひと言もしゃべらないままライブをやったなとか。享が泣きながら泥酔して、それを見て俺も泣けちゃって……とか。そういうマンガみたいな13年。ずっとメンバーと一緒に振り返りながら作りましたね。

──「あんなに語った夢はまだ どこで拾えるかも わからないが」というフレーズもいいですよね。

ああ、そう言ってもらえてすごくうれしいです。