関取花×佐藤文香(俳人)|歌詞から紐解く「ただの思い出にならないように」

俳句と歌詞の違い

──俳人の佐藤さんからご覧になって、歌詞における言葉の使い方は俳句とどう違いますか?

左から佐藤文香、関取花。

佐藤 一番違うのが「親知らず」ですね。これ暗喩じゃないですか。「あなた」が誰なのかを隠してるし、歯にいろいろな気持ちを込めている。俳句は文字数が少ないので、基本、暗喩はしないんですよ。しても感じ取ってもらえないから。これはやっぱり、過去に「むすめ」(「中くらいの話」収録曲)とかいろんな曲があって、お母さんとの関係性が1つの軸になっている花さんの作家性を前提として、かつ、この分量と曲があって初めて伝わるものだと思います。あと、俳句ではより具体的に細かく描き込む方向にいくんです。そうしないと、短いから景色が像を結ばない。でも花さんの場合はより普遍的と言うか、みんなの奥底に眠っている何かに触れようとして書いているから、幻想的なんですよね。「蛍」は特にそう思いました。

関取 個人的すぎるものにしたくないんです。端から端まで1つの世界観でびっしり塗り固められたものもそれはそれで素敵だけど、私は余白があって自分で楽しみを見出せるもののほうが好きだし、長く聴いてもらえると思うので、そこは意識してますね。「親知らず」の場合は、反抗期は誰にもあるものだから突き詰めて書いても大丈夫なんですけど、「蛍」とかは意識して抽象化しました。

佐藤 歌人の穂村弘さんの言葉なんですけど、芸術は「驚異=ワンダー」と「共感=シンパシー」の配合が大事だと。びっくりさせる要素と、そうだよねって思わせる要素と。驚異8割の作家もいれば、共感8割とか6割の人もいて、共感が10割だと相田みつをになり、0に近づけていくと例えばピカソみたいになるけど、それでもどこかに納得させる部分があるから芸術としての強度がある。音楽は文字だけの俳句と違って、曲と歌詞と歌声の3つの要素があると思うんですね。花さんは曲も歌詞も共感寄りだけど、歌声が唯一無二で、私はそこに驚異を感じる。そのバランスが「わかる人だけわかればいい」じゃなくて、みんなに開かれていると思って聴いています。

関取 ありがとうございます!

ひがみはかわいらしい感情

左から関取花、佐藤文香。

佐藤 私ばっかり熱く語りすぎてしまいました。花さんから付け加えることはありませんか?

関取 いえいえ全然! とりあえず飲みに行きましょう(笑)。

佐藤 行きましょう。それで思い出したんですけど、「あの子はいいな」はひがみソングでありつつ、サビの歌詞「一杯飲みに行かないか」が救いになってますよね。「なんなのあいつ」って思ってるけど実はすごく気になってて、ある意味で好きみたいな。

関取 私もそこ気に入ってます。斜めに見て「なんだよ」って思ってるとかじゃなくて、単純にミーハーでゴシップ大好きなんで、ただただその自分を書いただけなんです。「絶対、裏にパトロンいるよね」とか邪推するんじゃなくて、一杯飲みに行って「いるんすか?」って普通に聞きたい、みたいな(笑)。このひと言で私の曲になる感じがする。

佐藤 「持て余してるから絶妙にダサいな」が面白すぎて。たまに自分が高い服を着てる日とか、みんなにそう思われてるなって卑屈になっちゃうから(笑)、その気持ちが入ってるなと思いました。この曲を作った人と仲良くなりたいなって気分になれる。

関取 まさにそう思ってもらいたいんで、うれしいです。最後を「一杯おごってくれないか」にしたのは、自分の中のクズ要素をどっかに入れないとオチが付かないなと思って。「べつに」も、自分に恋人がいないっていうオチがあるから意地悪にならず、かわいらしさが出ると思ってるんです。私は「ひがみ」ってそんなに悪い言葉だと思ってないんですよ。かわいらしい感情だなって。その感じを出せたらなと思いました。

佐藤 “女王”って言うからすごいような気がしちゃうけど、ひがみソングだけならかわいいもんですよね。

関取 「でも」「だって」「だけど」の“D”の付く言葉はよくないって言われるけど、私は「自分ダメだな」って思ってそこからがんばるタイプなんですよ。だからそう呼ばれることは意外と気に入ってます。周りには心配されますけど(笑)。

左から関取花、佐藤文香。

※記事初出時、プロフィール内の作品名に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

関取花「ただの思い出にならないように」
2018年6月13日発売 / dosukoi records
関取花「ただの思い出にならないように」

[CD]
2500円 / DSKI-1003

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収録曲
  1. しんきんガール
  2. 親知らず
  3. オールライト
  4. バイバイ
  5. 動けない
  6. あの子はいいな
  7. 彗星
  8. 三月を越えて

公演情報

関取花 バンドツアー ~あっちでどすこいこっちでどすこい~
2018年7月23日(月)
福岡県 ROOMS
2018年7月25日(水)
広島県 LIVE Cafe Jive
2018年8月9日(木)
愛知県 SPADE BOX
2018年8月14日(火)
北海道 Spiritual Lounge
2018年8月16日(木)
宮城県 enn 3rd
関取花 ホールワンマンライブ ~西でどすこい東でどすこい~
2018年8月4日(土)
大阪府 大阪ビジネスパーク円形ホール
2018年8月18日(土)
東京都 品川インターシティホール
関取花(セキトリハナ)
関取花
1990年12月18日生まれの女性シンガーソングライター。幼少期をドイツで過ごし、日本に帰国した後の高校時代より軽音楽部で音楽活動を始める。2009年には「閃光ライオット2009」で審査員特別賞を受賞し、2010年に初の音源となるミニアルバム「THE」をリリース。2012年には神戸女子大学のテレビCMソングに採用された「むすめ」が話題を呼び、同11月には「むすめ」を含む全6曲収録のミニアルバム「中くらいの話」を発表した。2014年2月には3rdミニアルバム「いざ行かん」を発売し、同年7月にFm yokohamaでレギュラー番組「どすこいラジオ」がスタート。2015年9月2日に初のフルアルバム「黄金の海であの子に逢えたなら」をリリースした。2016年10月にシングル「君の住む街」を、2017年2月にアルバム「君によく似た人がいる」をリリース。DJみそしるとMCごはん、カサリンチュへの楽曲提供なども行い、2018年1月にシングル「朝」を発表する。6月に「朝」やNHK「みんなのうた」オンエア曲「親知らず」などを収録したアルバム「ただの思い出にならないように」をリリース。
佐藤文香(サトウアヤカ)
佐藤文香

©吉原洋一

1985年兵庫県生まれの俳人。中学時代に夏井いつき氏の俳句の授業に衝撃を受け、句作を始める。2002年に「第5回俳句甲子園」で個人最優秀賞を受賞。2008年に第1句集「海藻標本」(ふらんす堂)を上梓する。句集出版をきっかけに池田澄子に師事。2014年に第2句集「君に目があり見開かれ」(港の人)、第1詩集「新しい音楽をおしえて」(マイナビブックス)を上梓した。そのほかの編著に「俳句を遊べ!」(小学館)、「天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック」(左右社)がある。

2018年6月18日更新