ナタリー PowerPush - 関取花
“弾き語りの人”が歌う 自分の原点と今の気持ち
「誰もわかってくれない」って気持ちはまったくない
──確かに収録曲の詞を読んだとき「これ、きっと関取さんの日々を切り取ってるんだろうな」っていう印象を受けました。2曲目「はつ恋」のラストで「君の手を握ったまま まだ見ぬ明日を見に行こう」と歌っておきながら、その次の曲のタイトルは「一人旅」だったりするあたりに特に(笑)。
あはははは(笑)。でもどっちも矛盾しているとは思ってなくて。
──ええ、もちろん「言ってることが違うじゃないか!」って話じゃなくて。誰にだって他人と寄り添いたい日もあれば、1人になりたい日もあるし。そういう気持ちの移ろいを正直に丁寧に歌ってる気がしたんです。
6曲とも“今の”私の気持ちなんですよね。例えば1曲目の「つらら」だったら、「THE」の頃の私には「銀色に輝く するどいこのつららを 僕たちは誰かに そっと溶かしてほしい」っていう最後の1行は歌えなかったと思いますし。
──「THE」は「私は1人だ」「誰も助けてくれない」っていうアルバムだったわけだから「溶かしてほしい」なんて誰にも頼めない。
あの頃の私が「つらら」を書いていたら、たぶん1コーラス目のAメロ「通り行く人らの くだらないその話に 聞き耳を立てては そっとこころで刺して」っていうところで曲が終わっちゃってたと思うんですけど、今はそんなにネガティブでも攻撃的でもなくて。「誰も私のことなんてわかってくれない」みたいな気持ちはまったくないんですよ。
詞を書いて知った自分自身の気持ち
──何がネガティブな気持ちを払拭してくれました?
やっぱり「ちゃんと歌えばちゃんと伝わる」ってことを知ったことなんだと思います。例えば「なんか歌に気持ちを込められなかったな」っていうライブのあとの物販って面白いくらいCDが売れないんですよ(笑)。でも逆に気持ちを込められれば、私目当てでフェスに来たわけではないお客さんも足を止めて聴いてくれる。そういうことがわかったら自分を信じられるようになったんだと思います。ただ「つらら」の歌詞も初めから「こういうことを言いたいから書こう」って作ったわけでもなくて。今お話したことはある意味後付けで。
──「後付け」?
「はつ恋」や「一人旅」もそうなんですけど、曲を作ってるときメロディと一緒に浮かんできた歌詞をそのまんま歌ってみただけで、あとで改めて歌詞を読んでみたら、実はつららがメタファーになっていたというか。危ういものではあるんだけど、季節が変われば絶対に溶けて水になってサラッと流れてしまうつららに、自分のネガティブな気持ちを誰かに溶かしてほしいっていう願いを込めたんだろうなって自分自身も知った感じなんです。
──じゃあ男の子と女の子が駆け落ちをする「はつ恋」は関取花のどんな気持ちを切り取っている?
子供の頃の気持ちを忘れたくなかったんだろうなあ、って気がしています。
──ラブソングなのに?
あっ、自分の中では「はつ恋」ってラブソングのつもりじゃなくて、駆け落ちはやっぱりあくまでメタファーなんです。というのも、今の私くらいの年齢の人間には、駆け落ちみたいなことを勢い任せにはできないな、と思っていて。駆け落ちほど大それたことじゃなくても、例えば「バイト、サボってどっか行こうぜ」って話になっても「行こうぜ!」とは答えられないですよね。「バイト先に連絡しなくて大丈夫かな?」とか「今日の時給が出ないと、来月お金厳しいな」とか、まずそういうことをいろいろと考えちゃう。でも子供の頃って興味があることに対してまっすぐだったし、その先に何があるかなんて考えてなかったじゃないですか。やりたいことがあればなんでもできちゃう。音楽をやるにしても「こんな曲を書きたいです」「こんな歌を歌いたいです」って素直に曲を作れていたし、歌えていた気がして。「いや、花ちゃん、今の時代その歌は響かないよ」みたいな意見を耳にする機会もなかったし、自分も当然そんなことは考えてなかったし。きっとそういう純粋さを忘れたくなかったんだと思います。
収録曲
- つらら
- はつ恋
- 一人旅
- 私の葬式
- だからベイビー!
- 最後の青
関取花(せきとりはな)
1990年12月18日生まれの女性シンガーソングライター。幼少期をドイツで過ごし、日本に帰国した後の高校時代より軽音楽部で音楽活動を始める。2009年には「閃光ライオット2009」に出場し、審査員特別賞を受賞して大きな注目を集めた。2010年に初の音源となるミニアルバム「THE」をリリースし、全国ツアーを開催。その後約半年の活動休止を経て、再びライブ活動を本格化させる。2012年には神戸女子大学のテレビCMソングに採用された「むすめ」が話題を呼び、同11月には「むすめ」を含む全6曲収録のミニアルバム「中くらいの話」をリリースした。2013年には新曲「最後の青」が引き続き神戸女子大学のCMソングに採用される一方、ワンマンライブや対バンライブに加え「New Acoustic Camp」「BEATRAM MUSIC FESTIVAL」などのイベント、フェスでの演奏活動も積極的に展開。そして2014年2月、ドバ、野村卓史(グッドラックヘイワ etc…)、岡田拓郎(森は生きている)が参加した3rdミニアルバム「いざ行かん」を発表した。