ナタリー PowerPush - 関取花

“弾き語りの人”が歌う 自分の原点と今の気持ち

休みの日とかホントにクズのような生活を送っているので

──でも「だからベイビー!」の「君」ってちゃんとチャーミングじゃないですか。「飯はうまい」し「感受性豊か」だし「一握りのユーモア」も持っているし。

関取花

ところが歌っている本人は休みの日とかになると、ホントにクズのような生活を送っているので……。

──どんな生活なんですか、それ(笑)。

ベッドにいるか、ごはんを食べているか。以上!

──あはははは(笑)。ベッドにいるっていうのは当然セクシーな意味ではなく。

もちろんもちろん! ずーっと横になってて、別にファンでもなければ興味があるわけでもない芸能人のゴシップとかエンタメ情報とかをケータイで見ているうちに時間が過ぎていき(笑)。自分磨きに休日を費やしたりしないし、化粧水とかだって500円くらいのやつなんですけど、そういうダメな自分が嫌いかって言われたら、なんか好きなので「まあ大丈夫だよ」って言ってあげたかったんです(笑)。

──そしてラストナンバー「最後の青」は神戸女子大学のCMソングなんですけど、受験生や学生さんの称え方が面白いですよね。ある意味「はつ恋」「一人旅」と同じ。「最後の青だよ こんなに鮮やかな日々はもうないの」と、青春時代まっただ中にある学生さんたちのキラキラ感をしっとりと、羨望のまなざしで見ている。

一昨年のミニアルバムの「中くらいの話」に入ってた「むすめ」っていう曲も神戸女子大学さんのCMソングだったんですけど、サビで「学べ 学べ 贅沢いう前に学びやがれ」ってパーンって歌っちゃう曲だったんです。それは当時学生だった自分に対する戒めの言葉でもあったんですけど、学生だったから書けた歌だなと思っていて。じゃあ大学を卒業した今、学生の皆さんに何を歌えるのか、ずっと考えながらいろんな曲を書いたりしたんですけど、まあなんかダメダメで……。

──どうやってブレイクスルーしました?

ある日の昼間に井の頭公園に行って。私、ビールが大好きなんで1人で缶ビールを飲んでたんですよ、池の前のベンチで。特にギターを持っていったりもせずに。

──例によってけっこうなクズっぷりを発揮していた、と(笑)。

はい(笑)。そしたら、たぶん野球部だと思うんですけど、おっきくて汚れたエナメルバッグを持った高校生の男の子2人が私の前で……水切りっていうんですか? 平たい石を(サイドスローのフォームで)こうやって池に向かって投げてピョンピョン跳ねさせる遊びを始めて。それを見たら「なんて美しい光景なんだろう」「なんてキレイなんだろう」って、すごく儚さや尊さを感じちゃったんです。このいつか終わっちゃいそうな幸せそうな時間に心を全部持っていかれて「ああ、これだ!」って生まれたのが「最後の青」なんです。

音楽を作り続ければ誰かとつながれる

──今作はバンドサウンドではないものの、楽器は関取さんのアコギ1本ではない。「はつ恋」にはドバさんがシェイカーで、「私の葬式」にはグッドラックヘイワの野村卓史さんがアコーディオンで、「だからベイビー!」には森は生きているの岡田拓郎さんが参加しています。この人選はどなたが?

シェイカーのドバくんは、私のバンドでドラムを叩いてくれてるからですね。普段からよく2人で朝まで飲んでたりする関係なので、お願いしてみました。実は彼、シェイカーをやったことがなかったらしくて、この曲が人生初シェイカーなんですけど(笑)、「はつ恋」は一発録りでやりたかったので、息が合う人と一緒にということで。で、野村さんと岡田さんはエンジニアの葛西敏彦さんに「他に楽器を入れたいんですけど、何かいい楽器ありませんか?」と聞いたら「アコーディオンとペダルスティールなんてどう?」と紹介してくださって。

関取花

──もともとお2人のことは……。

グッドラックヘイワも森は生きているもものすごく大好きで! グッドラックヘイワは普通にライブを観に行ってましたし、森は生きているももちろんCDを買って聴いていましたし。でもお2人とは全然面識がなかったからもうビックリもいいところでした。

──お2人のプレイはいかがでした?

岡田さんは最初「こんな感じで音を入れますね」っていうデモを送ってくださったんですけど、そのデモの1音目の時点でもう全部わかってるみたいな。特に私は何も伝えてないんですけど「歌詞を読んだらバキバキ音を聴かせるぞ!っていうよりも、愛嬌がある感じのほうがいいのかなって思ったので」って言ってくださって。ホントにそういう音になっていたのがすごくうれしかったですね。野村さんも「詞や曲の雰囲気からちょっとふわっとロマンチックにしてみました」って言ってくださって。実際「私の葬式」って私のギターもフレーズをしっかり決めるみたいな弾き方はしてはいない。「楽しくお別れしよう」っていう、ふわふわした心地のよさを出せたらいいなっていう弾き方をしていたので、そういうところがちゃんと伝わったのと、野村さんのアコーディオンが入ったことでホントにふわっと楽しい曲になったのがやっぱりうれしかったです。

──最後に「私はこういう人間です」ということを表明したこのアルバムを引っさげて2014年は何をしましょう?

野村さんとか岡田さんもそうなんですけど、最近自分が「いいな」って思ってた方に出会える機会がすごく増えていて。なんか不思議な流れができてる気がするんです。今度かみぬまゆうたろうさんと一緒に関西でレコ発ツアーをやるんですけど、それも私のミニアルバムとかみぬまさんの1stアルバムのリリース日程がたまたま一緒で、ひょんなことから「一緒に関西行ってみる?」って話になっただけだったりしますし(笑)。発信し続けていたらそうやっていろんな人とつながれるようになって、面白い曲ができたり、面白いライブができたりすることがわかったので、まずはこれからもしっかり音楽を続けていきたいです。できればしわしわのおばあちゃんになるまで歌っていたいですね(笑)。今はそういう気持ちがすごくあります。

関取花(せきとりはな)
関取花

1990年12月18日生まれの女性シンガーソングライター。幼少期をドイツで過ごし、日本に帰国した後の高校時代より軽音楽部で音楽活動を始める。2009年には「閃光ライオット2009」に出場し、審査員特別賞を受賞して大きな注目を集めた。2010年に初の音源となるミニアルバム「THE」をリリースし、全国ツアーを開催。その後約半年の活動休止を経て、再びライブ活動を本格化させる。2012年には神戸女子大学のテレビCMソングに採用された「むすめ」が話題を呼び、同11月には「むすめ」を含む全6曲収録のミニアルバム「中くらいの話」をリリースした。2013年には新曲「最後の青」が引き続き神戸女子大学のCMソングに採用される一方、ワンマンライブや対バンライブに加え「New Acoustic Camp」「BEATRAM MUSIC FESTIVAL」などのイベント、フェスでの演奏活動も積極的に展開。そして2014年2月、ドバ、野村卓史(グッドラックヘイワ etc…)、岡田拓郎(森は生きている)が参加した3rdミニアルバム「いざ行かん」を発表した。