ナタリー PowerPush - 関取花
“弾き語りの人”が歌う 自分の原点と今の気持ち
頭に浮かんだ風景を歌ったら、みんなに気持ちが伝わった
──「はつ恋」では、なぜ子供ゆえの純粋さを恋愛になぞらえたかったんだと思います?
「小さな恋のメロディ」っていう映画があるんですけど、私、あの映画を観てると、泣かせるつもりなんか全然ないはずのシーンで泣けちゃうんですよ。子供が走ってるところとかケンカしてるところとか、ホントに何気ない、でも子供がまっすぐに何かをしているシーンで涙しちゃって。でも「小さな恋のメロディ」の中の駆け落ちもそうだし「はつ恋」の中の駆け落ちもそうなんですけど、大人の目から見たら、成功するはずがないこともわかってはいるんです。
──さっきのバイトをサボる話と一緒。2人して逃げたはいいけど、明日からどうやって暮らすんだよ?って話ですもんね。
ええ。駆け落ちする2人のすごくハッピーな感じ、子供のまっすぐな感じを忘れたくはないんだけど、そういう余韻みたいなものも感じていて。「つらら」のときと一緒で「はつ恋」の歌詞を書いてみたら、「小さな恋のメロディ」のような子供の頃のことを忘れたくない自分と、「でも現実的に考えたら無理でしょ」って思っている自分がそこにいたんです。で「一人旅」も歌っていることは一緒で。この曲の主人公も行くあてなんてないのに、一人旅に出ちゃってますから。
──ただ「はつ恋」と同じテーマを歌おう!みたいな意図があったわけでは……。
ないですね。イントロを思い付いた時点で、どこかの雪国を汽車がゆっくり走ってる映像が頭に浮かんできたから、もうその風景を歌っただけ、みたいな。あとで「あっ『はつ恋』に続いてる」って自分でもビックリした、という。
──そういう曲を歌うのって勇気が要りません? 自分の深層心理みたいなものをみんなに知られるわけですから。聴く側はもちろんすごく面白いんですけど(笑)。
あはははは(笑)。でも私も実は楽しみで。「私は子供の気持ちを忘れていくことに寂しさも覚えているけど、でももう子供じゃないんだよ」ってダイレクトな言葉で歌うのとはまた別。「頭に浮かんだ風景のことを歌ってみたら、なぜか自分の思ってることがわかって、それがみんなにも伝わった!」ってなったらそれはそれでメチャメチャ面白いよなって思います。
「カレシ欲しい」とか、ホントわかんないんですよ!
──ただ関取さんはメタファーばかりを歌うわけでもない。4曲目「私の葬式」では自分の死生観を意識的にダイレクトな言葉で歌っています。
そうですね。もし私が死んでも「花ちゃん、死んじゃったね。もう会えないね」みたいな雰囲気にはなってほしくないですから。
──だから「私の葬式」では「歌えよ、踊れ、騒げよ、まあ飲めよ」「涙なんていらない」から「むかし話に花を咲かせてよ」と。
そう。ズーンってなられるんじゃなくて、こういうふうにみんなの記憶の中に残りたいな、って思ってます。
──続く「だからベイビー!」も「どうしようもないほど素敵 そんなお姉さん」にはなれない「もうどう見ても愛嬌しかない そんな君」に向けた明確なメッセージソングですよね。
あっ、確かに私の思っていることを単純明快に言葉にしてみたつもりですし、聴いてくれる人を応援する意味もあるんですけど、それ以前にこれ、自分へのラブソングなんです(笑)。
──「少し不器用」で「褒められ慣れてない」「どう見ても愛嬌しかない君」は関取さんでしたか(笑)。
ちょっとフィクションもありますけど、恥ずかしながら(笑)。私、恋愛ソングがまったく書けなくて。でもいつかは挑戦してみたいなとは思っていたので、まずは自分に向けて書いてみました。
──自分で分析するに、なんでラブソングを書けないんだと思います?
あまり恋愛に入れ込むほうじゃないというか、恋愛に対する興味がもともとないからですかね(笑)。私、去年大学を出たので、大学時代の友達はたいてい社会人1年目なんですけど、環境が変わったからなのか、みんな何かっていうと「カレシ欲しい」とかなんとか言ったりしてて。それがホントにわかんないんですよ。
──恋愛のことなんて気になる人が現れたときに考えればいいことであって、今現在気になる人がいるわけでもないのに「カレシ欲しい」って言ってる意味がわからないってこと?
そうですそうです! それならせめて自分くらいは自分を励ましてあげたくて。だから自分へのラブソングを書いてみました(笑)。
収録曲
- つらら
- はつ恋
- 一人旅
- 私の葬式
- だからベイビー!
- 最後の青
関取花(せきとりはな)
1990年12月18日生まれの女性シンガーソングライター。幼少期をドイツで過ごし、日本に帰国した後の高校時代より軽音楽部で音楽活動を始める。2009年には「閃光ライオット2009」に出場し、審査員特別賞を受賞して大きな注目を集めた。2010年に初の音源となるミニアルバム「THE」をリリースし、全国ツアーを開催。その後約半年の活動休止を経て、再びライブ活動を本格化させる。2012年には神戸女子大学のテレビCMソングに採用された「むすめ」が話題を呼び、同11月には「むすめ」を含む全6曲収録のミニアルバム「中くらいの話」をリリースした。2013年には新曲「最後の青」が引き続き神戸女子大学のCMソングに採用される一方、ワンマンライブや対バンライブに加え「New Acoustic Camp」「BEATRAM MUSIC FESTIVAL」などのイベント、フェスでの演奏活動も積極的に展開。そして2014年2月、ドバ、野村卓史(グッドラックヘイワ etc…)、岡田拓郎(森は生きている)が参加した3rdミニアルバム「いざ行かん」を発表した。