劇伴作家・澤野弘之によるボーカルプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]のニューシングル「Binary Star/Cage」が4月25日にリリースされた。
本作はテレビアニメ「銀河英雄伝説 Die Neue These」のオープニングテーマとして制作された「Binary Star」、お台場の「実物大ユニコーンガンダム立像」のテーマソングとして書き下ろされた「Cage」というダブルタイアップシングル。「Binary Star」は[nZk]プロジェクト初参加となるUruをボーカリストとして迎えた注目作だ。さらにカップリングにはGemieが歌う新曲「Roller Coaster」、最新アルバム「2V-ALK」収録の「Amazing Trees」の“extended ver.”が収められ、聴きごたえのある内容に仕上がった。
音楽ナタリーでは、澤野に濃厚なシングルに収録されている全楽曲の解説をしてもらった。
取材・文 / 北野創
劇伴抜きで1曲入魂したオープニングテーマ
──SawanoHiroyuki[nZk]にとって2018年最初の新曲「Binary Star」は、テレビアニメ「銀河英雄伝説 Die Neue These」のオープニングテーマとしてオンエア中です。1980年代から現在まで根強い人気を誇るSF作品のリメイクとのタイアップということで、お話をいただいたときのお気持ちはいかがでしたか?
「銀河英雄伝説」は今までしっかり触れてきたわけではなかったんですけど、もちろん名前を知ってる作品だったので純粋にうれしかったですね。それにSawanoHiroyuki[nZk]は基本的にアニメのテーマ曲でタイアップさせていただく場合、僕自身が劇伴を担当している作品がほとんどだったんですよ。今回の「銀英伝」に関しては僕が劇伴をやっているわけではないので、初めてオープニングテーマのみを担当できることもうれしかったです。
──これまでのアニメタイアップ作品では、劇伴も含めてトータルで音楽を考えられていた部分があると思うのですが、今回オープニングを単体で制作することで今までと変化したことはありましたか?
曲作りに関しては特に違うことはないんですけど、気持ちの部分ではちょっと不思議な感覚でやってたところはありましたね。劇伴も担当するときは、やはりテーマ曲とサントラをどこかしらでリンクさせたり、全体も含めてセットでどういう音楽を作るか考える部分があるんですけど、今回はとにかく1曲だけに力を込めたと言うか、オープニングの部分だけで作品を観る人にどう楽しんでもらえるか、自分の中にある「銀河英雄伝説」という作品の世界観をどう感じてもらえるか、ということに意識がいってたと思います。
──アニメ制作サイドから何か具体的な指定やオーダーはあったのでしょうか?
「歌詞は英語がいい」ということと、「オーケストラをフィーチャーしてほしい」ということですね。過去に制作された「銀英伝」のアニメ(1988年から2000年にかけて制作されたOVAシリーズ)のテーマ曲はスタンダードな曲が多かったので、もしかしたら制作サイドとしては過去の作品とシンクロしてる曲を求めてたのかもしれないですけど、僕はやはり[nZk]というプロジェクトでやるからにはバンドが入った形で自分なりのサウンド感を聴かせたいと思って。そこで宇宙という大きなカテゴリーの世界観でオーケストラとバンドによるサウンドを考えたとき、自分の中にパッと思い浮かんだのが映画「アルマゲドン」でAerosmithが歌ってた主題歌「I Don't Want to Miss a Thing」だったんです。ああいう壮大な世界観の曲ができればと思って、制作に取りかかりました。
──確かに序盤のストリングスを交えたノンビートのアコースティックなサウンドから、徐々にリズム隊などが加わって音の厚みを増していくアレンジの構成は壮大かつエモーショナルです。
まず最初の1コーラスはリズムを入れずにストリングスのサウンドを意識した構成にしました。最初からリズムを入れてしまうと、そこに意識が強くいってしまうし、自分としても段階的にパワフルになっていくように作ろうと思ったんです。なので、もしかしたら劇伴的と言うか物語を感じられるような展開になったかもしれないですね。
ボーカリストUruに求めた力強い歌声
──タイトルの「Binary Star」は「連星」という意味で、銀河帝国のラインハルト・フォン・ローエングラムと自由惑星同盟のヤン・ウェンリーという2人の“巨星”がお互いに惹かれ合いながらも争う「銀英伝」の物語にピッタリですね。
歌詞はより具体的な部分なので、作品の世界観とある程度合ってないといけないですし、いつも英語の詞を作詞してくれるBenjaminとmpiさんがそのへんを汲んで作ってくれたんです。僕自身は正直、歌詞は内容が作品とリンクすることも重要ですけど、一番気にするのはサウンドにどうハマってるかという響きの部分なので、そういう意味で今回の「Binary Star」というタイトルも言葉として発したときの響きがカッコいいなと思ってOKしました。
──歌詞の具体的な内容に関しては、Benjaminさんとmpiさんに委ねてる部分が大きいと。
作詞のお二人はいつもうまいポイントを押さえるセンスがあって、僕自身それをすごく信頼してるんです。アニメ「進撃の巨人」のサウンドトラックのときも「The Reluctant Heroes」とか、タイトルの付け方が絶妙だなと思いましたから。もちろん作品とリンクするところもありますけど、作品から離れたときもそのタイトルでよかったと思えることが多いので、そこは彼らの力だと思いますね。
──この楽曲はソロアーティストとして活動するUruさんをボーカリストに迎えているのも大きなトピックです。SawanoHiroyuki[nZk]にUruさんが参加されるのは今回が初ですよね。
ええ。昨年リリースしたアルバム(「2V-ALK」)まではTielleさん、Gemieさん、mizukiさん、Yoshさんたちに歌ってもらうことが多かったんですけど、この曲ではスタッフに「新たなボーカリストの方とチャレンジしてみては?」と言われて、それも面白そうだなと思ったんです。それで何人かの方を提案してもらった中にUruさんもいらっしゃって。そのときすでに曲は先行して作ってたので、どの方の声が曲にハマるか考えた結果、Uruさんにお願いしました。
──Uruさんの歌声のどんなところに魅力を感じたのでしょうか?
僕がそのときに見させてもらった資料が、ご本人がピアノのオケをバックにいろんな方の曲をカバーしてる動画だったんですよ。映像では顔が半分隠れてる感じで、そのミステリアスな感じが面白いと思ったんです。あと優しい歌を歌われる印象だったので「Binary Star」のAメロやBメロはそういうアプローチで歌ってもらったら素直にハマるんじゃないかと。それと逆に強く張って歌ったら、どんな声を出してくれるのか期待したところもあります。
──確かにこの楽曲でのUruさんは、いつもより力強い歌声をされてて、新しい一面が出ている印象を受けました。
ご本人も過去にここまで強く歌ったことはなかったみたいで。でも、僕はUruさんに限らず、初めて歌をお願いする方には普段と違ったアプローチでお願いすることが多くて。別に意図的にやってるわけではなくて、作った曲が結果的にそういうお願いになることが多いだけなんですけどね。Aimerさんもそうでしたし。
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単純に大げさなものが好き
- SawanoHiroyuki[nZk]
「Binary Star/Cage」 - 2018年4月25日発売 / SACRA MUSIC
- CD収録曲
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- Binary Star by SawanoHiroyuki[nZk]:Uru
- Cage by SawanoHiroyuki[nZk]:Tielle
- Roller Coaster by SawanoHiroyuki[nZk]:Gemie
- Amazing Trees -extended ver.- by SawanoHiroyuki[nZk]:Tielle
- Binary Star(instrumental)
- Cage(instrumental)
- Binary Star(TV size)
- DVD収録内容
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- テレビアニメ「銀河英雄伝説 Die Neue These」ノンクレジットオープニングムービー
- CD収録曲
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- Cage by SawanoHiroyuki[nZk]:Tielle
- Binary Star by SawanoHiroyuki[nZk]:Uru
- Roller Coaster by SawanoHiroyuki[nZk]:Gemie
- Amazing Trees -extended ver.- by SawanoHiroyuki[nZk]:Tielle
- Cage(instrumental)
- Binary Star(instrumental)
- Cage(WALL-G edit)
- DVD収録内容
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- 「Binary Star」MUSIC VIDEO
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通常盤 [CD]
1350円 / VVCL-1207
- 収録曲
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- Binary Star by SawanoHiroyuki[nZk]:Uru
- Cage by SawanoHiroyuki[nZk]:Tielle
- Roller Coaster by SawanoHiroyuki[nZk]:Gemie
- Amazing Trees -extended ver.- by SawanoHiroyuki[nZk]:Tielle
- Binary Star(instrumental)
- Cage(instrumental)
- 澤野弘之 LIVE [nZk]005
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2018年5月13日(日)
神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール出演者澤野弘之 / Aimee Blackschleger / Aimer / Benjamin / Cyua / David Whitaker / Do As Infinity / Eliana / Gemie / mizuki / mpi / Tielle / Uru / Yosh
- 澤野弘之(サワノヒロユキ)
- 1980年生まれ、東京都出身の作曲家、編曲家。「医龍」シリーズやNHK連続テレビ小説「まれ」、「アルドノア・ゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど、ドラマ、アニメ、映画など映像作品のサウンドトラックを中心に、楽曲提供や編曲をするなど精力的に音楽活動を展開している。2014年春からはボーカル楽曲に重点を置いたプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]を始動。その第1弾作品として「機動戦士ガンダムUC」シリーズの楽曲も共作したAimerと、SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer名義のアルバム「UnChild」を発表した。2015年2月にはSawanoHiroyuki[nZk]の新作「&Z」と、自身の手がけたアニメーションのサウンドトラックの中からボーカル曲のみをセレクトしたベストアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」をリリースしている。同年9月にSawanoHiroyuki[nZk]の1stアルバム「o1」と、澤野名義のサウンドトラックベスト「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」を発表した。2017年9月にSawanoHiroyuki[nZk]として2作目のアルバム「2V-ALK」、2018年4月にテレビアニメ「銀河英雄伝説 Die Neue These」のオープニングテーマ「Binary Star」と「実物大ユニコーンガンダム立像」のテーマソング「Cage」を収めた両A面シングルをリリース。
2018年4月25日更新