いつも助けられてる

──「まっさら」の「戻れないあの頃の 自分を探すより まっさらな明日を生きる」というフレーズも印象的でした。

石原　最近はいろいろ考えることが多いんです。考えすぎてしんどくなることも多々あるんだけど、前に歩み出すしかないというか。「前世や来世にも意味なんかはない」と書きましたけど、本当にそう思うんですね。例えば、あなたの前世はスペイン人で……と言われても、「だから何？」としか思わないというか（笑）。このときを生きているのはほかでもない自分だし、今を見つめるしかないよな……という歌ですね。

──せとさんはこの歌詞について、どう思っていますか？

せと　いつも途中段階で見せてくれるんですけど、この曲に限らず、「ちょっと難しすぎるかも」ということがけっこうあるんですよ。曲を聴いて、歌詞を読んだときにすぐに意味が理解できないと、「よくわからないな」で終わっちゃう気がして。例えば、物語がある歌詞だったら、「主人公がどういう人で、こんなことをやっていて」というのがはっきり伝わるほうがいいので。「まっさら」でもそういう話をした気がします。

石原　そうだね。つい、歌詞が難しくなっちゃうことがあるんですよ。「自分たちのファンだったらわかってくれるかな」と思いながら書いてしまうこともあって。ゆいかの意見にはいつも助けてもらってますね。

そのコメント、プロモーションになってないよ

──メンバー同士でディスカッションを重ねながら、楽曲が形作られているんですね。「ワンダーランド」はアレンジがすごく個性的です。

秋澤　この曲はギターとベースがめっちゃ難しいんですよ。

石原　確かにムズい（笑）。

秋澤　レコーディングではなるべくきっちり合わせるようにしてるんですけど、「ワンダーランド」はノリ重視で。ライブでは尺を長くしてもいいかも。

せと　「ワンダーランド」は今回のミニアルバムで唯一、セッションで作り始めた曲で。そのとき頭の中にあったのは、大御所のバンドが楽しみながらライブをやってるイメージだったんです。演奏がすごくうまい人たちが「音楽大好き！」みたいなまっすぐな気持ちでセッションしてるのを想像しながら、うまくない私たちがやっちゃったという（笑）。

石原　そのコメント、全然プロモーションになってないよ（笑）。

秋澤　1990年代のいなたい洋楽っぽさもあって、いい感じの曲です！

せと　（笑）。今しか出せないグルーヴというか、セッション感を音源にしっかり残せたのはよかったのかな。例えば10年後に3人で演奏したときに、曲の印象が変わってたら面白いだろうなと思います。

秋澤　うまくなりすぎて、面白くなくなってるかも（笑）。

石原　そうかもしれないけど、実際にうまくなってから言おうか（笑）。

秋澤「一番好きな曲かも」

──映画「恋に至る病」の主題歌「奇跡を待ってたって」の制作はどのように始まったんですか？

石原　家でギターを弾いてるときに何気なく出てきたリフがもとになっているんです。主題歌のお話をいただいて、先に映画を観させてもらって。エンディングのときに、そのリフが自然と頭の中に流れたんです。そのイメージのまま作り始めたのが「奇跡を待ってたって」ですね。歌詞もそうですけど、全体的にカオス感のある曲にしたくて。怖い感じもあるし、後味の苦さみたいなものも含めて、「この映画には絶対に必要だ」と思ってもらえるような1曲になったらいいなと。映画を観た人たちにも、「奇跡を待ってたって」を最後まで聴いたうえで、どういう気持ちになるのか確かめてほしいんですよね。

──アコギと歌で始まり、スケール感のあるバンドサウンドへと移行するアレンジも映画のストーリーとリンクしている印象がありました。

石原　弾き語りから入って、サビでバーンと開けて、2番はポップになって、Dメロにはラップみたいなパートやゴスペルっぽいところもあって、最後にさらに開けるという。いろんな要素を詰め込んでいるし、まさにカオスですよね。いろんな色を混ぜたら黒に近付く、というイメージもありました。

秋澤　個人的には一番好きな曲かもしれないです。レコーディング前にめっちゃ練習したんですけど、しばらくすると忘れてて（笑）。体に入れるまでにもうちょっと時間がかかるかもしれないですね。

石原慎也が内心思っていること

──7曲目の「犬も喰わない」も、このミニアルバムの核になる楽曲だと思います。バンドを始めた当初の思い、今のバンドの空気などが反映されている曲なのかなと。

石原　たぶんなんですけど、Saucy Dogを知っていれば知っているほど、よさをわかってもらえる曲だと思うんですよ。「サウシーをよく知ってるから、クスッと笑っちゃったよ」という人もいれば、「いろんなことを思い出して泣いた」という人もいて。マジでSaucy Dogらしさを感じられる曲ですね。

──そういう楽曲をこのタイミングで書いたのはどうしてなんですか？

石原　「バンドを始めたての頃の気持ちを思い出したいよね」みたいな思いが3人の中にあったんですよ。最初の頃はいろんなことにワクワクしていて、もっと輝いてキラキラしてた。ちょっと「スパイス」の歌詞につながるところもありますけど、イヤなことがあってもこの3人だからがんばれたし、ここまでやってこれたんだなと思ったんですね。今もケンカしますけど（笑）、大変なことを何回も乗り越えてきて、今の俺らがいる。これからもSaucy Dogとして最後まで向き合っていきたいという気持ちで書いた曲ですね、「犬も喰わない」は。

──秋澤さん、せとさんは、この曲に対してどんな思いがありますか？

秋澤　バンドをテーマにした曲はいくつかあるんですよ。年齢を重ねて、バンド歴も重ねてきてますけど、根本的な部分は変わってないなと思う。それを踏まえて「今の自分たちは、バンドをこんなふうに感じてるんだな」というのがわかりやすく出ている曲だなと。

せと　私自身がバンドについて考えるというより、今、慎ちゃんはこういう気持ちで、こういうモードなんだなって。「スパイス」もそうですけど、もがいてもがいて、でも前に進もうとしているというか。こういうことは普段あんまりしゃべらないですけど、内心で思っていること、本人の気持ちが言葉になってるんだろうなと感じます。

石原　確かにそういうことはあまりメンバーに言わないし、態度にしか出さないんですよ。曲を通して発散できているので、それでいいのかなと。

せと　ライブでこの曲をやるのも楽しみですね。ほかの曲とまた違った感情になりそうな気がしてます。

京セラドームは緊張しそう

──ミニアルバム「カレーライス」のCDには、恒例のせとさんの歌唱によるボーナストラック「愛しい日々よ」が収録されてます。2023年にはせとさん歌唱曲をまとめたボーナスEP「はしやすめ」もリリースされましたが、だいぶ曲が増えてきましたね。

せと　今作で8曲目ですね。最初の曲（2ndミニアルバム「サラダデイズ」に収録された「へっぽこまん」）は大学生のときに友達とバンドをやってた頃に作った曲なんですよ。その後も「ボーナストラックだし、歌が下手でもいいから楽しくやろう」という感じで続けてきたんですけど、最近、「歌、うまくなりたいな」と思うようになってきて。詞を書くことに対しても、ちょっと気持ちが変わってきましたね。フィクションとして作っても、言葉のちょっとしたところに自分の内心みたいなものが出るし、難しいなあって。

──「愛しい日々よ」は、今回のミニアルバムのテーマにもつながっている気がしました。

せと　そこはあまり意識してなかったんですが、ここ最近は静かで切ない曲が多かったので、少し違った感じにしたくて。日々いろんなことがあるし、ムカつくこともあるけど、全部肯定してみようと思って作った曲ですね。

石原　周囲の人に「ミニアルバム、どうだった？」って聞くと、だいたい「ボーナストラックがいいね」と言われるんですよ。「え？ 本編は？」と思うんだけど（笑）、今回のボーナストラックもいい曲ですよね。

──年明け1月4日は、京セラドーム大阪でワンマンライブ「Saucy Dog DOME LIVE 2026 "A NEW DAWN"」が開催されます。キャリア最大規模のライブですね。

石原　個人練習に入れる日が何日あるだろう？という感じですね。

せと　ちゃんと入って。

石原　がんばります。

秋澤　俺もがんばります（笑）。演奏のこともそうだけど、ライブでのメンタルも大事なので。イメトレもちゃんとやろうかなと。

せと　今まで「会場が大きいから」みたいなことはあまり意識したことがないんですけど、唯一、2021年の武道館のときはめっちゃ緊張した記憶があって（参照：Saucy Dog、とっておきの愛と感謝を届けた初の日本武道館ワンマン）。今回もそうなる気がします（笑）。実家に近いし、いろんなアーティストを観てきた会場でもあるので、思い入れもあって。いいライブができるようにがんばります。