Saucy Dog「サニーボトル」特集|自信を得て大人になった3人が作り上げた“太陽”

Saucy Dogが6thミニアルバム「サニーボトル」を7月6日にリリースした。

このミニアルバムにはWOWOWドラマ「神木隆之介の撮休」の主題歌「ノンフィクション」、フジテレビ系「めざましどようび」のテーマソング「優しさで溢れた世界で」などのタイアップソングを含む7曲が収められ、CD盤にはボーナストラックとして、せとゆいか(Dr, Cho)がメインボーカルを務める楽曲「ころもがえ」を収録。昨年発表された「シンデレラボーイ」のロングヒットや今年開催された初のアリーナツアー「Saucy Dog ARENA TOUR 2022 "Be yourself"」の成功を経て、自信を得た3人の最新のモードが表現された作品に仕上がっている。

音楽ナタリーでは本作の発売に際してSaucy Dogにインタビュー。ロングヒット中の「シンデレラボーイ」への思いや初のアリーナツアーを完走した感想、ミニアルバムの制作エピソードを語ってもらった。

取材・文 / 酒匂里奈撮影 / 大川晋児

「シンデレラボーイ」のヒットの理由

──皆さんにお話を聞くのは約1年ぶりですが、この1年はSaucy Dogにとって大きな飛躍の年になったのではないかと思います。前回のインタビュー(参照:アットホームさとバランスを武器に前進するSaucy Dog、初の日本武道館ワンマンや新作ミニアルバムを語る)で石原さんが、「シンデレラボーイ」のことを「自分たちの推し曲」だとおっしゃっていて。ご自身がいいと思ったものに対して、世間から反響があったのは自信につながったのでは?

石原慎也(Vo, G) 自分たちがいいと思った曲が世間の人に受け入れられた経験が初めてで。いや、初めてとは違うか。「雀ノ欠伸」もそうですね。そのときそのときでいいと思った曲を聴いてくれた人が評価してくれて、それをどんどん更新できているのがうれしいです。中でも「シンデレラボーイ」はたくさんの人が“歌ってみた”動画を投稿してくれたりして、自分たちの予想以上の動きがありましたけど。

秋澤和貴(B) タイミングもよかったなと。今は外出時間が少ないから、音楽をみんなで「ワーッ」と盛り上がって聴くというよりかは、家で1人しみじみ聴くことが多いと思うんですよね。そういう若い世代の音楽の聴き方に「シンデレラボーイ」がうまくハマった気がしています。でも正直ここまで聴いてもらえるとは思ってなかったので、その実感があまりなくて。周りの人からたくさん連絡がきて「すごいんやな」と思うことはあるけど。でも不思議と「次もヒット曲を生み出さないといけない」というプレッシャーは感じてないですね。

石原 そうなんだ。でも確かに「ええ曲作らな」というのはこれまでもずっと思ってたことだからね。

せとゆいか(Dr, Cho) 私は「シンデレラボーイ」が完成したときの自分のイメージと、聴いてくれる人の受け取り方が想像とは違って。いろんな捉え方で聴いてもらえているのはうれしいですが、ライブでは音源とはまったく違う印象を感じてもらえる自信があるので、音源しか聴いたことがない人にはライブで「シンデレラボーイ」を聴いてみてほしいですね。

石原慎也(Vo, G)

石原慎也(Vo, G)

石原慎也(Vo, G)

石原慎也(Vo, G)

──「いつか」も多くの人に聴かれている曲ですが、この曲も完成したときに「シンデレラボーイ」と同じような手応えを感じていたんですか?

石原 感じてなかったですね。

せと 「いつか」は今の3人編成になってイチから曲を作らなきゃ、というタイミングでできた曲で。

石原 当時はまだ持ち曲でバラードがなかったんだよね。

せと うん。まず「煙」を作って、そのあとに「いつか」と「ナイトクロージング」を作ったんですけど、この3曲を合わせても持ち曲が全部で4、5曲しかなくて。だからライブは曲順だけ変えた同じようなセトリでやってました。その当時は、「いつか」が特別いいという感覚はなかったんですよね。

石原 でもライブをやると、観た人に「『いつか』が一番いい」と言われることが多くて。

──「いつか」はライブでお客さんにそこまで響くとは想定していなかったと。対して「シンデレラボーイ」は“推し曲”だという感覚があって、狙ってホームランが打てたんですね。

石原 「シンデレラボーイ」は、作っている途中よりも、ミックスが終わって完成した音源を聴いたタイミングで手応えを感じました。曲の構成やアレンジがうまくできて、歌詞だけではなくてメロディにも感情が乗っているような起伏を付けられたし。Aメロのコーラスワークもめちゃくちゃ好きだし、Dメロ前のノリもいい感じに作れたなって。

せと デモを聴いたときに今までのSaucy Dogの曲とは少し違ってたので、面白いなという感覚はありました。

秋澤 俺はキャッチーな曲やなと。聴いていて耳にスッと馴染む感じで、前回のミニアルバム(「レイジーサンデー」)の中では、リード曲じゃないけどリード曲っぽいなと思ってました。

石原 曲を作るときはいつも自分が好きだと思えるものを書いてるので、狙ってヒット曲を生み出せたというよりは、たまたま「シンデレラボーイ」のときは世間の人が求める音楽と自分が好きだと思える曲が一致したのかなって。自分としては「歌ってて気持ちいい曲が増えたかな」という感覚ですね。

演奏力が高まり、より感情を表現できたアリーナツアー

──続いて6月に行われた初のアリーナツアーの話を聞かせてください(参照:Saucy Dog、“アルティメット”編成で新たな魅力アピールした初のアリーナツアー)。2度目の日本武道館ワンマンでもある初日公演を観させていただき、初の武道館公演のときと比べるとバンドの成長を感じました。「雀ノ欠伸」「ナイトクロージング」あたりのにぎやかなパートでは、3人の「楽しい!」という感情がこれまでよりしっかり伝わってきて。

石原 アリーナツアーでは前だけではなく後ろにもお客さんがいたので、全方位にいるお客さんに声や感情を伝えようという意識は持ってましたね。

せと 確かに前回のツアーとはかなり変わったと思います。この1年間で演奏がうまくなった自信があって。1年前は演奏に集中していたけど、演奏力が高くなったから感情面やほかの部分に意識を向けられるようになった気がします。余裕ができてきた感じですね。

せとゆいか(Dr, Cho)

せとゆいか(Dr, Cho)

秋澤 正直、少し前は「ライブは作業」みたいな感覚になってしまって、今より楽しめていなかった部分がありました。いろいろな要因があるんですけど、あるタイミングで「もともと音楽や演奏することが好きでバンドを始めたんだ。初心に帰ろう」「こうじゃなきゃだめだという固定観念をなくそう」と思えて。今はライブで演奏していて楽しいし、3人の音が前よりしっかり聞こえてくるんですよね。さっき言っていたように余裕ができたというのもあって、「お客さんに伝えたい」という気持ちも強くなったのかなと思います。

──本ツアーのライブでは、中盤に用意されたサウシー、サポートピアニストの村山☆潤さん、ストリングスカルテットのひかりストリングスからなる“アルティメット編成”での演奏もハイライトでした。

石原 もう少し長い間、一緒にツアーを回りたかったですね。そうしたらより1つになれたのかなと。

せと 「THE FIRST TAKE」で初めてストリングスの方たちと一緒に演奏して、新鮮さと手応えを感じて。その流れで自然にアリーナツアーでも一緒にやることが決まりました。一緒に演奏していてすごく安心感がありましたね。

秋澤 ライブで一緒に演奏したのは初めてやったし、もう少しグルーヴ感を出せたんじゃないかとは思うんですけど、ストリングスが入って豪華になりつつ、バンドの魅力を打ち消さずに相乗効果が生み出せたと思います。あと、お客さん的にはあの編成でのライブを観れたのはうれしかったんじゃないかなと。僕らも楽しかったんで……次のツアーもやります!

石原 おっ(笑)。でも本当にやりたい。次のホールツアーはたくさん回るからね。アリーナツアーでは音数と安心感が増した、という感じだったので、次はもうちょっとギュッと一体になった状態で演奏を届けたいですね。