Saucy Dogインタビュー|スリーピースバンドの魅力を追求し続け、たどり着いた「バットリアリー」

Saucy Dogの7thミニアルバム「バットリアリー」が7月19日にリリースされた。

昨年キャリア初のアリーナツアーを開催し、「NHK紅白歌合戦」に初出場するなど、スターダムを駆け上るSaucy Dog。そんな彼らの最新作は、テレビドラマ「スーパーのカゴの中身が気になる私」の主題歌「夢みるスーパーマン」、映画「スクロール」の主題歌「怪物たちよ」などのタイアップを含むバラエティ豊かな楽曲群を収めた、3人の新たな可能性が感じられる1枚に仕上がっている。

音楽ナタリーでは本作のリリースに際してSaucy Dogにインタビュー。3人に「バットリアリー」の制作エピソードについてじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / YOSHIHITO KOBA

いい曲を書いて、いいライブをやっている

──昨年は初のアリーナツアーを行い、「NHK紅白歌合戦」に出場されました。ライブの規模、知名度がさらに上がっている印象を受けますが、この状況をどう捉えていますか?

石原慎也(Vo, G) めちゃくちゃ変わったという感じはないですね。芸人さんが「M-1グランプリ」で優勝したら、いきなり売れるじゃないですか。「そういうことが起きることもあるのかな?」と思ったこともありましたけど、全然なくて。今もスーパーで値引きされたお肉を買ったりしてますし(笑)。

秋澤和貴(B) プレッシャーみたいなものはありますけどね。あとはブレないようにしたいという気持ちも引き続きあります。

石原 うん、ブレないというのは大事ですね。求められていることに応えるというよりは、そのときに自分たちがやりたい曲を作るようにしていて。そこはたぶん、ずっと変わってないよね。

せとゆいか(Dr) そうだね。

Saucy Dog

Saucy Dog

石原 ライブのやり方も変わってなくて。会場が大きくなっても、伝えるときは“1対1”なので。

せと あと「ライブでこういう曲が欲しいよね」という話はよくします。

石原 そうだね。「こんな曲やりたいよね」って。

せと それこそ「コロナが明けたときに、みんなで歌える曲作りたいな」とか。

石原 うん。ライブ主体で考えることはけっこうありますね。

──Saucy Dogは「シンデレラボーイ」がスマッシュヒットしたこともあり、切ないラブソングの印象が強いですが、ライブを重ねることで実力を付けてきたバンドですよね。初めてライブを観て「こんなにロックバンドなんだ」とギャップを感じる人もいるのではないかと。

石原 そうですね。なので音源だけ聴いたことがあるという方には、ライブを観てほしいです。いい曲を書いて、いいライブをやっていると自分たちでは思ってるので。

遊園地のような「バットリアリー」

──では、7thミニアルバム「バットリアリー」について伺います。既発曲も収録されていますが、ミニアルバム全体のテーマはあったんでしょうか?

石原 テーマは特になくて。いつも通り、自分たちがやりたいことをやって、できた曲を全部入れた感じです。いい意味でバラバラというか、1曲1曲違うものになったし、「こういうのはやったことがなかったな」という曲もあって。自分的には遊園地みたいだなと思ってます。コーヒーカップもあればジェットコースターもあって。

せと (笑)。

石原 全部を好きじゃなくていいんですよ。おばけ屋敷が嫌いな人がいるように、「この曲は苦手かも」「これはめっちゃいいな」でいいと思ってるので。もちろん自分たちは全部の曲が好きなんですけどね。

──達観してますね。

石原 いやいや、だって好き嫌いはみんなあるじゃないですか。例えば1人の人に対しても、「この人のここは好きだけど、こういうところは嫌い」と感じることもあるし。そりゃ全部好きになってくれたらうれしいけど、そういうわけにもいかないと思うので。自分たちも好きなように作ってますからね。

石原慎也(Vo, G)
石原慎也(Vo, G)

石原慎也(Vo, G)

せと タイアップだと、その内容に沿って「アップテンポのほうがいいよね」と考えることはありますけど、そこまで流行りのサウンドを狙って作ることはないので。今回のミニアルバムの曲も、そのときどきの自分たちの色がちゃんと出てるなと思います。

──トレンドや流行も意識しない?

せと そうですね。なんていうか、3人の音でやれることって限られていると思うんですよ。なので流行に近付けようと思ってもできない。

石原 打ち込みは絶対に使わないと決めているわけじゃないんですよ。ただ「ここまで3人でやってきたしな」みたいな感覚があって。もし打ち込みを使った曲が作りたくなればやるだろうけど、今は「3人だけでやれることが増えている」という感覚があるから、スリーピースバンドの音を追求している感じなんですよね。それぞれの引き出しも増えているし、バンド全体としてもできることの幅が広がっているので。ギター、ドラム、ベースと3人の声を合わせて、楽器が6個あるような感覚なんですよ。それを組み合わせたら、まだまだやれることはけっこうありますね。やっぱり俺らは、バンドのよさを突き詰めていきたいので。

秋澤 うん。今回のミニアルバムに関しては、ライブを観たことがない人が聴いても、自分たちのライブの雰囲気がストレートに伝わるんじゃないかと思っていて。音作り、演奏のテンション感もそうですけど、ライブの臨場感が表現できているというか。

石原 そうかも。特に1曲目の「夢みるスーパーマン」は「一発録りっぽい感じでレコーディングしたい」という話をしてできた曲で。

秋澤 細かい音作りもしっかり詰められたし、1曲1曲、濃いレコーディングができたと思います。

石原 音作りも変化してますね。「レイジーサンデー」(2021年8月発表の5thミニアルバム)まではサウンドプロデューサーがいたんですけど、「サニーボトル」(2022年7月発表の6thミニアルバム)からは自分たちが中心になってレコーディングを進めるようになって。実は自分たちでレコーディングをするようになってから最初に録ったのは、今回のミニアルバムに入ってる「サマーデイドリーム」なんですけど、「音作りってこんなに難しかったっけ?」と思った。でもそこから紆余曲折あって、自分たちでも音の良し悪しが少しずつわかってきて、今回の制作で「サマーデイドリーム」を録り直したんです。

せと 楽器テックの皆さんはずっと同じ方にお願いしてるんですけど、その人たちとSaucy Dogの絆も強くなったというか、関係性がもっと深くなっていて。「こういう音を作りたい」という思いをすぐにわかってくれるし、みんなでブラッシュアップしながら成長できてる感じがありますね。音のことも前よりわかってきたし、しっかり噛み合ってきたのかなと。

石原 自分たちがやりたいことを言葉にできるようになったしね。昔は「石に例えると、砂利と砂の中間くらいの音にしたくて」みたいな感じで伝えてたんですよ(笑)。

せと 最近はもうちょっとスムーズだよね(笑)。

せとゆいか(Dr)
せとゆいか(Dr)

せとゆいか(Dr)

自分のことをいいヤツだと思ってた

──先ほども話していましたが、「夢みるスーパーマン」は、まさにライブ感のあるアッパーチューンですね。

石原 1980~90年代っぽい音に新しさを加えた曲にしたかったんです。歌詞に関しては、「アンパンマン」のカバオくんのイメージですね。カバオくんって、よく「助けて! アンパンマン!」と言うじゃないですか。この曲の主人公はそういう感じだなと。

──「ヒーローねぇお願い! 僕をここから出してよ」という歌詞もありますからね。この曲の主人公像はどこから生まれてきたんですか?

石原 この曲はドラマ「スーパーのカゴの中身が気になる私」の主題歌のお話をいただいてから脚本を読ませてもらって、自分の中で咀嚼しながら書いて。嘘がない言葉にしたいので、ドラマの主人公と自分とをすり合わせた結果、「俺もこういうふうに思ってたことあるよな」と思い出して。……俺、自分のことをいいヤツだと思ってたんですよ。「めっちゃ性格いい」と思ってたんですけど、ゆいかに「慎ちゃん、性格よくないところあるよ」と言われたことがあって。そのとき、めっちゃ怒っちゃったんですよ。でもあるときに、人に「性格よくない」と言われただけで怒るとか性格悪いな、理想の自分と現実の自分のギャップがあるんだなと気付いたんです。その頃の自分を思い出しながら書いたところもありますね、「夢みるスーパーマン」は。

──当時の石原さん、性格よくなかったんですか?

せと 性格はいつでも悪いです。

石原 やめろよ! いつでも悪いは言いすぎだろ!(笑)

せと (笑)。しかも友達に「自分で性格悪いって認めたらラクになるで」と言ったらしくて。

石原 俺もそうだったから。バンドをやっていて「俺が悪かった」と思うことが何回もあったし、「自分はそんなに性格よくない」と認めたらラクになったので。

せと そのあとは冗談で「性格悪っ!」って言えるようになったので、前より仲よくなりました。

石原 性格がいいとか悪いとか、その基準も人それぞれじゃないですか。その違いを認めてるから仲よくやれてるのかなと。

せと まとめた(笑)。

秋澤 (笑)。誰にでも当てはまる歌詞だと思いますね。

秋澤和貴(B)
秋澤和貴(B)

秋澤和貴(B)

──「スーパーのバイトじゃなくて スーパーマンになりたかった」という歌詞も印象的でした。実際、似たような経験をしたこともあるのでは?

石原 ありますよ。バイトを掛け持ちしていたときがあったんです。そのときは昼のバイトをしてから夜に集まって、リハーサルや曲作りをやって、家に帰ってちょっと寝て、すぐに朝の弁当屋のバイトに行って。そういう生活をしてましたからね。3人でツアーをやるようになってからも、車1台で移動して、炊飯器を持って行って自炊するような生活で。その車、18万円だったんですよ。3人で6万ずつ出し合って、月に2000円ずつ返すっていう。車中泊もしんどかったですね。

秋澤 ご飯を炊いて、コンビニで買ったおつまみの牛タンを乗せて食べたりね。もうやりたくはないですけど、そのときの経験はあってよかったと思いますね。つらかったけど、ライブをやるのは楽しかったし、すごくがんばってたなと。

せと うん。そういう時期があったからこそ、今、ライブバンドとしてやれてると思うので。ライブをいっぱいやるのが当たり前だと思っていたし、そうじゃなかったら成長のスピードはもっと遅かったんじゃないかなって。

石原 あの頃は今みたいにYouTubeが盛んじゃなかったから、YouTubeやSNSを通して自分たちのことを知ってもらうみたいな発想もなかったしね。時間はかかったし、要領はよくなかったかもしれないけど、ライブをいっぱいやって、しんどい思いをしてよかったです。