「SAMURAI SONIC vol.5」インタビュー|DJダイノジが抱く“バラバラ感”へのシンパシー

ジャンルや世代を超えたアーティストが一堂に会する音楽イベント「SAMURAI SONIC vol.5」が10月8日に千葉・幕張メッセ国際展示場ホール4&5で開催される。

10月の開催に向け、音楽ナタリーではこのイベントを2回にわたり特集する。1回目の特集には、過去2回にわたり「SAMURAI SONIC」をDJとして盛り上げ、今回も出演が決定しているダイノジが登場。「SAMURAI SONIC」主催者によるDJイベント「THE ERA JAPAN」の楽屋にてインタビューを実施し、津々浦々、さまざまな音楽イベントへの出演経験を持つ2人に「SAMURAI SONIC」の魅力や期待すること、ラインナップの印象を語ってもらったほか、DJダイノジとしての活動についても話を聞いた。

取材・文 / 張江浩司撮影 / 吉場正和

SAMURAI SONIC vol.5
SAMURAI SONICロゴ
2023年3月開催「SAMURAI SONIC vol.4」の様子。

「SAMURAI SONIC」はコロナ禍の2021年11月に東京・立川ステージガーデンでスタートした音楽イベント。以降、TOKYO DOME CITY HALLや豊洲PITを舞台に、ソーシャルディスタンスを保てるよう入場人数を調整して行われてきた。ジャンルや世代を超えたアーティストが一堂に会する、バラエティに富んだラインナップも特徴だ。5回目となる今回は過去最大規模の会場となる千葉・幕張メッセのホール4&5で開催される。

2023年10月8日(日)千葉県 幕張メッセ国際展示場ホール4&5

<出演者>
雨のパレード / -真天地開闢集団-ジグザグ / DJダイノジ / THE BAWDIES / and more

公式サイト

ダイノジ インタビュー

4000人を目の前にDJダイノジが完成した夜

──ダイノジは音楽との接点が何かと多いコンビですよね。そもそも初めて人前でネタをやったのが、1994年、新宿LOFTでのbloodthirsty butchersのレコ発だったという。

大谷ノブ彦 そうそう、大地さんのお兄さんがインディシーンで有名なBEYONDSのドラマーなんですよ(現fOULのドラマー大地大介)。NUKEY PIKESとかとも一緒にやってたし、Hi-STANDARDの横山健さんも一時期BEYONDSでギター弾いてたりしたんですよね。バンドブームが終わってからライブハウスに全然人がいなかったのが、徐々に戻ってきた時期で。

大地洋輔 みんなジャンルもバラバラだから、一緒くたに「ミクスチャー」って呼ばれてた頃ですね。

ダイノジ

ダイノジ

大谷 西海岸のスケーターカルチャーが広まってきて、ロンブー(ロンドンブーツ1号2号)さんとかが短パンでお笑いやるようになったのもリアルタイムで体感してました。

大地 僕らの同期のモリマンが北海道出身だから、ブッチャーズとかイースタン(eastern youth)の妹分みたいな感じでかわいがられてたんですよね。BEYONDSの大地の弟も吉本興業に入ったらしいと聞いた吉村(秀樹)さんが、「そいつらにも転換中にネタやってもらおう」と言い出したみたいです。

大谷 ブッチャーズ、イースタン、GOD'S GUTS、モリマン、ダイノジだもんね。すごい並びだよ(笑)。初ステージのきっかけを作ってくれた人だから、僕にとって吉村さんはのりお・よしお師匠(西川のりお・上方よしお)と同じ枠です(笑)。

──今でこそ音楽とお笑いが一緒になったイベントも増えましたが、当時はかなり珍しいですよね。やりづらくなかったですか?

大谷 めちゃくちゃウケたんですよ。どうしようもないネタでしたけど。

大地 ひどい下ネタだった(笑)。

大谷 ちょうどブッチャーズがBeckと共演した直後だったから、海外のプレスもいっぱい来てたんですよ。大地さんが「下ネタはやめよう」って言い出したから、LOFTの裏で初めてケンカしましたね。これだけ聞くとロックバンドっぽいですけど、原因が下ネタだから(笑)。

──2004年にはCLUB CITTA'で「DRF」(ダイノジ・ロック・フェス)を主催していますが、このときはまだDJはやられていません。

大谷 「好きなバンドをブッキングしてライブが観れるって最高!」っていうだけでしたね。

──DJダイノジとしての活動をスタートさせたのは何がきっかけだったんですか?

大谷 フェスが大きかったですね。ロッキン(「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」)には2003年くらいから呼んでもらってネタをやってたんですけど、ふかわりょうさんのROCKETMANとか松尾スズキさんとかもDJやったりしてたから、俺らもやってみようかと。ロックDJも盛り上がってたし。でも、ただDJするだけだと面白くないから、音楽を使った演芸みたいなことをやれないかと思って、大地さんに踊ってもらったんですよね。

──最初からそのスタイルだったんですか?

大谷 いや、けっこう紆余曲折ありました。初めてDJをやったときは僕1人で、ライブハウスのイベントだったんですよ。フィッシュマンズの「いかれたBaby」を1曲目にかけると決めていざかけてみたら、まったく盛り上がらなくて。

大地 客として観に行ってたんですけど、俺以外誰も踊ってなかった(笑)。

大谷 いたたまれなくて、大地さんとミニコントを始めちゃったんですよね。大地さんが福岡から来た追っかけっていう設定で、「君、誰を観にきたの?」みたいな。そしたらほかのお客さんから「芸人帰れ!」って言われちゃって、すごすご帰ってね(笑)。悔しいからいろんなロックDJを見て研究して、大地さんのパフォーマンスもプラスして、という感じで今のスタイルができました。

大谷ノブ彦

大谷ノブ彦

──手応えを感じたのはいつ頃ですか?

大谷 2005年の「COUNTDOWN JAPAN」かな。大晦日って、芸人が100組くらい集まって劇場でカウントダウンイベントをやるんですよ。「新年おめでとう!」とか言って、みんな原付で帰ってね。それが嫌で嫌で(笑)。俺ら、2002年の「M-1」決勝でスベってから徐々に仕事がなくなっていったけど、なんとかほかの仕事ないかと思ってたら「COUNTDOWN JAPAN」に呼んでもらえたから、大地さんにも気合い入れてもらって、ちょっと踊れる芸人の後輩にも来てもらったんです。最初は60人くらいお客さんが集まればいいかなと思っていたんですが、蓋を開けたら4000人くらいいて! お笑いのライブでもそんな大勢の前でやったことないですから。

大地 適当な振付を4000人が真似してくれるし、次にやることを紙に書いて出したら、みんなその通りに動くんですよ。

大谷 VJみたいな発想がないから、紙に書くしかなかったんだよね。後日SCOOBIE DOから「そのやり方パクりました」って言われました(笑)。終わったあと、僕は「新しいエンタテインメントだ!」と思ったんだけど、大地さんはピンときてなかった。

大地 ただ気持ちよかっただけ(笑)。

大谷 大地さんはスターになるのが好きだから。あと、一度「COUNTDOWN JAPAN」でAIRの「KIDS ARE ALRIGHT」をかけたら車谷(浩司)さんが乱入してくれたんですよ。車谷さんと大地さんが一緒にエアギターやってて。興奮してて気付かなかったけど、「これが本当のAIRギター!」って言うタイミングですよね。あのとき言えなかったことを今でも後悔してる(笑)。

──大地さんがエアギターで世界一になったのもその頃ですか?

大地 そうですね。2006年にサマソニ(「SUMMER SONIC」)にDJで呼んでもらったときに「エアギターの大会をやるんで、にぎやかしで出てもらえませんか?」と誘われて。

大谷 トップバッターで出てそのまま1回も負けずに世界一だもんね。相方にそんな才能があるなんて知らなかった(笑)。

大地洋輔

大地洋輔

バラバラ感がフィットする「SAMURAI SONIC」

大谷 正直言うと最近はロックDJは全然人が集まらなくなってるんですよね。アニクラだけが盛り上がってる状態というか。コロナ禍で制約が多かったのもあって、DJイベントを畳んじゃった人も多いですから。

大地 DJは配信に向いてないんですよね。家のスピーカーで聴くならサブスクのプレイリストと変わらないと思う人もいるだろうし。

大谷 そんなときに、「SAMURAI SONIC」主催者のダイジロウくんから、「THE ERA JAPAN」っていうイベントを始めるから出演してほしいと直談判されたんですよ。「フェスのDJブースを再現したい」って。「そんなの無理無理!」と思ったんだよね。しかも朝8時に泊まってるホテルにまで来られて迷惑だったし(笑)。

大地 コロナ前みたいな状況に戻ることもないと思ってたから、「痛い目見るからやめときなよ」って伝えたんです。

大谷 でもあまりにも熱くオファーしてくれるからいざ出てみたら、若いお客さんたちが超楽しんでくれて! まだまだDJイベントで盛り上がれるんだなってお客さんとスタッフに教わったというか。俺たちがこんなんじゃダメだと思いましたね。そこからの付き合いで、「SAMURAI SONIC」にも呼んでもらったんです。

ダイノジ

ダイノジ

──昨年10月に豊洲PITで行われたvol.3ですね。

大谷 出演者のジャンルがバラバラで面白かったよね。ラウド系のバンドもいればJ-POP寄りのアーティストもいて、自分たちのDJとフィットするなと思った。

──DJダイノジの選曲はかなり幅広いですもんね。

大谷 俺らがDJ始めた頃はニューレイヴと呼ばれるようなバンドが流行ってて、BPM160くらいの四つ打ちだったりしたけど、今はもっとビートを抑えて隙間を生かした曲が多いじゃないですか。XGとかNewJeansとか。そういった新しい曲をどう混ぜながらDJするか考えるのが楽しいです。海外のフェスの映像を観ると「これどうやって踊るの?」という曲でも盛り上がってますよね。

大地 好き勝手に楽しんでるもんね。

大谷 それがすごく豊潤だなと思うんですよ。俺の中では、イースタンの吉野(寿)さんもオーイシマサヨシも同じ引き出しに入ってるというか。ヒゲダン(Official髭男dism)もfOULも同じように好きなんだよね。「そんなのありえない!」って言われても、好きなんだもん。

2023年3月開催「SAMURAI SONIC vol.4」より、DJダイノジのステージの様子。

2023年3月開催「SAMURAI SONIC vol.4」より、DJダイノジのステージの様子。

大地 2人ともLÄ-PPISCH好きだからね。

大谷 そうそう! LÄ-PPISCHは世界で一番早く世に出てきたミクスチャーバンドだから。LÄ-PPISCHと米米CLUBの「全部入れちゃう」みたいな超サービス精神はダイノジの根底にあるかもしれない。「SAMURAI SONIC」はお客さんもそんなバラバラ感を楽しんでる雰囲気があった。みんなそれぞれ好きなものは違うけど、そのうえで盛り上がってることが伝わってきましたね。