「真吾のルーツが入ってる」
──「パリに咲くエトワール」の主題歌となる「風に乗る」は、作詞が長屋さん、作曲が穴見さん、編曲がLASTorderさんと穴見さんという布陣ですが、制作は具体的にはどのように進めていきましたか?
穴見 監督がおっしゃっていた「主人公のタガが外れた勢いを表現した曲」というのをイメージしながら歌メロを考えつつ、コードとリズムの転換にこだわりました。コードはフランスのシャンソンを参考にしていて。例えば「オー・シャンゼリゼ」とか「愛の讃歌」とか、ああいうシャンソンの名曲の影響は特にAメロに反映されています。あとBメロは、バレエの「パ・ド・ドゥ」という、男性と女性でやる踊りの男性パートの、昔僕がやっていたところをオマージュしているんです。
小林 「ブルーバード」だよね?
穴見 そう。チャイコフスキーの「眠れる森の美女」の、「青い鳥のパ・ド・ドゥ」を参考にしているという。
──そうやってご自身が向き合ってきたことの歴史をオマージュして緑黄色社会の楽曲に入れ込めたのは、とても大きいことではないですか?
穴見 そうですね……バレエで舞台に立つときって、信じられないくらい緊張するんです。1人で立つのはもちろん、何人かで出ていても緊張する。きっと、この映画の主人公たちも同じような緊張があるんだろうなって。それを思い出したから、今回曲に入れたくなったのかもしれないです。あと、僕はもともとバレエをやりたくてやっていたわけではなくて、親が先生だからやっていたんです。でも、今は「やっていてよかった」と思えているから、オマージュしたくなったのかもしれない。バレエをやっていたことを肯定したくなったのかもしれないです。
小林 僕は、この曲を聴いたときに「あ、『ブルーバード』だ」と思って。「真吾のルーツが入ってる」ってすごく感じたんです。こういう機会があってよかったよね。
長屋 そうだよね。
──長屋さんは、映画からどんなものを受け取って歌詞を書かれましたか?
長屋 さっきも言ったように、今回は「ただ前に進む」という感じではなく、「前例がない挑戦をする」という要素があって。なので、歌詞では「過去の気持ち」……先人たちが築いてきた歴史や文化、信念みたいなものも表現したいなと思いました。だから「過去」や「未来」というワードを入れていて。「型破り」という言い方もありますけど、ただ破るだけだと身勝手な人になってしまうし、それだと前に進もうとしても周りに受け入れられなかったりする。そうじゃなくて、今まで先人たちが築き上げてきたことを理解して、周りを説得するようにしながらじゃないと、前に進めない。そういうことを、私は「パリに咲くエトワール」を観たときに感じて。
──「前例がない挑戦」だからこそ、過去へのリスペクトや先人たちへの理解も必要になってくる、ということですよね。僕らが生きている現代も、フジコや千鶴が生きた時代を経ての今でもあるし。歌詞の中には「それは 誰かを想っていた過去だ / それは 誰かを想っていた未来だ」というフレーズがありますが、未来を過去形の文章でつづっているところが印象的でした。
長屋 先人たちが想像していた未来と、主人公たちが歩んでいく未来って、違うものだと思うんです。未来って、決定していないからこそ、いつでも変わり得る。だからこそ、この部分は過去形で書きたかったんです。
過去イチ緊張したレコーディングでした
──レコーディングも今までと全然違うものだったのではないかと推測しますが、いかがでしたか?
長屋 オケのレコーディングが本当に壮大で、感動的でしたね。
穴見 今回は、実際に劇伴でも弾いているプレイヤーさんたちのチームをお呼びしたんですけど、ストリングスやブラスはもちろん、オーボエ、フルート、ピッコロ……そういう木管も素晴らしくて。
長屋 騒々しさと軽やかさが見事に合わさっているんだよね。“軽やかさ”って、私たちは今まであまり出せなかったものなんですけど、特に木管楽器たちがいいエッセンスになってくれて。レコーディングでは言葉を失いながら聴いていました。
peppe 「風に乗る」は私だけ、オーケストラの人たちと一緒にレコーディングしたんですけど……過去イチ緊張したレコーディングでした(笑)。
長屋 ブースが違っても緊張する?
peppe するよ!(笑) でも、緊張と同じくらい高揚感がありました。素晴らしいオケの上でピアノが弾けるというのは……「はああ」って感じ。自分の糧にもなりましたし、めちゃくちゃ楽しかったです。
──「風に乗る」はロックバンドのサウンドの上にオーケストラアレンジが乗っているという感じではなくて、オーケストラの音がバンドの肉体になっているような楽曲ですよね。だからこその風通しのよさがあるし、またひとつ緑黄色社会の可能性が広がった楽曲なのではないかと思いました。
小林 緑黄色社会という“中の人”がいて、羽織ったアイアンスーツが変わった感じですね(笑)。
長屋 (笑)。でも、本当に可能性はめちゃくちゃ広がったと思います。最初は心配ではあったんです。「緑黄色社会らしさはちゃんと存在できるだろうか?」という不安があって。でも、LASTorderさんの編曲のおかげもあって、いいところに落とし込むことができた気がします。ちゃんと緑黄色社会の曲になったし、またこういうトライはしてみたいです。
──こんなにもクラシカルな生楽器の躍動によって作られた曲って、今はポップスの世界ではあまり聞かないし、時代的にも新しいものを提示しているように感じました。
長屋 そうなっていたらうれしいです。
フランスの印象派の画家になったつもりで
──映画の挿入歌であるカップリング曲「étoile」は、作詞が長屋さん、作曲がpeppeさんで、編曲はLASTorderさんと緑黄色社会がともにクレジットされていますね。peppeさんはどのようなところから曲を作り始めたんですか?
peppe まずは、とにかくルノワールとかモネとか、フランスの印象派の画家になったつもりで作っていきました(笑)。
──(笑)。
peppe 曲も“印象”的に作りたい、という気持ちがあったんですよね。それで、旅行でパリに行ったときのことを思い出しつつ、そのときの写真とか、パリの本、家にあるエッフェル塔の置物とか、そういうものを台本と一緒にピアノの周りにバッと置いて(笑)。それこそ絵を描くように、印象を音に落とし込むというやり方で作り始めました。登場人物のルスランが主人公に向けてピアノを弾く場面があるんですけど、「そこでフジコからのアンサーソングとして挿入歌を流したい」と監督に言われていたんです。だから、ルスランが弾いたピアノの最後の音からつながるようにしたい、と思って。
穴見 そうだったんだ。
peppe うん。なので、ルスランが弾いたピアノの最後の音の、半音上の音から始めたんです。長屋の最初の歌い出しから、ルスランのピアノの半音上になっていて。そこは、こだわりました。
穴見 ルスランのピアノもいいんだよね。
peppe めっちゃいいよ~。何回も聴いちゃった。
小林 「étoile」の始まりって、緑黄色社会史上最も緊張感のある始まりかもしれないね。
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曲の世界をぶち壊しに来るエレキ





