RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO 谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)×峯田和伸(銀杏BOYZ)対談|北の大地の夏フェスはなぜ愛されるのか? 常連2人が語るライジングの魅力

8月16、17日に北海道・石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージで野外ロックフェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO」が開催される。

1999年に日本初の本格的オールナイト野外ロックフェスとしてスタートした「RSR」。今回で21回目の開催を数えるこのフェスには毎年北海道のみならず日本各地から多くの人が集まり、広大な石狩の大地を舞台に繰り広げられるアーティストたちの熱演を楽しんでいる。

音楽リスナーだけでなくアーティストからも愛される「RSR」の魅力とは? 開催まで2カ月を切ったこのタイミングで、音楽ナタリーでは「RSR」常連組である東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦(Baritone Sax)と銀杏BOYZ・峯田和伸の対談をセッティング。北の大地での邂逅をきっかけに親交を深めた両者に、「RSR」に抱く思いを存分に語り合ってもらった。

取材 / 清本千尋、三橋あずみ 文 / 三橋あずみ 撮影 / 永峰拓也

朝陽を見てから帰るのがライジングサンだ!

──谷中さん、峯田さん共に「RISING SUN ROCK FESTIVAL」に初出演したのは2000年(第2回)で。これまでに谷中さんは17回、峯田さんは7回参加されています。谷中さんは「ミスターライジング」という異名も持たれていますよね。

左から峯田和伸(銀杏BOYZ)、谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax) 「ミスターライジング」と最初に言われたのは、朝まで残っていたからなんですよ。酔っぱらいながら、「朝陽を見てから帰るのがライジングサンだ!」なんて大声で叫んでて(笑)。そんなことをやっていたらスタッフのみんなが喜んでくれてね。珍しいですよね、朝までやってるフェスティバル。スカパラはヨーロッパのフェスなんかにも出ていますけど、朝までやってるフェスはもうほとんどなくなってきたんじゃないかな。

峯田和伸(銀杏BOYZ) そうなんですか。

谷中 2000年前後はいっぱいあったけど減ってきているから、ライジングは珍しいですよ。しかも朝までやってるのに健康的なムードがあるんでね。それはすごくいいですよね。

──最初にライジングに出たときのことは覚えてらっしゃいますか?

谷中 スカパラは2回目からほとんど出ているんですよね。で、(中村)達也さんは皆勤賞。最初はどうだったっけなあ……メンバーと記憶を共有していて9人で1つの脳みそなんで、なかなか思い出せないんですけど(笑)。

峯田 僕もGOING STEADYで2000年に初出演させてもらったんですけど、当時僕ら……今でもその気がありますけど、ケータリングスペースとかに出かけて「イエー!」みたいなノリがまったくなかったので。だから「スカパラさんだ」と思っても話しかけられないまま……あれから何年経ちました? 邂逅するまではずいぶん時間がかかりましたよ、17年くらい(笑)。

谷中 そういうことだったんだね(笑)。僕と峯田くんが初めて話したのは「Bowline(TOWER RECORDS presents Bowline 2015 curated by クリープハイプ & TOWER RECORDS)」(2015年9月開催)じゃないかな?

「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO」のバックヤードで撮影された峯田和伸(銀杏BOYZ)と加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ)のツーショット。(撮影:小川舞)

峯田 加藤(隆志 / 東京スカパラダイスオーケストラのギタリスト)さんにはその年のライジングで初めて会って。ほかのメンバーの方も紹介してくれて。

谷中 そうだったんだね。俺は最初、峯田くんのこと怖かったよ。何を言い出すかわからない感じがあるじゃないですか(笑)。「急にジャンプするかなあ?」とか。

峯田 あの、ステージではいろいろやりますけど、オフステージでは極めて……自分で言うのもなんですけど、善良です(笑)。

谷中 あはははは(笑)。最初に会うときってド素人な気持ちで、ステージで見たままの峯田くんを想像しながら接するからさ。普通の人とは思っていないわけですよ。

あんなに音楽を楽しんでいる姿はなかなか見られる景色じゃない

──そんな2組は今や一緒にシングルを出す仲ですが、どのように交流が深まったんですか?

峯田 2017年のライジングの「FRIDAY NIGHT SESSION ~SKA IS THE PARADISE~」のゲストで歌わせていただいて、そのときからですね。そこでThe Specialsとかフィッシュマンズを歌わせてもらって。でもそのときに俺、歌詞が飛んだりとか……自分の中では悔しい思いがあったんです。せっかくスカパラと一緒にやれたのに。楽しかったは楽しかったけど「もっとしっかりやりたかったな」と思っていたときに、谷中さんから「よかったらシングルで歌ってくれないか」という話があって、「ぜひやらせてください」と。そんな流れで「ちえのわ」(2018年リリースのスカパラのシングル)につながりましたね。

谷中 そうだね。

──スカパラは「FRIDAY NIGHT SESSION」でなぜ峯田さんに声をかけたんですか?

谷中 「峯田くんにやってもらおう」という気持ちしかなかったんですよね。メンバーみんなで「絶対いいと思う」って話で盛り上がって。なので、身を任せるようにね。僕ら的にはライジングでのセッションはすごくよくて、メンバーみんな興奮してましたよ。峯田くんがあまりにもエネルギッシュに動くんで、NARGO(東京スカパラダイスオーケストラ / Tp)がソロを忘れちゃったりとかして。トランペットのNARGOがソロの順番を忘れるなんてこと、ないんですよ。そのときが初めてくらいじゃない? 28年目にして(笑)。踊ってましたからね、一緒に!

「FRIDAY NIGHT SESSION ~SKA IS THE PARADISE~」に参加したゲストミュージシャンと東京スカパラダイスオーケストラ。(撮影:小川舞)

峯田 あはははは!(笑)

谷中 「NARGOはソロの時間だろ!」って。目の前で半裸の人が踊ってるから、NARGOもテンション上がっちゃってさ。それくらい盛り上がってたんだよね。あとそのセッションのときに印象的だったのは、よっちゃん(中納良恵 / EGO-WRAPPIN')もYONCE(Suchmos)もチバくん(チバユウスケ / The Birthday)もいろんな人が舞台袖にいる中で、峯田くんが始まる寸前に近寄ってきて「谷中さん、始まって終わっちゃったら絶対言えなくなると思うんで今言います。ホントに今回ありがとうございます!」って言ったの(笑)。

峯田 (笑)。

谷中 すごく顔を近付けて言ってくれて、「面白いな、これは初めてのパターンだ」って。すごくうれしかったのを覚えていますよ。

峯田 もう、特攻隊みたいなもんなんで。“戦場”に赴く直前にお母さんに手紙を……。

谷中 そういうことか!(笑) その気持ち、なんかわかるな。

「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO」より「FRIDAY NIGHT SESSION ~SKA IS THE PARADISE~」での峯田和伸(銀杏BOYZ)と東京スカパラダイスオーケストラによるパフォーマンスの様子。(撮影:釘野孝宏)

峯田 ほかのバンドに自分が入って歌うということがなかなかないし、しかも大好きなバンドじゃないですか。でも、そこで「若輩者なんで」ってペコペコしてもしょうがないから、なんとかいい形で入り込んで、スカパラのお客さんを喜ばせられないかなっていう。決死の思いでしたよ。「峯田が入ったからダメだった」なんて思われたくないし、「自分が入ったスカパラはどんな感じなのかな」ということをイメージしてからステージに立った記憶がありますね。勢いの部分もあるけど、冷静に“スカパラの中で歌っている自分”を想像する作業をすごくやったんじゃないかな。

谷中 いや、すごかったですよ。ハンパない盛り上がりでしたから。

峯田 やっぱりお客さんの顔を見てわかりますよね、スカパラがどういうバンドなのかっていうのは。僕、ステージの端ギリギリで歌ったりしますけど、全国いろんな人が北海道に集まって、しかも真夜中、あんなに音楽を楽しんでいる姿っていうのはなかなか見られる景色じゃないので。すごい、その景色が……「いいもの見れたな、やっぱこうだよな」っていう思いがありましたよ。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)
峯田和伸(銀杏BOYZ)

谷中 熱心に観て踊ってくれて、聴くところはじっくり聴いてくれる、いいお客さんたちだったよね。あと俺は峯田くんの歌のよさにビックリしました。荒々しいパフォーマンスをやる人だから、そういうイメージで捉えていたんですよ、自分自身。恥ずかしながら歌の部分まできちんと聴いてなかったんだなって。一緒にやって「この人無茶苦茶歌うまいな」と。「ちえのわ」のレコーディングのときも、それをすごく感じたんだよね。ホントにうまいよね?

峯田 どうなんでしょうねえ……。

谷中 声量もピッチもさ。「こんなふうに歌えたら」って、生まれ変わりたいくらい(笑)。ファンの皆さんはそんなこととっくに知っているんでしょうけどね。

峯田 いや、でも「ちえのわ」はソウルの歌い方に近いような歌い回しで、僕にとってちょうどいい……自分のソウルの部分が出やすい曲でした。僕のことを想像して作ってくれた曲だとは思うんですけど、僕からは出ないメロディというか。歌っていて、なんて言うんですかね……引き出してもらえるというか。

谷中 ソウルシンガー的な部分がすごくある人だなっていうのは、一緒にやってみて感じたことだよね。ソウルシンガー的な部分を持ちながら、パンクのテイストもファンクのテイストもあるんだなって。好きな音楽の幅広さもあるんでしょうけど、それを改めて感じられたのは一緒にやってみての収穫だったかな。もちろんフォーキーな部分もあるし、そう考えるとすごいですよね。

峯田 いやあ……。

谷中 器用な人だって褒めると怒られるかもしれないけど、器用な人だと思います。