ほぼ重たい曲ばかりなんですけど(笑)
──ここからは、1stフルアルバム「軌跡」について伺っていきます。かなりボリューミーな内容に仕上がりましたね。
そうですね。アルバム自体はずっと作りたかったんですけど、そもそも私はタイアップとかを用意していただいて精神的に追い込まれないと曲を作れなくて(笑)。そのおかげで順調に曲を増やすことができましたし、アルバムには昔作った曲の断片を完成させたものも入っていたり、今までの私にはなかったタイプの曲もあったりするので、私のいろんな一面を見せられる1枚になったんじゃないかと思います。
──緩急に富んだアルバムの流れは、まるでライブのセットリストのようですよね。
「じゃあね、またね。」が終盤にあるのもライブと一緒だし、その流れから「失恋ソング沢山聴いて 泣いてばかりの私はもう。」のアコースティックバージョンで終わりますし、確かにライブみたいですね。この曲のアコースティックバージョンは「サマータイムレンダ」の中だけで流れたもので(参照:りりあ。「サマータイムレンダ」ED曲を担当「潮の切ない気持ちを想像しながら書き下ろしました」)、今までリリースしていなかった音源なんですけど、アニメを観ていた海外のファンから「リリースしてほしい」という声が多く届いたんです。なので、このあとの反響が楽しみです。曲順ってどこまで意識的だったかな……あまり重たい曲を固めずに……ってほぼ重たい曲ばかりなんですけど(笑)、バランスを気にしつつ並べて。アルバムの冒頭は幸せな曲が続いて、急に重くなって、そこからまた楽しくなって、最後はまた重くなって終わります(笑)。
──でも、この起伏が聴いていて心地よいんですよ。だから、トータルで約70分と長尺な作品ですが、意外とスルッと聴けてしまうんですよね。
そっか、70分もあるんですね。集中しないと最後まで聴けなさそうですけど、そう言ってもらえて安心しました!
ちょっとだけハッピーエンド?
──アルバムには新曲もいくつか用意されています。まずは、昨年12月24日に先行配信された「ずるい君。」。2023年のクリスマスイブには「最後のバイバイ。」というかなり重たい失恋ソングをリリースしましたが(参照:りりあ。クリスマスイブに贈る「最後のバイバイ。」は「一番感情を乗せた」失恋バラード)、今回は片思いソングになっています。
今まで失恋ソングばかりだったんですけど、片思いソングというのは意外と初めてで。アルバム制作の終盤に「(2024年も)クリスマスイブに新曲配信ってできますか?」とスタッフさんに無理を聞いてもらって、ギリギリ完成させたものなんです。
──なぜ片思いをテーマにしようと思ったんですか?
私、けっこうバッドエンドにしがちなんですけど(笑)、気付いたら片思いの曲になってました。アレンジがクリスマスにぴったりの温かみがあるもので、あんまり重たすぎる歌詞にしたら合わないんじゃないかと思って。重たい失恋ソングは1年前にも出してるし、今回はサウンド的にも歌詞的にも、ちょっと新しいことに挑戦したかったのかもしれないです。でも、この歌詞って失恋と捉えようと思えばそうとも取れるし、両思いにも捉えられるし、人によって感じ方が変わる曲かなと思っています。
──「最後のバイバイ。」で悲しい別れを迎えた主人公が1年後に新しい恋に出会って、ちょっとだけハッピーエンドに近付いている感もあるのかなと。
はい。ギリギリハッピーになりました(笑)。
脳が勝手にバッドエンドに
──アルバムのオープニングを飾る「幸せな約束。」について聞かせてください。この曲は1月6日に放送がスタートしたテレビアニメ「わたしの幸せな結婚」第2期のオープニング主題歌としてオンエア中です。
また声をかけていただいて、うれしいです。この曲は第1期のオープニングテーマ「貴方の側に。」の続編のようなイメージで作りました。「貴方の側に。」の歌詞がちょっと混ざっていたりするんです。例えば、前作では「シンデレラストーリーは本当にありますか?」と歌っていましたが、今作では「これがシンデレラストーリー / そんな幸せな約束。」と歌っていて、幸せになったことが感じられる。そういう温かくて幸せな気持ちを込めてレコーディングしました。
──「貴方の側に。」では登場人物のセリフを歌詞にちりばめたとおっしゃっていましたが、それは今回も引き続き?
そうですね。作品のセリフをいくつか歌詞に入れているので、これからアニメが進む中で「あっ、このセリフ!」と思う瞬間があるかもしれません。
──物語に導かれてハッピーな世界観を描いているところが大きな特徴だと思いますが、これまで失恋ソングをがっつり作ってきたりりあ。さんにとって、こういう楽曲を制作するのは容易いことなんでしょうか。
いやいや、難しいです! 原作を何度も読み返しながら、「今回は幸せになり始めていて未来も見えてきたんだ」と思って。そういう空気に寄り添いながら作ることを心がけたんですけど、いかにハッピーエンドに導こうとしても私の脳がそれをバッドエンドに引っ張ろうとしてしまって(笑)、何度も不幸の道に進もうとしました。でも、そこで思い浮かんだフレーズは別の曲に使おうと思って、今も残しています(笑)。
──バッドエンドの失恋ソングのほうが気持ちを込めやすい?
なんででしょうね? 不思議と作りやすいんですよ。……私自身がもっと幸せにならないといけないのかもしれないですね(笑)。
──でも、そのスタイルこそがりりあ。さんの真骨頂だし大きな武器でもあるので、変わってほしくないという思いもあって複雑です(笑)。
よいほうに受け取っておきますね(笑)。
島田昌典のアレンジで重たいテーマも聴きやすく
──続いては「ごめんね。」について。この曲はaikoさんをはじめさまざまなアーティストを手がけてきた島田昌典さんがアレンジを担当しています。
最初にスタッフさんからこのお話を聞いたときは、めちゃくちゃびっくりしました。でも、私が求めていた方向性と島田さんのカラーがぴったりすぎて。実はこの曲の歌詞、DVがテーマの重たい内容なんです。歌っていても疲れるし、聴いていても疲れる曲かもしれないですけど、アレンジがその重さを軽減してくれて。結果、何度もリピートしたくなる曲に仕上がりました。
──確かに、歌詞を読むと逃げ出したいという悲痛な叫びが伝わってくるものの、ドラマチックなサウンドアレンジのおかげもあって聴きやすくなっている印象もあります。
でも、渦中にいる人にはそのドラマチックなところが“刺さる”曲なのかなと思います。
──ここまでヘビーな内容の楽曲って、初めてですよね。
そうですね。歌い方にもすごくこだわっていて、セリフみたいにつぶやくように歌っているんです。そうやって歌うことで、より物語のように伝わるんじゃないかなと。この歌詞は私の友達のことを歌ったもので。その子は今は結婚して幸せに過ごしているんですけど、彼女から聞いた過去のエピソードを題材にして、こういう歌詞を書いてみました。その子はもう立ち直っているけど、「ごめんね、あの話を歌詞に使わせてもらってバッドエンドの曲を作りたいんだ」とお願いしたんです。でも、ただ不幸な曲を作るだけでは申し訳ないので、今の幸せな様子もまた別の機会に曲にさせてもらうことも約束しました。
──それを聞いて安心しました。にしても、この曲が「貴方の側に。」の次に来るのが、またエグいですよね。
確かに(笑)。しかも、その次には「浮気されたけどまだ好きって曲。」がありますし。
──感情がジェットコースターのように、振れ幅大きく動きまくりですね。
すごい高いところから垂直に落ちますもんね。このアルバムのタイトル、「ジェットコースター」にすればよかったな(笑)。
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“思わせぶりをされた子”の話