ANCHOR×りりあ。インタビュー|映画「サバカン SABAKAN」主題歌が誰かの青春に重なる1曲になれば

サウンドプロデューサーのANCHORが、作曲家としてVIA(TOY'S FACTORY)に所属。メジャー初作品として、映画「サバカン SABAKAN」の主題歌「キズナ feat. りりあ。」を完成させた。

これまでさまざまなアーティストや声優、アニメ、ゲーム作品に楽曲を提供してきたANCHOR。メジャーレーベルから発表する第1弾作品としてアレンジを手がけたのは、りりあ。が歌うORANGE RANGE「キズナ」のカバーだ。かねてより「ORANGE RANGEと一緒に仕事をしたい」と希望していたANCHORにとって「キズナ」は青春時代に聴いていた思い出の楽曲だという。音楽ナタリーではANCHORとりりあ。へインタビューを行い、主題歌にまつわる思いや、アレンジのこだわり、そして映画「サバカン SABAKAN」の魅力について話を聞いた。

取材・文 / 西廣智一

「ANCHORってあんただよね? 朝のニュースで観たよ!」

──ANCHORさんは「キズナ feat. りりあ。」が初のメジャー作品となります。ナタリー初登場ということもありますので、まずはANCHORさんが音楽活動を始めるようになった経緯を教えていただけたらと思います。

ANCHOR 僕はもともと誰かとバンドをやっていた経験もなく、1人でDTMから音楽を始めた人間なんです。静岡の田舎生まれなんですが、中学3年生のとき我が家にインターネットが開通したのを機に、パソコンでニコニコ動画やYouTubeに触れて。その中でsupercellさんと出会い、「音楽って全部1人でできるんだ!」と知ったことで、僕も音楽をやってみようかなと思ったんです。1年くらい独学でいろいろ勉強してから、地域のコンテストに挑戦してみたんですけど、学生の部と一般の部がある中で間違えて一般の部門に応募してしまい。そこで賞を獲ったことから、ちょこちょこ知り合いを通じてお仕事をいただくようになり、それが今に至る音楽仕事のキャリアの始まりでした。

──なるほど。

ANCHOR その後、同人活動を経て、19歳のときに制作会社の方に「就職しないか?」とお呼ばれしまして。そこでいろいろなスキルを学ばせていただきつつ、個人としても音楽制作を続けていました。実はその頃、TOY’S FACTORYの方から「何か一緒にやりませんか?」というラブコールをいただいていたんですが、当時の僕は無視してしまったんです(笑)。その後、サイバーエージェントに転職しまして、ゲーム音楽やプロモーション周りの音楽を作るようになり、そこからCymusicに移り。その間にアニメ主題歌の楽曲制作、アイドルや声優さんへの楽曲提供やサウンドプロデュースを手がけるようになりました。

映画「サバカン SABAKAN」より。

映画「サバカン SABAKAN」より。

──そんな中で、2017年にはピエール中野(Dr / 凛として時雨)さん、Nob(B / MY FIRST STORY)さん、滝善充(G / 9mm Parabellum Bullet)さんとともに音楽クリエイターユニットZiNGも結成しています。

ANCHOR そうですね。そうして活動の幅がどんどん広がっていく流れで、今回改めてVIA / TOY'S FACTORYから声をかけていただきました。実はアーティストとして事務所に所属するのは、今回のVIAが初めてなんです。

──そうだったんですね。今年5月にメジャーデビューが発表されてから、いろんな反響があったんじゃないかと思います。

ANCHOR 情報が解禁されたときは、「作曲家がメジャーデビューってなんやねん?」というところにみんな疑問を持つのかなと思っていたんです。でも、実際には僕がたくさん曲を書かせていただいている「A3!」やアニメなどのファンの方がすごく喜んでくださって、自分が思っていた以上の反響をたくさんいただいて。「応援しています」という声以外にも「ライブやるんですか?」だったりと、今までいただいたことがないような声もたくさんありました。そんな中、一番びっくりしたのが母親からのリアクションでして(笑)。「ANCHORってあんただよね? 朝のニュースで観たよ!」って連絡をもらったときが、「僕、本当にメジャーデビューするんだ!」と一番実感しました。

──それまでの限定されたシーンでの活躍のみならず、今回の映画主題歌のように幅広いフィールドに飛び込んでいく機会が増えると、そういう反響がさらに増えますものね。

ANCHOR 僕はこれまでもこれからも一生懸命音楽を作っていくのみですが、今後もこういう機会が増えていけばいいなと思っております。

ANCHOR

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心臓の一番近くに突き刺さる歌声

──ここからはりりあ。さんにも参加いただき、「キズナ feat. りりあ。」についてお話を伺っていきたいと思います。まず最初に、映画「サバカン SABAKAN」の金沢知樹監督からりりあ。さんに主題歌を歌ってほしいとオファーがあったところから、この曲はスタートしたんですね。

りりあ。 はい。お話をいただいた時点ですでにORANGE RANGEさんの「キズナ」という曲でいくことが決まっていまして。映画主題歌を歌わせていただけるという時点ですごくうれしいのに、さらに自分が作詞作曲したものではない曲を歌うということがすごく新鮮で、とにかくうれしかったですね。

映画「サバカン SABAKAN」より。

映画「サバカン SABAKAN」より。

──ANCHORさんがこの曲のサウンドプロデュースを担当することになったのは、レーベル側から金沢監督への推薦があったそうですが。

ANCHOR そうですね。監督側はアレンジに関してはレーベルサイドにすべてお任せしますとおっしゃっていたそうで。ちょうどVIAに所属するというタイミングだったこともあってプレゼンしたら、監督も快諾してくれたそうです。正直なところ、自分が映画主題歌のサウンドプロデュースをすることになるなんて「自分の人生にこんなことが起こるんだ!」とびっくりしましたし、しかもそれがORANGE RANGEさんのカバーアレンジですから。実は以前、レーベル側に「いつかORANGE RANGEさんと一緒にお仕事してみたいです」と伝えたことがあったと同時に、同じレーベル所属ということもあって「りりあ。さんともお仕事できないですか?」と言っていたんです。それがいっぺんに叶ったので、盆と正月が一度に来たような気持ちでした(笑)。

りりあ。 そうだったんですね。うれしいです(笑)。

りりあ。

りりあ。

──ANCHORさんは、りりあ。さんのどういったところに惹かれたんですか?

ANCHOR とにかく魅力的な声だなと思っていて。りりあ。さんは昨今トレンドのすごくクセがあって強い歌唱とは異なり、素直で美しくて歌詞が入って来やすい歌声なんです。文字で読むよりも歌詞が入ってくるような、それこそ心臓の一番近くに突き刺さる歌声だなと。そこが魅力だと思って、ずっと聴いていました。

りりあ。 ありがとうございます。

ANCHOR なんだか恥ずかしいですね、直接お伝えするのって(笑)。

りりあ。 いえいえ(笑)。ありがたいです。

──一方で、りりあ。さんは今回ANCHORさんがアレンジを手がけた「キズナ」を歌ってみたことで感じた魅力などはありましたか?

りりあ。 いっぱいあるんですけど、まず映画の画にすごくぴったりな音で、初めて聴いたときから映像がイメージできたことかな。私はほかのアーティストの曲を歌うことがすごく好きなんですけど、この「キズナ」はORANGE RANGEさんの本家とはまた違った印象で、女性の私が歌っても楽しめるようなアレンジになっているところも素敵だなと思いました。

映画「サバカン SABAKAN」より、主人公の父親・久田広重役の竹原ピストル。

映画「サバカン SABAKAN」より、主人公の父親・久田広重役の竹原ピストル。

──りりあ。さんはネット上にカバー曲を公開することも多いですが、ご自身が書いた曲とカバー曲を歌う際では感覚的に違いはあるんでしょうか?

りりあ。 全然違いますね。私は普段からTikTokやYouTubeでカバー曲の動画を上げているんですけど、自分が作る曲とは違ってカバー曲は曲調も歌詞も自分からは出てこないものが多いので、歌っていて楽しくなってくるんです。今回の「キズナ」だとラップ調の部分があるんですが、そういう歌い方は自分の曲にはないぶん、すごく新鮮で。こういう機会でもないとラップが含まれる曲は歌わないだろうなと思ったので、新しい挑戦にもなりましたし、それもあって個人的には楽しみながら気持ちを込めることができたのかなと思います。

──なるほど。

りりあ。 それと、カバーするのが男性アーティストの曲か、女性アーティストの曲かでも変わるんですけど、今回に関しては男性のバンドで、最初に聴いたときは「これを私が歌ったらどうなるんだろう? 私に歌えるのかな?」という不安もありました。でも、ANCHORさんのアレンジを聴いて、自分が歌うイメージがつかめたんです。改めてアレンジってすごいなと実感しました。

ANCHOR 男性が歌うキーから女性が歌うキーに変更したことで、イメージも付きやすくなったのかもしれませんよね。

りりあ。 それは本当に大きいと思います。