ナタリー PowerPush - RHYMESTER

混迷の日本に告ぐ「選ぶのはキミだ」

原発に限らず、何かを放置してきた自分たちに責任がある

──今作のリリックは、RHYMESTERが今の日本に向けて突きつけるメッセージですよね。いろんな出来事や意見が矢継ぎ早に飛び交う現代、何が良くて何が悪いか、どれが真実でどれがウソか「選ぶのはキミだ」ということを強く訴えています。これは単なる社会風刺ソングではないと感じましたが、詞のテーマはどのように出てきたんですか?

Mummy-D まず「The Choice Is Yours」っていうタイトルが出てきたのが、「フラッシュバック、夏。」(2011年7月発売)を作り終わった頃だっけ? まあ要するに、3.11のゴチャゴチャが冷めやらぬときだったのね。真面目な話をすると、最初はテーマが原発問題に向かっていきそうだったんだよ。「脱原発なのか、推進なのか、あなたならどちらを選択する?」みたいな。でもその後の世の中の流れを見て、自分たちもいろいろ聞いて感じていく中で、問題はそこだけじゃないなって思えてきたんだよね。だから、これは別に原発の歌じゃない。原発に限らず、何かを放置してきた自分たちに責任があるんじゃないか。今後も日本にいろんな問題が出てくるだろうけど、そのときに放置してたら同じようなことが起こっちゃう。そう感じたので、もうちょっと包括的な歌にしようと広がっていったんです。

──確かに特定の問題に限ってもいないし、“怒”の感情一辺倒でもないですね。

宇多丸 やっぱりいろいろ知れば知るほど、そんなに単純な話かっていうね。なんでこんなことが起きて、なぜ今こういうムードになっていて、どうしてそれにちょっと違和感を感じるか。俺は、戦争の前と後の日本人の態度とちょっと似てるような気がするんだよね。完全に被害者みたいなこと言ってるけど、本当か?みたいな。とにかく何か事が起こると人のせいにするっていうのが、元々悪い癖だったんじゃないのかと。そういうところまで立ち返って考えたんですよね。

──東日本大震災の直後に自らの思うことを曲にして発表したアーティストもいました。でもRHYMESTERは、1年寝かせて、テーマを大きく捉えて意思表明をしたんですね。

宇多丸 俺らね、1曲作るのにすごい時間かかるんですよ。だからあんまりそういうタイプじゃないんですよね。おせえから必然的に落ち着いて考え直しちゃうし、なんていうか耐用年数の高いメッセージを考えちゃうっていうか。

Mummy-D ケチくせえんだな。

宇多丸 そうそうそう、ケチくせえ(笑)。もちろんそれとは逆に、「週刊現代」みたいに曲を出すっていうのもひとつのスタンスとしてあると思いますよ?

──え?

宇多丸 ここでチョイスが「文春」じゃなくて「現代」だってところにまた時代の空気を込めてるんだけども(笑)。

──なるほど(笑)。

宇多丸 災害とか事故とかの歌じゃなくて、それがあって、人の心の中で起こってる病理みたいな歌だから。もっと言えば、3.11後のことを言ってるように聴こえるけど、またいつどこで大きな地震が起こるかわかんないし、それでもまだ同じことを言い続けられるか、みたいなことも考えたんです。奇しくも前のアルバム「POP LIFE」は3.11の前にリリースされたのに、震災以降だからこそ響く曲もいっぱいあって、ちゃんと本質を捉えてれば何が起こっても通用するんだなって実感したんですよね。だから広い意味で解釈できる歌にしたかった。

エンタテインメントの計算がうまくなった

──今回、宇多丸さんとDさんの歌詞の書き方がすごく直球で驚きました。今までは行間を読ませるような表現を使ったり、ユーモアに変えたりして、言いたいことを技巧的にアウトプットすることも多かったと思うので。

Mummy-D 本当はね、俺、この歌詞のやり方は野暮なんじゃないかって1カ月前くらいまで思ってて。ポップミュージックとしては、一見恋愛のことを歌っていつつ、実は日本の問題について歌ってるとか、実は魚のことを歌ってるみたいなカラクリがあったほうがカッコいいじゃん。でもできなかったんだよね。そういうのが。最近やっと「これで良かったんだ」って思えるようになった。

宇多丸

宇多丸 でもさ、そんなにストレートかな?っていう気もするんだけど。だって最終的な答えは出してないわけだから。そのへんはグレーゾーンにとどめてるんだけど、まあグレーゾーンってエンタテインメントとして歯切れは悪いわな。でも一見、歯切れ良くズバッと聴こえるっていうところも含めて、今回俺らが成長した部分なのかもしれないね。

Mummy-D 多分スキルが増したんだと思う。特に「マニフェスト」以降、今までちょっと照れてたところを解放してしまおうって吹っ切れたようなところがあったから。例えば「ちょっとエモーショナル過ぎる表現方法かな」と自分が思っても「聴き手はそれが気持ちいいって感じるところもあるのかあ」とか、直接的な表現が必要なときはしなきゃいけないなっていう。

宇多丸 「ここは刺さるように」とか「ここは間口広く取っとこう」とか、いわゆる……計算?

一同 あははは(笑)。

宇多丸 エンタテインメントの計算がうまくなったというか。でもトータルでは、例えばマイケル・ムーアの映画みたいに、ある決まった結論に導くための作品ではない。あらゆる立場の人が自分の考えを投影できる幅を残しておきたいんです。だから「こういうことを誰か言わんのか!」って思ってる人にとってはすごいストレートでしょうね。

──そうですね。私が「誰も言わないなあ」と思っていたことを代弁してくれたから、ストレートだと感じるのかもしれません。

Mummy-D それは反応としてすごいうれしいです。

宇多丸 作ってから、こう思ってる層は実はすごく多いよって言われました。

自分の発言に責任取れるかなって考えてほしい

──この曲を聴いて何か実際に行動したり、新たな意識が芽生える人もいそうですが、リスナーにどんな変化があったらいいと思いますか?

Mummy-D 「ちょっと待てよ」って思ってもらうことかね。何か事が起こったときに、世論がバーッとそっちに向かったときに「みんなああ言ってるけどどうなんだろう?」って考えてみる。それだけかな。

宇多丸 俺らだって、人の言うこと聞いて「言われてみればそうかなあ」とか「これも一理あるよな」とか思いますよ。普通の人間は揺れ動くのが当たり前でしょう。ただ今の時代はTwitterとかに何か思った瞬間に書くことで、残っちゃうし、自分の旗色を明白にした気になっちゃう。そうすると引っ込みがつかなくなったりする人もいるんじゃないのかな。俺が言いたいのは、そんなに慌てて旗色なんか決めなくていいよっていうこと。「こうかな」「こうかな」って考え直し続けることは恥ずかしくないし、だからこそ最終的に責任ある結論も出せるわけで。

──引っ込みつかなくなっちゃってる人、たくさんいますもんね。

宇多丸 自分の発言やチョイスに責任取れるのかなって考えてみてほしい。あとから間違いだと分かれば訂正するのも責任のうちだしさ。

ニューシングル「The Choice Is Yours」 / 2012年8月22日発売 / Ki/oon Music

CD収録曲
  1. The Choice Is Yours
  2. The Choice Is Yours -Instrumental-
  3. The Choice Is Yours -Acapella-
通常盤DVD収録内容
  • The Choice Is Yours -Music Video-(副音声付き)
RHYMESTER(らいむすたー)

宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年にグループ結成。ライブ活動を中心に支持を集め、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在に。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、4thアルバム「ウワサの真相」リリースする。2007年、日本武道館での「KING OF STAGE Vol.7」公演を成功させるも、これを最後にグループ活動を休止。その後2009年10月にシングル「ONCE AGAIN」で本格的に活動再開を果たして以降、精力的に作品リリースおよびライブ活動を行っている。