ReoNa「R.I.P.」インタビュー|絶望系アニソンシンガーがたどり着いた、“怒り”に寄り添う歌

Reonaが歌うテレビアニメ「アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】」のエンディングテーマ「R.I.P.」。「なあ どうすりゃいいんだよ」というフレーズで始まるこの曲には、行き場のない“怒り”の感情が満ちあふれている。

音楽ナタリーでは「R.I.P.」のシングルリリースを記念して、ReoNaにインタビュー。普段怒ることがあるのか本人に尋ねたところ、「怒るの、苦手なんです」という言葉が飛び出した。怒りたくても怒れない……そんなReoNaが絶望系アニソンシンガーとしてたどり着いた、リスナーへの新しい寄り添い方に迫る。

取材・文 / 須藤輝

“怒り”で寄り添いたい

──ニューシングルの表題曲「R.I.P.」はテレビアニメ「アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】」のエンディングテーマです。「アークナイツ」のタイアップとしては、原作ゲームの1stアニバーサリー主題歌「Untitled world」(2020年7月発表の配信限定シングル)、テレビアニメ第1期「アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】」のオープニングテーマ「Alive」(2022年12月発売の7thシングル表題曲)に続き3回目になりますね。

そうです。

──「Alive」は、理不尽と戦いながら“痛みとともに生きていく”ことをテーマにしたバラードでしたが(参照:ReoNa「Alive」インタビュー)、「R.I.P.」は、世の中があまりに理不尽すぎて、もう怒るしかないみたいな。

“怒り”も1つ絶望の形であり、どうしようもない現実に対して怒るしかなくなってしまったなら、その怒りを言葉にすることで寄り添えないか。「アークナイツ」の世界では、主人公たちが所属するロドス・アイランド製薬と、彼らと思想を違えるレユニオン・ムーブメントという2つの組織が対立しているんですが、前者が正義で後者が悪なのかと言われればそう単純な話ではなくて。どちらのサイドにも自分たちの信じる正義があって、1つの正義と、また別の正義がぶつかり合うことで誰もが理不尽にさらされている。「Alive」ではそんな大きな絶望に覆われた広い世界に生きる小さな1つの命を歌ったけれど、「R.I.P.」ではロドスにもレユニオンにも“怒り”で寄り添いたい……という発想から楽曲制作がスタートしました。

──「R.I.P.」の歌詞にも「正義のなすり合いさ」「誰かの正しさが 別の正しさ 踏みつけては」とありますが、正義という概念はなかなかに厄介で。

私もそう思います。

──自分は正義をなしていると信じている人は、自分の行為に罪悪感を抱かないと思うんです。だから仮にその行為が暴力であっても歯止めが効かないし、加害行為に対して罪の意識がないばかりか「自分は正しいことをしている」とさえ感じているかもしれない。それって、だいぶ危険だなと。

勝利しないと正当性を示せない感じとか、あるいは「勝ったほうが正しい」みたいな考え方は苦しくて。だから、互いに譲れなくなってしまう。「アークナイツ」で、ロドス側は戦う以外の選択肢を、暴力を用いずに解決する道を繰り返し繰り返し模索するんですが、レユニオンとの関係はどんどんこじれていくし、溝も深まっていく。おっしゃる通り、正義とは厄介なものです。

ReoNa「R.I.P.」通常盤ジャケット

ReoNa「R.I.P.」通常盤ジャケット

モチーフになったものの1つとして、軍歌がある

──「R.I.P.」では、こじれにこじれてどうしようもなくなった世界を、ノアの方舟の物語のように洗い流して「全部 消えてしまえ」と歌っています。四つ打ちの、ブラスが派手に鳴っているトラックも勇ましいですね。作詞はハヤシケイ(LIVE LAB.)さん、作編曲は毛蟹(LIVE LAB.)さん、ブラスアレンジは宮野幸子(SHANGRI-LA INC.)さんです。

自分1人の力ではもうどうすることもできない物事に対して、全部リセットできたらいいのにって。この楽曲のモチーフになったものの1つとして、軍歌があるんです。これから誰かを殺めてしまうかもしれないし、自分が死んでしまうかもしれないけれど、自分たちが正しいと信じて、勇んで進む。そんな死地に赴く者たちを鼓舞する、歩みを進めるための行進曲だと考えると、軍歌って恐ろしいなって。でも、それは1つの表現として「R.I.P.」という楽曲の、どうしようもなく進むしかない絶望を表現するには合うかもしれないと、制作チームで話し合いました。それこそ、隊列をなすレユニオンの戦闘員たちの悲しい足音が聞こえてくるような楽曲になるんじゃないかと。

──アニメのエンディング映像でも、レユニオンの人たちが描かれていますね。

そうなんです。この楽曲にどんな絵が付くんだろうと楽しみにしていたところ、レユニオン側にスポットが当てられていて。先ほど「ロドスにもレユニオンにも“怒り“で寄り添いたい」と言ったように、主人公たちだけじゃなく、レユニオンの、みんな同じ仮面を付けて、同じ装備をした匿名的な戦闘員たち1人ひとりに寄り添える楽曲になったと思います。

──「R.I.P.」は軍歌=行進曲がモチーフの1つになっているとのことですが、ファンクやディスコっぽいグルーヴもあって。こういう曲って、今までありませんでしたよね。

ありませんでした。私自身、ファンクやソウル、R&Bといった音楽がルーツにあるわけではないんです。でも、ディレクターさんがそういう音楽に造詣が深くて、ReoNaのルーツにはないからこその味わいが出るんじゃないかと提案してくださって。アシッドジャズやロックと、いろんな要素が入っていますし、アレンジの成り立ちも今までとは違うんです。例えばグルーヴ感を出すために、最初にベーシストの二村学さんに「ベースラインからプリプロ(プリプロダクション)させてもらえませんか?」と連絡して、そこからアレンジのイメージを固めていって。さらに「肺が潰れたって叫べ」という歌詞からブラスを連想して、いつもストリングスアレンジをしていただいてる宮野さんに「高らかにブラスを入れてください」とお願いしたり。そういった自由な発想からできあがった、今までにない楽曲になったと思います。