ReoNa「Alive」インタビュー|痛みを抱き締め、絶望の中で“生きる”意思

ReoNaが12月7日にニューシングル「Alive」をリリースした。

シングルの表題曲はテレビアニメ「アークナイツ【黎明前奏 / PRELUDE TO DAWN】」のオープニングテーマ。表題曲の作詞をrui(fade)とReoNa、作曲をrui、編曲を堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)が手がけた壮大なナンバーだ。カップリングには全編英詞のミドルチューン「Numb」を収録。さらに初回限定盤と通常盤にはピアノとボーカルのみで構成されたバラードナンバー「一番星」、期間生産限定盤にはロックナンバー「Simoom」がそれぞれ収められる。

音楽ナタリーではReoNaにインタビューを行い、シングルの制作過程や3月6日に開催される初の東京・日本武道館公演について話を聞いた。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 山口真由子

痛みとともに生きていく

──ReoNaさんは“絶望系アニソンシンガー”を掲げて活動していて、“絶望”というと「死にたい」といった感情と結び付きやすい側面があるように思います。しかしReoNaさんは“生”に対して肯定的というか、そこに限っては、矛盾するようですが希望的ですらあるという印象を持っていたので、今回の「Alive」というタイトルにはとても説得力を感じました。

「Alive」は、当然アニメ「アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】」が起点になっていて。私は原作ゲームの1stアニバーサリー主題歌「Untitled world」(2020年7月発表の配信限定シングル)を歌わせてもらっているんですが、今回のアニメ化に際して、まず監督の渡邉祐記さんや制作会社のYostar Picturesの皆さんからお話を伺う機会をいただいたんです。そこで渡邉監督は「本当に救いがないんです、この作品は」と繰り返しおっしゃっていて、そんな救いのない、息苦しい世界に、絶望系アニソンシンガーとしてどう寄り添っていけるのだろうか……というところから楽曲制作がスタートしました。

ReoNa

──「Alive」は作詞がrui(fade)さんとReoNaさん、作曲がruiさん、編曲が堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)さんです。このうちruiさんは「forget-me-not」(2019年2月発売の2ndシングル表題曲)、「心音」(2020年10月発売の1stアルバム「unknown」収録曲)および神崎エルザ名義の「ピルグリム」と「レプリカ」(いずれも2018年7月発売の神崎エルザ starring ReoNaのミニアルバム「ELZA」収録曲)の作曲者ですね。

はい。ruiさんの楽曲は毎回、全編英語の仮歌詞が付いた状態でいただいていて。今回の「Alive」もそうだったんですけど、私の声を入れてデモを作るときに「日本語を入れたものも作っておきたいよね」という話になり、私が仮の日本語詞を書かせてもらったんです。その曲を「アークナイツ」のオープニングテーマ候補としてアニメの制作サイドにお渡ししたところ、渡邉監督が「Alive」の歌詞にある「何を守って 傷つけて 今まで生きてきたんだろう」という1節に反応してくださって「この楽曲にしましょう」と。

──ReoNaさんの歌詞が1つの決め手になったと。

仮歌詞とはいえ自分の言葉が入った音源なので思い入れもありましたし、ほかにも「理不尽と戦って」とか、私自身から生まれてきた言葉に渡邉監督が共感してくださって。それもあって「この楽曲の歌詞を書きたい」と勇気をいただきました。

──ReoNaさんの名前が作詞にクレジットされるのは「ネリヤカナヤ ~美ら奄美(きょらあまみ)~」(2022年7月発売の6thシングル「シングルシャル・ウィ・ダンス?」カップリング曲)に続き2度目になりますが、アニメ主題歌の作詞に携わるのは今回が初めてになるんですよね。

そうです。作品とともに届けるお歌ということもあり、作品ファンの皆さんがどう受け取ってくださるのかを考えながら紡いでいったので、改めて言葉の重みというものを感じました。私の中では「Alive」とはただ生きているのではなく、絶望や死と隣り合わせだからこそ感じる“生”というか、“痛みとともに生きていく”というのが「アークナイツ」に向けた思いの1つとしてあって。そのうえで、ruiさんの楽曲はメロディの中で英語の響きが広がっていく感じが素敵なので、英詞の部分はruiさんに「こんな思いを込めたいんですけど、英語だとどういう表現になりますか?」とご相談しながら一緒に歌詞を書いていきました。

──サビの歌詞にも「I feel alive, with this pain」とありますが、“痛みとともに生きていく”というのはとてもReoNaさんらしい発想だと思いました。

生きているから痛いというか、痛みなしでは生きていけないというか。傷付かずに生きていける世界なんかなくて、生きている以上、必ず痛みを引き受けなきゃいけない。それってすごく理不尽でありながらも、光あるところに影ありじゃないですけど、対になるようなものだと思います。

「生きてりゃいいのよ」と何度でも言い続けたい

──前回のインタビューでReoNaさんは想像するのがお好きという話になりましたが(参照:ReoNa「Naked」インタビュー)、想像力が働くのも痛みに対して自覚的だからこそなのかなと。

感情に蓋をするというか、心を動かさないほうが楽だと思う瞬間もたくさんあって。大人になるにつれて「この作品に触れたら、たぶんしんどいだろうな」とか、ある種、自分のトラウマ的なものと重なりそうなものから遠ざかる方法を覚えてしまったりもするんです。でも、そうやって取捨選択して、触れたくないものから避け続けていると心が麻痺してしまうので、心の動かし方みたいなものはずっと覚えてたいです。

──先ほど「傷付かずに生きていける世界なんかなくて」とおっしゃいましたが、「ライフ・イズ・ビューティフォー」(2022年5月発売のEP「Naked」収録曲)の歌詞とも重なりますね。

日常にはいっぱい絶望が落ちているけれど、それでも「ライフ・イズ・ビューティフォー」の歌詞のように、「生きてりゃいいのよ」と、何度でも言い続けたいです。生きていくうえでの理不尽や不条理というのも、ReoNaがお歌を通じて伝えたかったことであり、伝えてきたことで。絶望にはいろんな形があって、ReoNaが寄り添いたい絶望は決して1つじゃない。普遍的な名前が付いているものから、言葉では簡単に形容できないものまで種々の絶望がある中で、今回はものすごく大きな絶望の形に寄り添うお歌になったと思います。

──「大きな絶望」というのは、「アークナイツ」という作品に由来するものですか?

「アークナイツ」の世界には単純な敵 / 味方、あるいは善 / 悪があるわけではなく、それぞれに正義があって、些細なボタンのかけ違いによって争いが生まれてしまっているというか。主人公たちが所属するロドス・アイランド製薬も、彼らと対立するレユニオン・ムーブメントも、どちらも鉱石病という感染症に罹患したことで迫害を受けている人たちの組織で、どちらも同じ痛みを抱えているはずなのに、なぜか戦わなくちゃいけない。そんな不条理さ、理不尽さもちりばめられてる世界なので、どちらにも寄り添えるお歌にしたくて。痛みだったり、失ったものだったりを抱きしめながら、それらを忘れたくないと願いながら生きていく。そういう思いで歌詞を紡いでいきました。

ReoNa

──抽象的な質問になってしまいますが、ReoNaさんにとって“痛み”とはどういうものですか?

痛みにも種類があって、例えば物理的な体の傷であれば、他人の目から見ても「痛そう」というのがわかりやすいし、かさぶたになって、新しい皮膚ができて、癒えていくのも目で見てわかります。一方、目に見えない心の傷は、自分自身にすら癒えているのかわからないことがあって。自分ではその痛みを忘れたつもりでも、ふとした瞬間に「あ、まだ痛いじゃん」と感じることがたくさんあるんです。ましてや他人の心の傷なんて、どこにあるのかもわからないし、その痛みも自分の物差しでは測れない。かといってその人が傷付くことを、自分が傷付くことを恐れすぎても身動きが取れなくなってしまう。ただ、私自身がいろんな形で傷付いてきたし、その経験があるからこそ、誰かの痛みを想像することはできると思っていて。そういう意味では、たくさん痛い思いをしてきて、嫌になっちゃう瞬間もあったけれど、それを経験をしてきた意味もあったのかなって、今になって思うこともあります。

──他者の痛みは正直わかりませんが、わからないなりに想像はできますからね。

「アークナイツ」の世界には他人の感情や思考を共有できる能力を持つ者もいて、それはそれで絶望的に思えるんです。だから、やっぱり見えない中で探るしかなくて。その人と同じ痛みを感じることはできないけれど、その人にはその人なりの痛みがあるという理解は前提として持っていなきゃいけない。人間って難しくて、顔では笑っていても心では泣いているみたいなことがあるので、やっぱり考え続けなきゃ、想像し続けなきゃいけないなと思います。

言語が変わっても、言葉の意味が届くお歌にしたい

──「Alive」はスケール感のあるバラードで、サビなどはパワー系のボーカルで押すこともできそうですが、ReoNaさんの声は悲壮感や力強さもありつつ、どこか優しいですね。

本当にスケールの大きい、イントロから荒野や夜明けが見えるような楽曲なので、箱の中の絶望というよりは大陸的な、1人では抗うことができない、広大な空間を覆う絶望みたいなイメージがあって。その広い音とメロディを狭めるボーカルにはしたくない。でも、今「優しい」という言葉を使ってくださいましたけど、ただ切実に訴えかけるだけじゃ、たぶんスケールの大きなお歌にはならなくて。かな切り声ではないというか、話しかけるように訴えるお歌を目指しました。それに加えて「アークナイツ」は日本だけじゃなく中国でもオンエアされていて、実は中国語バージョンも歌っているんですが、言語が変わっても、言葉の意味が届くお歌にしたいというのもテーマの1つとしてありました。

──ReoNaさんは英語の曲には慣れていると思いますが、中国語は初めてですよね。

英語も中国語も私にとっての第一言語ではないので、私がその言葉に込めたいニュアンスが伝わっているんだろうかという不安は常にあります。英語の曲のレコーディングでは、ruiさんが英語圏のご出身なので、いつもruiさんにディレクションしていただくんですけど、「Alive」の中国語バージョンも訳詞をしてくださった劉セイラさんに監修していただきまして。改めて1つひとつの言葉を噛み砕いて、中国語で聴いてくださる方にどう届けられるのかをすごく考えました。何回もチャレンジしたんですが、そんな中にも得手不得手があったみたいで、日本語歌詞でいうと「理不尽と戦って」の部分だけは毎回ほぼパーフェクトに歌えていたんです 。

──いい話ですね。

監修の劉さんが「ReoNaさんは本当に理不尽と戦っていたんですね」「それが、ReoNaさんの伝えたいことなんですね」とおっしゃっていました。