ReoNa「R.I.P.」インタビュー|絶望系アニソンシンガーがたどり着いた、“怒り”に寄り添う歌 (2/3)

誰かの代わりに怒るつもりで歌いました

──ところでReoNaさんは、怒ることってあるんですか?

怒るの、苦手なんです。今までずっと「怒らずに解決できる方法があるなら、絶対そっちのほうがいいじゃん」「自分が折れれば、我慢すればいいや」と思って生きていたので。大人になって初めて「怒れるようにならなきゃいけないな」と思うようになりましたけど、怒りたくても怒れなくてすごくしんどくなることもよくあります。怒っているのに、それをどうやって相手に伝えたらいいのかわからなくて。だから怒ると泣いちゃうタイプでした。

──泣いちゃう。

泣きたいわけじゃないのに、感情が先走りすぎて言葉より先に涙が出てきて、泣いている自分にも悔しくて。そんな思いをするぐらいだったら、もう家に帰って、何に対して怒っていたのかをひたすら携帯のメモに書き記して「ふう……」みたいな。

──そんな怒るのが苦手なReoNaさんは、この「R.I.P.」に対してどう向き合ったんですか?

そういう自分だからこそ、これまで怒りを伴うコンテンツに寄り添ってもらうこともあって。悲しみもそうですけど、自分自身のものとして消化できない感情を、自分の代わりに言葉にしてくれたりする作品には、すごく救いがあると思うんです。それこそがこの楽曲でやりたかったことなので、誰かの代わりに怒るつもりで歌いました。

ReoNa「R.I.P.」初回限定盤ジャケット

ReoNa「R.I.P.」初回限定盤ジャケット

──歌い出しの「なあ どうすりゃいいんだよ」からガラが悪いというか不良っぽいというか、こういう感じのボーカルも今までになかったように思います。

まさにガラの悪い、いい子ちゃんじゃない感じを目指していたので、そう言っていただけるとうれしいです。ただ、例えば「ああ どうかしてしまいそうだ」「まともでいろ? そりゃ無理よ なあ」「全部 消えてしまえ」とか、歌詞の字面を見れば怒っているのがわかると思うんですが、いざ歌うとなると「“怒り”って、どうやって歌ったらいいんだろう?」「怒りながら『rest in peace』って、どうやって歌ったらいいんだろう?」と戸惑ってしまって。

──「安らかに眠れ」って、普通は怒って言いませんからね。

そういう意味で言ったら、サビ頭が「di-li-pa-pa du-pa-pa」になっていたことに助けられた部分もあります。

──サビ頭のスキャット、すごく効いていると思いました。リズムに乗る音として聴いてもアガるし、怒りすぎて言葉にならない感じもあって。

そうなんです。この「di-li-pa-pa du-pa-pa」の裏で高らかにブラスが鳴ってくれていることもあり、ある種の高揚感を伴って怒りが増幅されている感じがすごい。それ以外のパートも含めて、この歌い方、この口調にたどり着くまでにかなり試行錯誤はしていて、作詞のケイさんとも歌詞について何度かやりとりをしたんです。その中で、私はケイさんが声を荒げたりするところを見たことはないですけど、きっとケイさんは怒るときに「なあ」って言うんだろうなと勝手に想像したり。

──歌詞の中にたびたび出てくる「なあ」も、とてもいいですね。ReoNaさんは言わなさそうなだけに。

同意を求める言葉なのに、怒気を帯びているように感じさせなきゃいけない。そうしたニュアンスはテイクを重ねていく中で探るしかなくて。録ったものを聴いてみて「うーん、まだ怒れてないな」「がなればいいってもんじゃない」「言葉が伝わらなきゃ意味がない」と客観的に判断して、また録って……というのを繰り返しました。

──ReoNaさんは今年の3月に「HUMAN」と題した2ndアルバムをリリースしましたが(参照:ReoNa「HUMAN」インタビュー)、「R.I.P.」にも“人間”をものすごく感じます。

確かに、その通りですね。この楽曲自体も、決して正しくあろうとしているわけではないというか……。

──「世界を洗い流して」「全部 消えてしまえ」と歌ってはいますが、それでめでたしめでたしとはならない。

もしかしたら「復讐は何も生まないがスッキリはする」みたいな言説に通じるのかもしれなくて。世界をリセットできたら自分はスッキリするかもしれないけれど、洗い流されてしまった人たち1人ひとりにも人生があって、痛みがある。とはいえ、自分1人の力では何も変えられない世界で傷付けられ、虐げられ続けるままでいいのかというと……うーん、腹立たしいです。

大切な人に1人きりで泣いていてほしくない

──カップリング曲「地球が一枚の板だったら」は今年の5月にデジタル配信された、NHK「みんなのうた」2023年4月、5月放送曲ですね。作詞作曲は傘村トータ(LIVE LAB.)さん、編曲は小松一也さんですが、この曲は「あしたはハレルヤ」(2021年5月の5thシングル「ないない」カップリング曲)や「猫失格」(2022年7月発売の6thシングル「シャル・ウィ・ダンス?」カップリング曲)路線のカントリーポップと言えましょうか。

ReoNaが今までリリースしてきた楽曲の流れでいうと、そうなります。

──「Naked」(2022年5月発売の2nd EP)リリース時のインタビューで、ReoNaさんは「『あしたはハレルヤ』を歌ったことで、絶望に寄り添うお歌を歌う=楽曲が暗くなきゃいけない、というわけではないということに気付いた」とおっしゃっていて(参照:ReoNa「Naked」インタビュー)。その流れもあるのかなと。

その通りだと思います。これまで絶望に向き合い続けて、リリースしてきた1曲1曲に対して「今回はどういう角度から絶望を切り取ろう?」「どういう言葉で絶望に寄り添おう?」と考えてきた年月があったからこそ、こういう楽曲も歌えるようになっていったんじゃないかなって。

──「地球が一枚の板だったら」は、歌詞の内容としては世界の均衡の保ち方みたいな話ですよね。

シーソーだったり天秤だったり、バランスを取らなきゃいけない、不安定な何かというイメージがもともとあって。私個人としては、自分の大切な人が悲しんだり苦しんだりしているときに、それを何ひとつ知らされずにいることに寂しさを感じるんです。だから、もし大切な人がたった1人で悲しみや苦しみを抱え込んでいたら、私にはその問題を解決することも、その人を笑わせてあげることもできないかもしれないけど、せめて同じ悲しみや苦しみを一緒に背負いたい。少なくとも、一緒に泣いてあげることはできるんじゃないか。ただそばにいるだけで、救われることもきっとある。そういう、大切な人に1人きりで泣いていてほしくないという思いを込めています。

──サビの歌詞にも「君が100泣いたら 僕も100泣こう」「君が50怒ったら 僕も50怒ろう」「君が10000苦しんでいるのなら 僕も一緒に苦しんでみせるから」とありますね。そして最後に「僕が1笑ったら 君も1笑って」と。でもこれって、100の悲しみと50の怒り、1万の苦しみに対して、笑いは1しかないという。

まさにそこが、すごく傘村トータさんらしいところで。ほんのひとさじだけでも、救いらしきものがあればいい。

──過去に傘村トータさんが作詞作曲した「生きてるだけでえらいよ」(「ないない」カップリング曲)や「Someday」(「Naked」収録曲)にも、小さな救いらしきものが描かれていましたね。

もしかしたら、今までのReoNaだったらこの楽曲は「僕も一緒に苦しんでみせるから」で終わっていたかもしれなくて。傘村トータさんとの出会いがあったことによって、最後の「僕が1笑ったら 君も1笑って」という1行が生まれたんじゃないかな。それで言ったら、まさか自分が「ひよこ」と歌う日が来るとは思っていませんでした。

──板状になった地球において、「僕」が右端に乗せた「花」と釣り合うように、「君」が左端に乗せたのが「ひよこ」なんですよね。

そう。傘村トータさんは、ワードチョイスがすごく優しい人だなと思います。

──ReoNaさんのボーカルも優しくて、朗らかですね。ただ、ちょっとだけ寂しそうでもあるというか、先ほどの100の悲しみと1の笑いになぞらえるなら、100の朗らかさの中に1の寂しさがあるような。

本当ですか? 私のお歌は「ReoNaは何を歌っても暗くなる」という地点からスタートしているので……。

──それはそれで大きな武器だと思いますけどね。

例えば「君が全部一人で抱えたせいだ」「君がきてくれたせいだ」という歌詞は、別に「君」をなじっているわけではなくて、「なんで抱えちゃったの?」「なんでそんなにいっぱい持ってきちゃったの?」という優しい問いかけなんです。それなのに、どうしても責めているように聞こえてしまったりして。「もっと朗らかに響かせたいな」とレコーディング中もずっと考えていましたし、それは「あしたはハレルヤ」以降の課題というか、研究しなきゃいけないニュアンスでもあると感じていたんです。なので、もし「地球が一枚の板だったら」の歌声が朗らかに聞こえているのであれば、そしてそこにひとさじの寂しさを感じてくださったなら、すごく、悩んだ甲斐がありました。

ただのアコースティックバージョンにしたくない

──もう1つのカップリング曲は、CDの種類によって異なります。まず初回限定盤および通常盤の「VITA -The Days-」は、アルバム「HUMAN」に収録されたアッパーなロックナンバー「VITA」をスローバラードにリアレンジしたものですが……。

ガラッと変わりました。やっぱりただのアコースティックバージョンにしたくなくて、新曲として聴いてもらえるぐらい、なんなら「違うタイトルを付けてもいいんじゃないか」ぐらいの勢いでリアレンジした果てに、この形になりました。

──リアレンジの方向性としては「ANIMA」(2020年7月発売の4thシングル表題曲)の「With ensemble」バージョンに近いですが、より大胆に変えてきましたね。

アルバム「HUMAN」のときにお話ししましたけど、オリジナルの「VITA」を初めてレコーディングしてから年単位で時間が経っていて。そこからボーカルの録り直しを経て、初めてライブで披露したのが今年の1月に開催された「リスアニ!LIVE 2023」なんです。そのあと3月の「ReoNa ONE-MAN Concert 2023 “ピルグリム” at 日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~」、さらに5月から7月にかけての「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 "HUMAN”」と、ライブで一緒に歩んできた“命”(“vita”はラテン語で命を意味する)のお歌を改めて、まったく違った響きでお届けしたくて。

──「VITA -The Days-」の編曲は、「R.I.P.」のブラスアレンジをなさった宮野幸子さんですね。

宮野さんはオーケストレーターとしていろいろな劇伴も手がけられている方なので、楽器の音を知り尽くしていらっしゃるんです。だから、ピアノとストリングスにアコースティックギターが入るという音数の少ない編成でも、これだけのドラマが作れるんだと思います。

──ボーカルもオリジナルの「VITA」とは別物ですね。オリジナルは誰かに強く訴える感じでしたが、「VITA -The Days-」は内省的というか、自分に言い聞かせているようで。

歌ってみて「あ、変わったな」と思ったのが、まさにそこなんです。特に「命はあなたを忘れない」「決してあなたを忘れない」といった歌詞を歌うときは、オリジナルでは「あなたに伝えなきゃ! この思いを!」という気持ちがあふれていたんです。でも「VITA -The Days-」では、不思議と独白するような感じに。「VITA」はレコーディングを2度していますし、ライブでも一緒に過ごしてきた楽曲なので、「VITA -The Days-」を録ったときは歌詞を見る必要もなければ、感情面でのディレクションや自分用のメモ書きも必要なくて。それぐらい自分の中で消化された楽曲だったからこそ、改めて自分の言葉として、自分自身に向けて歌えた部分はある気がします。