近年、ソニー・ミュージックレーベルズ内の独立レーベル・SACRA MUSICが積極的に海外展開している「SACRA MUSIC FES.」。複数の所属アーティストが海外アニメイベントなどに一挙出演するスタイルの興行をそのように称しており、これが軒並み好評を博していることは先の特集記事(参照:Aimer、SawanoHiroyuki[nZk]、FLOWら所属の気鋭レーベル「SACRA MUSIC」が海外に挑む理由)でも述べた通り。2022年には欧州圏で初となる「SACRA MUSIC FES.」が開催され、さらに今年は南米圏での開催も初めて実現するなど、その勢いはとどまるところを知らない。
ヨーロッパや南米でも日本のアニメカルチャーへの関心が強く、熱心なファンが多いことは以前からよく知られている。それだけに、人気アニメ作品の主題歌を歌う日本人アーティストたちのライブをまとめて間近に楽しめる「SACRA MUSIC FES.」に対する現地ファンの熱量は相当なものだ。その一端を音楽ナタリー読者にも垣間見てもらうべく、本稿では7月にブラジル・サンパウロで行われた「SACRA MUSIC FES.×Anime Friends 2023」と、8月にドイツ・マンハイムで行われた「SACRA MUSIC FES.×AnimagiC 2023」の模様をレポートする。
文 / ナカニシキュウ
「SACRA MUSIC FES.×Anime Friends 2023」レポート
「Anime Friends」は、2003年よりブラジル・サンパウロで行われている中南米最大級のアニメコンベンション。4日間にわたる開催期間のうち、2日目となる7月14日にASCA、Who-ya Extended、SennaRin from SawanoHiroyuki[nZk]の3組が出演した。
会場には3000人もの現地ファンが詰めかけ、すし詰め状態に。ブラジルでは初の「SACRA MUSIC FES.」開催とあって、日本のアニソンアーティストが生で歌う姿を一刻も早く目にしたいというオーディエンスの熱気が開演前から場内を満たす中、ステージ背面に設けられた巨大スクリーンにオープニングムービーが映写され、トップバッターとしてSennaRin from SawanoHiroyuki[nZk]がステージに姿を現した。
喝采をもって迎え入れられたSennaRinは、澤野弘之「βίος」でライブを開始。観衆はこれに盛大な手拍子と大合唱で応戦し、早くも熱狂的なライブ空間を形作っていく。そして1曲を歌い終えるや否や割れんばかりの「SennaRin!」コールが場内に飛び交い、これには思わずSennaRinも笑みを漏らす。MCでは日本語とポルトガル語、英語を織り交ぜながら丁寧に気持ちを伝えてオーディエンスとコミュニケーションを取りつつ、澤野弘之「Bauklötze」やAimer「StarRingChild」といったカバー曲を中心に披露。終盤には自身の代表曲「melt」「最果て」を朗々と歌い上げ、歓喜の大声援に包まれてステージをあとにした。
すると舞台上には、間髪をいれずにWho-ya Extendedが勢いよく登場。彼は「ErroЯ CØDE」でパフォーマンスの口火を切ると、「Q-vism」「Synthetic Sympathy」といった自身の出世作とも言える「PSYCHO-PASS」関連曲を軸に会場を盛り上げ、ポルトガル語での自己紹介なども交えながら聴衆のボルテージを上昇させていく。ボーカル・Who-ya自身も次第にヒートアップし、「Call My Name」を歌い終えたところでアウターを脱ぎ捨てると、場内の熱気はさらに加速。隙あらば「Who-ya!」コールやチャントを挟み込んで喜びを表現するオーディエンスとともにWho-ya ExendedのボーカルWho-yaはお祭り騒ぎ、代表曲「VIVID VICE」で狂熱のステージを締めくくった。
そのWho-ya Extendedと入れ替わり、盛大な「ASCA!」コールに迎えられて登場したASCAは「凛」「Howling」などの人気ナンバーを惜しげもなく連発。MCでは少しでもわかりやすく、多く話をするためにポルトガル語翻訳のメモを片手にトークを展開し、現地ファンを大いに喜ばせた。そしてステージ中盤では、先ほど出番を終えたSennaRinを呼び込んで「CHAIN」をデュエットするスペシャルなコラボレーションも披露。再び場内に「SennaRin!」コールがこだました。その後、新曲「Stellar」やサウジアラビアで行われた「SACRA MUSIC MONTH」のテーマソング「Real Dawn」といった楽曲を畳みかけてオーディエンスを大いに飛び跳ねさせたASCAは、フィニッシュブローとして「RESISTER」を歌唱。大はしゃぎするフロアを尻目に、満足げな表情を浮かべてステージ袖に消えていった。
ここで、スクリーンには「Next Artist: Special Collaboration」の文字が躍る。するとASCA、Who-ya Extended、SennaRinが再び姿を現し、ステージ上に集結。3組が一堂に会してのコラボパフォーマンスが行われた。曲目は、アニメ「進撃の巨人」より澤野弘之「Barricades」だ。シリアスムードながらサンバ系のリズムを取り入れたこの楽曲を3人それぞれのソロ歌唱で歌いつなぎ、サビでは力強いユニゾンが響き渡る。もちろんラテン系リズムをお家芸とする現地ファンがここで黙っているはずもなく、会場中で盛大な大合唱が繰り広げられたことは言うまでもない。こうして、この日の「SACRA MUSIC FES.×Anime Friends 2023」は陽気なムードのままに幕を下ろした。
「SACRA MUSIC FES.×AnimagiC 2023」レポート
「AnimagiC」は、1999年より開催されているドイツではおなじみのジャパニーズカルチャーイベント。3日間の開催期間のうち、2日目にあたる8月5日にReoNa、ASCA、Who-ya Extended、SennaRin from SawanoHiroyuki[nZk]の4組が出演した。
約2500人を収容する会場は、開演を今か今かと待ち受ける現地ファンであふれ返っていた。ほとんどの観客がその手にペンライトを携えており、「アニソンライブはペンライトを持って楽しむものだ」という日本独自の文化が海外にもすっかり定着していることをうかがわせる。そして開演時刻を迎え、ステージに設置された巨大スクリーンにオープニングムービーが映写されると、BGMに合わせて一斉に「オイ! オイ!」と叫びながら規律正しくペンライトを振り始めるオーディエンスたち。トップバッターのSennaRin from SawanoHiroyuki[nZk]は、ドイツ語詞の楽曲である「βίος」や「Bauklötze」を含むセットリストでパフォーマンスを繰り広げて現地ファンを喜ばせる。さらに荒幡亮平(Key)をステージに呼び込み、ピアノ伴奏のみによるミニマルな編成で「melt」「Avid」をしっとりと歌い上げて聴衆を魅了するひと幕も。そして、ステージを終えた直後には司会者を交えてのトークも展開。「ドイツ語の楽曲を2曲歌ったんですが、どうでしたか?」との問いかけに客席からは大きな歓声が上がり、司会者が「発音よかったと言ってますよ」とオーディエンスの反応を通訳すると、彼女は「わあ、うれしい。大好き!」と顔をほころばせた。
2組目に登場したWho-ya Extendedは、ホットでスタイリッシュな「Q-vism」「A Shout Of Triumph」を続けざまにお見舞いして冒頭からファンのハートをがっちりキャッチ。「今日は特別な日なので、ビッグなプレゼントを持ってきました。『VIVID VICE』のスペシャルバージョンです」と英語で告げると、客席から大歓声が上がった。再び荒幡が呼び込まれ、ピアノ伴奏のみによる「VIVID VICE」と「memorized.」が厳かに披露される。荒幡が退いたあとにWho-ya Extendedは改めてバックトラックを使ったフル尺の「VIVID VICE」もパフォーマンスするなど、短時間ながら密度の高いステージを繰り広げた。トークコーナーではドイツビールへの愛を語り、現地ファンを喜ばせたWho-ya Extendedは、盛大な「Who-ya!」コールが鳴り響く中、颯爽とステージを去った。
続く3組目は、2年連続での「AnimagiC」出演となったASCA。「凛」「RESISTER」といった人気曲の連投でステージの幕を開け、オーディエンスを圧倒した。そしてここドイツにおいても「Anime Friends」出演時と同様に、MCでは少しでもわかりやすく自分の思いを伝えたいという思いから、ドイツ語翻訳のメモを片手にドイツ語でファンに語りかけていく。そんな彼女の真摯な姿に現地ファンは声を枯らすほどの声援で応えた。その後披露された「Real Dawn」では会場を揺るがすほどの大合唱が巻き起こる。ASCAは「みんなのおかげでドイツがもっともっと大好きになりました」と感情を高ぶらせ、「Howling」でステージを締めくくった。司会者とのトークでは、昨年のステージでASCAが言及したというジャガイモの話題に。「今年もドイツでおいしいジャガイモを食べられましたか?」との問いにASCAが「すでに10回ほどいただいております!」と誇らしげに返すと、会場はなぜか大歓声に包まれるのだった。
そして「SACRA MUSIC FES.×AnimagiC 2023」のトリを飾るのは、「AnimagiC 2023」開会式でも歌を披露したReoNaだ。ゆっくりと姿を現した彼女に続き、再三の登場となる荒幡もステージ上へ。流麗なピアノの旋律が奏でられると、それに追従してバックトラックの演奏が始まり、ReoNaがまっすぐな歌声で「魂の色は 何色ですか」と歌い出す。「ANIMA」で彼女のステージは始まった。同曲をはじめとする「ソードアート・オンライン」シリーズ関連曲と、「ないない」「シャル・ウィ・ダンス?」といった「シャドーハウス」関連曲で固められたセットリストが現地ファンを熱狂の渦に巻き込んでいく。MCの際には客席の興奮がなかなか収まらず、ReoNaが口を開くタイミングをつかみかねるほど。ラストナンバーのシンフォニックなロックチューン「VITA」を歌い終えると、ReoNaは「じゃあな!」と言い放って深々と頭を下げ、轟音のような歓声を背にステージを立ち去った。
このように「SACRA MUSIC FES.」は、さまざまな国々で熱狂をもって歓迎されている。日本人の感覚からすると、日本語という特殊な言語をベースにした音楽が他言語圏でここまで受け入れられている様子を目の当たりにすると、「まさかここまでとは」と驚かされるレベルだ。もちろん“ジャパニメーション”や“アニソン”が海外で人気だという事実を情報として把握はしているものの、実際に現地ファンの興奮した様子を肉眼で確認するまでは実感が伴わないというのが正直なところではないだろうか。それはもちろん音楽の力のみならず、付随するアニメ作品の力が加わることによるシナジーであることは言うまでもない。
SACRA MUSICは、今後も「SACRA MUSIC FES.」をさらに世界各地へ広げていく構想なのだという。いずれは、世界のどの国へ行ってもその土地土地の「SACRA MUSIC FES.」を楽しめるような未来が待っているのかもしれない。
SACRA MUSIC(サクラミュージック)
ソニー・ミュージックレーベルズ内のレーベル。国内のみならず海外にも活動の場を広げているアーティストを中心とした音楽レーベルとして2017年4月に発足した。LiSA、Aimer、FLOW、SawanoHiroyuki[nZk]、TrySail、ReoNa、ASCAら多数のアーティストが所属している。設立5周年を迎えた2022年には千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールにてライブイベント「SACRA MUSIC FES. 2022 -5th Anniversary-」が開催された。2023年9月よりゲーム音楽プロジェクト「SACRA GAME MUSIC」を始動させる。
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