ポルノグラフィティが約5年ぶりとなるニューアルバム「暁」を8月3日にリリースした。
本作には、2017年10月発売のアルバム「BUTTERFLY EFFECT」以降にリリースされた「カメレオン・レンズ」や「テーマソング」などの既発曲に、昨年開催されたツアー「17thライヴサーキット“続・ポルノグラフィティ”」で先行披露されていた「メビウス」「ナンバー」をはじめとする新曲を加えた全15曲を収録。全曲の作詞を新藤晴一(G)が手がけていたり、岡野昭仁(Vo)がtasukuやトオミヨウと共作した楽曲が収録されたりと新たなトライが詰め込まれ、スケールアップした最新のポルノ像を伝える仕上がりとなっている。
音楽ナタリーではアルバムのリリースを受けて2本の特集を展開。第1弾としてアルバムの制作エピソードを紐解く、岡野と新藤のインタビューを公開する。また後日、第2弾として2人による全曲解説インタビューを掲載するのでそちらもお楽しみに。
取材・文 / もりひでゆき撮影 / SEIYA FUJII(W inc.)取材協力 / Amazon Music Studio Tokyo
ファンにフォーカスしたアルバムにしたい
──アルバムを見定めて動き出したのはいつ頃だったんですか?
岡野昭仁(Vo) ツアー(17thライヴサーキット“続・ポルノグラフィティ”)が終わって、そのあとくらいからだったかな。アルバムを2022年の夏に出そうという話はけっこう前に決まっていたので、少しずつ曲を作ってはいたんですよ。そこでできていた「メビウス」や「ナンバー」はツアーでも披露しましたし。
新藤晴一(G) なんとなく2年くらい前から動いてたってことになるんかな。
岡野 そうかもしれんね。ドーム(2019年9月7、8日に東京ドームで開催された「20th Anniversary Special Live“NIPPONロマンスポルノ'19~神vs神~”」)が終わったあとは何も決めずに充電期間を設けていたんだけど、その後にアルバムを見据えた曲作りを少しずつ始めたんだったと思う。で、コロナ禍があったりなんだりして、アルバム作りを本格的に始めたのは今年に入ってからでしたね。
──その段階でアルバムの全体像を思い描いたりはしていましたか?
新藤 既発曲が6曲も入るアルバムはこれまでになかったので、全体的なイメージがしづらいところはありましたよね。ある種、ここ5年分のシングルベストみたいな感じにもなるわけだから、全体的にコンセプトが一貫した作品にまとめることは難しいだろうなと。なので、僕らの気持ちとしては1曲1曲にしっかり向き合う、それしかなかったかな。
岡野 同時に、もう1つフィルターがあるとすれば、ポルノを応援してくれるファンの方にフォーカスしたアルバムにしたいという気持ちだったと思います。ファンの方たちが、「お、ポルノがこんなことやってくれたぞ」みたいに喜んでくれるであろうアルバムを作ることを指針にしていたんですよね。それによって具体的に何か大きく作風が変わったとか、そういうことがあったかどうかはわかりませんけど、でも制作に対しての気持ちは確実に今までと大きく変わったと思う。今まで僕らをずっと支えてきてくれた人や最近ファンになってくれた新規の方々が少しでもザワザワしてくれるものを作ろうということばかり考えながら制作していたような気がします。
──アルバムすべての楽曲の作詞を晴一さんが手がけているのは初の試みですよね。
新藤 うん。「やってみたら?」って言われたので、じゃあやってみようと。
岡野 たまたま既発曲のすべてを新藤が作詞していたので、その流れでいってみたらどうかっていう話になって。僕としても素直にいいんじゃないかなと思いました。当然わかっていたことではありますけど、新藤の歌詞のクオリティの高さは僕らにとっての強みですからね。それを5年ぶりのアルバムでしっかり打ち出すべきだと思ったので。
新藤 実際、すべての歌詞を書いてみて感じたのは、過去の自分と被らないようにするのが一番大変だということで。ちょっと正確な数字はわからないんですが、これまでにおそらく200曲は作詞をしてきているので、そうするとどうしたって言いたいことのテーマが被ってくるわけですよ。それはもちろん自分の引き出しが少ないってことにもなるんだろうけど(笑)、まあかなり難しさはありましたよね。それだけたくさん書いてきたんだなという感慨深い気持ちも湧きました。
──1人ですべて作詞することによるメリットって何か感じました?
新藤 1人で書いているから、全体的なバランスが取りやすいところはあったかな。かっちりした書き言葉を使い、漢字に意味を持たせて書いた「暁」のような曲があるから、「ジルダ」ではしゃべり言葉にしてみよう、みたいな。アルバムとしてそういったバランスは絶対に必要なものだから、そこにやりやすさを感じられたのはよかったところかな。
岡野 例えばここに僕の書いた直接的な表現を持った歌詞が入ってきたとしたら、新藤はそこを避けた手法でほかの曲の歌詞を書いてくれたと思うんですよ。でも今回は1人ですべてを担ってくれたので、ある意味、今まで見えなかった新しい方向性を持った新藤の歌詞が出てきているような気もするんですよね。同時に、1人の作詞家が書いているからか、全体としていいつながりが生まれているような感触もあるし。コンセプトを持って編んだアルバムではないのにビシッとまとまった印象になったのは、そこに1つの要因があるように思います。
レベルアップした昭仁の歌
──昭仁さんは今回、既発曲も含めて10曲作曲していて。楽曲のタイプもかなりバリエーションに富んでいる印象です。
岡野 そうですね。最初に作ったのは、基本ワンループで洋楽的な匂いのする「メビウス」と、僕のカラダに染みこんでいる90年代のUKサウンドを思うがままに出した「ナンバー」の2曲でしたね。
新藤 「ナンバー」は仮タイトルが「UK」だったからね(笑)。それだけで昭仁が何を作りたいのかが伝わってきたから、作詞をするうえでもすごく書きやすかった。やっぱりね、何を作りたいのかがわからないメロディやアレンジだと言葉を乗せるのも難しいんですよ。でも今回、昭仁の作った曲は明確に焦点の合った曲ばかりだったから、そういった部分ですごく助かった面はありましたね。今回は完成度の高い曲ばかりだなという印象も持ったし。
──クレジットを拝見すると、「暁」はtasukuさんと、「バトロワ・ゲームズ」はトオミヨウさんとの共作になっていますよね。
岡野 「暁」で言うと、ポルノの1つの強みでもあるBPMの高いマイナー調のナンバーをイメージして作っていったんだけど、今回はあえてtasukuくんと共作することにしたんですよね。自分はメロディを作るとき、アレンジにかなり引っ張られるところがあるんです。アレンジを聴いたことでメロディがガラッと変わってしまうことが往々にしてある。だったら今回はポルノのことをよく知ってくれている人にまずはトラックを作ってもらって、そこにメロディを乗せていったらどうだろうかと。トオミくんと作った「バトロワ・ゲームズ」も同様ですね。そういった作り方は初めての試みでしたけど、すごく面白い経験になりました。
──また、新曲群に落とし込まれた岡野さんのボーカルの進化も目覚ましいですよね。低い声のトーンやファルセットなど、これまで以上に多彩な表情を随所に感じることができました。
岡野 もっと早くからやっとけよって話かもしれないですけど、制作環境をちょっと変えてみたんですよ。コロナ禍でもあるので、レコーディングスタジオに近い環境を自宅に作ったんです。本チャンのレコーディングはもちろんちゃんとしたスタジオでやるんですけど、デモテープを作るにせよ、仮歌を乗せるにせよ、自宅でしっかり自分の歌にフォーカスできるようになったことはすごく大きなことで。そういったことの積み重ねによって、アルバム全体を通しての歌の表現レベルは、今までより少しだけ上がったのかなっていう自負はありますね。
新藤 本チャンの歌のレコーディングもすごくスムーズでしたからね。現場に立ち会ってくれていたアレンジャーに言わせると、いいテイクばかりだったみたいだし。僕が歌のことについてあれこれ言うことはできないですけど、でも今回は本当にいい歌が乗っていると思う。レコーディングがスムーズだと早く帰れるから僕もありがたいですし(笑)。
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誰かに一縷の光を灯せたら
2022年8月10日更新