Perfumeロングインタビュー|声出しライブを解禁した“革命の日”に、3人は何を感じていたのか? (2/3)

マイナスイメージな「32%」という数字を、なぜ包み隠さず発表したのか

──ライブBlu-ray / DVDの初回限定盤に付属する特典ディスクには、密着映像やツアー全公演のMC集に加えて、セキスイハイムスーパーアリーナ公演の映像も一部収録されています。この宮城公演は前売りチケットが定員の32%しか売れていなかったため、開催2日前に急遽“大きな声出しが可能な公演”にすると発表したことが話題になりました。

かしゆか 今まで土日にばかりライブをやってきたので、平日にこの会場でやるのがどれだけ大変か知らなかったんですよね。だから今回すごく思い知らされて。

あ~ちゃん どのアーティストも「ここでやるときは平日を避けるし、やるならいろんな方法を考える」というくらい繊細に日にちを決めているらしく、こうなるまで知らなかったので愕然としました。今ツアーの他県の会場は席が埋まっていて、宮城も2日目の土曜日は埋まっている中で、この日だけチケットが捌けてなくて。気付けなかったショックとよく事態が理解ができなくて。その話を初めて聞いたのが、6日前の長野公演が終わったあとで。

──券売の状況を始めてそこで知ったと。

あ~ちゃん 「えっ、どうして?」というのと「なんでもっと早く言ってくれなかったんだろう」という気持ちでした。チームとしては、3人を傷付けたくなかったから言えなかった、と。でも、本番6日前のどうにもできない状況で言い渡されるのが一番つらくて厳しいんですよね。もし言ってくれてたら、うちらにも何かできたかもしれない。後悔が残らないように行動できたかもしれない。信じてもらえてないんだなぁと悲しくて悔しかったです。それで信頼関係について腹を割って話し合えたのはいい機会だったんですけど、「じゃあ来てくれる32%のお客様を楽しませるにはどうしたらいいんだろう」と悩んで。そのときに「声出し公演だ!」って思ったんですよ。国の方針でも県の規定でも「定員50%以下のイベントなら大声を出してOK」という話だったから。

Perfume

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──当時はちょうど過渡期で、イベントでの声出しに関するガイドラインが少しずつ緩和され始めた時期だったんですよね。

あ~ちゃん ただ、チケットを売るときに「声を出すのはお控えください」って注意事項に書いてあったので、声出しNGという前提で「だったら安心だ」と思ってチケットを買ってくれた人もいらっしゃったと思うんです。そういう人たちを不安にさせないためにどうすればいいのか考えて、じゃあ32%という数字を出そう、ということにしたんです。「50%以下」って言われたら2人に1人はいるように聞こえるけど、「32%」なら3人に1人だから、少しでも安心してもらえるのかなって。

のっち 「周りの人が声を出してる環境にいるのは怖い」っていう人もまだまだいた時期だったから、そういう人たちを不安にさせたくなかったんです。

──なるほど。マイナスイメージなことなんだから「50%以下」でボカしてもよかったはずなのに、なんで包み隠さず具体的な数字を出したんだろうと不思議だったんですけど、そういう理由だったんですね。

あ~ちゃん 「来てくださる方に少しでも安心してもらうためにはちゃんと数字を出したほうが」というメンバーの思いと、「規定を満たしているので出さなくても」というスタッフ陣の思いにズレがあって、何度も話し合って一緒に腹をくくってほしいと説得しました。本当なら誰だって出したくない数字を、なんのために誰のために発表するのか。何が一番大切なのか。どんな結果でどんな見え方や言い方であろうと責任を取るのはステージに立つ私たちなので、私たちの、メンバーの立場で考えてほしい、とお願いしました。

のっち そういう思いを伝えたくて、告知する文章もみんなで丁寧に考えさせてもらったんですけど、その頃まだ声出し公演って、大きな会場ではそこまで公にやってない時期だったから、見本になるものがなかったんですよね。

あ~ちゃん ライブハウスで声出しをやってる人がいるっていうのはちらほら耳にも入っていて。ただ、そこに行った人たちも「最高!」って人と「やっぱり怖い」って人で二分化しているようでした。どちらの考えもあって当然だからこそ、アリーナ規模の会場でみんなが安心できる声出し公演をやりたかったんですよ。コロナ禍のエンタテインメントとしては、私たちが東京ドーム公演を中止せざるを得ない状況になってしまったことが最初のほうだったと思うんですよね(参照:Perfume、東京ドーム公演2日目が新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止)。当時、そこからどんどん停滞していったような感じがして自分たちの中ですごく心残りがあったんです。だから許可が降りた最初の声出し公演も、自分たちがやれたらなと思っていたので、このときはそういうチャンスをもらえたような気もしていました。

かしゆか それが大きいニュースになってうれしかったです。「もう声出しでライブやっていいんだ」ってたくさんの人に知ってもらえたし、そのあとほかの人たちの声出し公演のニュースもどんどん増えていったから。

高揚感と不安感が入り混じった不思議な空気があった

──宮城公演でステージに立ってお客さんの歓声を聴いたとき、どんな気持ちでした?

かしゆか ライブが始まるまで、みんながどういう気持ちで会場に来たのかわからなかったんです。不安な思いをさせちゃったかもしれないと思ってたし。だから「もともとチケットを買ってくれていた人が後悔をしないような、誰一人置いていかないライブにしたい」って、私たちもすごく緊張してて。そしたら、私たちがステージに出ていく前からみんなの声が聞こえてきて、みんなも私たちと同じ気持ちでこのライブを成功させようとしてくれてるのがわかったんです。すごくうれしくて、ライブ前からもう涙、涙で。開演するときは泣かないようにがんばってました。

──オープニングの登場シーンは真顔じゃないといけないですからね(笑)。

あ~ちゃん 真顔って言わないでよ(笑)。演出含めのその場の表情じゃけ。

かしゆか もちろん私たちもみんなに悲しい思いをさせたくないと思ってるけど、それ以上にみんなが私たちのことを考えてくれてるのがすごく伝わったんです。絆を確かめられてうれしかった瞬間でした。

のっち お互いに「声出しだ! やった!」という気持ちに100%なれていたわけではなかったと思うんです。だからあの日は、お客さんにとっても私たちにとっても挑戦の日だったし、高揚感と不安感が入り混じった不思議な空気があって。でも、3人の名前を呼ぶ声が舞台裏に聞こえてきたときに「ライブってこうだったな……」って思い出したんですよね。みんなに楽しんでほしくて準備してきた私たちと、それを楽しみにして来てくれたお客さんが、舞台を介してお互いを確かめ合う、その感覚を思い出せてうれしかったです。

のっち

のっち

──初回盤の特典ディスクでその映像を観ましたが、歓声を聞いたうれしさとか、客席を埋められず不甲斐ないという悔しさとか、いろんな感情が一気に噴出してぐちゃぐちゃになってるのがわかりました。

あ~ちゃん そうですね。私も観終わったあとに「マジでかわいそうだな」って思いました(笑)。たくさんの人の責任をとって、なんとかステージに踏ん張って立っていました。信じて観に来てくれるお客様を喜ばせたい一心でした。よくやったなぁ、と思います。メンバーに誰もボイコットする人がいなくてよかったです(笑)。5月で新型コロナの位置付けが5類に変わったし、今や声出しが普通のことに戻ってるけど、このときの私たちは本当に深刻だったよって、それぐらい背負いながらライブをやってたんだよというのは忘れたくないから、挑戦した姿を記録に残せてよかったですね。

──あの瞬間にしかない激エモな空間がパッケージされた、貴重なドキュメントだと思います。

あ~ちゃん マジエモでした(笑)。この3年間、「声援がなくてもライブはできるんだな」っていう気持ちになってたけど、やっぱりみんなの声はライブの一部なんだな、声を出すってことはライブという体験の一部なんだなって、改めて思いました。声援をもらいながら歌うのってマジで最っっ高です!

──お客さんたちがその感覚を思い出していく様子も、映像を通して伝わりました。

あ~ちゃん ねー。最初のうちは声の出し方も忘れていて控えめに「ゆかちゃーん」って言ってたのが、途中からだんだん「ゆっかちゃーん!!」って(笑)。みんなの声色や声量の変わり方も、あの日は面白かったですね。

1/3の人数でこれって、100%入ったらどうなっちゃうんだろう?

──Perfumeはこれまでも逆境をチャンスに変え続けてきたイメージがありますが、この件に関しては今までにないレベルでの切り替え方だったなと思います。

あ~ちゃん ありがたいです。でも、映ってる自分が全然かわいくないので、驚くなかれって感じです(笑)。ボロボロに泣きすぎて「みんなよくこの人に声援をくれたな」っていう仕上がりですけど、ぜひその雄姿を見ていただけたらと。

──この日のライブで何か印象に残っていることはありますか?

あ~ちゃん 面白かったのが「男子!」「イェーイ!」「女子!」「イェーイ!」っていうコール。声を出せない時期は代わりにみんなで同じポーズをしてもらってたんですけど、それが染み付いていたみたいで、この日のお客さんは声を出しながらポーズをとってたんですよ(笑)。声が出せなかったこの3年間もしっかりライブを楽しんでくれてたんだって、そんな絵が見えてうれしかったですね。

かしゆか 「1/3の人数で、あんなに大きな声援になるんだ」ということに驚きました。映像だとあの熱量は伝わりづらいかもしれないけど、体感ではものすごかったんですよ。空気が震えて、すごい音圧があって。「お客さんが100%入ったらどうなっちゃうんだろう?」って、また楽しみが増えました。

かしゆか

かしゆか

あ~ちゃん 何年もステージに立ってきたはずなのに、声の大きさに驚いたもんね。1人ひとりが死ぬ気で声を出してくれてたからっていうのもあるのかもしれないけど(笑)。

のっち すごかったよね、あの一体感。

──来ていたお客さん的にも「32%分しか声が出せなかったら嫌だな」「声が小さいって3人に思われたくないな」という気持ちがあったんじゃないですかね。

かしゆか そういう気持ちも感じましたね。「絶対に寂しい思いをさせないぜ!」みたいな気迫とかを。席と席の間隔を十分に空けていたのもあって、みんなの動きも大きくて、声だけじゃなくて全身で気持ちを表現してくれてました。

──声出し公演が終わったときはどんな気持ちでしたか?

あ~ちゃん 放心状態ですね(笑)。魂を燃やし尽くしたみたいな感じでした。

のっち 寿命は縮まったと思います(笑)。

あ~ちゃん だよね(笑)。

──ただ、あくまで声出しが解禁されたのはこの日だけで、宮城公演2日目からはまた声出しのできないライブだったんですよね。

あ~ちゃん だから「P.T.A.のコーナー」(ダンスやコール&レスポンスでメンバーとオーディエンスの一体感を高めるコーナー)の内容も、初日と2日目で内容を変えていった感じでした。

かしゆか この3年間は「どうしたら声を出さずに『P.T.A.のコーナー』を一緒に楽しめるだろう?」ということを考えていろいろ工夫してきたから、急に声を出せるようになって、なんだか不思議な感覚でした。