Perfumeロングインタビュー|ここにきて近付いた中田ヤスタカとの関係と、制作体制の変化が生み出した「ポリゴンウェイヴEP」

折しも世界中が新型コロナウイルスの脅威に晒され始めた2020年2月、ドームツアーのファイナルとして予定されていた東京・東京ドーム公演の2日目が開場直前に中止になったPerfumeだったが、それから1年半が経ち、彼女たちは今年8月に神奈川・ぴあアリーナMMでひさびさの有観客公演「Perfume LIVE 2021 [polygon wave]」を敢行。徹底した感染対策のため、以前までは当たり前だったオーディエンスの歓声が完全に失われたこのライブで、3人は“今だからこそできる演出”の数々を用意し、これまでにないほどのメッセージ性の強いパフォーマンスを繰り広げた。21年もの長い活動の中で常に進化を続けてきたPerfumeが、ここにきて新たなタームへと突入したのを、この日多くの観客が目撃したはずだ(参照:Perfumeが念願の有観客ライブに涙、バックダンサー迎えた初のパフォーマンスや新曲初披露も)。

そしてこの公演のタイトルにもなり、ライブ全体の主軸となった曲「ポリゴンウェイヴ」をリードトラックとしたPerfumeの新作「ポリゴンウェイヴEP」がリリースされた。今作には表題曲の別バージョンやリミックスに加え、SF的なストーリーを展開するスタイリッシュな新曲「∞ループ」「アンドロイド&」などを収録。全体を通して「ポリゴンウェイヴ」の世界観で構成された、コンセプチュアルな1枚になっている。

今回のインタビューでは「ポリゴンウェイヴEP」の制作エピソードのほか、ぴあアリーナMMでのライブを振り返って思うことや、メンバー3人がパネリストとして出演しているAmazon Prime Videoの番組「ザ・マスクド・シンガー」の収録の裏側、そして秋に5都市で行われるツアー「Reframe Tour 2021」などについて話を聞いた。

取材・文 / 橋本尚平

この時代を生きているみんなに「私たちも同じ世界を生きているよ」と伝えるために

──ひさびさに観客の前でライブをやって、どうでした?

かしゆか めちゃめちゃ楽しかったです。お客さんが入るまではどういう雰囲気になるんだろうって心配だったんです。「人数上限5000人という制限に則って開催するけど、キャパ1万人の会場に5000人ってどんな見栄えになるのかな?」とか、「声を出せないライブってどんな気持ちになるんだろう?」とか、ライブができるうれしさと未体験なことに挑戦するゾワゾワした気持ちが入り混じって。でも始まったらめっちゃ楽しくて、「これが本来の私たちなんだ」「やっぱりライブは生き甲斐だ」と感じたので、みんなが声を出せないことなんて1mmも気にならなかったです。みんなの手から、目からパワーがグッと届いて、温かくて明るいエネルギーが会場いっぱいにあふれてるような感覚でした。

──入場したときに、客席に人がたくさんいるのにシーンとしているのが印象的だったんですが、いざライブが始まると、歓声がなくても周りの観客と驚きや喜びを共有することができたんです。不思議な一体感のあるライブだったなと思いました。

あ~ちゃん 客席で静かに待ってくれてたのも、今思うと愛ですよね。Perfumeのファンの人たちは「こうしたら3人が喜ぶだろう」「こんなことしたら3人が悲しむかも」って、本当に信じられないくらい私たちのことを思って行動してくれるんです。だから「どうやってそれにお返ししたらいいんだ」って考えると大変ですよ(笑)。

Perfume

──昨年東京ドーム公演の2日目が当日に中止になった件もありましたし、ほとんどの人が感染予防に細心の注意を払っている時期でもありますし、今回は間違いなくお客さんも、以前までのライブに遊びに来る感覚とは違った思いを抱いて会場に来ていたんだろうなと思います。

のっち うん。お客さんが「どんな演出なんだろう?」って期待してくれて、私たちが「どんなことをしたらみんなが喜んでくれるかな?」って考えながら準備をして、という当たり前だったことが当たり前じゃなくなったライブでしたからね……。開催できるのかわからないまま練習やリハーサルを続けて、当日会場に来てもまだ「本当にできるのかな?」という状態で。だからステージに立ったとき、みんなと顔を合わせてライブができるっていうことが、本当に奇跡なんだなって改めて実感しました。「無観客ライブをやってほしい」という声が内からも外からもあった中で、頑なにやらなかった私たちの、ライブに対する考え方や信念の答え合わせの時間でしたね。「やっぱりライブってみんなで作るものだよね」っていう。

あ~ちゃん こういう時代になってからずっと、何かと画面を見続けてきたと思うんですけど、ライブはやっぱり同じ空間で一緒に体感したいなあ、って。ライブの高揚感や没入感を体が覚えている私たちやファンの方たちからすると、少なからずこの画面で見続けてる間、窮屈な思いをしてきたのかな、って思ったんです。もちろんこの時代になる前から、配信で見せたいものがあるから配信を選んでやってきたこともありましたが、それはまた今後やりたいことが見つかったときにやればいいし、私たちはやっぱりお客さんを入れてライブを見せたいなあと。「じゃあルールの中でできることを考えて、開催しよう!」というのが今回のライブです。もちろん、本当に開催できるかはその箱によっても県によっても考え方や規定が違うので、私たちには判断できないんですけど、ファンの皆さんが期待してくれているのは感じてたから期待に応えたいなという気持ちもあったし、自分たち自身もここ最近、信じては裏切られることが続いて嫌気が差していたし、このライブはどうしてもやりたかった。自分たちが主催だと責任も全部自分たちが負うことになるので、腹をくくらなきゃという覚悟を持ってライブに臨みましたけど、終わってみたら、大事な人たちを笑顔にできた達成感がすごかったです。Perfumeの再起動の第一歩になったのを感じました。

──今までのPerfumeのライブにはないくらい、メッセージ性の強いライブで驚きました。

あ~ちゃん ライブの内容はMIKIKO先生が考えてくれて、私たちから何かアイデアを提案したわけじゃないんですが、この1年半は本当にいろんなことがあった中で、MIKIKO先生と一緒に何回も何回も話をしてたんです。それによって4人とも「絶対やってやるぜ!」と燃えたぎっていたので、私たちの思いや今まで言いたかったことが可視化された演出になったのかなと思います。今までのPerfumeでは使ったことのないような言葉や表現をたくさん使ってるんですけど、自分たちの本心から遠いものは何ひとつありませんでしたね。

──確かに、中盤のパフォーマンスはPerfumeのライブとしては珍しく闇の部分が出ていたように思いますし、こんなふうに内省的なメッセージを直接投げかけてくるようなことは今までなかった気がします。

あ~ちゃん 基本的に3人とも暗いのは好きじゃないんですよ。だからそれが昔からのグループの色になっていて、ステージ上でもあんまりそういう表現はしてこなかったんですけど、コロナ禍でみんながそれぞれの思いを抱きながら毎日過ごしてきたのは事実だし、自分たちにもそういう面はもちろんあったので、心の内を少し見せることで、理解してくれようとしてくれる人たちと深くつながり合いたい、という気持ちがあったんですよね。

2021年8月に神奈川・ぴあアリーナMMで行われたワンマンライブ「Perfume LIVE 2021 [polygon wave]」の様子。(撮影:上山陽介)

のっち なんかでも、「見せちゃった!」みたいな感覚は全然なくて。ただただ「こういうことがあったよね」というのを舞台上で表現しただけだし、暗いことを言っていた自覚は全然ないよね?

かしゆか 演出で流れる声を事前に録ったときも、あれが闇だとは感じていなかった(笑)。

あ~ちゃん でも観てる人は闇だと感じるんだろうね、あの言葉だけを聞いたら。当の私たちは言いながらキョトンとしてたんですけど(笑)。

かしゆか 言葉もそうだけど、手の影に追われる演出とかもですよね。今までのPerfumeのライブは「まだ誰も見たことのない世界に私たちがみんなを引っ張って行って、未来への希望を見せたい」みたいな気持ちでやっていたけど、今回のライブは、この時代に大変な状況で生きているみんなに「私たちも同じ世界を生きているよ」って伝えるものだった、という違いはあったと思います。

「舞台に立ってるのはこの3人だけど、みんなも私たちとここに立ってるんだよ」って

──あれだけの広さで床一面がLEDビジョンになっているライブは初めて観たんですが、普段とは違う苦労が多かったのでは? きっとステージに立っているメンバーは、何が映ってるのかよくわからないまま踊っていただろうし。

あ~ちゃん 名探偵だね(笑)。大変でしたよね? のっちさん。

のっち 大変でした……。いつもは床にバミリ(立ち位置がわかるように粘着テープで付けた目印)があるから視点が定まった状態でパフォーマンスできるんだけど、画面上にテープを貼ると目立つから本当に最小限しか貼れなくて。「TOKYO GIRL」では目の錯覚みたいな映像を流していたので、夜空をビュンビュン飛んでるときは意識を保つのに必死でした。つられて倒れちゃう。初めてLEDの上に立ってリハーサルしたときはグッダグダでしたね。定位置にすら着けないし。

ワンマンライブ「Perfume LIVE 2021 [polygon wave]」より、「TOKYO GIRL」のパフォーマンスの様子。(撮影:上山陽介)

──そしてなんと言っても驚いたのは、1曲目「不自然なガール」でELEVENPLAYの面々がバックダンサーとして出てきたこと。これまでPerfumeは「ステージに立つのはメンバー3人だけ」という暗黙のルールを貫き通してきたので、曲が始まった瞬間、お客さんは声を出していないのに明らかに会場中が興奮したり動揺したりしているのが伝わってきました。

あ~ちゃん あれも“私たちの思いの可視化”の1つなんです。「舞台に立ってるのはこの3人だけど、実はみんなでライブを作ってて、私たちとここに立ってるんだよ」「みんなはいつも私たちと息を合わせるように一緒に踊ってるんだよ」「私たちの影はみんななんだよ」ということだったり。だからあのとき出てきたELEVENPLAYの皆さんは、私たちの中ではバックダンサーという感覚はなくて、黒衣さん──つまりPerfumeの体を分けた分身なんですよ。いわゆるバックダンサーというより、自分たちの影のようなもっと一心同体な存在というか。

ワンマンライブ「Perfume LIVE 2021 [polygon wave]」より、「不自然なガール」のパフォーマンスの様子。(撮影:上山陽介)

──なるほど、今回のライブは全体を通して「影」がキーワード的に使われていましたが、そういう意味なんですね。

あ~ちゃん ちなみに「マカロニ」のパフォーマンスでも影を演出に使っていますけど、あの影も「ファンのみんな」を表していて、そして「みんなが願う、理想とするPerfume」を可視化したものでもあるのかな、と思います。曲が終わって私たちが立ち去っても、みんなの思いが込められた私たちの影はステージに残って幸せそうに踊り続ける、という。

──ELEVENPLAYを交えたパフォーマンスは何曲かありましたが、3人だけでステージに立つのと感覚は違いました?

のっち 全然違いましたね。でも一緒にリハーサルをしたとき、感染対策でほとんど言葉を交わしてないのに、スキンシップがほぼない中でもものすごく心が通じ合えてると感じたんです。それってやっぱりELEVENPLAYさんだからなんだろうなって。リハの一発目からバチっと噛み合う感覚があって「……MIKIKOっ!」と思いました(笑)。

あ~ちゃん 「PerfumeはMIKIKOであり、MIKIKOはPerfumeだ」というのと同じように「ELEVENPLAYはMIKIKOであり、MIKIKOはELEVENPLAYだ」と思うので、つまり「PerfumeとELEVENPLAYはすごく近い存在だ」ということなんでしょうね。

かしゆか 入り組んだ動きをする黒衣さんたちの間を私たちが歩いてすれ違うというダンスもあったから、リハーサルはたっぷりやったんですけど、そこでキャッキャすることは一切なく。プロ同士の関係って感じでしたね(笑)。

あ~ちゃん 普通だとそういうときは「終わったら飲み会に行って親交を深めましょう!」みたいなことになるんだろうけど、それができないからこそ逆に絆が深まったところもあるよね(笑)。