Perfumeロングインタビュー|ここにきて近付いた中田ヤスタカとの関係と、制作体制の変化が生み出した「ポリゴンウェイヴEP」

ライブ2週間前に「曲をこっちにしたいんですけど、振り付け間に合いますか……?」

──今回のライブで皆さんが一番印象に残っているパフォーマンスはどれですか?

かしゆか 「ポリゴンウェイヴ(Original Mix)」の初披露かな? もともとは先に配信されてたバージョンをやる予定だったんですけど、EPの収録曲を決めるときに中田(ヤスタカ)さんが「これがいい!」って言ってこのバージョンを聴かせてくれて、じゃあライブでもこっちをやろうってことになったんです。ライブの2週間くらい前にMIKIKO先生と「曲をこっちにしたいんですけど、振り付け間に合いますか……?」「……がんばります!」みたいなやりとりをしてました(笑)。

──それはかなり急ですね(笑)。

かしゆか この曲の演出は、映像や照明が体の動きと噛み合ってたから、曲の尺が変わるだけでテクニカルチーム全体に影響があるんです。例えば「MY COLOR」みたいな、私たち次第でいくらでも長くやれる曲とは話が違う。だから各所のいろんな人に動いてもらったんですけど、ドラマチックな展開だしやっぱりオリジナルミックスのほうをやってよかったなと思ってます。

──床に映る罫線が動くと、それに合わせてメンバーの周りのポリゴンも動くという、あの“疑似ベルトコンベア”みたいな演出が面白かったです。

ワンマンライブ「Perfume LIVE 2021 [polygon wave]」より、「ポリゴンウェイヴ(Original Mix)」のパフォーマンスの様子。(撮影:上山陽介)

かしゆか めっちゃすごいですよね! ポリゴンは中に人が入ってて人力で動かしてるって、最初はみんな気付いてなかったみたいですね。途中で中身が透けて見えて「えっ? 人?」ってなったと聞きました(笑)。

のっち あのポリゴン、1つひとつが大きくて重いし、全員の歩幅がブレずにそろってるから、筋骨隆々な男の人でないと動かすのキツいと思うんですよ。まさか華奢な女の子たちが中にいるなんて思わなかったんじゃないかな。

かしゆか チームPerfume全体の力が、あのときギュッと凝縮されていたと思います。

──「ポリゴンウェイヴ」は公演のタイトルにもなっていますし、この曲がライブ全体を貫くコンセプトになっていましたよね。

のっち でも別に「ライブで重要な曲になるものをレコーディングしましょう」といってできあがったものではないんですよ。去年の12月に中田さんとお話しする機会をいただいたときに「なんのためにということを考えずに、気軽に曲を録ってみようよ。それがよければ何かに使えばいいし」って提案してもらって、実際に曲ができたらスタジオに行ってレコーディング、というのを繰り返してたんですけど、その中で最初にできた曲が「ポリゴンウェイヴ」なんです。きっと今の中田さんにとっては、そういう切羽詰まってないラフな感じがやりやすいんだろうなと思いました。今回録った曲はどれも、今までと違った新しい雰囲気なんですよ。その中でも最初にみんなに聴いてもらうのにふさわしいと中田さんが感じたのが「ポリゴンウェイヴ」だったらしく、そこからいろんな話が進んでいったんです。

かしゆか EPに収録される「∞ループ」「アンドロイド&」も、そのときにレコーディングした曲ですね。録ってるときはまだEPの話はなかったけど、「ポリゴンウェイヴ」が「ザ・マスクド・シンガー」のテーマソングに決まったからシングルを出そうかって話になって、「じゃあどれを入れますか?」って中田さんに聞いたら「『ポリゴンウェイヴ』をいっぱい入れたい!」って言われて。「新しいな」って思いました(笑)。

──中田さん的にも、この曲はかなり気に入ってるんですね。

のっち 中田さんの中で見せたい世界観がハッキリしてたんだと思います。私たちもすごくいい曲だなと思ったから「だったら先にこれ1曲だけ配信したいよね」という気持ちになって、そしたら中田さんからも「EPにするなら別のバージョンも作るし」って話があって、それを聞いて私たちは「別バージョンを作るんならライブでやるし」みたいな。お互いの「だったらこうしたい」の応酬で、どんどん話が膨らんでいって。

かしゆか 同じ曲のミックス違いをいっぱい入れたことが今までないから「どの『ポリゴンウェイヴ』を1曲目にしますか?」みたいな話をしてね。中田さんがこんなに曲順とかに対して意見を言うのは珍しいなって思いました。いつもすんなり決まるのに、けっこう何度も話し合いをしました。

「プロデューサー」と「歌う人たち」よりも、もっと距離の近い関係

──今回のレコーディングはどんな感じでしたか?

あ~ちゃん 中田さんのモードが違いましたね。もともと曲を作るのは速いんですけど、何があったん?っていうぐらいめっちゃ速いんですよ。きっとイメージがはっきり見えてたんでしょうね。

かしゆか 今まではリリースとかタイアップとかが決まってからレコーディングしてたのが、今回は「自由に作って、使う使わないは考えずにどんどんレコーディングしていきましょう」というスタイルだったから、いつもよりペースが速かったのかなって感じました。レコーディングしているときも「この曲は使わないかも」みたいなことを言われたりしたんですけど、もう歌入れしちゃってるからその曲が大好きになってるんですよ(笑)。だから「なくなんないでほしいなー」って思いながら歌ってました。実際、EPに入っていない曲も録りましたし。

──前回のインタビューで「デモまで作ってボツにした曲はこれまで2曲くらいしかない」と話していましたし(参照:Perfume「Perfume The Best “P Cubed"」インタビュー。該当箇所は2ページ目中盤)、それは大きな違いですね。

かしゆか

かしゆか 今回は“プロデューサー”と“歌う人たち”という今までの関係より、もっと近い距離で一緒に作品を作ってる感じがしてうれしかったです。「あ、こういうやり方のほうが中田さんもやりやすかったんだ」って思いました。今頃になって気付くんかい、って感じですけど(笑)。

のっち レコーディングの前後に中田さんとめちゃくちゃしゃべったよね? 昔の音楽の話とか、取材を受けるときの自分のスタンスとか、Perfumeは将来こうなったらいいよね、こうしていきたいね、みたいな話とか。

あ~ちゃん 何時間もしゃべったね。

──今まで皆さんから聞いていた中田さんとの関係性と全然違いますね。

のっち うん。そういう話をするのは、前まではたまにある話し合いの場だけでした。中田さんは考えてることを本当にちょこちょこっとしか出さなかったんだけど、それが今回はあふれるように……。

──レコーディングしたけど今回収録されなかったのが、どんな曲なのか気になります。

かしゆか こないだのライブの最後にやったのも、EPには収録されないけどこのときに録った曲です。あの曲が、あれで完成なのかすら私たちは知らないんですよ(笑)。でも私はレコーディングしたときからあの曲が好きすぎて、「ライブのセットリストに入れてほしいなー」って話をMIKIKOさんにしました。

──その状態の曲をライブでやるって珍しいですね。ロックバンドとかだと、まだ作りかけの曲をちょっとお披露目する、みたいなことはたまにありますが。

かしゆか 確かにね(笑)。

のっち でも私たちは、Perfumeとして今ファンに伝えたいメッセージが表現されたあの曲を、このライブで歌いたかったんです。リリースされるのはまだまだ先かもしれないし、もしかしたらリリースされないかもしれないけど、「このライブは映像としてずっと残っていく」という意識があったので。