Perfume|3枚組ベストアルバムに刻まれた、挑戦者たちの15年間

Perfumeのベストアルバム「Perfume The Best "P Cubed"」が9月18日に発売される。この作品には2005年のメジャーデビュー以降に発表された楽曲の中からセレクトした50曲と、クラシエホームプロダクツ「肌美精」シートマスクシリーズのCMソングである「ナナナナナイロ」、そして新曲「Challenger」の計52曲を収録。過去曲はすべてサウンドプロデューサーの中田ヤスタカがデジタルリマスタリングを施し、発表された時系列で3枚のCDに並べられている。これだけのボリュームでありながら通常盤は税抜3500円に価格が抑えられており、活動歴の長いPerfumeをこれから聴いてみようという人への入門編にも、もってこいのアイテムだ。

音楽ナタリーでは今回メンバー3人に、ベストアルバムに関する話題のほか、早春からアジアと北米を回ったワールドツアー、およびその期間中に初出演を果たした世界最大級の音楽フェス「Coachella Valley Music and Arts Festival」についてもインタビューを実施。いよいよメジャーデビュー15周年に突入する彼女たちの今に迫った。

取材・文 / 橋本尚平

「僕たちしか乗れませんでした」事件発生

──少し前の話になりますが、今年のワールドツアーはこれまでのものと比べてどうでしたか?

のっち 4回目にして一番手応えがありました。今までいろんな国でライブをやってきて、曲のよさは世界中どこに行ってもわかってもらえているのを感じていたんですけど、ずっと「言いたいことをうまく伝えられなかった」という引っかかりがあったんですよ。自分の気持ちを言葉にできないのがすごくつらくて。でも今回、あ~ちゃんの英語の先生が付いて来てくれたので、舞台に上がる前に言いたいことを訳してもらって練習したんです。準備した言葉に本当の自分の気持ちが入っていたので、今までで一番自信を持ってみんなの前でしゃべれたし、「伝わってるな」と思いながらパフォーマンスできました。

あ~ちゃん 海外でスタジオを借りてリハーサルしたのは、このツアーが初めてでした。

──ああ、今までは開催地に着いたら即ライブというスケジュールだったんですね。

あ~ちゃん そうです。日本のスタジオって防音になってて外に音が聞こえないところが多いですけど、アメリカのスタジオってあんまり音漏れを気にしてなくて、けっこうおっぴろげみたいな感じなんですよ。歴史ある建物の中のバレエ教室みたいなところでリハーサルをしました。めちゃくちゃでっかいタピオカミルクティーを買って来てもらって。

──向こうでもタピオカが流行っているんですか?

のっち 流行ってたっぽいね。

あ~ちゃん カップがデカすぎて飲みきれないんですけど、飲みきれないほどデカいものを手に持ちたいんですよ(笑)。あれは本当にぜいたくな時間でした。

──リハも現地でできたし、今回は万全なコンディションでツアーをやれたんですね。

かしゆか でも移動がけっこう大変で。国内間の移動とはいえ、飛行機から降りたらバスに何時間も乗るみたいなことが多かったし、「機械の故障で飛行機が飛びません」みたいなこともあったし(笑)。

あ~ちゃん スタッフさんが飛行機に乗れなかったこともあったよね。私たちはちょっといい席にしていただけたのと、SPの人が付いていてくれたから、謎のスペシャル通路みたいなのを使えたので混んでても乗れたんですが、スタッフさんは「なんでこんな大荷物なんだ?」ってしょっちゅう止められてて。

かしゆか とりあえず一旦怪しまれる(笑)。

あ~ちゃん 「いや実は今ツアーをやってて。ビザもちゃんと取ってるんですけど」って説明するんですけど、「じゃ、ちょっとこっちに来て」みたいに後回しにされたりして。かなり早い時間に空港に着いてたのに乗れなかったんですよね。

──あ、結果的に乗れてないんですか。

あ~ちゃん 私たちは先に飛行機に搭乗してるので、あとからスタッフさんが乗り込むのを1人ずつ見てたんですよ。そしたら「あれ? あの人が来てないし、あの人もあの人も来ないぞ……?」ってなって。最後に大汗かきながら入ってきたマネージャーが「これで最後です。僕たちしか乗れませんでした」って言ったら、飛行機の扉がバシャンって閉まって。

かしゆか その日が本番じゃなくて本当によかったよね(笑)。

あ~ちゃん あれはビックリしたなー。やっぱり余裕のあるスケジュールを組むのは素晴らしいことですね(笑)。

あのときだけはスタッフさんたちに相談しなかった

──そしてこのツアーの期間中に「Coachella Valley Music and Arts Festival」への初出演も果たしています。コーチェラへの出演が決まったとき、どんな気持ちでしたか?

のっち 私は海外のフェスをまったく知らなかったので、周りの人たちが驚いたり喜んだりしてるのを見て、どれだけすごいことなのかを感じてました。でも、私たちをコーチェラに出演させようと海外のエージェントの方が何年もがんばってくれていたのを知っているので、やっぱりうれしかったですね。

かしゆか 私の周りの音楽好きな人たちが昔から、コーチェラに行ったとか、行けないからストリーミング配信を観てたとか話してるのを聞いてたので、世界中の人が期待している特別なフェスなんだということは知ってました。アメリカでライブ活動をがんばっていくならいつかは出たいと思っていたので、出演が決まったときはすごくうれしかったです。日本から年に1組選ばれるかどうかという中で、Perfumeが選ばれたというのはすごいことだなと感じてました。

──現地のメディアからの注目度も高かったようですね。

あ~ちゃん 1週目が終わったあとに「Rolling Stone」誌の「Coachella 2019: The 16 Best Things We Saw(参照:Coachella 2019: 16 Best Performances – Rolling Stone)」という記事で紹介してもらったんですよ。150組を超えるアーティストが出てて、その中にはアリアナ・グランデとかカニエ・ウェストとか名だたる人たちがいたのに、私たちが16組の中に選ばれるなんて信じられないニュースで。

──本当にすごいことだと思います。

あ~ちゃん

あ~ちゃん それもあってか、1週目と比べて2週目のほうがお客さんの数がめちゃくちゃ多かったんです。私たちも1週目で学習した「次はこうしよう」ということを2週目に生かすことができたので、本当に悔いのないステージにできました。

──ちなみに1週目の反省点って、具体的になんだったんですか?

あ~ちゃん 聞くねえ(笑)。

かしゆか アメリカでのフェスを経験している人にいろいろアドバイスをしてもらってライブに臨んだんですけど、そのときに「MCなくぶっ続けでやったほうがいいよ」って言われて、1週目はほぼMCなしでやったんですよ。そしたら、最後に少ししゃべってから「FLASH」をやったら爆盛り上がりで。「え!? やっぱりしゃべったほうが伝わるの?」と思って、2週目は早い段階でMCを入れたんです。

あ~ちゃん スタッフさんたちはたぶん、最後の最後までMCをしないほうがいいって考えてたと思うんですよ。MIKIKO先生もきっとそう。けど、「実際にステージに立ってる私たちが感じたことだもん、絶対これが正解だよ」と思っちゃったんだよね。

のっち うん、そう(笑)。そのときの私たちはそう感じてたわけで。

あ~ちゃん 普段だったら「どう思います?」ってみんなに相談するんですよ。でもあのときだけは「あ、MC入れます」みたいな感じでした。

──自分たちの感覚を信じたのは結果的に正解だったんでしょうね。コーチェラでのライブで爪痕を残せた実感はありますか?

かしゆか ライブで爪痕が残ったのかどうかは自分では全然わからないですけど、私たちの知らないアーティストから「Perfumeじゃん」「一緒に写真撮ってよ」と声をかけてもらうことがあったので、知ってもらえてるんだという実感はありました。それが誰かわからないまま「OK」って答えて、撮ったあとで誰だったのか知るっていう(笑)。「なんかアメリカで超有名なインフルエンサーらしいよ」みたいな。

あ~ちゃん 「へー! すごい格好してると思ったら」って(笑)。

かしゆか コーチェラからの帰り際に「写真撮って」って言ってくれた男の人が、あとでその写真をInstagramに上げてたのを見つけたんですけど、OokayさんっていうDJアーティストだったんです。Ookayさんはその後に日本に来たときに、DJセットにPerfumeの曲を入れてくれてて。「そこまで好きでいてくれてるの!?」って衝撃でした。

あ~ちゃん なんかマッシュアップみたいなことしてくれてたよね。「え、どうしよう、カッコいい……」って思った。

かしゆか それずっと言ってるよね(笑)。写真を撮ったときから「今の人誰!? すごいカッコいい!」って。

のっち カッコよかったよねー。

かしゆか 私あんまり顔を見れなかったから、あとで聞いて「え、うそ、誰? どんな顔?」ってなってた(笑)。

あ~ちゃん 普段は私、そういうことあんま言わないんだけど、DJさんとかを好きになったことないし、海外の人の顔はあんまり見分けがつかなくて一緒に見えちゃうんですけど、でもあの人はカッコよかった。しかも「僕が今まで観たショーの中で一番だったよ! 感動した! 泣いたぜ!」みたいなことを言ってくれて、「こういうちょっとチャラそうに見える人が泣いてくれるんだ……」ってうれしかったですね。「英語しゃべれたらな」と心から思いました。