アレンジでめちゃくちゃにしてほしい
──どの曲にもすごくいい歌が響いていますけど、気負った感じがないような気もしたんですよね。すごくナチュラルに、曲が求める声を乗せているというか。
「Lighter」はボーカルディレクションが入ったんですけど、ほかの曲は自分で歌録りやテイクのチョイスをしたところもあって。時期的に大人数でスタジオに入ることができなかったから、ある意味、宅録をしているような気持ちでレコーディングできたんです。だから、より素の自分っぽさが出た歌になったのかもしれない。そもそも、この4曲に関しては自分が最初に作ったデモから大きくは変わっていないんですよ。
──それは歌の表情に関してですか?
歌もそうだし、トラックもほぼほぼ変わってないですね。もちろんトオミさんやYaffleさんの味付けはありつつも、根本的なところでは尾崎裕哉らしさというか、自分なりのニュアンスがしっかり解放されているのかもしれないです。
──アレンジ面では何かオーダーをしたんですか?
僕はね、本当はアレンジでめちゃくちゃにしてほしいタイプなんですよ。デモの原型をとどめていなくても全然いいというか。だから本当にお任せしました。そうしたらトオミさんもYaffleさんも、僕が作ったデモを大きく変えることなく、きれいに整えたような仕上がりにしてくださって。そこで僕としてはちょっと半信半疑になるわけですよ。2人のことは信頼してるし、2人のカラーがちゃんと出てるからデモよりは100万倍よくなってはいるけど、ここまで僕が作ったデモを生かして大丈夫なのかなという。僕は案外、自分から出てくるものに対して自信がないタイプだし(笑)、昔から知っている2人の膨大な音楽知識に甘えたいところもあるので。「もしかしたら忖度があったのかな」みたいなことを考えてみたりもして(笑)。
──いやいや(笑)。長年の付き合いを考えれば、そこで忖度する必要はまったくないわけですからね。やっぱり尾崎さんから生まれたアレンジの方向性がベストだったということでしょう。
まあ忖度は冗談ですけどね(笑)。自分としては若干の不安はあるけど、おっしゃっていただいたように、あの2人がそのままにしてくれたんだったらそれが正解だとは思います。実際、いい仕上がりになったと思いますしね。
尾崎豊を肯定する気持ちと否定したい気持ち
──今作で唯一の書き下ろし曲「ロケット」は、穏やかなムードのミディアムナンバーです。
この曲のメロディはかわいさのあるポップなものなんですけど、もともとは少し哲学的な歌詞が乗っていたんですよ。で、その段階でゼネラルプロデューサーの須藤(晃)さんに見てもらったところ、「パフェを食べてるときに哲学の話をされても頭に入ってこない」って言われて(笑)。確かにそうだなと思えたので、歌詞を書き直したんです。冒頭に「久しぶりに出会えた君とのランチ」というフレーズがありますけど、今までの僕だったら「ランチ」という言葉は絶対に使いたくなかったんですよ。なんか軽い気がしちゃうから。でも、この曲ではそれをあえて使ってみたことで、自分の中にちょっとしたブレイクスルーがあって、今まで使わなかった言葉がどんどん出てきた。そういう意味で自分の表現の幅がすごく広がった曲になりましたね。
──ゆったりした尾崎さんの歌声とともに、コーラスも重要な要素になっていますね。
そうですね。この曲にはプロのコーラスではなく、ちょっと素人っぽい雰囲気が合うと思ったので、プライベートの友達や飲み仲間、学校の先輩たちを呼んでコーラスを入れてもらいました。とはいえ、みんなアカペラ界隈の人たちなので、しっかり歌ってくれたのはありがたかったですね。楽しいレコーディングになりました。
──2曲目の「Anthem」は、サビの荒々しいボーカルに胸を打たれました。めちゃくちゃカッコいいです。
ありがとうございます。もっときれいに歌おうと思えばできたんですけど、この曲ではあえて勢いに任せてみました。尾崎豊の「Forget-me-not」って、けっこう音程がめちゃくちゃだったりするんだけど、そんなことってわりとどうでもいいじゃないですか。それと同じ感覚をこの曲では大事にした感じですね。メロディに対してけっこう走ってますけど(笑)、自分としても違和感なく聴けたのでいいかなと。
──今、名前が出たのであえて言いますけど、この曲のボーカルからは尾崎豊さんの面影を強く感じたんですよね。そういう部分を今までは抑え込んでいたような気もするのですが、実際のところはどうですか?
そうかもしれないですね。うん、それはあるかも。父親のことを肯定する気持ちと否定したい気持ちの両方がずっと自分の中にはありますけど、どっちも受け入れて出していけばいいんじゃないかなと思って。この曲は傷ついた人たちのための歌だったりもするので、そんな曲を熱量を持って歌うことはある種の尾崎豊イズムでもあるわけだし、そういう歌い方をしたほうが伝わる曲になるはずだという確信があったんだと思います。ファンの間でもこの曲はけっこう人気が高いので、こうやって音源化できたことは自分としてもすごくうれしいですね。この曲がみんなの“Anthem”になったらいいな。
エモの塊
──続く「Lighter」は、今の尾崎さんのモードが色濃く出た曲ですね。
そうですね。わりともろにゴスペルの雰囲気が出てます(笑)。この曲、1コーラス分のバースとサビは15分くらいでできたんですよ。鼻歌の段階で、「Lighter」と歌うコーラス隊のイメージもできあがってました。歌詞に関しては当初、「Higher」って書いていたんですけど、ちょっと違うなと思ったので同じ韻を持つ「Lighter」にした経緯があります。「あなたは誰かにとって灯をともす“Lighter”のような人になれるんだよ」という思いを込めた、明るくてハッピーな曲になりました。
──先ほどのお話にもあったように、この曲の歌声は本当に素晴らしいですよね。
ライブで歌ってきていた分、2、3テイクで納得いく歌が録れました。音源バージョンではハモりが増えたこともあって、「オレ、こんな高い声出るんだ!」という驚きもあったりして(笑)。コーラス隊のレコーディングも楽しかったですよ。スタジオの使用時間をオーバーするくらい声を重ねまくって。コーラスだけで120トラック以上ありますから。エンジニアの方には「本当におつかれさまでした!」と言いたい(笑)。
──そして4曲目にはバラードナンバー「With You」が収められています。
デビュー前に作っていた音源はちょっとThe Beatlesっぽいアレンジだったんですけど、今回はわりとライブっぽい仕上がりになりましたね。どっちもトオミさんによるアレンジですけど、同じ人が作ったとは思えない振り幅になったのが面白かったです。
──ピアノを軸にしたシンプルなサウンドメイクによって、この曲もまた尾崎さんの歌が際立つ仕上がりですね。
歌が前にボーンと出ていて、楽器はそれを支える役割といったアレンジですよね。意識的にここまでサウンドをシンプルにすることは今まであまりなかったような気がします。昔の僕が好きだった人のことを歌った曲でもあるし、デビュー前から歌い継いできた曲なので、思い入れはかなり強いです。もうエモの塊っすね(笑)。
──今回の4曲はサウンド的にもメッセージ的にも、さまざまなことで疲弊した聴き手の心に優しく寄り添ってくれるものだと思います。そんな曲たちが詰まった作品のジャケがまったく対局とも言える攻めたデザインになっているのも面白いですよね。
あははは。このジャケットだったら普通、パンクロックな内容ですよね(笑)。でも実際はそうじゃないっていう、その違和感みたいなものが僕はすごく気に入ってます。「人間の顔の裏側には無限の感情があるんだよ」という今作のテーマをうまく表現していただけたと思います。ジャケットから入った人は、楽曲を聴くことでいい意味での裏切りを感じてもらえるんじゃないかな。
公演情報
- ONE MAN STAND 2021
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- 2021年9月25日(土)京都府 磔磔
- 2021年9月26日(日)兵庫県 クラブ月世界
- 2021年10月2日(土)奈良県 EVANS CASTLE HALL
- 2021年10月3日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2021年10月9日(土)宮城県 Rensa
- 2021年10月10日(日)茨城県 mito LIGHT HOUSE
- 2021年10月15日(金)北海道 ふきのとうホール
- 2021年10月23日(土)福岡県 Gate's7
- 2021年10月24日(日)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2021年10月30日(土)石川県 金沢GOLD CREEK
- 2021年10月31日(日)新潟県 ジョイアミーア
- 2021年11月3日(水・祝)愛知県 SPADE BOX
- 2021年11月6日(土)静岡県 LIVE ROXY Shizuoka
- 2021年11月13日(土)埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1
- 2021年11月14日(日)千葉県 KASHIWA PALOOZA
- 2021年11月20日(土)東京都 大手町三井ホール
- 尾崎裕哉(オザキヒロヤ)
- 1989年東京都生まれ。2歳のときに父でありシンガーソングライターの尾崎豊と死別。その後母とともにアメリカに移住し、15歳までボストンで過ごす。帰国後にバンド活動を開始し、大学生活と並行しながらライブや楽曲制作などを続ける。2010年から2013年に「CONCERNED GENERATION」、2013年から2015年に「Between the Lines」と、InterFMのレギュラー番組でナビゲーターを担当。大学卒業後、2016年7月にTBSテレビ系「音楽の日」で初のテレビ生出演を果たし、大きな注目を浴びる。同年9月には東京・よみうり大手町ホールで初のホールコンサートを開催し、初の配信シングル「始まりの街」をリリース。2017年3月に初のCD作品「LET FREEDOM RING」、10月に2作目のCD「SEIZE THE DAY」を発表した。2018年には4月に「ハリアッ!! feat. SKY-HI&KERENMI (Smooth Drive Ver.)」、11月に「この空をすべて君に」と2曲を配信。2020年10月に初のフルアルバム「Golden Hour」をリリースし、翌2021年10月に4曲入り音源「BEHIND EVERY SMILE」を発表した。