尾崎裕哉が10月21日に初のフルアルバム「Golden Hour」をリリースした。
メジャーデビューから約4年。レーベル移籍後、初のアイテムとなる本作には、トオミヨウやSUNNY BOYといったクリエイターとの共同作業で生まれた楽曲を中心に、シンガーソングライター・大比良瑞希がボーカルで参加した「つかめるまで」「音楽が終わる頃」、敬愛するKREVAが提供した「想像の向こう」、布袋寅泰がギターで参加した「Rock'n Roll Star」など多彩な楽曲が、ボーナストラックを含めて合計12曲収録されている。尾崎の生まれ持った比類なき才能を余すことなく詰め込んだ本作は、果たしてどのように作り上げられたのか? 弾き語りによる全国ツアー真っ最中の尾崎本人に、じっくりと話を聞いた。
取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 小原泰広
今回の作品でようやく吐き出せた
──メジャーデビューから4年。今年はレーベルを移籍し、新天地での活動がスタートしましたね。
はい。この4年間は本当にあっという間でしたけど、デビュー当初と比べると気持ち的にも、音楽への向き合い方にもそれなりに変化はあって。そのうえで31歳になった今、またフレッシュな気持ちで新たにスタートを切れることがすごくうれしいですね。
──具体的にはご自身の中にどんな変化が生まれたんですか?
デビュー以降はけっこう精力的にライブをやってきたんですよ。去年も全国ツアーを2回やりましたし、本当にライブばっかりやってきた。当初はライブをやっていても、誰が自分のファンなのかがいまいちわからないところがあったんです。尾崎豊の名前があったうえでデビューしていることは自覚していたので、お客さんに対して「本当に俺のこと見てくれているのかな?」という気持ちもあって。でも、活動を続けていくとお客さん自体も精査されていくというか。俺のことだけを見てくれている人だけが残っていくんです。そこに気付けたことがまずこの4年間の大きな収穫だし、それによってようやくスタート地点に立てたような気がしたんですよね。
──尾崎さんを見てくれる対象が明確になれば、ご自身が鳴らすべき音楽にも迷いがなくなりそうですよね。
うん、それは間違いなくあります。俺のことを理解してくれる人たちがいる、俺の思いを共有しようとしてくれる人たちがいるとわかったことで、もっと自分と向き合っていいんだという気持ちにもなったんですよね。それによって、今回の作品は特にそうですけど、今まで見せられなかった部分をようやく吐き出せたところがあって。
──今回のアルバムは“回想”がテーマになっているそうですね。
はい。今回はけっこう古い曲がいっぱい入っているんですよ。10年くらい前の曲もあれば、デビュー前に作った曲もある。俺にとっての歌はノスタルジーを形にすることだと思っているんですけど、今回は青春時代のことや、これまでに自分が見てきた景色を歌った曲が多いので、それをまとめていくと“回想”ということになるのかなって。さらに青春を振り返ると、それは自分にとっての“ゴールデンアワー”だったなという感覚にもなったので、そのまんまタイトルにしました。結果的にちょっとパーソナルなアルバムになりすぎたかもなって反省はあるんですけどね。自分の思い出の中だけで完結してないかなという心配があったりするので。
──その心配は杞憂だと思いますよ。過去に抱いていたさまざまな葛藤や迷いも描かれていますが、それらを今の尾崎さんとして、ちゃんと昇華して表現している。パーソナルな内容ではあるけど、単なる懐古にはなっていないと思います。
ホントですか? それならばよかった。確かに昔の曲でも今の自分としてシンパシーをちゃんと感じられる部分はあるし、それを経たから今の自分がいるんだよな、という気持ちにはなりました。それにサウンド的な部分はわりと今の自分……曲を書いた当時の自分よりも成長した自分として表現できたと思うんですよ。曲の中にあるコアな思いを、今の自分としてどう描いていくかっていう。昔だったら出てこなかったであろうアイデアや表現力も活動の中で手に入れたと思うので、そういう部分ではいい作品になったと思いますね。
──制作はいつ頃から行われたんですか?
けっこう前に録っていた曲もいくつかあるんですけど、本腰を入れて制作し始めたのはちょうど緊急事態宣言が出たタイミングでしたね。アレンジャーとのやり取りも基本的にはメールで。歌に関してもだいたいは自分の家で録りました。だから曲によってはエアコンの音が入っちゃったりして、それをがんばって消す作業をしたりとか(笑)。スタジオにかかるお金のこととかを考えず、自分の思うがままに作業できたのはすごくよかったと思います。気楽な部分もあったし、逆にいくらでも突き詰めることができるから大変な部分もあったんですけどね。今回は図らずも今っぽいDTM感が出た制作だったので、それがパーソナルな内容のアルバムにもマッチしたところもあった気がします。
──ボーナストラックを含めた全12曲中、6曲をトオミヨウさんが、3曲をSUNNY BOYさんがアレンジされていますね。
トオミさんとはもうけっこう長い付き合いなんですけど、ここまでがっつり仕事するのは初めてで。でもすごく信頼している部分があるので、かなりお任せできるところも多かったです。SUNNYは自分で歌っていたこともあるので、ボーカルディレクションがすごくうまいんですよ。そういう部分ですごく勉強させてもらうことができましたね。
「自分らしく生きるしかないんだ」
──では1曲ずつお話を伺っていこうと思います。オープニングを飾る「Golden Hour」はポエトリーリーディングを盛り込んだ、アルバムのイントロダクション的な楽曲ですね。
The 1975なんかがアルバムの最初にこういう曲を必ず入れてるじゃないですか。なので僕もこのアルバムのサウンド感を象徴するイントロが欲しくて、トオミさんに作ってもらいました。で、作ってもらったものに対して、ちょっとだけイジりたいなと思ったので、朗読っぽく言葉を乗っけさせてもらいました。昔、トオミさんとやっていたユニット・Crouching Boysでもポエトリーリーディングっぽい曲を作ったことがあったので、そこへの回想という意味も込めて。
──2曲目は「Awaken」。“目覚め”というタイトルが、実質的なアルバムの始まりにふさわしいですね。
アルバム全体の流れとして、日が昇り、それがだんだん沈んで夜になっていく感じをイメージしていたんですよね。そういう意味で「Awaken」はここしかないなっていう。
──ラップっぽいフロウのあるボーカルが印象的ですね。
ちょっとレックス・オレンジ・カウンティっぽくしたかったんですよ。フロウのある歌を作っているシンガーソングライターをけっこう聴いていたので、自分でもそういうことができないかなって。なるべくスムーズに歌えるように韻の位置はかなり考えました。もちろん俺はラッパーではないのでどうしても甘い部分はあると思うんですけど、そのエッセンスを自分なりに生かし、取り入れてみようっていう意志で楽曲にぶつけてみました。「それダセエ」って言われても、「いや別にそれが俺の本性だし」って言いきっちゃえばいいかなって(笑)。そういう気持ちはより強くなっている気がします。
──3曲目「Road」は、尾崎さんが初めて完成させたオリジナルソングだそうですね。ここでは「自分らしく生きるしかないんだ」と歌われています。
もともと、カッコつけて生きることがあんまり好きじゃないんですよ。でも、この曲を作った当時はまだ自分をどう見せるべきなのかで迷っていたというか。その中で、夢に向かって輝くためには「自分らしく生きるしかないんだよな」って言い聞かせていたんでしょうね。この曲はトオミさんが非常によくできたJ-POPにしてくださいました。ちなみにギターは関口シンゴ(Ovall)。彼らしいロックな雰囲気をしっかり出してもらえたのがうれしかったです。
──4曲目「つかめるまで」と9曲目「音楽が終わる頃」には、フィーチャリングボーカリストとして大比良瑞希さんが参加されていますね。
この2曲に関しては、ゼネラルプロデューサーの須藤(晃)さんから「女性コーラスがいたほうがいいんじゃないか」というアイデアをいただいて。最初はあまりイメージが湧かなかったんですけど、試しにやってみようと思って女性ボーカルを探していたところ、たまたま行ったライブハウスに彼女も来ていたんです。以前から知り合いだったので「ひさしぶり」みたいな話をしている中で、「あ、彼女がいいかも」って思ったんです。それで、音源を須藤さんに聴いてもらったら気に入ってくれたので、そのまま参加してもらうことになりました。この2曲はすごく前からあって、もともとは全部自分1人で歌っていたんですけど、女性ボーカルが入ったことで、また世界観がグッと広がったと思いますね。
──「つかめるまで」はAメロの低いトーンのボーカルにインパクトがありました。
意図としては、暗い感情を吐き出してるところは低い声、希望を見出すところは高い声っていうわかりやすいシンプルな構図にしようと思ったんです(笑)。実はこの曲、クレさん(KREVA)の「かも」っていう曲に影響を受けて書いたんですよ。だからちょっとクレさんっぽい雰囲気があるかもしれない。
──「音楽が終わる頃」はソウルなラブソングですね。トオミさんのアレンジが最高です。
ラブソングでもありつつ、“大人になること”を歌ってもいて。なので、この大人なアレンジがバッチリでした。トオミさんが作るホーン系のサウンドってあんまり聴いたことがなかったんだけど、やっぱりうまいなあって思った。これは自分の中でもけっこう好きな曲ですね。
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