尾崎裕哉|模索し続けたシンガーとしての理想が形に 歌にフォーカスした新作「BEHIND EVERY SMILE」完成

尾崎裕哉の新作「BEHIND EVERY SMILE」が9月22日にリリースされた。

1stアルバム「Golden Hour」から約1年ぶりのリリースとなる本作には、人とのつながりを通して浮かび上がるさまざまな愛の形を描いた全4曲を収録。今回のタイミングで書き下ろされた新曲「ロケット」や、ライブでおなじみの人気曲「Anthem」「With You」はトオミヨウが、尾崎の最近のモードであるゴスペルを盛り込んだ「Lighter」はYaffleがサウンドプロデューサーとしてアレンジを手がけている。

音楽ナタリーは、メジャーデビューから5年を経てシンガーとして1つの到達点を迎えたことを強く実感させる本作について尾崎にインタビュー。後半では、“肯定する気持ちと否定したい気持ちの両方がある”という、父・尾崎豊に対する思いも語られた。

取材・文 / もりひでゆき

やっぱり愛なしには生きられない

──1stアルバム「Golden Hour」のリリースから約1年。このたび、新作「BEHIND EVERY SMILE」が届きました。

もう1年経ったことにまず驚きますね(笑)。その間は世の中的になかなか動きづらい状況ではあったけど、自分なりに充実した日々は過ごせていたように思います。制作に関して言うと、移籍して初めての作品として「Golden Hour」を作れたことで、今のチームにもだいぶ慣れたところはあって。サウンドプロデューサーの選定も含めて、よりやりやすい環境になりました。

──アルバム以降、ソングライティングに関して何かモードの変化はありましたか?

最近は洋楽的なメロディしか作れない時期ですね。だから日本語がなかなか乗せづらいという(笑)。そこをなんとか乗り越えるようにいろいろ練り上げて曲を作っているんですけど、そのことによって言葉がすごくシンプルになっているような気がしていて。ただ、ある種の制限のようなものを今は楽しめているところもありますね。今回の作品で言えば、「ロケット」とか「Lighter」なんかはそういうモードが反映されていると思います。

──歌詞に込めるテーマやメッセージについて、最近の傾向はありますか?

EP自体のテーマとして“笑顔”をモチーフにしているんですけど、そのうえで現代の状況を切り取ることをちょっとだけ意識しています。ここ2年くらいは人と離れ離れにならざるを得ない状況ですけど、だからこそ人との関わりの中で感じる優しさやありがたみをより大切に思うようになったりもして。そういった人との距離感みたいなものを全編通して歌っています。

──その結果、作品全体には大きな意味での“愛”が浮かび上がっている印象もあります。

そうですね。この世の中、やっぱり愛なしには生きられないと思うので。

──尾崎さんも日頃から愛を強く意識して生きているタイプですか?

日常的に愛を口にするようなタイプではないですね。どちらかというとドライなタイプなので(笑)。でも、いざ曲作りをする中でセンチメンタルな気持ちにシフトしていくと、人との関係性に向き合うことがすごく多くなるんです。僕の場合、愛というより優しさを一番大事にしているかもしれないな。生きるうえではいろんな優しさがあると思うんですよ。単純に「日常の中で挨拶をする」とかそういう優しさもあるし、一方では「他人の間違いを許す」というような大きな意味での優しさもある。そういう部分に僕は敏感に反応するんですよね。今回の作品もそうですけど、そこへの感謝や敬意のようなものを曲に込めたいなってすごく思う。ひいてはそれが愛というものにつながっていると思います。

ライトな気分で聴ける作品

──今作の制作はいつ頃からスタートしたんですか?

当初は今年の頭くらいにリリースするつもりで動き出したんですよ。ただ、僕の中でけっこう足踏みしている時間が長くて(笑)。で、気付いたら「あれ、もう今年も半分過ぎてるぞ。これはヤバイ」ということになったので、そこから本格的に動き出しました。けっこう急ピッチで作った感じですね。

──けっこう足踏みしましたね(笑)。そこには何か理由があったんですか?

どんな曲を入れようかって考えていたのが大きいんですけど、あとはなんだかんだイベントがあったりしたので、気付いたら時間が経っていて。その間にも、例えばアルバムでご一緒したSUNNY BOYさんとセッションを繰り返しながら曲作りをしたりはしていたんですけど、リリースする作品に落とし込むことを具体的に考えないまま進めていたんですよね。なので、そこから改めて集中して、リリースを意識しながら曲を作っていきました。

──今作はサウンドプロデューサー・トオミヨウさんとYaffleさんがアレンジを手がけられています。

今回は昔からの知り合いの2人にお願いしました。EPのために書き下ろしたのは1曲目の「ロケット」だけで、あとは以前からあった曲を改めてお二人の力を借りて作り直した感じです。最初はフルアルバムを作ろうかという話もあったんですけど、なんとなく僕の中ではアルバムの気分じゃなかったので、比較的ライトな気分で聴けるEPというフォーマットにしようと。「Golden Hour」を作ってみて感じましたけど、アルバムを作るのってやっぱりめちゃくちゃ大変なんですよ(笑)。だから無理にアルバムを作るのではなく、今出したいと思う曲をコンパクトにまとめたEPを、間を開けずに出すのもいいんだろうなと思っていて。まあ、結果的にはアルバムから1年経っちゃったんですけどね(笑)。

──「ロケット」以外の3曲、「Anthem」「Lighter」「With You」はすでにライブでも披露されている楽曲ですよね。

そうですね。「Anthem」は仮の歌詞の状態で3年ぐらいライブでずっと披露していたんですよ。今回、作品として残すことになったので、改めて歌詞や構成を考え直して作っていきました。「Lighter」は2020年の4月頃に書いたもので、自分としても早く音源にしたかった曲だし、「With You」に関してはデビュー前からある曲ですね。

──ファンにとっては音源化を待望していた曲とともに、最新の尾崎さんの姿を感じられる曲がパッケージされた作品になっているわけですね。

そうだと思います。ライブで歌ってきた曲はファンの方からの人気も高いので、改めて音源として楽しんでもらえたらうれしいですね。

きっちり今の自分の声を届けられた

──今作を聴かせていただいて印象に残ったのは、尾崎さんの歌心を強く感じさせる曲ばかりだなということで。アルバムではラップっぽいフロウのあるものやポエトリーリーディングなど、いろんな声の表現を使われていましたけど、今回はどの曲もストレートにメロディを歌われていますよね。

あー、そうかもしれないですね。確かに今回はより歌うことにフォーカスした作品になったなと自分でも感じます。それは単純に作品を作るうえでの自分のムードというか、気分のようなものが理由になってしまうんですけど。レックス・オレンジ・カウンティのようなフロウのある歌をよく聴いていた時期に作ったのが「Golden Hour」であったように。

──ということは、最近は純粋な歌モノをよく聴いていた?

2020年からゴスペルをよく聴くようになったんですよ。カーク・フランクリンやジャスティン・ビーバーの「Freedom.」を聴いたり、カニエ・ウェストが立ち上げたゴスペル団体・Sunday Service Choirの動画をYouTubeでたくさん観たり。そのことによって、メロディをしっかり歌うということへの意識が強まっていたんだと思います。今回のEPに収録する4曲を選んだときにも、そういう今の自分のモードがフィットすることを基準にしていたところもありましたし。

──メジャーデビューから5年を経て、自身の歌に対するこだわりがより強まっている実感もあります?

それはもちろんありますね。もっとうまく歌いたいという思いを持って、この5年間ずっと模索してきたと思うし、作品作りやライブにおいて、いろいろとチャレンジもしてきたので。僕はレコーディングがけっこう苦手というか、「ライブではうまく歌えるんだけどレコーディングでは全然ちゃんと歌えない」ということが多々あるんですよ。そのときどきのベストを出しているつもりだけど、今聴いてみると「サムデイ・スマイル」(2017年リリース「LET FREEDOM RING」収録)はめっちゃ鼻声だし(笑)、「始まりの街」(2016年リリースの1stシングル)も「Glory Days」(2017年リリースの2ndシングル)もちょっと納得してないところがあるというか。言ってしまえば「Golden Hour」もそうですし。でも、今回の作品、特に「Lighter」では初めて納得できる歌録りができた実感があったんです。デビューから5年経ったからなのか、「きっちり今の自分の声を届けられたな」と初めて思えたのが今回の作品かもしれない。そういう意味では自分にとってのベストな歌い方を、ここにきて1つ形にできたような気がしますね。