尾崎裕哉インタビュー|父・尾崎豊の名曲「I LOVE YOU」40年のときを経て、“今”歌い継ぐ理由

尾崎裕哉が4月5日に4曲入りEP「I LOVE YOU」をリリースした。本作には、父である尾崎豊が遺した「I LOVE YOU」「OH MY LITTLE GIRL」のカバーを収録。これまでもさまざまなタイミングで父親の楽曲を歌い継いできた尾崎裕哉だが、それを音源として発表するのは今回が初となる。さらに「僕がつなぐ未来」「迷わず進め」というオリジナルナンバー2曲も合わせて収められている。

尾崎豊の意志をつなぎながら自身のアイデンティティを掲げて進むシンガーソングライター・尾崎裕哉としての強い決意がにじむ、大きなマイルストーンとなる1枚。彼はどのような思いで本作を作り上げたのか。インタビューでじっくりと語ってもらった。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / 笹原清明

歌っているときにだけ尾崎豊とつながれる

──尾崎豊さんの楽曲カバーを初めて音源にしようと思ったのはどうしてだったんですか?

そこにはいろいろな思いがあるんですけど、まず尾崎豊のカバーを音源化するタイミングって、実はあるようでなかったなと。僕はデビュー前からテレビやCMで父親の曲を歌っていたので、尾崎裕哉としてのデビュー時にカバー音源を出すのが普通だったとは思うんです。でも、そうすることで二世色が強まってしまうのはどうかなっていう思いがあったので、あえてやらずにきたんですよね。で、そういう時間が長くなると今度はやるタイミングを見失ってしまうというか。

──確かにそうかもしれないですね。そんな中、今回やると決断した決め手は?

一番は今現在の自分の声でカバーしたものを音源として残したかったから。僕の中には父親と同じ方向を目指す声と、尾崎裕哉としての声が存在しているんですけど、まあ普通に考えると、いずれは尾崎裕哉の声にしかならないわけですよ。だったら父親を目指し、そこからの影響がまだ残っている今の声を残しておくべきなんじゃないかなと思ったんです。

尾崎裕哉

──尾崎豊さんの偉大なる存在はずっと裕哉さんの中に存在し続けるのは間違いないわけですけど、そのうえで尾崎裕哉としてのアイデンティティをより確固たるものにしたい思いが強まっている。だからこそ、その狭間にいる今を残したかったと。

そういうことだと思います。1人のシンガーソングライターとしては、自分自身の声や感情をこれからもしっかり探していかないといけないですからね。とはいえ、僕が父親の曲を歌うことは尾崎豊を探すことにほかならないので、それは今後も続けていく必要がある。僕にとって尾崎豊とつながれるのは唯一、歌っているときだけなので。

──昨年は尾崎豊さんが亡くなられて30年が経ったタイミングでもありました。そういった状況が後押しした部分もありましたか?

もちろんそれもあったと思います。「OZAKI30 LAST STAGE 尾崎豊展」(尾崎豊没後30年を機に開催された全国巡回型の展覧会)のイベントで歌わせてもらうこともあったり、新たに発売されたライブアルバム(22年3月リリースの「LAST TOUR AROUND YUTAKA OZAKI」)を鑑賞したりもしましたからね。言ったら、自分の中の尾崎豊を改めてじっくりと探すようなタイミングでもあったんです。その結果、「逆に今、音源化しないほうが変なんじゃないか?」と思うようになりまして(笑)。音源にしたほうが、よりたくさんの人に聴いてもらえるわけですからね。

尾崎裕哉

まるで古典のように自分の血に流れている

──今回「I LOVE YOU」と「OH MY LITTLE GIRL」が収録されます。この2曲は裕哉さんにとってどんな存在ですか?

特に「I LOVE YOU」は、自分のオリジナル曲よりもはるかに長い間、たくさん歌ってきたものなので、ほぼ自分の曲と言ってもおかしくないぐらいの付き合いをしてきたと思います。歌ってきた回数で言えば「OH MY LITTLE GIRL」のほうが少ないけど、でも気持ちとしては同じかな。簡単に言ったら、どっちも大好きな曲ってことになるんだと思います(笑)。

──「I LOVE YOU」「OH MY LITTLE GIRL」はご自身で音楽活動を始める以前から触れてきた楽曲かと思いますが、当時はどんな印象を抱いていたか覚えてますか?

僕は5歳くらいから歌手になろうと思っていたんですけど、当時は歌詞の意味もわからないまま、ただ音として認識し、記憶していました。“きしむベッド”というフレーズを聴いても5歳だからパッとイメージできない。でも、そのメロディや父親の歌声をいいなと感じている自分は間違いなくいて。そこから年齢を重ねていく中で、いろんなことに気付いていくことになるわけですが。

──歌詞の意味もだんだんわかるようになるし。

「I LOVE YOU」と「OH MY LITTLE GIRL」はラブソングなので、多感な思春期の頃には曲を聴きながら「愛するってどういうことなんだろう?」みたいなことをすごく考えていたかな。僕は男子校だったので、普段の生活の中には女子の欠片もないわけですよ。だから「ときメモ」(恋愛シミュレーションゲーム「ときめきメモリアル」)をやって、「え、これが愛なのか⁉」みたいな気持ちになったりとか(笑)。曲から受け取った感情を、必死に想像で補おうとしていましたね。その後、実際に恋愛するようになって初めて、曲で歌われている感情に寄り添うことができるようになりました。さらに自分が歌手になってからは、曲の構成のすごさも知っていくわけです。「OH MY LITTLE GIRL」はサビの最後のセリフが変化することで曲としての広がりを生んでいるんだな、とかね。そういう過程が自分の中にあるので、父親の曲は、まるで古典のように自分の血に流れるようになったのだと思います。

尾崎裕哉
尾崎裕哉

──今回、何度も歌い重ねてきた2曲を改めてレコーディングしてみていかがでしたか?

さんざん歌ってきている曲でもあるし、僕の中では「いかに尾崎豊がやってきたことを尾崎裕哉として“Reクリエイション”するか」に焦点を当てていたので、録ったテイク数は本当に少なくて、それぞれ2、3テイクしか歌わなかったと思う。ただ「I LOVE YOU」は本当に何度も歌ってきたので、知らない間に自己流のメロディになってしまっているところがあったんですよ。それをレコーディング中に、「そこのメロディ違うよ」ってアレンジャーのトオミヨウさんに指摘されることもありました。そうした自分の癖を矯正していくのがけっこう大変でしたね。

──そこはオリジナルに忠実であることを選んだわけですね。

そうですね。今回のEPには父親へのリスペクトというテーマが根底にあるので、そこは忠実にカバーしようと。忠実にカバーすることで僕と尾崎豊の違いがある意味見えやすくなる部分がありますからね。どっちがどうだとか、似てる似てないという話でもないんですけど、やっぱり尾崎豊の土俵に立って歌ったほうが、よりリスペクトを込められるかなと思いました。

僕にとっての“歌い継いでいくこと”

今回のEPは僕のオリジナルも含むすべての曲をトオミさんにアレンジしてもらってるんですけど、それぞれが全然違ったアプローチになっています。僕は基本、アレンジャーに丸投げスタイルなんですけど(笑)、ホント、彼にお願いしてよかったなと思います。僕と同じくらい尾崎豊の楽曲に深く触れている方なので。先ほどお話しした僕の歌の癖に関しても、トオミさんだからこそ気付いてもらえたんだろうなって思います。「OH MY LITTLE GIRL」のアレンジはちょっと苦戦してたみたいですけどね。

──「I LOVE YOU」と比べると、新たなエッセンスが多めに盛り込まれている印象ですよね。

そうそう。そこはちょっとお願いしたんですよ。結果、少しR&Bやソウルっぽいテイストが入って、すごくいい感じの仕上がりになったと思います。オケのレコーディングもこの曲は僕とトオミさんだけだったので、ちょっと遊び心のあるギターを弾かせてもらうこともしましたね。

──今回、裕哉さんの音源として発表された2曲は、この形がベーシックになって歌い継がれることになるんですかね?

メロディに関しては自分の癖がなかなか抜けないんですけど、できるだけ原曲通りのものに戻して歌っていこうとは思っています。ただ、ここからさらに歌い続けていくからにはまたブラッシュアップしていく必要もあると思うし、いろんな実験もしていきたいです。

尾崎裕哉

──年齢を重ねる中で自然と生まれる変化もあるでしょうしね。

きっと変わっていくんだと思いますよ。だってね、この数年を切り取っても僕の声や歌い方はかなり変わってますから。どうなっていくかはわからない。尾崎豊の曲と一生涯添い遂げたら、最後にはどんな形になっていくのかが本当に楽しみです。尾崎豊は26歳のままで止まっているので、その後の「I LOVE YOU」「OH MY LITTLE GIRL」……その他のレパートリーは僕だけが歌い継いでいけるものですからね。父親が紡いだ世界観をいろんな形で広げていくことこそが、僕にとっての“歌い継いでいくこと”なんだと思います。