DJみそしるとMCごはん（以下おみそはん）による連載企画「おしゃべりキッチン」のゲスト第2弾は、「自分が作る麻婆豆腐が一番おいしい」と豪語するOKAMOTO'Sのドラマー・オカモトレイジ。意外にも麻婆豆腐を作ったことがないというおみそはんが、レイジから作り方のコツを学ぶべくその工程を見せてもらうことになった。

取材・文 / 橋本尚平　撮影 / 笹森健一
題字とイラスト / DJみそしるとMCごはん

まずは下ごしらえ

おみそはんはキッチンにそろえられた貝柱の粉末などの珍しい調味料に興味津々。「今日は秘伝のレシピを全部覚えて帰ろうと思うんで！」と、期待に胸をふくらませている。しかしレイジは「毎回適当に作ってるからなー。おいしくなかったらどうしよう」とちょっと緊張気味。曰く、彼は決まったレシピに沿って料理を作るわけではないため、調味料の量は毎回バラバラで、味にも波があるという。果たして「一番おいしい麻婆豆腐」は無事に完成するのか……？

ちなみにレイジは料理をするときに、あえてエプロンはしないという。理由は「絶対汚したくない服を着て料理したほうがむしろ丁寧に作業するから」。

ネギを寝かせて、白い根の部分に包丁で縦に切れ目を入れ、端から素早く刻んでいくレイジ。彼はネギを刻むような単純作業をひたすら続けるのが大好きだそうで「お寿司屋さんで3年間アルバイトをしていた時期に、機械からシャリを出してトレイに敷き詰める作業を1日10時間くらいやってました」と高校時代を振り返っていた。なお、使わなかった緑の葉の部分はおみそはんが持ち帰ってネギ油にしたとのこと。

ネギと肉を炒めよう

レイジが中華鍋にネギを入れて手際よく炒め始めると、早くもあたりには食欲を誘う香ばしい香りが。その後レイジは、少しずつ鍋の中に調味料を加えながら「いいのかなー……？」と不安そうにつぶやいていた。彼は調味料をどれくらい入れればいいのかを“景色”で覚えているため、自分の家の鍋じゃないとさっぱりわからなくなってしまうんだとか。

豆チ醤を実際に料理に使ったのはこれが初めてというおみそはん。参考にしようと「麻婆豆腐のほかにどんな料理に使うんですか？」と質問したが、レイジによると「知ってる限りではまったく使わないです」だそう。

ポイント色に惑わされるな！

レイジ「景色を頼りに作るので、よく色に惑わされちゃうんですよね。『俺のイメージより赤くない気がするな』と思って赤いものを足して、めっちゃ辛くなったり（笑）」

一般的には豚肉を使うことが多いようだが、「使う肉はなんでもいい」というレイジの言葉を受けて今回は粗びきの合いびき肉を用意。肉がぱらぱらになるまで強火でしっかり炒める。「ひき肉からも油が出て、どんどんいい感じになってきましたね」と、おみそはんもうれしそうな表情。

ダシとして貝柱と小エビを入れるのは、レイジ流の麻婆豆腐を作る上で重要な工程。ちなみに家で作る際は粉末ではなく干し貝柱をスリコギで砕いたものを使っており、そのほうが粒が混ざって歯ごたえが出るのだそうだ。彼はその後、水で薄まった味を埋めるべくオイスターソースを入れ、さらに台湾のスーパーマーケットで買ったという正体不明の調味料を投入。この謎の調味料について「どんな味がするんですか？」とおみそはんが質問すると、レイジは「『こりゃ命がけだな』っていう、シビれる臭いがするんですよ……」とその風味を表現した。

調理中の鍋の中は赤黒く沸騰し、いかにも辛そう。鍋をのぞきこんだおみそはんは「地獄みたいですね……」としみじみつぶやいた。

豆腐を入れて仕上げ

レイジは手のひらの上に豆腐を乗せて、さいの目に切っていく。豆腐の種類は絹でも木綿でも構わないそうで「今日は木綿だけど普段は絹が多いかな？」とのこと。ここで初めて味見した彼は「うわっ！ さっきの台湾の調味料、少し入れただけなのにめっちゃ効いてますよ！」と険しい表情。軌道修正するべく、豆チ醤や甜麺醤を少しずつ足して味を調えていく。

ポイントおたまの裏でゆっくり押しながら混ぜると豆腐が崩れにくい

レイジ「この段階でいろいろ混ぜ始めるので、いつも豆腐がぐちゃぐちゃになっちゃうんですよ」

真剣な表情で調味料を選びながら、レイジは「こうやっていろいろな調味料を足していくのって、バンドでレコーディングしたときのミックス作業や、ドラムのチューニングなんかに近いんですよ。もうちょっと削ったほうがいいかな、ミドルが出てないんだよな、とか」と、現在の状況を音楽に例えて説明。途中で味見させてもらったおみそはんは「わっ、これは刺激的ですね！ ミックスの例えで言うとドンシャリ的？ 辛味のハイが効いてて、肉の重みがすごい。だから真ん中に何か欲しいなっていうのはわかります（笑）」と解説した。

その後も「景色を信じろ！ 五感を研ぎ澄ませろ！ 数字に惑わされるな！」と口にしながら味見を続けるレイジ。それを眺めていたおみそはんが「味見しすぎてなくなっちゃうこと、ないですか？」と質問すると、彼は「味見でおなかいっぱいになって、ごはんを食べないことはよくあります」と言って笑った。

片栗粉を使うのに苦手意識があるというおみそはん。「初めて片栗粉を使ったときに、使い方がなってなくてダマだらけになって、それからめっちゃトラウマなんです」と意外な弱点を告白した。

初めての麻婆豆腐作りに備えて本を読んで研究してきたというおみそはんは、「最後に鍋肌にちょっと焦げが付くくらい火を入れるのがおいしくなる秘訣って書いてあったんですけど、まさにその焦げ付いた線ができてる！」と中華鍋を見てびっくり。レイジは皿に盛りつけた麻婆豆腐にラー油を垂らしながら「こうすると見た目がカッコよくなるんですよ」とほくそ笑んだ。