奥華子|たどり着いた“遥か遠く”14曲に人生を映し出して

弾き語りで成立する曲が最強

──シングル曲やタイアップ曲が多数収録されていますが、アルバム用に新たに書き下ろしたのはどのあたりの曲になりますか?

「彼女」とか「365日の花束」「Mail」「アイスクリーム」「スタンプラリー」ですね。で、最後の最後にできたのが「遥か遠くに」。マスタリングの2日くらい前にできたんですよ。もう泣きながら作りました(笑)。

──それら新曲を含め、本作は非常にバラエティに富んださまざまなタイプの楽曲が並んでいますよね。奥さんの王道とも言える失恋バラードから、サウンド的な遊びを感じさせてくれる楽曲まで。

奥華子

そうですね。「セイレン」の主題歌「キミの花」や、「牧場物語 3つの里の大切な友だち」のイメージソング「ほのぼの行こう」がアルバムのフックになっているところはあるんですけど、全体的なバランスを見ながら曲を作っていったところもあって。「弾き語りの曲があったほうがいいかな」と思って、制作の終盤に「Mail」という曲を作ったりとか、「全体的にバラードが多いな」と思ったので、ちょっと明るい、ライブでみんなで盛り上がれそうな「スタンプラリー」を作ったりとか。そういう制作の仕方はいつもと同じではあるんですけどね。

──アレンジも曲ごとに多彩ではありますが、今回は1コーラス目は静かに、シンプルに展開していき、2コーラス目からドラムが入ってくるという構成を持つ曲が多いですよね。サウンドに頼ることなく、まず歌の力で聴き手の心をとらえるというアプローチは、弾き語りを大切にしている奥さんならではのものだなと思いました。

確かにそうですね。今回はアレンジも自分でやっている曲が多いんですけど、1コーラス目は弾き語りだったり、ピアノではなくギターのアルペジオだけだったり、かなり音数が少なくなっているんです。それはやっぱり、「歌詞と歌をしっかり伝えたい」っていう思いからですね。以前は「もうちょっと派手なアレンジにしなきゃ」とか、「いろんな音が入ってたほうがいいかな」とか考えることもあったんですけど、今は逆に引き算してシンプルなほうがいいと思えるようになったというか。アレンジに関しては、プロのアレンジャーさんに比べると全然スキルがないんですけど、「でもそれでいいじゃん」って最近は思えるようになったところもあるんですよね。自分なりの表現をしたほうが伝わるものもあるんじゃないかなって。今までもそういう気持ちでやってきてはいたけど、今回のアルバムではその割合が増えた感じがします。

──そういった考え方の裏には、ご自身から生まれる歌詞やメロディ、歌への自信もあるんでしょうね。サウンドが薄くても絶対に大丈夫だっていう。

私は「弾き語りで成立する曲が最強だ」とずっと思ってるんですよ。弾き語りでライブをすることも多いので、アレンジでどうにかしようとする曲はそもそもダメなんです。だからこそ産みの苦しみはあるんですけど(笑)。

──弾き語り曲「Mail」は奥さんの歌が本当に心に染みてくる感じで。これ、弾いているのはローズピアノですか?

あと「遥か遠くに」も弾き語りですけど、両方ともYAMAHAのデジタルピアノです。「Mail」は最初、ピアノの音色で弾こうかと思ったんですけど、この曲はエレクトリックピアノの音色で漂っているような音が合うんじゃないかなって。メールを送ってくれた相手に対して、「私のために指を動かしてくれたと思うだけでそれで十分です」っていう曲なんですけど、そんなこと思う人っているのかなって思いますよね(笑)。でも、そう思える瞬間が自分の中にはあって。そのくらい相手のことを思えるんだっていう、究極を歌った曲ですね。

──歌の表現のみならず、エレピのタッチにもものすごく感情が出ています。それもまた弾き語りの魅力だなあと。

奥華子

いきなりガーンって弾いたりしてますよね(笑)。やりすぎなくらい強弱が付いているのも、弾き語りで録ったからこそだと思います。これをクリックに合わせて弾いたり、別録りしていたら、ああいう弾き方には絶対ならないと思うので。弾き語りは、歌はもちろん楽器の表現もすごく大事だなって改めて思います。

自分のことをさらけ出そう、怖いものなんてないぞ

──ボーカルに関しては今回の制作で何かトライしたことってありました?

ありました! スタジオやマイクとの相性だったり、自分の中での歌い方だったり、ありとあらゆることを今まで以上に試したところはありましたね。時間がなくなってくるとミックスに頼ってしまうことも以前はあったんですけど、今回はそういうことは一切やめて、徹底的にこだわって録りました。今回は山中湖に歌録りの合宿にも行きましたし。

──合宿は今までにも経験はあるんですか?

2ndシングル(2006年リリースの「魔法の人」)ぶりです(笑)。いつもは地下のスタジオで1人で歌録りすることが多いので、合宿は新鮮で楽しかったですね。あ、そう言えば今回合宿を提案してくれたディレクターは、路上で歌ってるだけだった私を信じてポニーキャニオンに入れてくれた方なんですけど、10年くらいぶりにまた私の担当になったんですよ。そういう出来事も今回のアルバムタイトルに通ずる感じがしてちょっと嬉しかったですね。

──冒頭で「人生のこともいろいろ歌うことができた」とおっしゃっていましたが、それを象徴しているのがアルバムのラスト2曲に収録されている「スタンプラリー」「遥か遠くに」だと思います。

そうですね。この2曲は人生を表現した曲であり、自分自身を歌っている曲です。こうやってCDとしてできあがったものを見ると「聴いてくれた人それぞれの応援歌になってくれたらいいな」って思えるんですけど、作っているときにはもう自分のことしか考えてなかったというか。とにかく「自分のことをさらけ出そう、怖いものなんてないぞ」と思って(笑)。

──「スタンプラリー」の歌詞には、スマホ依存や個性の欠如といった世の中に対するちょっとシニカルな視点も垣間見えていて。

私自身がスマホに侵されてますからね(笑)。常に斜め45度にうつむいてスマホを見てるから首が痛くなってマッサージに行く、みたいな。誰かにメールするときも漢字や言い回しをすぐに検索。目的地に1分でも早く着くように乗換案内をチェック。「やってはいけない女の〇カ条」みたいな記事を見て、気持ちが左右されてみたり(笑)。そんな自分に対しての怒りをぶつけたんです。

奥華子

──でも「正解ばかり求めないでね」「思い通りになんていかない事ばかり だから人生 面白いんじゃない?」とポジティブなメッセージが込められているし、サウンドがとにかく楽しい雰囲気だからたくさんの人に響くであろう楽曲になっていますよね。

ならばよかったです(笑)。アレンジは当初、ギターとドラムと一緒にセッションしようかなと思ってたんですけど、この曲の前に「彼女」を録っていて、スタジオに友達のバイオリンの子が2人残ってたんですよ。で、「スタンプラリー」を聴いてもらったら、「弾いちゃおうかな」って冗談っぽくフレーズを弾いてくれて。それがめっちゃよかったんで、そのままのノリでアレンジしていった感じなんです。当初考えていたものよりずっといい仕上がりになったと思いますね。最後の「ラララ」のところはライブでみんなと一緒に歌えたらいいなって思ってます。

奥華子「遥か遠くに見えていた今日」
2017年5月17日発売 / ポニーキャニオン
奥華子「遥か遠くに見えていた今日」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
3500円 / PCCA-04535

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奥華子「遥か遠くに見えていた今日」通常盤

通常盤 [CD]
3000円 / PCCA-04536

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CD収録曲
  1. Rainy day
  2. 恋のはじまり
  3. 愛という宝物
  4. プロポーズ
  5. 彼女
  6. 365日の花束
  7. キミの花
  8. ほのぼの行こう
  9. 思い出になれ
  10. 最後のキス
  11. Mail
  12. アイスクリーム
  13. スタンプラリー
  14. 遥か遠くに
初回限定盤DVD収録内容
  • 「キミの花」Music Clip
  • 「最後のキス」Music Clip
  • Making of 「遥か遠くに見えていた今日」
  • 「思い出になれ」Image Clip
奥華子×TOWER RECORDS「遥か遠くに見えていた今日」発売記念リリースイベント
  • 2017年5月17日(水)千葉県 イオンモール津田沼(タワーレコード津田沼店)
  • 2017年5月18日(木)兵庫県 ミント神戸(タワーレコード神戸店)
  • 2017年5月19日(金)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店
  • 2017年5月20日(土)愛知県 タワーレコード名古屋近鉄パッセ店
  • 2017年5月20日(土)静岡県 タワーレコード静岡店
  • 2017年5月21日(日)岩手県 イオンモール盛岡(タワーレコード盛岡店)
  • 2017年5月21日(日)福島県 ATi郡山(タワーレコード郡山店)
奥華子(オクハナコ)
奥華子
“10万人が足を止めた魔法の声”と称されるシンガーソングライター。キーボード弾き語りによる駅前路上ライブを2004年に渋谷でスタートさせる。1年間に2万枚の自主制作CDを手売りするなどの驚異的な集客力が話題となり、2005年7月にシングル「やさしい花」でメジャーデビュー。2006年には劇場版アニメ「時をかける少女」の主題歌に「ガーネット」、挿入歌に「変わらないもの」が採用されスマッシュヒットとなる。2011年4月には東日本大震災を受け制作された新曲「君の笑顔」をデジタル配信。この楽曲の収益全額は被災者および被災地の復興支援、そして今後必要とされる活動のために寄付された。2012年10月には初のベストアルバム「奥華子BEST -My Letters-」をリリース。2016年夏には、デビュー10周年を記念して奥華子がこれまで発表してきた150曲を超える全楽曲を弾き語りで披露するライブツアー「奥華子 10周年ありがとう!弾き語り全曲ライブ!」を全国4都市で開催した。2017年2月にテレビアニメ「セイレン」のオープニング曲を含む両A面シングル「キミの花 / 最後のキス」を発表。5月にアルバム「遥か遠くに見えていた今日」をリリースした。