映画「殺さない彼と死なない彼女」鼎談 奥華子×間宮祥太朗×桜井日奈子|映像と音が一体となった「殺カレ死カノ」の魅力

奥華子が主題歌および劇伴を手がけた映画「殺さない彼と死なない彼女」が11月15日に公開される。「殺さない彼と死なない彼女」は、Twitterで“泣ける4コマ”と話題になった、世紀末によるマンガを原作にした実写映画作品。音楽ナタリーではこの作品の公開を記念して、映画の音楽を手がけた奥と劇中で“殺さない彼”である小坂れいを演じた間宮祥太朗、同じく劇中で“死なない彼女”である鹿野なな役の桜井日奈子の3人による鼎談を企画した。撮影時のエピソードや、奥が手がける主題歌や劇伴の撮影秘話などを交えながら、映画「殺さない彼と死なない彼女」の魅力に迫る。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 星野耕作

撮影中に思いついたセリフを言うこともあった

奥華子

奥華子 主題歌や劇伴のオファーを受けたとき、もともと原作のファンだったので、「どういう映画になるんだろう?」とすごく興味があったんです。主演が間宮さんと桜井さんと聞いて、「ピッタリだ!」と思ったし、実際に映画を観て、想像以上に小坂と鹿野が映像の中に生きていて……泣きました。この映画に音楽を付けるのは責任重大だなと感じましたね。

間宮祥太朗 僕はお話をいただいてから原作を読んだのですが、“Twitterで話題の泣ける4コマ”という言葉が強すぎて、「泣かせにくるのかな?」と構えちゃったんです。でも実際に原作に触れてみて、泣かせようというあざとさはまったく感じなかったし、「4コママンガをどう実写化するんだろう?」という懸念みたいなものはいつの間にか消えていて。読み進むうちにじわじわと心の内側に入ってくる作品だと感じました。それはきっと、作者の世紀末さんの人柄がそうさせていると思うんですよね。

桜井日奈子 私は原作を一気読みして、大号泣しました。独特のテンポがよかったし、小坂と鹿野の短いやりとりに感情を揺さぶられて、笑えるし、泣けるし……このテンポ感を映画でどう表現するんだろうと疑問に思いました。私が演じる鹿野というキャラクターがけっこう変わった女の子で。言動が予測不能だし、さっきまで泣いていたのに、ごはんを食べ始めるとすぐ笑顔になる。それが鹿野の魅力だし、私としてはこれまでに挑戦したことがなかった役柄なので、私が演じることで映画を観てくれる人が引いちゃったら嫌だな、という不安もありました。

 小坂と鹿野の会話、そこで生じる感情の変化が映画の軸になっていると思うんですけど、2人で演技について話す機会は多かったのでしょうか?

間宮祥太朗

間宮 2人というより、監督も交えた3人でよく話しました。監督には「この場面はこう演じてほしい」と細かく指定されたわけではないんです。「ここはどうしたい?」「今、どうしたかった?」という気持ちの確認作業を入念にやりました。

 音楽を付けるときに何十回も映像を観させていただいたて、監督さんに「このシーンの小坂のセリフ、いいですね」と伝えると「ここは間宮くんのアドリブなんだよ」と言われることが多かったんですよ。

間宮 監督から「その場でやりたいこと、言いたいことがあったらそうして」と言われていたんです。実際に撮影中に思いついた言葉をセリフとして発することもありました。

 そういうとき、桜井さんはどう演じるんですか?

桜井 台本を読んでいるから、「次はこう来る」と頭に入れて演じているんですが、台本に書かれていないセリフが来ると、撮影中なのに素の状態に近い反応が出ることがあって。準備していたものとは違う演技を間宮さんに引き出してもらったことで、乗り越えられたシーンが実はたくさんありました。夢の中のシーンがまさにそうですね。

 夢の中のシーンは絶対に泣いちゃいますね。完成披露試写会のときも、あそこで鼻をすすっている方がすごく多かったんですよ。小坂の目が優しいんですよね、あのシーン。

間宮 鹿野のセリフで「夢だから、私のいいように解釈しているのかも」というセリフがあるんですよ。そのセリフと、そう思っている鹿野の心情を崩しちゃいけないという思いがあって、ほかのシーンよりも優しさを意識しました。

 なるほど。小坂はもともと優しい青年だけどそれを表に出さない性格で。小坂の「死ね」という口癖も、実はシーンによって言葉の伝わり方が違っていて。その微妙な心情の変化をしっかり間宮さんが表現されているのが本当に素晴らしかったです。

間宮 ありがとうございます。

4曲目でようやくOKをもらった「はなびら」

 主題歌の「はなびら」については、監督からは「希望が持てる、前向きな曲にしたい」とオーダーをいただいていたんですけど、私が鹿野に感情移入しすぎて切ない曲ばかりが思い浮かんでしまって。実は4曲目でようやくOKをもらった曲なんですよ。

間宮 僕も演じているときに奥さんと同じようなことを感じていました。悲しいシーンを演じるとき、こちら側が悲しくなってしまうと観ている人が入り込めなくなることがあるんですよ。

桜井日奈子

桜井 私、以前から奥さんの曲が大好きだったので、映画の主題歌を担当していただくことを聞いたとき、すごくテンションが上がったんですよ。「ガーネット」「変わらないもの」とかは特に好きで。

 うれしい!

桜井 「はなびら」は本当にいい曲で、“ザ・奥華子さん”という曲だと思います。“切な優しい”というか、優しく包み込んでくれるような曲ですよね。

 ありがとうございます。でもこの曲はお二人が主演だからこそ作れた曲だと思います。

間宮 「はなびら」もそうだし、映画全体を通して、奥さんが手がけた音楽がとても素晴らしいと感じました。誰もセリフをしゃべっていないシーンがけっこうあるんですけど、その間に奥さんの音楽が入ることで、パーっと開けていく感覚が付けられている場面もありました。映像と音楽の相乗効果をたくさん感じました。

 劇伴に関しては、セリフと音と演技の一体感を求められていたんです。「ここに切ない曲を入れよう」という作り方ではなくて、実際に画面を見ながら即興的に音を当てていく作業が多かったですね。例えば宮定八千代(ゆうたろう)が登場するシーンには、「動きに合わせて音を入れてシーンを盛り上げたい」とか細かい指定があったんです。それと効果音的な要素も数多く求められました。監督さんが歌舞伎がお好きなのもあって、「歌舞伎の合いの手で入る三味線のような音を入れてほしい」とも言われて……。

桜井 普段の奥さんが作っている音楽とはちょっと違うことを求められていたんですね。

間宮 今のお話を聞いて、納得がいきました。どのシーンも絵と音がしっかり重なっているんですよ。僕は劇中のナレーションも担当させてもらったんですけど、監督からは「絵と言葉を合わせるように」と言われていて。そこにさらに音まで合わせるように作られていたんですね。

 劇伴を作るときも、ナレーションとのバランスはすごく意識しました。ちょっとでも音の出るタイミングがズレると違和感が残ってしまうんですよね。

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