おいしくるメロンパン特集|結成10年目のメジャーデビュー、3人が踏み出す新たな一歩 (3/3)

曲の解釈は聴き手に委ねる

──「海」や「夏」というワードは過去の楽曲でも何度も使われていて、おいしくるメロンパンの世界観を規定する重要な要素になっているわけですが、改めて、こういったワードが頻出する背景について聞かせてください。

ナカシマ 単純にメタファーとして使いやすいというのがあって。あとはこれまでいろんな曲に使ってきたから、それがほかの曲とリンクして聴けたりする面白さもあると思います。最初は単純に海が好きだからよく使っていたのが、どんどんおいしくるメロンパンの中で大きな意味を持って、新しい曲の中で出すと、昔の曲とのつながりを感じられるのが面白い。でもまあ、メタファーとしての部分が一番大きいですかね。

──ちなみに「look at the sea」のときは何のメタファーとして使ったんですか?

ナカシマ それは……まあ言わないでおきたいかな。

──そこは聴き手の想像力に委ねる部分?

ナカシマ そうですね。

──いろんな意味合いが込められているとは思うけど、青春とか青さ、眩しさとはかなさの同居みたいなイメージもあるし、その一方では母なる海じゃないけど、生命の根源であり、畏怖の対象でもある、そんな両面性・多面性を感じる曲が多い印象です。

ナカシマ まさしくそんな感じです。

ナカシマ(Vo, G)

ナカシマ(Vo, G)

──「群青逃避行」に関してはどんなイメージがありましたか?

ナカシマ 僕の中では、音楽を聴いているときは現実から逃避できる感覚があって、このバンド自体が聴く人にとってそういう存在であれたらいいなという思いでずっと曲を書いてきたんです。最初はそれをなんとなくでやっていたけど、自分の中で「こうだな」としっかりと確立できた感覚があったから「群青逃避行」というわかりやすいタイトルで、それをもう一度作りたいというか、鮮明に届けられるんじゃないかと思いました。

──さっきの「look at the sea」もそうですけど、今までだったらあまり限定しないで、聴き手に解釈を委ねるということをずっとやってきたわけですよね。このタイミングだったら、もうちょっと直接的に投げかけてもいいんじゃないかと思えた?

ナカシマ あえてそうしなかったわけではなくて、自分でもちゃんとわかってなかった感じなんですよね。ただ今も直接そのメッセージを言っているわけじゃなくて。「つらいときに俺たちの音楽を聴いてくれ」というタイプの曲ではないので。

──「がんばれ」と言ってるわけでもないし、「逃げたっていいんだ」というメッセージを直接歌ってるわけでもないですもんね。

ナカシマ あくまで芸術作品として届けてるし、いろいろな思いを込めているけど、受け取る側は別にそう思わなくてもいい。そういうふうに聴いてくれる人がいてもうれしいなという、それぐらいの感覚で作っています。

ナカシマが言う「海へ行こう」は絶対普通の意味とは違う

──原さんと峯岸さんはこのタイミングで「群青逃避行」を出すことの意味合いをどう感じていますか?

 おいしくるメロンパンの音楽から海を連想する人はたくさんいるだろうから、それが1つのモチーフとして出てくるというのは、それこそ一貫性じゃないですけど、「僕らは変わってないよ」というメッセージにも受け取れるんじゃないかなと思いました。

峯岸 「海へ行こう」という最初のフレーズはデモの段階から入ってて、誰でも普通に使う言葉ではあるけど、ナカシマが言う「海へ行こう」は絶対普通の意味とは違うだろうなっていうのが、一聴したときにすごくありまして。たぶん初めてこの曲に触れる方は最初は軽い気持ちで聴くと思うんですけど、冒頭の「海へ行こう」と最後の「海へ行こう」は意味合いが違って聞こえるんじゃないかなと、歌詞を読んで思いましたね。

峯岸翔雪(B)

峯岸翔雪(B)

──曲自体は軽快なんだけど、「片道分の呼吸で」や「帰れないところまで行こう」のようなワードも入っているから、ある種の死生観も感じるし、覚悟や切迫感もあって、いろんな受け取り方ができるところが魅力的だと感じます。同じワードでも最初と最後で聴いたときの印象が変わるのは、作り手として意識している部分ですか?

ナカシマ それはありますね。前奏と間奏が一緒でも、サビを経ての間奏だったら聞こえ方が違ったりする、そういう時間経過による変化は大切にしているところです。最初の「海へ行こう」と最後の「海へ行こう」の受け取り方が変わるののも、この曲に没入して、いろいろ感じた結果だと思うので、そういう感覚を味わってもらえたらうれしいです。

──タイトルの「群青」にはどんな意味がありますか?

ナカシマ 僕の中でおいしくるメロンパンにはもともと水色のイメージがあるんです。自主制作で作ったシングルもそうだったし、最初のEPの「thirsty」もそうですし。で、これはあとあと思ったことですけど、今は自分たちの表現がより深まって群青になった。そういう考え方も面白いなと。

自分たちの核を見失わないように

──メジャーデビューをしても自分たちのやることに変わりはないという話もありましたが、改めて今後の展望について話していただけますか?

ナカシマ 正直あんまり思い浮かばないんですよね。もちろんメジャーでやっていくのは楽しみなんですけど、クリエイティブ面に関しては変わらずにこだわっていきたい。長く続けられるように、振り返ったときに後悔しないように、しっかりと自分たちの核を見失わないように制作していけたらと思っています。

──「長く続けたい」というのは、バンドを始めた当初から思っていたことなのか、10年やってきた中で、より強く思うようになったのか、どちらが近いですか?

ナカシマ パッと売れちゃって、そのあとで続けられなくなるよりは、一生音楽をやれたほうが幸せだなというのは感覚的に思っていたんです。それを徐々に明確に意識するようになって、今は長く続けることを1つの目標として考えてますね。

──長く続けるためにも、きっとメジャーデビューのタイミングは重要だったということですよね。原さんと峯岸さんはどうですか?

 メジャーデビューをして、人の目に触れる機会は増えるだろうなと思っていて。そのときに聴いてくれた人の心をつかめるような曲を作ったり、ライブをしたりして、より多くの人に愛されるバンドになりたいなと思います。

峯岸 僕もこの先どうしていきたいという展望は取り立てて持ってはいなくて。今まで地道にやってきたことを踏まえて、これからも自力を信じてやり続けていくという心持ちでいます。もちろん、新しく聴いてくれる人が増えたらいいなとはすごく思っていて、僕らはポップな曲もあればディープでマニアックな曲もあるので、どこから入っていただいても大歓迎なんですけど、願わくば1曲好きな曲ができたらほかの曲も満遍なく聴いて、広い意味でおいしくるメロンパンを好きになってもらえたらうれしいです。

おいしくるメロンパン

おいしくるメロンパン

公演情報

おいしくるメロンパン bouquet tour - never ending blue -

  • 2025年10月24日(金)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2025年10月25日(土)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
  • 2025年10月31日(金)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2025年11月16日(日)北海道 Zepp Sapporo
  • 2025年11月28日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

プロフィール

おいしくるメロンパン

峯岸翔雪(B)が大学の同級生であるナカシマ(Vo, G)と、高校の同級生である原駿太郎(Dr)を誘い、2015年9月に結成した3ピースバンド。コンスタントにリリースを重ね、2025年4月には通算9枚となるミニアルバム「antique」を発表した。同年6月に初のアニメタイアップ曲となる「未完成に瞬いて」を配信リリースし、全国ツアー「おいしくるメロンパン antique tour – 貝殻の上を歩いて –」のファイナルとなった東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)公演の中で10月にトイズファクトリーからメジャーデビューすることを発表した。8月には配信シングル「群青逃避行」を発表する。