ミニアルバムにこだわるワケ
──おいしくるメロンパンは、これまでずっと5曲入りのミニアルバムを作り続けていて、まだフルアルバムを一度も作っていないのも特徴だと思います。先ほどの「一貫性」という話にも通じる部分だと思いますが、どんなこだわりがありますか?
ナカシマ フォーマットを一定にすることによって変化がわかりやすくなるし、鮮度を大事にしたいんです。曲が完成してからリリースされるまでの時間が短いほうが鮮度はいいし、普段考えていることがどんどん変わって曲に反映されるので、できるだけ曲数は少ないほうが、同じ考えの中で作られた曲たちをまとめて届けられる。それによってコンセプチュアルな作品になりやすいと考えているので、そういう意味でもミニアルバムの5曲という“尺感”がちょうどいいんです。
──最近はTikTokが全盛で、アルバムは長いから聴かない、あるいは聴けない人が増えているという話もありますが、そういったことに対して思うことはありますか?
ナカシマ 特に何も思わないですね。聴かれ方は考えてもしょうがないので、やりたい方法でやるぐらいの考えでしかないです。作ってる最中にそこを考えるのはノイズになっちゃうだけ。完成してから、作品をどれだけの人に届けるかを考えるのはもちろん重要ですけど、別軸の話だと思いますね。
峯岸 ミニアルバムは曲の並び順もすごくこだわっているので、本当はこの流れで聴いてほしい気持ちがあります。ただ、そういう聴き方をしない人も多いと思うし、もちろん1曲1曲が素晴らしいものとしてリリースしているので、曲を聴いてもらえるならそれでいいという気持ちが大前提にはあります。
何気ない日常を
──6月25日にリリースされた「未完成に瞬いて」はおいしくるメロンパンにとって初のタイアップ曲で、テレビアニメ「フードコートで、また明日。」のオープニングテーマです。これまでと曲の作り方に変化はありましたか?
ナカシマ アニメのタイアップとしてふさわしい曲を意識しつつ、もちろん自分がやりたいことをやっている感じではあるので、大きくは変わらなかったですね。原作マンガを読んで、「こういう風景が合うな」とか「このキャラクターはこういう関係性だな」というのがなんとなくあったので、そこからサウンドを作って、最後に歌詞を書く感じでした。
──アニメのスタッフとはどの程度やりとりがあったんですか?
ナカシマ アニメチームの方とはタイアップの話をいただいたときに話したぐらいで、そんなに何度もやりとりをしたわけではないんです。曲に関するオーダーも細かくなくて、「アニメのイメージに寄せて作ってもらえたら」という感じだったので、自分の中にあるこの作品のイメージをそのまま表現しました。
──「フードコートで、また明日。」は主人公2人の会話劇を中心に日常を描いた作品で、壮大なストーリーがあるタイプではないから、ドラマ性というよりも、ある種の軽快さだったり、日常感を大事にしたのかなという印象を受けました。
ナカシマ アニメは大きな展開があるわけでもなく、淡々と進んでいくんだけど、「なんか尊いな」「なんかいいな」というシーンが多くて。何気ない日常がすごく大切なんだ、という普遍的なメッセージが込められているように感じたので、それを曲で表現できればいいなと考えていました。あえてドラマチックな展開にはせず、ずっと同じコード進行にしたのも、素朴なよさみたいなものが出ればいいなと思ったからです。
──メジャーデビューの話と同じで、タイアップも今のタイミングだからできたことかもしれないですよね。これまでだったら作品のイメージに限定されちゃうことへの懸念があったかもしれないけど、今だったらちゃんとバンドが確立されているからこそ、タイアップもできるっていう。
ナカシマ そうですね。それはあると思います。
原 歌詞は作品に寄り添っている感じもありつつ、ただその作品だけのものじゃなくて、普遍的なモラトリアムというか、誰しもが感じることが歌になってる。ちゃんと作品に寄り添いつつ、しっかりおいしくるメロンパンの曲になってるなと感じました。
峯岸 僕は「そういえば今までなかったな」ぐらいの、一聴しておいしくるメロンパンのサウンドだというのを感じました。あとライブで演奏していて、すごく気持ちいいんですよね。そういう意味でも、おいしくるメロンパンにとっての輝く曲に仕上がっているんじゃないでしょうか。
時間経過による仕掛けを
──新曲「群青逃避行」はメジャーデビューを発表してからリリースする1曲目の作品ですが、そのことはどの程度意識して作られているのでしょうか?
ナカシマ 先ほどもお話したようにバンドとして1周した感覚があったので、少しは意識しましたね。インディーズで自分たちの開けられる扉をどんどん開いていって、今度はメジャーで再び最初の視点に立ち返って、また1曲目のような作品を作ったらどうなるんだろう?という気持ちがありました。ただ「メジャーだからこういう曲を作らなきゃ」という感覚ではなくて、新たに一歩を踏み出す、その楽しさを感じながら作った1曲ですかね。
──歌詞やアウトロの展開など、代表曲の1つである「look at the sea」に対するオマージュは意図的なものですよね。
ナカシマ そうですね。時間の経過による面白さというか、バンドは聴く人と一緒に進んでいく面白さがあると思うんです。例えば、高校生のときに「look at the sea」を聴いてた人が大人になって、「群青逃避行」でまたあのフレーズを聴くことで、「曲と一緒に育ってきたんだな」と感じるかもしれない。それはバンドを続けてきたからやれることだし、そういう時間経過による仕掛けみたいなものは好きなので、これからもやっていきたいなと思っています。
──峯岸さんと原さんは「群青逃避行」の原型を聴いて、最初どんな印象でしたか?
峯岸 僕はあまり初期の感覚という印象はなくて、また今までになかった、新しいところに来たという印象でしたね。でもそこに歌詞が乗って、歌が乗っていくと……最初の印象から大きく変わるわけではないんですけど、えも言われぬ回帰感というか、そういうものも感じました。
原 僕も最初は初期感みたいなのはあんまり感じなくて、言われてみて「ああ、なるほどな」って。展開する中で細かく曲の表情が変わったり、アウトロも単純には終わらない感じとか、すごくおいしくるメロパンらしさが出てるなと感じています。
──まさにアウトロが特徴的な曲が多いのも、おいしくるメロンパンらしさですよね。
ナカシマ 読後感にかなり影響するからかなというのはありますね。聴き終わった後の余韻が曲の情景を大きく左右するので、最後まで自分の表現したい、与えたい印象で終わらせられたらなと思っています。
──ボサノバっぽいフレーズは、歌詞に出てくる「海」や「夏」のイメージから出てきたもの?
ナカシマ そうですね。ズンチャン・ズチャンっていうのが僕の中で海を想像するリズムなので、自然と出てきました。
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曲の解釈は聴き手に委ねる