小倉唯が2月16日にセルフプロデュースアルバム「Tarte」をリリースする。
3年前の2018年3月、8thシングル「白く咲く花」のカップリング曲「かけがえのない瞬間」で初めて作詞をした際に「正直、作詞はやるつもりはずっとなかったんです」と語っていた小倉。作詞については前々から周囲に勧められており、当時勇気を出して「やります」と決断したということだった。その後、彼女は音楽制作により深く携わっていき、意欲的に作詞を続け、2020年2月にはセルフプロデュースシングル「I・LOVE・YOU!!」をリリース。2021年3月にリリースした「Clear Morning」ではダンサーズのフォーメーションを含めた振り付けを考案した。
そうして自身が表現したいことを自らの手で生み出す方法を増やし、小倉は満を持して初のセルフプロデュースアルバム「Tarte」を完成させた。アルバムには小倉自身が作詞してアルバムの世界観を表現したリードトラック「ta・ta・tarte♪」をはじめとした全12曲が収録されている。音楽ナタリーではそのうち6曲の新曲の話を中心に、小倉本人に楽曲に注いだこだわりや制作経緯を聞いた。
取材・文 / 中川麻梨花撮影 / 塚原孝顕
とっておきの“タルト”を表現することができたと思います
──1stアルバム「Strawberry JAM」、2ndアルバム「Cherry Passport」、3rdアルバム「ホップ・ステップ・アップル」ときて、次はどんな果実がくるのかなと思っていたら、フルーツ全部乗せの「Tarte」できましたか。
はい! アーティストデビュー10周年を控えた今、ここまでの過程をすべて大事にしたアルバムにできたらいいなあと思って。これまでただ赤い果実を並べてきたわけではなく、ベリーであどけなさとフレッシュさ、チェリーでちょっと小悪魔的なかわいらしさ、アップルで少し熟した大人っぽさを表現してきました。そこからさらに次の流れを考えたときに「アップルの先ってなんだろう?」と最初は悩んだんですよね。でも、次にまた別の果実を持ってくるよりは、ここでこれまでの果実を全部際立たせたうえで、集大成のような見せ方にできないかなという思いが前作「ホップ・ステップ・アップル」を作ってる段階からずっと心のどこかしらにあったんです。タルト、ケーキ、フルーツポンチ……いろいろな形を考えたんですけど、タルトがこれまでの赤い果物が一番映えるし、下皿となるタルト生地が大きくないと果物を全部乗せられないというところで、自分の“器”をこの4枚目のアルバムで表現してみたいと思って。全部乗せの“欲張りタルト”というイメージで作品を作っていきました。
──前作「ホップ・ステップ・アップル」もいろんなタイプの楽曲にチャレンジした作品でしたが、今作はそれにも増して楽曲の振り幅が大きいですよね。1曲ごとに小倉さんの歌の表現もガラッと変わっていきます。
リードトラックの「ta・ta・tarte♪」に「酸いも甘いも全部のせるよ♪」という歌詞があるんですが、まさにいろんな要素が乗っている、とっておきのタルトを表現することができたと思います。
──セルフプロデュースで表現したというのも大きいですよね。アルバムをセルフプロデュースするというのは、驚きもありつつ、近年の小倉さんの楽曲に対する携わり方を見ていると必然的な流れのようにも思えました。コンペでの選曲からトラックダウンまで参加していますし、シングル「I・LOVE・YOU!!」(2020年2月発売)では企画プロデュースを行ったり、最近はフォーメーションも含めてダンスの振り付けも考えていたり。
「I・LOVE・YOU!!」でシングルのプロデュースをやらせていただいたあたりから、自分の楽曲に対する携わり方や、表現の仕方に大きな変化があって。今までの集大成として、アルバムをセルフプロデュースするという形で表現し尽くしたい、という気持ちがありました。“欲張りタルト”というコンセプトから考えて、それぞれの楽曲の歌詞にも自分の思いやアイデアを反映していただきました。楽曲の幅を意識しながら、アルバム全体のバランス感というのも考えましたね。
本当にここまで見せていいんだ
──リードトラック「ta・ta・tarte♪」の作詞は小倉さんが手がけています。タルトをテーマにしている曲ということで、これは初めからリードにする前提で作詞したのでしょうか。
そうですね。「Tarte」というタイトルは自分から提案させていただいて、そのあとリード曲をどうしようかという話になりました。やっぱりセルフプロデュースをするからには、リードトラックでこのアルバムテーマを表現するのは私の1つの使命なんじゃないかという気がして。そういった責任感を持って、この曲の作詞に挑みました。
──曲はコンペ形式で選んだんですか?
実は、ずっと温めていた曲なんです。なぜかわからないけど、この曲は絶対に次のアルバムの表題曲になる、という確信がどこか自分の中にずっとあって。楽曲は2、3年くらい前からあったと思います。
──じゃあ前作「ホップ・ステップ・アップル」ができたくらいには。
そうですね。いつ出せるかわからなかったけど、こういう形でやっとお届けできてうれしいです。
──小倉さんとしては、当時この曲のデモを聴いて、どういうところにビビッときたんですか?
リズム感ですね。アルバムをセルフプロデュースするにあたって、これは裏の裏の裏テーマぐらいに考えていたんですが、全体的にリズム感を意識していた部分があったと思います。リズム感やアクセント、あとは面白いメロディラインを持っているような曲をセレクトしていましたね。「ta・ta・tarte♪」はすごく素敵なメロディラインだなと思いましたし、この曲を聴いたとき、初心に返って自分の思いを音楽に乗せて届けられるというのは素敵なことだよな、と感じられたんです。「ta・ta・tarte♪」というタイトルに音符がついてるのは、この曲の素敵なメロディを意識してのことなんです。
──そのリズム感やメロディラインをより気持ちよく感じさせてるのは、語感のいい小倉さんの歌詞だと思いました。
うれしいです。この曲は、歌詞を考えるのが今までで一番時間がかかったというか、自分の中ですごく揉んだ曲でもあって。
──リスナーに音楽を届ける小倉さんの気持ちやアーティストとしてのあり方というのを、タルトを懸命に作っている様子に例えて歌っているような歌詞だと受け取って、個人的にはすごくエモーショナルな曲に感じたんですよね。
ただかわいいだけの歌詞でもなく、自分の等身大の気持ちや思いを届けるという、そのバランス感がとっても難しかったんですよ。スタッフさんたちにも歌詞を見ていただいて、アドバイスをいただきながら、最終的に仕上げていきました。
──前に「ピーナッツ」(3rdアルバム「ホップ・ステップ・アップル」収録曲)の話を伺ったときに、「ポップなテイストにしつつ、実は芯のあることを歌っているような歌詞にしたかった」ということをおっしゃっていましたが、小倉さんはそういうふうに自分のあり方や考え方をポップな言葉に変換して届けることを作風として確立されているなと「ta・ta・tarte♪」で改めて感じました(参照:小倉唯「ホップ・ステップ・アップル」全曲解説インタビュー)。
確かに、それが私の1つのスタイルなのかもしれないです。世界観を膨らませて物語をつづりつつ、そこに自分の心も入れ込みたいな、という気持ちがあるので。自分がより思いを乗せて歌えるような言葉を選びながら作詞をしています。
──「Honey♥Come!!」(2015年発売の5thシングル)の頃は「人に弱みを見せたくない」ということを話していた小倉さんが、2018年の「白く咲く花」のときには「最近かなり自己開示できるようになってきた」とおっしゃっていて、「ta・ta・tarte♪」ではついに「ヘコタレモードな私隠した もう少し 待っててね アッと言わせちゃう!」「涙は秘密スパイスで」「こんな時くらい ねぇ 甘えさせてよ 脆いハートはここ ここです」と“タルト作り”の過程、完璧な作品ができあがるまでの試行錯誤や自分の弱い部分をチラッと見せていることに大きな変化を感じました。昔の小倉さんだったらこういうことは書けなかったんじゃないかなと思ったりして……。
本当にその通りです。過去の自分だったらこういった歌詞は絶対に思いつかなかったでしょうし、ここまで自己開示できていなかったと思います。ファンの方との信頼関係を築き上げてきた賜物かな、と実感しましたね。今までは自分の内面を見せることで一歩引かれちゃうんじゃないかなと、どこかで不安に思っていた部分があったんです。でもそうじゃなくて、ファンの方々は全部受け止めてくださるんですよね。ちょっとずつ自分をさらけ出して、皆さんがそれを受け止めてくれるという成功体験を重ねていくことで「ここまで見せていいんだ」と心が開きましたし、それによって自分の表現力や創作する姿勢、気持ちというのが変化していきました。だからこそ、今に至ってるのかなと思います。
──Dメロの「誰かの真似じゃない オリジナルのta・tarte♪」というフレーズ、これは小倉さんが音楽制作においてもダンスにおいても、すごく大切にしていることなんじゃないかなと。
こうした活動を続けていく中で、私だけの武器といいますか、アーティスト・小倉唯だからこそお届けできる世界観、楽曲、歌の表現があるんじゃないか、ということにやっと少しずつ気付けてきたんです。唯一無二の存在であり続けたいという思いがあるし、ファンの皆さんには「やっぱり小倉唯じゃないとダメだよね」と思ってもらえていたらいいな、という気持ちもあります。そういった思いがこういったフレーズになったんじゃないかな。
──あと、なんと言っても最後に「タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・ta・ta・tarte♪ タ・タ・ル・タル・タル・タ・タ・タ・ta・ta・tarte♪ タル・タ・タ・タ・ta・ta・tarte♪」と繰り返すところは印象的でした。一度聴いたら忘れられないですし、目で歌詞を追ってもここは強いインパクトを放っています。
最後にこのフレーズを繰り返したのは、かなり挑戦的な試みでした。この曲を聴いてくださった方々に「ここ、すごくいいよね」と言っていただくことが多くて。そんなふうに言っていただけるとは思ってなかったのでうれしいですし、曲としての面白さを生み出せたんじゃないかなと思います。そもそも、タイトルにもなっている「ta・ta・tarte♪」というフレーズは、正直、これが正解なのかどうなのか悩んだんですよね。1曲の中で、この部分が耳に残りすぎちゃうのかなって。でも、それってある意味インパクトがあるってことだから、そのくらい攻めてみてもいいのかなという結論になりました。
──小倉さんの中で特にこだわったフレーズはどこでしょう?
私が特にこだわったのは「着飾り ツヤもプラスして 憧れの的でいたいの」という部分ですね。フルーツタルトは最後にゼラチンをかけて艶を出すんですが、そういったタルト作りの工程と、私自身の感情がうまくマッチして浮かび上がってきた言葉でした。最近、現場で後輩の子たちから「小倉さんに憧れてこの業界に入りました」とか、「あの曲を聴いてました」と言っていただく機会が増えてきて。それってすごくありがたいことだなと思ったんです。これからもそう思ってもらえるような存在でいたいな、というところで「憧れの的でいたいの」というフレーズが出てきました。
──そして今回はミュージックビデオの監督も自ら担当しているということで。
コロナ禍に自分でYouTubeの動画を作ったりしていたんですけど、その作業がすごく楽しくて。その経験がきっかけとなり、いつかMVの監督もやってみたいなと思っていました。MVの内容自体は、歌詞を書いていく中でイメージしていた世界観をそのまま膨らませて作っていきましたね。衣装もプロデュースさせていただいて。生地にイチゴやチェリーを取り入れていたり、まさに欲張りタルトのような、“かわいい”要素がてんこ盛りの仕上がりになっています。
──サビではキャッチーな手の振り付けも出てきますが、これもご自身で?
そうなんです。皆さんに真似をして踊っていただけるような振り付けを目指してみました。TikTokとかでも、皆さんに踊っていただけたらいいな、なんて考えています。
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また爆弾的な曲になってしまったな