小倉唯|ときめきを胸に、澄んだ空を見上げて

小倉唯が3月31日に13thシングル「Clear Morning」をリリースする。

シングルの表題曲は、小倉自身がメインキャラクターのシロコ役として出演しているスマートフォン向けアプリゲーム「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」のテーマソング。さわやかで透明感のあるエレクトロな曲調は、光が広がっていくような幻想的な光景をイメージさせる。小倉は自身の柔らかな声質を最大限に生かし、ウィスパーボイスを用いた抑揚のある歌唱でこの曲の世界観を見事に表現。アーティストとしての小倉の新たな可能性を提示するような作品となっている。またカップリング曲「pyu♥a purely」では小倉が作詞を担当。小倉の名前がクレジットに刻まれた楽曲は今回で5曲目となり、表現豊かな作家性が確立されている。

音楽ナタリーでは小倉にインタビューし、本作での挑戦や注いだこだわりについて話を聞いた。

取材・文 / 中川麻梨花 撮影 / 星野耕作

いつもとちょっと違う自分の姿

──「Clear Morning」はフューチャーベース的なトラックになっていますが、こういう曲って小倉さんのこれまでのディスコグラフィにはなかったですよね。強いて言えば「Brand-New-Road」(2019年2月発売の3rdアルバム「ホップ・ステップ・アップル」収録)が近いような気がしますが、今回は歌い方も含めてまた違っていて。

小倉唯

そうですね。この楽曲を歌うにあたって、いつもとちょっと違う自分の姿を見せることへのドキドキ、ワクワク感、そして不安もありました。でも、制作過程の中で確かな手応えを感じられて、結果としてすごくいいものができたなと思っています。

──すでに先行配信されていますが、SNSを見ているとファンの方々の心にもかなり刺さっているようですね。

ファンの方々のリアクションを見ていると、新鮮ではあったようですが、受け入れてもらえたようでよかったです。自分の手応えと、皆さんの反応に温度差がなくて安心しました。

──スマートフォン向けアプリゲーム「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」のテーマソングということで、作品の雰囲気に寄り添った、透明感のあるエレクトロナンバーになっています。作詞は磯谷佳江さん、作曲は小野貴光さん、編曲は玉木千尋さんということで、「winter tale」「Reflect」「永遠少年」と同じ布陣ですね。

はい。ゲームの制作スタッフの方々に明確な曲のイメージがあったようで、「ブルーアーカイブ」の世界観ありきで楽曲を制作していただきました。なので、今回は私から曲調や歌詞に関してリクエストすることはほとんどなく、お任せするような形になりましたね。でも、だからこそ、こういった新鮮な楽曲に出会えたんだろうなって。

──なるほど。この曲のファーストインプレッションはいかがでしたか?

雫が落ちていくようなしとやかさがありながら、さわやかな雰囲気も感じられます。少し不安を抱きながらも前に進んでいくような期待感がメッセージとして伝わってきました。磯谷さんが書かれた歌詞に関しては、響きがきれいな言葉をセレクトされている印象を受けて。「Tip Top」「Tic Tac」など、音で遊んでいるような箇所もあったので、そういったところを自分の力でどこまで表現していけるかなと思いました。

新しい自分の武器

──何かが始まるようなドキドキ感、ときめきが柔らかな歌声で見事に表現されています。ウィスパーボイスも使っていますが、今回どういう意図があってこの歌い方を取り入れたんでしょうか?

歌入れのときにはすでにトラックが完成していたので、自分の中で完成形をイメージしやすかったんです。完成した曲を思い浮かべたときに、ウィスパーで歌うことでこの曲特有の浮遊感を表現できるんじゃないかなと思って。それを現場で提案して歌ってみたら、スタッフさんたちも「この構成ありかもね」と言ってくださいました。

──サビの中でも前半は伸びやかに、後半はウィスパーボイスで跳ねるようにアクセントを付けて歌っています。かなり細かいところまでプランニングしてレコーディングに挑んだんでしょうか?

サビはまさにこだわりました。ただ、複雑なことを考えながら歌うと緊張感が声に乗ってしまうなと思ったので、思い描いているものはあくまでもイメージに留めて、実際にどんな歌が出てくるかは自分の身に任せたというか。曲に導かれるような気持ちで歌いました。もちろん歌っていく中で、もうちょっとこうしたほうがいいなというところはテイクを重ねてブラッシュアップしていくんですが、今回はできる限り力を抜いて、自分の中から自然と出てくる言葉として歌ったほうが説得力が出るなと思ったんです。

──ウィスパーで細かいアクセントを付けることに難しさはなかったですか?

苦戦した記憶はあまりなく、むしろレコーディングはとてもスムーズに進んでいきました。楽曲に対して「どういう歌い方が正解なんだろう?」と不安を抱きながら歌うときは、なかなか納得のいくテイクが出せないこともあるんですが、今回はファーストテイクの歌い方が一番よかったんじゃないかなと思えるぐらい。自分が表現したいもの、見せたいものが明確にある状態でレコーディングに臨めたんだろうなと。

小倉唯

──どういう景色を思い浮かべながら歌っていましたか?

朝の匂いや交差点など、歌詞に出てくる情景を思い浮かべながら、Dメロの「未知の彼方へ」という抽象的な言葉の箇所は自分の中から湧き上がる思いを歌に乗せていきました。あとは自分が「ブルーアーカイブ」に携わって、シロコというキャラクターを演じていることも大きくて。キャラクターのことも思い浮かべながら、台詞を言うのに近い間の取り方で歌っていきましたね。

──透明感のあるエレクトロチューン、小倉さんの声質にとても合っていますよね。ウィスパーボイスもぴったりハマっていますし。年末のインタビューで「Look@Me♡」や「Honey♥Come!!」のようなキュートでポップなナンバーについて「こういう曲だったら任せてください」とおっしゃっていましたが、こういったスローテンポでビートの強いエレクトロナンバーに関してもそう言えそうなくらい、今回新しい可能性を見つけたんじゃないかなと。

ありがとうございます。自分の新しい歌い方、見せ方を提示できて、アーティストキャリアにおいても大きな意味合いを持つ楽曲になったなと思います。武器をまた1つ見つけたような手応えがありますし、挑戦することの楽しさを感じましたね。自分の可能性を決めつけちゃいけないなと考えさせられました。

──とはいえ、小倉さんのアーティスト人生は挑戦続きですよね。特に「白く咲く花」(2018年3月発売)以降は。

なんだかんだそうですよね(笑)。これからも挑戦し続ける姿勢を大切に、進んでいけたらいいなと思います。

振り付けの無限の可能性

──「Clear Morning」のダンスの振り付けは、ダンサーズのフォーメーションも含めて小倉さんがご自身で考えたそうですね。

そうなんです。1人で5人分の動きを考えました(笑)。

──これまでも振り付けを担当することはありましたが、ダンサーズのフォーメーションまで考えたのは初めてですよね。どういう経緯で挑戦することになったんでしょうか?

レコーディング時点で、自分の中でこういう振り付けにしたいなという、ざっくりとしたイメージがあったんです。コンテンポラリーダンスのような、指先を使った印象的な振り付けで、上品さもあって……と。だけど、このイメージを振り付けの先生に伝えるのが難しそうだなと思って。せっかくなら自分で振り付けを担当してみようかなと、モチベーションが湧いてきたんです。私がイメージしていたのは、1人でのダンスではなく、“複数人で踊ることによって1人の動きが際立つような振り付け”だったので、ダンサーズの振り付けも自分で担当するとしたら、それは大きなチャレンジだなと思い、「やってみたいです」とスタッフさんに提案させてもらいました。

──ダンサーズとはどのようにコミュニケーションを取っていきましたか?

ダンサーズに振り付けを教えるのは初めてだったので、すごく新鮮でした。振り写しでは、細かい振りのニュアンスを直接伝えていきました。人に教えることの難しさを痛感したり、ダンサー1人ひとりの個性に向き合うことができたり有意義な時間でしたね。

小倉唯

──なるほど。1人ひとりダンスの持ち味も違いますもんね。

はい。フォーメーションを作る中では、ダンサーズに助けられた部分もたくさんあって。例えば動線。複数人が同時に移動するとき、しっかりと動線を決めないとぐちゃっと見えたり、ぶつかってしまったりするんです。どうしたらもっとスムーズに動けるかという問題が出てきたときに、ダンサーズが「私、ここ動けますよ!」と積極的に意見を出してくれて。私がダンスについて無理難題を言ってしまってないかなと不安になっていると、「いや、できます!」と頼もしい返事をしてくれて、私の背中を押してくれたり。5人分の動きを考えるのは、いつもより時間がかかったし、とても大変な作業ではあったんですけど、その分すごくやりがいを感じました。完成した映像を観ても、自分が思い描いていた以上のものを結果として生み出せたんじゃないかなと。

──こうしてお話していると、振り付けを考えるのは小倉さんにとってとても楽しいことなんだろうなというのが伝わってきます。

楽しいですね! 振り付けには無限の可能性がありますし、いいものができるかできないかは自分次第というプレッシャーを感じながらも、その期待に応えられたときにすごく達成感があるんです。なおかつ、皆さんにこの振りや楽曲全体を通して伝わる何かがあるんじゃないかと思うと、1人の表現者としてとてもやりがいを感じます。