小倉唯|みんなとつながるための歌

小倉唯が7月25日にニューシングル「永遠少年」をリリースする。表題曲はテレビアニメ「音楽少女」のオープニングテーマで、さわやかなメロディが突き抜けるように広がっていく夏らしいナンバーとなった。未来へと進んでいくみずみずしいこの楽曲に込められた彼女の思いとは? 挑戦的な前作「白く咲く花」を経て、さらに新境地へと踏み出す小倉の意思とスタンスに迫った。

取材・文 / 中川麻梨花 撮影 / 塚原孝顕

今までやってきたことは間違いじゃなかった

──まず、5月に東京・武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナで行われたツアーの追加公演「『Platinum Airline☆』~Tomorrow Town~」についてお伺いさせてください。初めてのアリーナでのワンマンライブ、改めて振り返ってみるとあの空間は小倉さんにとってどういう場所でした?(参照:小倉唯“積み上げてきたもの”披露した初のアリーナ公演「真っすぐに進み続けたい」

小倉唯

あの空間は、自分の中で確かな自信につながりました。これまで6年間のアーティスト活動の中で積み上げてきたものが、すべて集結していたような空間でしたね。改めて「今までやってきたことが間違いじゃなかったんだ」って、ファンの方とのつながりや自分の気持ちを再確認できた場所でした。

──パフォーマンスやお客さんを喜ばせるような1つひとつの演出はもちろん、ファンの方の「ここに来たら絶対に楽しめる!」という小倉さんへの絶対的な信頼感が会場中に満ちあふれていて。客席を含むそういった光景にも小倉さんがこれまで“積み上げてきたもの”が伺えました。2ndツアーにしてそこまでの空気ができあがっているのは、小倉さんが日々1つひとつの物事に対してストイックに向き合ってきた結果ですよね。

うれしいです。でもそうやって私が1つひとつの物事に対して向き合ってこられたのも、ファンの方からの信頼があってこそだと思っています。日々皆さんが求めて期待してくださっているから、そしてファンの方の思いを忘れないからこそ、活動に専念できました。皆さんの期待の大きさやパワーに向き合って、「それを越えていこう」と前向きな気持ちで常に挑んで、戦ってきましたね。

──アリーナ公演の中でも印象的だったシーンは?

私、最後に思わず涙がこぼれちゃって……あの瞬間は忘れられないですね。自分でもコントロールできないくらい、反射的に出てしまった涙なんですよ。ライブをやり切れた自分と、ファンの方が見せてくださった景色とか……ホントにいろんな感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って出た結晶だったのかな。すごく不思議な体験でした。

──MCで「今回のツアーを通して、見える景色が変わってきたり、自分の中で得るものがたくさんあった」とおっしゃっていましたが、具体的にはどういった心境や意識の変化がありました?

ツアー全体を通して、ライブパフォーマンスをするにあたっての概念と言うか、考え方が大きく変わりましたね。今まではライブってお客さんがお金を払って観に来てくれているから、こちらもパフォーマーとして常に完璧でいなきゃと、自分の中でハードルを上げていたんですよ。でもこのツアーを通して、ライブを研ぎ澄ましていくことは大事だけど、その過程を見せることも大事なんじゃないかなとか、逆に作りすぎないからこそその場だけで垣間見える表現があるんじゃないかなという視点に切り替わりました。「失敗してもそれもライブだよね」と言えるようになったのは、今までの自分では考えられないことですね。

──小倉さんの音楽活動って、何を表現するにしても必ずその先にしっかりとファンの方の顔が見えていて、「喜ばせよう」という気持ちが前提にありますよね。

そうですね。私の活動って自分が見せたい自分を見せることじゃなくて、誰かに喜んでほしいとか、誰かを驚かせたいという気持ちが軸にあって。ファンの皆さんや周りのスタッフの方が見てくださっているからがんばりたい、届けたいという気持ちが常にあるので、そこが崩れない限りはこのスタンスなのかなと思います。

「白く咲く花」があったからこそ挑戦できた

──そのアリーナ公演でニューシングル「永遠少年」のリリースを発表されました。表題曲はテレビアニメ「音楽少女」のオープニングテーマということで、そこと対比した“少年”というワード、そして“THE 女の子”のパブリックイメージを持つ小倉さんがこのタイトルの曲を歌うのは面白みがありますね。

あえて逆をいきました(笑)。前作「白く咲く花」があったからこそ、挑戦できたタイトルですね。あのシングルは私の活動の中でも大きな意味を持つ1枚になったと感じています。大学を卒業するタイミングで「白く咲く花」が出せたからこそ、ファンの方も私と一緒に次の景色を見ようというチャンネルに切り替えてくれたような気がしましたし、そこを受け入れてもらえたことで自信もつきました。

──「白く咲く花」が小倉さんの新しい一面を前面に出した挑戦的なシングルだったので、大学卒業後の1発目の作品は王道のキュートでポップなナンバーがくるのか、それともまた新しい方向に進んでいくのか気になるところでしたが……小倉さんは今回も新しい方向に踏み込みましたね。

完全に後者のほうです(笑)。

──ここまでさわやかに突き抜けるようなメロディやみずみずしい歌声、清涼感のあるピアノとストリングスの入り方、Dメロの空間の持たせ方は今までになかったと思います。どういう経緯でこういった曲になったんですか?

小倉唯

今回は「音楽少女」のオープニングテーマということもあったので、まず第一に作品とリンクするような世界観にしたいなと思っていました。そこを踏まえつつ、曲調的には2パターンで悩んでいたんですよ。1つは今みたいにさわやかなメロディでちょっとロックなテイストもある挑戦的なもの。もう1つはポップでもう少しかわいい、キャラクターソング的な方向の曲で。どちらも素晴らしい楽曲だったのですが、「永遠少年」の楽曲自体が持っている力強さと、前奏のピアノのメロディラインがすごく耳に残るなと感じました。

──一聴して耳に残りますね。

あと、歌詞の中身で言うと、この曲はアーティストの夢がファンの方に共有されて、そこから化学反応が起きていくというような内容になっているんです。アーティストだけの力じゃなくて、ファンの方も一緒に少年のような心を持ち合わせることによって生まれていくもの……そういった景色に、私はすごく壮大な世界観を感じました。ファンの方と心がつながれる曲になるんじゃないかなって。そんな強いパワーを持っている楽曲に自分の歌を乗せることによって、この世界観をさらに広げられたらいいなという挑戦的な気持ちもありましたね。

──それで今回も挑戦してみようかな、と。

正直に言うと、最初は「ここでまた挑戦するのは、覚悟がいるな」とも思ったんですけど(笑)。

──前作「白く咲く花」がかなり挑戦的なシングルでしたからね。

はい。でもここで踏みとどまってちゃ自分らしくないなと思って、また一山乗り越えていこうと気持ちを切り替えていきました。

──「永遠少年」は曲としては新しいですけど、これが小倉さんの新しい王道なんじゃないかと思うくらい自然に耳に入ってきますね。楽曲が持つ清涼感やみずみずしさがカチッと小倉さんにハマってますが、ご自身でそういう感覚はありました?

今言われてから気付いたんですけど、それは私の中の裏コンセプトだったかもしれないです。

──裏コンセプト?

「白く咲く花」は、いい意味でみんなの期待をどこまで裏切れるのかという方向性だったんですよ。ただ、今回の「永遠少年」は、完全にみんなを置いてけぼりにしちゃうのは違うと思っていて。ちょっといつもと違うなと思わせる部分がありつつ、何回か聴いていると馴染んできて、これが新しい私なんだなというのをあまり違和感なく受け入れてもらえるようにしたい……そういう部分は裏テーマでもありました。だから、曲の中にみんなが乗りやすいようにかけ声を入れられるパートを作りたいなと思って、アイデアを出させていただきました。みんなで歌える部分を入れたかったし、ミュージックビデオもライブのような世界観にすることで、客観的に見る曲じゃなくて皆さんに参加してもらえる曲にしたかったんです。