小倉唯|みんなとつながるための歌

すべてはDメロと言ってもいいくらい

──歌詞は「今伝えたい感情は 今伝えなきゃ」「ねえ全部全部覚えていたいよ もがき奏でる 私たちの日々の旋律」「今 キミと刻む瞬間のひとつひとつが 明日の糧になる」というように、“今”という瞬間を軸にそこから未来に向かっていく希望が等身大の言葉で描かれていますね。どういうふうに解釈して歌っていきましたか?

小倉唯

この曲の歌詞は自分に似ている部分が多かったので歌いやすかったです。特に2番の「今伝えたい感情は 今伝えなきゃその価値や空気感変わってしまうから」という歌詞が、自分のモットーに近い部分があって。お芝居やアーティスト活動をさせていただいている中で、やっぱりその場その場でしか残せないものってすごく多いんです。それは伝えるアーティスト側だけではなくて、受け取ってくださる方々もそうだと思うんですよ。みんな日々生活が変動して、年を取って、価値観も変わっていく中で、見せられるものと受け取って感じ取ってもらえるものって変わっていくから。ライブやCDもそうですけど、私は常にその場で全力で伝えることを意識して活動しているので、この曲を聴いてくださる方にもそういうふうに感じ取ってもらえたらうれしいなという思いで歌いました。

──作詞を手がけた磯谷佳江さんとはどういったコミュニケーションを取られました?

特に印象に残っているのは……Dメロの「鮮烈なひたむきさで 一歩ずつ きっとずっと 進んでゆこう」という歌詞、実は磯谷さんが私のライブを見て連想して入れてくださった言葉なんですよ。「この言葉を入れたいと思っていた矢先にオファーがあって、これは絶対に入れようと心に誓って入れた」とお伺いして、ジーンときちゃいましたね。「こう見えてるんだ」という驚きもありましたけど。「バレてる!」みたいな(笑)。

──Dメロはこの曲の大きなポイントになっていますよね。ストリングスやピアノの入れ方もドラマティックで、このDメロだけでも1つのストーリーになっているように感じました。小倉さんの歌もDメロの中でも「とまどいと もどかしさと 根拠なき自信と矛盾」の部分と、そのあとの「一歩ずつ きっとずっと 進んでゆこう」という部分では歌の表情がまた違って、だんだん未来に向かっていくような……。

今回の曲の1番の見せ場は、やっぱりこのDメロだなと思っていました。すべてはDメロと言ってもいいくらい、そこをベースにしてパズルみたいにどうつないでいくか。Dメロは1つの台詞と言うか、歌うというよりも演じる気持ちで表現しましたね。

──どういうふうに演じていきました?

1行1行、表情や景色、世界観をシフトして歌っていきました。「とまどいと もどかしさと 根拠なき自信と矛盾」という部分は、自分の弱い部分、普段だったら出さない心の内に閉まってある感情を音に乗せようと思って繊細なイメージで歌いました。「揺れるのは愛しいから 迷うのは大切だから」というところは、誰しもが求めている愛と言うか、自分の気持ちをコントロールできないくらいの揺れ動く感情を乗せましたね。人って誰しも愛を持って生きないと存在できないものだと思っているので。そのあとの「鮮烈なひたむきさで」からはそういった気持ちに流されずに、そこを包み隠して自分を統制して真っすぐに突き進んでいく力強さを表現しました。

──ものすごく繊細な表現がこのDメロに詰まっていますね。この尺の長さのDメロは今までになかったと思いますが、最初に聴いたときはどう感じました?

「試されてるな」と思いました(笑)。でも、今だからできましたね。何年か前の私が歌ったら、全然違うものになっていたと思います。

音楽は“第六感”

──全体的にはどういうことを意識して歌われましたか?

Dメロは繊細な感じなんですけど、基本的にはさわやかなイメージにしたかったので、自分の芯を持ちつつ軽やかに歌い上げたいなという気持ちがありました。だからあんまり考えすぎずに、「人の心にちゃんと響いたらいいな」という気持ちで。自分からリスナーの皆さんに歩み寄っていく、と言うか。

小倉唯 小倉唯

──言葉の1つひとつがスッと心に入ってくるような歌になっていますね。

自分から発信はしているんですけど、それが押し付けがましい感じにならないよう、みんなに自然に付いてきてもらえるような距離感になったらいいなと思っていましたね。

──「音楽少女」のテーマソングということで、歌詞もそれに紐づいて「音符(キーノート)」「五線譜」といった言葉が入っていますが、小倉さんにとって“音楽”とはどういうものですか?

“音楽”ですか……? うーん……。

──小倉さんは小さいときからダンスもされていたので、常にそばにあったものですよね。

そうですね。私の中で音楽とは……うまく伝わるかわからないんですけど、五感の中の1つに入れてもいいんじゃないかなって。

──第六感に、音楽。

はい。それくらい、音楽って特殊なものだと思うんですよ。自分が何でその曲に魅力を感じるのか、わからないじゃないですか。

──理屈で説明できない。

そうなんですよ。なぜなのか説明がつかないけど、人それぞれ曲の好みがあったり、音楽によって揺れ動く感情があって。それって別に意図して「これがこうで、ここがいいからこの曲が好き」というわけじゃなくて、感性の中の1つだなと思うんです。それってきっと、人間の本能に近いんじゃないかな。

ファンの方と心を通わせたい!

──リスナーには「永遠少年」という楽曲をどのように受け取ってほしいですか?

一番は、同じ空間にいてほしいという気持ちが強いですね。この曲を聴くことで、私と心を通わせてもらえたらうれしいです。アーティストとリスナーの方の心の距離を詰めたり、気持ちをリンクさせるような曲になったらいいなと思っているので。

──「永遠少年」は小倉さんにとって、人と人をつなぐ曲なんですね。

そうですね。人と人との架け橋になるような曲になったらいいなと思っています。

──今回のMVでは、エキストラとして集まった200人のファンの方の前でパフォーマンスされています。皆さんに参加していただいたのは、そういった意図もあったんですか?

それはありましたね。今回は「ファンの方と心を通わせたい!」という気持ちがあったので、本当はファンの方にサビの半分くらい歌っていただこうかなと思っていたんですよ。

──そんなに!

私は本当にそれくらいの気持ちでした! アーティスト側の思いとファンの方の思いが一致して、初めて完成する曲にしたかったんです。

──MVの撮影自体はどうでした?

新鮮でした。イベントをやっているような感覚でしたね。皆さんがいてくださったからこそ、ファンの方と一緒に作り上げるという楽曲の形を表現できたと思います。

──振り付けは元気いっぱいで疾走感がありますね。

はい! 今回自分で振り付けをしたんです。

──どういう意図があってこの振り付けに?

サビはみんなでタオルを回したいなと思って、手を回すような振りを入れました。あとはやっぱりライブ要素を強く入れ込みたかったので、180度お客さんのほうを向くような動きだったり、自分の気持ちを表現するような手振りを意識して考えていきましたね。

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“妄想の世界”の歌