ナタリー PowerPush - THE NOVEMBERS

実験と挑戦の先に見えた柔らかな光「GIFT」

一番シリアスで一番ポジティブ

──そうした新しい試みに満ちたアルバムですが、内容は過去最高に「聴いてすぐわかる」もので、THE NOVEMBERSがここにあると思いました。

うん、伝えようっていう意識はありました。というか、今回の楽曲に合った伝え方とか、語りかけるような口調や表情だったりはうまく表現できたのかなと思いますね。楽曲に見合うものが世に言う「やさしい」とか「穏やか」「明るい」というものだったのかと。

──そういう曲調でありながらシビアなことも歌っていて。

今までの作品の中でも一番シリアスだし、一番ポジティブなものを作ったという自負と、そういう作品を「作ろう」と意図したところはあります。

──タイトルで「GIFT」と言い切っているのにも納得するというか。

インタビュー写真

そうですね。説明的じゃない言葉でっていう発想から「GIFT」になったんですけど、あとになって不妊治療、つまり配偶子卵管内移植(Gamete Intra-Fallooian Transfer)という意味だったり、ドイツ語では「毒」っていう意味があるとか知ったんですけど。

──ええ? 真逆ですけど。

ドイツ語のGIFTも贈り物っていう意味もあるんですけど、毒とか憎悪にも捉えられるっていう話をドイツ語に詳しい人から聞いて。それを聞いた瞬間に、認識する人が変われば意味が変わるというか、やっぱり絶対的な善も悪もないなって、あとから付いた意味ですけど本当に「GIFT」にして良かったなっていう気がしますね。

早くも反動が出てきている

──収録曲についていくつかお訊きしたいんですが「ウトムヌカラ」はアイヌの結婚式という意味だそうで。

そうです。元々の意味は「互いを見つめ合う」というもので。僕の書く歌詞の中で特定の2人の登場人物が自分にとって象徴的な作品に出てくるんです。これまでだと前作の「夢のあと」とか「mer」とか「Misstopia」っていう曲とか。それでこの「ウトムヌカラ」の内容がハッピーエンドだけだとどこかしらリアルじゃない気がしてて。2人が疲れ切ってるというか、いろんなものに直面して自分たちが信じてたものだけが絶対なわけじゃなかったとか、そんなに甘くなかったという様子を描いて、だけどそういう世の中だけど自分たちは自分たちのやり方で勝手に幸せになるのが一番いいんだねっていうところを描きたかった曲なんです。

──そしてタイトル曲の「GIFT」は「広い世界で たくさんのものをみたい 僕らは次へいこう」と、子供でもわかるような平易な言葉で締めくくられています。

そうですね。本当に語りかけるように……それこそ誰かが何かを想像するきっかけになったらいいなとか、「贈りたい」っていう気持ちそのものの楽曲だったので。ただこの曲のサビで「まだまだ僕らは まだまだこれから」って歌ってるんです。人によっては「これからいいことがある」とか「明日は晴れる」という意味に結論付ける人もたくさんいると思うんですけど、僕はどっちかって言うと「これから」なのはいいことも悪いことも、うれしいことも悲しいことも全部そうだろ?っていうほうがリアルだと思うんです。その中で何を自分は選ぶのか。悲しいことが来る可能性があるんだからっていうふうに捉えられるかどうかが自分が生きていく上で大事な態度なんじゃないかと思うので、「これから」がなんなのか、「僕ら」がなんなのかっていうのは描かずに、聴く人が想像してくれたらうれしいですけどね。

──最初聴いたときはポカーンとしましたけどね(笑)。

もう人に会うたびに言われます。「こんなバンドだったっけ?」って(笑)。

──ハハハ(笑)。話は変わるんですけど、北野武監督が「アウトレイジ ビヨンド」のインタビューで「震災後の日本での表現とか世間の空気感が『絆』とか言いすぎなんじゃないか?」と言っていて。「ホントはもっと怒ってるでしょ?」って。

そうですね。むしろそういうことのほうが多いですね。

──今回はそういう聞こえ方をする作品にはならなかったけど?

音楽的な意味ではそうかもしれませんね。ただ、もう既に「GIFT」の反動が出てきて(笑)、早くも怒ってるというか、THE BEATLESが「Helter Skelter」を作ったときに「完膚なきまでに破壊的なものを作ろう」って言ってたらしいんですけど、自分の中にそういうモードも感じつつというところですね。反動は反動で素直に違う形で出すっていう興味はあります。

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THE NOVEMBERS(ざのーべんばーず)

プロフィール画像

小林祐介(Vo, G)、ケンゴマツモト(G)、高松浩史(B)、吉木諒祐(Dr)からなるロックバンド。2005年から活動をスタートさせ、2007年11月に「THE NOVEMBERS」でデビュー。2008年6月に初のフルアルバム「picnic」、2009年3月に「paraphilia」、2010年3月に2ndアルバム「Misstopia」をリリース。2011年8月にシングル「(Two) into holy」とアルバム「To (melt into)」を2枚同時に発表し、2012年3月には台湾で行われたロックフェス「MEGAPORT FES 2012」にも出演。同年11月に「GIFT」をリリース。