もう60に近いので、愛を歌うバラードも恥ずかしがらずにやれるようになった
──曲作りにおいて「このアルバム中で鍵になるような曲ができた」と手応えが得られた楽曲となると、どれになりますか?
和嶋 いろいろあるんですけれども、例えば「阿修羅大王」という曲はちょっとMetallica風のリフを取り入れていて。ヘビーなリフでダークネスを歌うという、誰もがイメージするヘヴィメタルらしさから、ちょっと明るさのほうにシフトさせる方法論を取りました。興福寺とかにいる阿修羅が正義の味方として悪をくじく、そんな内容の歌になっているんです。あとは、「光の子供」という曲もやっぱりヘビーなリフ、自分としてはUriah Heepのヘビーさを意識して作ったんですけど、Uriah Heepも叙情的な歌詞が多いから通じる部分があるかなと思って。ここで歌われているのは愛した人との別離なんですが、ただいたずらに悲しむのではなく「安らかにお眠りください」という思いと、その気持ちを残された人たちの視点で、優しさとか愛しさを周りに向けていくような歌詞が書ければいいなと考えていました。今までとはだいぶ趣が違う曲を作れたなと思っています。
──確かに、「光の子供」は曲調も相まってレクイエム的なテイストを感じましたけど、歌詞をしっかり読み込むと未来につなげようとする前向きさが見えてきます。かつ、この曲をエンディングに置くことで、閉じた暗い世界から抜け出そうというポジティブさも伝わってきました。
和嶋 よかったです。もし魂が光からやってきて光に帰っていくとすると、今ここにいる人たちもすべて光からやってきた人たちなわけで、皆そういう存在なんだっていうことを匂わせられたらいいなという気持ちもありました。特にヘヴィメタルの歌詞は、悪魔が光に追われて闇の世界からやってきたという構図になりがちで、人を愛する方向になかなか行けないんだけど、特に今回は違うアプローチでやれたなという手応えがあります。
──愛という観点では、「永遠の鐘」もすごく多幸感に満ちあふれていますよね。
和嶋 そっち方向にだいぶ振り切りました。知り合いの中には歳の若い友達もいるんですが、彼らが結婚するという話を聞くと、やっぱり自分のことのようにうれしくなる。そういうことを歌にしようかなと思ったわけです。こういうテーマってあんまりヘヴィメタル的ではないのかもしれないけど、ヘヴィメタルにだって愛を歌うバラードは存在したっていい。今までの自分たちだったら、ちょっと恥ずかしくてできなかったと思うんですけど、もう60に近いおじいちゃんなので恥ずかしがらずにやれるようになったわけです(笑)。
──サウンドもすごくフォーキーですし、冒頭のレイドバック感にはサザンロックを思わせる雰囲気もあります。アルバムの中でもすごくいいアクセントになりましたね。
和嶋 自分が知っている範囲内で作るフォーキーさというと、こういう感じになるんです。スライドギターもジョージ・ハリスンみたいな雰囲気があって、個人的にも気に入っています。
「日本のBlack Sabbath」と言われる期待に応えたいんですよね
──鈴木さんは曲作りにおいて、手応えを得られた瞬間はありましたか?
鈴木 自分はいつもアルバムのために5、6曲作るんですけど、その中で1曲「これだ」と思えるものができればいいなと思っていて。今回はリフを考えている中で、4曲目の「宇宙誘拐」のメインリフが浮かんだときに、自分の中の目玉はできたと思いました。メロディも自分にしかわからない“自分節”があって、展開も普段はここまで付けないんじゃないかというくらい激しくなって。そうしたら和嶋くんもその思いに応えてくれて……ほかの曲ももちろんいいんだけど、これが一番カッコいいんじゃないかっていうソロを弾いてくれたので、うれしい限りです。なので、「宇宙誘拐」は誰がなんと言おうとずっとやっていきたい曲ですね。
和嶋 そういう思いって、すごく大事ですよね。お客さんに受け入れてもらうことがもちろん一番いいですけど、それとともに自分の中での満足感というのも大事であって、それこそがバンドを続けていくうえで重要なことなんです。
──この曲のバンドアンサンブルは王道の人間椅子節といいますか、そのルーツであるBlack Sabbath味が濃厚に感じられます。
鈴木 「日本のBlack Sabbath」と言われるようになってひさしいですけど、その期待に応えたいんですよね。Black Sabbathらしさというか、フォロワーの味を出していきたくて。これはうまい具合に出たと思ってます。
和嶋 サウンドはBlack Sabbathなのに、歌詞は宇宙人によるアブダクションについてですからね(笑)。
鈴木 レコーディングの過程でドキドキする瞬間が何回かあって。半年間顔を合わせなかったメンバー同士がお互いに曲を持ち寄って、それをみんなで聴き合って、コピーし合って……その瞬間がすごく楽しいんですよ。
和嶋 各々が曲を持ち寄って、スタジオで発表会みたいなことをするわけですね。
鈴木 その次に楽しいのが、自分が作ったリフと鼻歌で付けたメロディに対して、和嶋くんがどんな歌詞を書くかっていうことで。完成した歌詞を読む瞬間が、また楽しいんですよ。この「宇宙誘拐」はまさにそういう曲でしたね。
和嶋 「宇宙誘拐」はタイトル含め、自分でもよくやったなと思いましたよ(笑)。
──「宇宙誘拐」って、タイトルのインパクトが強すぎますよね。
和嶋 でしょ? これと「地獄裁判」は秀逸ですよね。
今の若い子たちの音楽とは違うけど、HR/HMはそれこそが醍醐味
──ノブさんは今回の制作において、どのような姿勢で向き合いましたか?
ナカジマ みんなで曲を作ってスタジオに入るときはいつもそうなんですが、僕は2人がお互いにリフを教え合っているときに、イントロ、A、B、サビ、中間部とパートごとにギターのリフ、ベースのリフを音符にしてメモをするんですよ。そこから曲が組み立てられていって、どんどん完成に近付いていくのが自分としてもすごく楽しいんです。あと、今回僕が歌わせてもらっている「恋愛一代男」っていう曲は、和嶋くんがメロディも歌詞も作ってくれて。正直、リズムトラックを録り終わった時点ではどんな曲になるのか、まだ想像がつかなかったんですけど、歌入れのときにできあがった歌詞を読んでイメージが膨らんで、音源になっているような歌い方をしようと思いました。自分の声の雰囲気的にも、こういう歌い方がすごく合ってると思うんですよ。
──今回の「恋愛一代男」を聴いて改めて感じたことですが、ノブさんの歌声や歌い方ってピーター・クリス(元Kissのドラマー / ボーカル)に似ていますよね。
ナカジマ そんなうれしいこと言ってくれますか。もちろんピーター・クリスは大好きなドラマーですし、ボーカリストとしてもあの声は大好きですから、それにちょっと近いなんて言われたらもう照れてしまいますね(笑)。
──演奏面に関しても、キック連打でグイグイ攻めるドラムプレイがまるでブルドーザーのようで、ものすごい圧が伝わってきました。
ナカジマ 今の自分が持っているもの、それから和嶋くんと研ちゃんが作ってきたリフに対して一番いいグルーヴ、2人が求めているグルーヴが出せたらいいなっていう考え方を根底に持ってずっとやっているので、特に今回だけいつもと違うように叩いたわけではないんですけど、もしかするとスネアやバスドラのチューニングにこだわったり、1拍目にシンバルを入れずにフィルもよりコンパクトにするアイデアをもらったりしたので、それが楽曲にいい影響を与えているのかもしれません。
──長尺な楽曲が多い本作ですが、とにかくリズムが気持ちいいので、スルスルと聴き進められるんです。
ナカジマ 僕ら3人は生演奏にこだわってるから、レコーディングのときも1曲を何回も演奏するんですよ。3人だけでテイクを重ねていくと、どんどんグルーヴもよくなるし、リット(だんだん遅くなる)加減も明確になってくるので、そこが気持ちよさにつながってるんじゃないですかね。
──特にインストパートは、3人が音でぶつかり合っているような生々しさも伝わります。
和嶋 おそらく最近の多くのバンドは、まずドラムを録って、そこからベースを入れてギターを入れてというやり方で、メンバーが顔を合わせずに録ることも多いと思うんです。なんだったらインターネット経由で、それぞれが音を被せていく形を採っている人たちもいると思います。でも、自分たちが影響を受けたハードロックバンドは絶対にスタジオで一発録りでやってるわけで、それがカッコいいと思ったし、そこにできるだけ近付きたくて「せーの」で録った結果が臨場感につながっているでしょうね。あと、曲展開も人によってはAパートを録って、次に中間パートを録ってという別録り方式かもしれないけど、人間椅子は頭からケツまで通して録るので、どんな展開が入っても自然に聞こえる。それこそがロックバンドなんじゃないですかね。
──昨今は短い曲やイントロがない曲がメインストリームを席巻していますが、人間椅子のように聴き手を飽きさせないだけの説得力と技術が備わっていれば、6分7分の長い曲でも絶対に飽きることなく惹きつけられる。そこがこのアルバムの魅力でもあるのかなと思いました。
和嶋 そういうことをやっぱりやりたいし、一応このアルバムではやれたかなと思っています。だって、「Smoke On The Water」だって歌が出てくるまでに1分近くかかるけど、あのイントロがあるからこそカッコいいわけじゃないですか。今の若い子たちの音楽とは違うけど、ハードロックやヘヴィメタルはそれこそが醍醐味だと思いますよ。
ナカジマ 特にうちは3人が3人とも「OK!」を出すまでは続けますからね。だからこそ、一発目のカウントから最後の「ドン!」って音まで通して演奏したものが、最高にカッコいいと。そこは人間椅子というバンドの強みじゃないですかね。



