人間椅子「まほろば」インタビュー|暗黒の果てにたどり着いた、光と希望の理想郷 (3/3)

もう人生のカウントダウンに入っているのかなという気持ちはある

──特に今作は、オープニングを飾る「まほろば」からして8分近くある大作。初見の人には若干ハードルの高さがあるかもしれないけど、イントロから歌に入るときの展開でまず予想を裏切られますし、その後も先の読めない展開にドキドキしてしまい、気付いたら最後まで到達しているんですよ。

和嶋 一応、狙って転調してみました。

──かと思えば、先ほど話題に上がったノブさんボーカルの「恋愛一代男」や、鈴木さんが作詞作曲を手がけた「樹液酒場で乾杯」のようにストレートな楽曲もある。「樹液酒場で乾杯」の歌詞は本当に秀逸ですよね。

鈴木 いやいや。自分の趣味をぶつけただけなので、秀逸ではないですよ(笑)。僕は昆虫が大好きで、昆虫図鑑に載っている「夏のクヌギの木に集まる昆虫たち」みたいな光景こそが自分にとっての「まほろば」なんです。なので、その夢の光景を歌詞にしようと思ったんですけど、ただそれだけじゃつまらないので、亡くなったロックミュージシャンが生まれ変わって、虫になって樹液に集まる物語にしました。

──樹液というのも、著名なレジェンドたちの名前が加わることでいろいろ深読みしたくなってしまいますが。

和嶋 いわゆるドラッグにも受け取れますしね。

人間椅子

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──あと、夏と昆虫、亡くなった人というキーワードからお盆もイメージできますし。

鈴木 実はお盆に書いたので、こういう内容になったのかもしれないです。

和嶋 でも、このニュアンスは日本人ならではかもしれないですよね。海外にはお盆はないわけですし、この歌詞から連想される世界はまた違ったものになるんじゃないかな。それに、「樹液酒場」という単語も海外にあるのかわかりませんし。この言葉、知ってましたか?

──いや、今回初めて知りました。

鈴木 昆虫好きがノリでそう呼んでいるだけで、マニアックな言葉なんですよ。なので、昆虫が好きな人はニヤリとするかもしれないです。あと、歌詞に出てくる亡くなったロックミュージシャンの名前も、ロック好きはわかるけど、そうじゃない人は何を歌っているのか全然わからないかもしれない。そういう意味では、ずいぶんと通じる人が限定された歌詞にしてしまったなと。でも、わかる人だけわかればいいやと思って書きました。

──歌詞には今年7月に亡くなったばかりのオジー・オズボーンも登場しますし、すごくタイムリーだと思いました。ちょうど今朝(取材は10月17日に実施)も元Kissのエース・フレーリーの訃報が届いたばかりですが、皆さんも60歳間近ということもあり、この先のことを意識したりするんでしょうか。

和嶋 アルバムをあと20枚作れるかというと、それは絶対にないわけですよね。そういう意味では、もう人生のカウントダウンに入っているのかなという気持ちはありますし、だからこそより丁寧に、そのときの全力で挑みたいという思いは以前にも増してあります。

鈴木 キリのいい30枚目まではいきたいところですけど、まあ無理だなというのが見えてきたし、仮にできたとしてもその頃にはボケてるんじゃないかなと思うんですよ(笑)。最近も数字を使ったゲームで必死に脳トレをしてるんですけど、あと10年ぐらいはがんばりたいなと。

和嶋 でも、30枚目ぐらいまではいけるんじゃないかなあ。

鈴木 それは無理ですよ。今24枚目でしょ? 2年で1枚として……27枚目ぐらいかな。それこそ最近はすでに終活に入っていて、着ない服や読まない本とかいろいろなものを捨ててますから。

和嶋 大事ですね。やっぱりさ、身辺をきれいにすると意外といいものが作れるんですよ。我々の偉大な先輩である、LOUDNESSさんたちもまだまだがんばってるじゃないですか。

鈴木 そりゃそうだけどさ、人は人ですよ(笑)。それにしても、みんな元気だよね。二井原(実)さんとはたまに会うけど、すごくパワフルだし。でも、楽屋ではみんな病気トークですけどね(笑)。

──僕は皆さんよりも少しだけ下の世代ですが、同世代で集まるとやっぱり病気の話になるんですよ。

和嶋 なりますよね。あとは介護の話とお墓の話(笑)。

──加えて、僕も終活とまではいかないものの、少しずつ断捨離を始めているところです。

鈴木 一度始めるとハマってしまって、「これもいらない、あれもいらない」とどんどん捨てたくなってくるんですよね。しまいには「ほかに捨てるものないかな?」と探し始めちゃいますから。

和嶋 断捨離とか終活で1つ歌詞が書けそうな気がするよね。でもさ、そういう生活態度って大切ですよ。アルバムを作ることにしたって、1日1日を大事にするようになるわけですから。そう考えると、この視点はおっさんならではなのかもしれませんね。

人間椅子

人間椅子

次のアルバムの頃には、またまた新しい風が吹くんじゃないか

──ノブさんはここから先の人間椅子について、どのように考えていますか?

ナカジマ 僕はこの3人でやれる限り、ペースがゆっくりになっても、地に足のついた活動を続けられたらいいなと思っています。もちろん先のことも考えるし、3人で集まったときに話すこともあるんですけど、とりあえず僕は直接体がぶつかる楽器をやっているので、健康維持だけはしっかりしたいなと。内臓含めですけどね(笑)。ただ、どうしても酒はやめられないですよ。あとは、1学年だけ2人のほうが上なので、やっぱり教えてもらうことも多くて。今もこうしてしゃべっていても、身辺をきれいにしたらうまくいくと聞いたらなんとなく「ああ、そうか。僕もいろいろ捨ててみようかな」と思いましたからね。でも、一番大事なことは楽器を好きでいて、ずっとやっていくことだと僕は思っていて。この歳になってからよりドラムを大切にするようにもなってきたので、そこはこれからも心がけようかなと思っています。

──では、一番近いところでの未来について。このアルバムを経ての次のステップについては、どのように考えていますか?

和嶋 「まほろば」で表現したかったのは、明るさや陽の部分、丸い感じやキャッチーな感じだったので、それは十分にやれたと思うんです。そこの延長も行きつつ、ちょっとヘビーでどんよりした感じの曲もまた、これ以降は入れていくかもしれないし。そういうイメージは持っています。

──「苦楽」「色即是空」「まほろば」を3部作と呼ぶのはまた違うのかもしれませんが、コロナ禍からここまでの流れが落とし込まれたこの3作で、今の流れにひとつ区切りがついたのかなという印象もあります。

和嶋 やっぱり時代を意識して作った作品ばかりなので、奇しくもそんな感じがしますよね。おそらく次のアルバムの頃には全員60代になっているので、またまた新しい風が吹くんじゃないかという気がしています。

公演情報

人間椅子2025年冬のワンマンツアー「まほろば」ツアー

  • 2025年11月24日(月・振休)青森県 KEEP THE BEAT
  • 2025年11月27日(木)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2025年11月29日(土)青森県 青森Quarter
  • 2025年12月1日(月)宮城県 Rensa
  • 2025年12月4日(木)大阪府 BIGCAT
  • 2025年12月8日(月)福岡県 DRUM Be-1
  • 2025年12月10日(水)愛知県 ElectricLadyLand
  • 2025年12月13日(土)香川県 高松オリーブホール
  • 2025年12月17日(水)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

プロフィール

人間椅子(ニンゲンイス)

和嶋慎治(G, Vo)、鈴木研一(B, Vo)、ナカジマノブ(Dr, Vo)による3ピースバンド。1989年に出演したTBSテレビ系「平成名物TV イカすバンド天国」で高い評価を獲得し、1990年7月にメルダックより「人間失格」でメジャーデビューを果たす。その後インディーズでの活動や、ドラマーの交代などを経ながらも、コンスタントにライブやリリースを重ねていく。Black Sabbath風のハードロックと地元・青森の津軽民謡を掛け合わせた独自のサウンドや、江戸川乱歩などに影響を受けた文学的な歌詞、確かなテクニックに裏打ちされたライブパフォーマンスで、音楽ファンの厚い支持を集め続けている。2012年、ももいろクローバーZのシングル「サラバ、愛しき悲しみたちよ」に収録された「黒い週末」に和嶋がギターで参加したことが話題に。2013年にはオジー・オズボーンのオーガナイズにより千葉・幕張メッセで開催されたロックフェス「OZZFEST JAPAN 2013」に出演し、そこでのパフォーマンスが大きな評判を呼ぶ。2019年6月発売のアルバム「新青年」に収録された「無情のスキャット」の、YouTubeで公開されたミュージックビデオが海外を中心に話題に。同年12月に東京・中野サンプラザホール公演を完売させ、2020年2月にはドイツとイギリスで初の海外ワンマンツアーを敢行する。2025年11月には通算24枚目のアルバム「まほろば」をリリースした。