ナタリー PowerPush - 人間椅子

イカ天出演から22年 傑作アルバム「此岸礼讃」堂々完成

自分の曲をコピーする人に感動を与えたい

──アルバムの資料を拝見したんですけど、自分で音楽的にここまでちゃんと説明してる人も珍しいなと思ったんですよね。

あ、そうですか?

──「ロックでは敬遠されがちな、あるいは試みられなかったような大胆な転調や奇抜なコード進行なども取り入れてあります」とか(笑)。

自画自賛になってますけど(笑)。この意識で作りましたから。ミュージシャンと言いながらミュージシャンじゃない人も結構いるなと思うときもあって。

──音楽そんなに好きじゃないミュージシャンっていますよね。

いるんですよ、これが! それはそれでありなんですよね、ロックっていうのはなんでもありですから。パフォーマンスとしてロックをやってる人も大勢いて、それは間違いじゃないし、いいんですけど。やっぱり自分はどっちかっていうとミュージシャンで、意外にあんまりみんな音楽っていうことを意識しないで曲を作ってるなと思って。わりと自分は、僕らの曲をコピーする人がいるっていうのが重要で、「あ、ここでこういうふうにやってるんだ!」って感動をコピーしてる人に与えたくて作ってるところもある。

──例えば氏神一番さんとか、話してると明らかにロックに興味ないなと思いますからね。

ああ、彼にはないですね(笑)。ボーカルだけっていう人は基本的にないです。

──なるほど!

うん。ギター持ってても、いろいろですよ。もちろんギターバカみたいな人もいっぱいいますよ。で僕らとしては、パフォーマンスとしてロックをやるっていうよりは楽器が重要っていう側に向けてやってきてると思ってたわけ。でもあれ……なんでしたっけ、アイドルグループ。

──ももいろクローバーZですか?

そう、ももいろクローバーのファンもいるから不思議だよね、わからなくなってきたよ。

吉田豪

──アンケートではほかにどういうのが人気だったんですか?

もちろんMETALLICAとか書いてる人もいっぱいいたけどね。あと意外だったのはALI PROJECTって書いてる人がいっぱいいた。

──ああ、世界観としては近い気もしますね。

結構いたんですよ。

──当然ご存知なかった。

いや、前に同じ事務所で友達だったんですよ。俺はあんまり知らなかったけど、彼女たち、今また人気なんだよね。

──そうですね、アニソンの世界で。

それもビックリ。そういう客層にもウケてるのかって。あと平沢進って書いてる人が結構いた。

──平沢さんもアニメ的な方面で再ブレイクしましたからね、最近。

そうなんですか!

──全く知らないでしょうけど(笑)。

ボンヤリとアンダーグラウンドの人だと思ってたけど。

──それが最近すごいオーバーグラウンドにいっちゃったんですよ。平沢さんモチーフというか、P-MODELのメンバーの名前をモチーフにしたアニメが作られたのがきっかけで、不思議な感じでアニヲタにもてはやされて、急激に知名度を上げたんですよ。

それでか。なんか懐かしい名前だなって俺は思っちゃったんですよ。でも、それいっぱい書いてる人いたよ。あと筋肉少女帯は多かった。

──同じ江戸川乱歩グループですからね。しかし、和嶋さんが今のシーンをどう見てるかとか、ボンヤリした感じがすごい面白いです(笑)。

すみません、ボンヤリしてて(笑)。Mr.Childrenが売れてるときも全然知らなくて、ミスチルってなんだろうとか思ってたから。若いのを知らないっていうのはオヤジになったのかな。興味がないからとも思うけど。

「こんなに動員が増えるのはおかしい」って言われた

なんかアルバムの宣伝全然してないな……。

──足りないんであればどんどんしてください!

やっぱり自分たちはほかの人が使わない言葉で、こういうことをやってるんだと思うんですよ。どうしても僕は楽曲にしろ歌詞にしろ、人のを聴くとどうしてももの足りない。自分だったらこうやるのにって思ったりするほうなんで、それを思う存分出せてるかな。一般的にはなれないかもしれないけど、なんとなく若い子のファンはまた増えてきたりしてるんで、求めてる人はいるんだなっていう手応えも感じてます。

──ももクロファンにもオススメだ、と。

うん(笑)。こないだもコンビニでバンドのDMをコピーしてたんですよ。

──ああ、スタッフじゃなくて自分で。

うん、僕がDMをコピーしてたんですけど、コピー待ちしてる女の子がものすごい僕のことを見てて。なんか変だなとか思ってたら、「人間椅子の和嶋さんですか? 結構毎日のように聴いてます」とか言われて。その人、美大の学生だったんです。20歳ぐらいの子で「僕らみたいなの聴くなんて珍しいね」って言ったら、「確かに友達でもあんまりいない」とか言ってて。「ほかにどういうの聴いてるの?」って言ったら、やっぱり「筋少とか。最近あんまりそういう濃い音楽がないから聴いてる」って言ってたね。だからある意味、独自のジャンルは僕らも築いてきたんだなっていう。

──オーケン(大槻ケンヂ)さんは間口を広げるいい役割をしてくれてますよね。

そうそうそう! そうなんですよ。

──ボクの文章を初めて読んだのが大槻さんの文庫の解説だって話もよく聞くんですよ。だから大槻さんきっかけでこっちに転ぶ人とかもいて。

僕らもそうです。大槻くん、ありがたいですよ。やっぱり彼のほうが全然メジャーですからね。

──で、そこから人間椅子にたどり着いて。

そうそう。あとバンドでコピーしてくれてる男の子がいるのがうれしいです。だからある意味、僕らはホントにサブカルチャーなんだろうなと思いますね。日本のロックっていわれてる人たちよりも本来のサブカルチャーに近いんだろうな、と。

──現代的なサブカルチャーというよりは、ホントに70年代ぐらいのサブカルチャーというか。

うん、それを引きずってる感じがしますね。そのままやってる感じが。今の日本のロック、それはそれでいいと思ってるんだけど、ある程度商業化されたサブカルチャーなんだよね。

──アンケートやってみて新鮮でした?

動員がちょっと前から増えだしてるんですよ。特に今回もまたすごい増えて。大阪のライブハウスの人から「おかしい」って言われたんですよ。「こんなに動員が増えるのはおかしい」って、ライブハウスの人にそれ言われたかないんだけど(笑)。

──「これまでのキャリアでこれといった露出もないのに、なぜ今?」って。

そう、コンスタントにCD出してるだけで露出してないのに、大阪もソールドアウトしたんですけど、伸びがすごかったんですって。「おかしいからちょっとアンケートやったほうがいいよ」って言われて。

──そういうことだったんですか(笑)。

うん。ライブハウスとして意味がわからないから。「今後の君らのためにも、どこに割り振っていいかわかると思うからアンケートやったほうがいいよ」って言われて。10何年振りにアンケートやったんです。

──で、何か見えました?

見えましたね。基本、どこで知ったかっていうのはインターネットだし。テレビ観る人も減ってきてるような気がするよ。

──ボクも地デジ化できてない状態ですから。

でしょ? 俺、こないだのライブでステージからアンケート取ったんですよ。俺もテレビ持ってないから、持ってない人って訊いたら結構いましたよ。だから付和雷同っていうだけじゃなく、自分でわりと好きなもの探すっていう方向なんだなって思って。ただテレビをボーッと観てるだけが大勢じゃないっていうか。

──主としてそこはいるんでしょううけど、そうじゃない層も。

確実に増えてる。そういう子が僕らみたいな硬派なとこに来てんだなっていう気がします。

和嶋慎治

ニューアルバム「此岸礼讃」 / 2011年8月3日発売 / 3000円(税込) / 徳間ジャパン / TKCA-73676

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CD収録曲
  1. 沸騰する宇宙
  2. 阿呆陀羅経
  3. あゝ東海よ今いずこ
  4. 光へワッショイ
  5. ギラギラした世界
  6. 春の匂いは涅槃の薫り
  7. 悪魔と接吻
  8. 泣げば山がらもっこ来る
  9. 胡蝶蘭
  10. 地底への逃亡
  11. 愚者の楽園
  12. 地獄のロックバンド
  13. 今昔聖
人間椅子(にんげんいす)

和嶋慎治 (G, Vo)、鈴木研一(B, Vo)、ナカジマノブ(Dr, Vo)による3ピースバンド。1989年に出演したTBSテレビ系「平成名物TV イカすバンド天国」で高い評価を獲得し、1990年7月にメルダックより「人間失格」でメジャーデビューを果たす。その後インディーズでの活動や、ドラマーの交代などを経ながらも、コンスタントにライブやリリースを重ねていく。確かなテクニックに裏打ちされたライブパフォーマンスや、ハードロックを基調とした独自のサウンド、文学的な歌詞などで、音楽ファンの厚い支持を集め続けている。