ナタリー PowerPush - 人間椅子
イカ天出演から22年 傑作アルバム「此岸礼讃」堂々完成
欲をパワーの源にしてる人はそれに押しつぶされる
──ただ、その結果としてモテてそっち側に流れる人も多かったと思いますけど、人間椅子にはそういうイメージもないですね。
うん、なんとなく周りを冷静に見たりなんかしてたのかな、性格的に。ちょっと浮かれがちになって、「あ、ヤバい」と思ったんですよ。やっぱりダメになってってる人もいたなって思ったんで。それは今でもそうです。いろんなバンドを見て、音楽以外のところでダメになる人、いっぱいいるんですよ。そうはなりたくないし、じゃあなんのためにバンドやってたんだろうって思うから。
──音楽やってると、そういう誘惑とか多いですからね。
自由業の人はみんなそうじゃないかな? 結局、「こうしちゃダメ、ああしちゃダメ」って言う人は誰もいないですから。自分でルールを持てるかどうかじゃないかと思う。持てない人はやっぱりちょっとくすぶったり、ダメになる人もいるし。
──迷ったことはあるんですか?
いつまでやれるのかなって思ったことはありました。生活が苦しいから。生活を中心にするべきか、好きなことやったほうがいいのかっていう迷いはありましたけど、欲に負けるっていうのはあんまりないかな。だって欲に負ける人は、どんなことしてても負けるから。バンドだからっていうことは……でも普通の人よりかはあるかもしれないですね。苦労しなくても異性とか近づいてくる場合もありますからね、やっぱり。
──「バンドマンとカメラマンはズルい」ってボクは言い続けてますから(笑)。
うん(笑)。でも、いろんな人いるよな。続けてる人はそのへんちゃんとしてる人ですよ。そういう欲望がパワーになったりもするけど、そこだけをパワーの源にしてたらつぶれる気がするんだよね、そこに押しつぶされるっていうか。で、結局そっちにいっちゃうから。
──最初のモチベーションは「モテたい」だったとしても、そこだけじゃやっていけないですもんね。
無理ですよ。それだけじゃ続かないです。それだと結局、何が言いたいのかわからなくなると思うんですよね。やっぱり僕らはこういう向こうのロックをやりたいってことで始めたし、それを表現することが一番大事だと思ってやってたから。
苦労してない人の言葉はやっぱり嘘に聞こえる
──じゃあ、まず壁になったのは金銭的な面で。
そうですね、生活が苦しいっていうことで何年も壁にぶち当たったかな。昼間働いて、夜数時間休みを作って、その残った時間を全部バンドに当てるっていう感じで何年もやってました。それでもやっぱり限界があるなと思ったりもして。音楽以外の創造的じゃない仕事をしてると、自分が何人もいる感じがしちゃうんだよね。バランスをうまく取ろうと思えば取れるんだけど。
──仕事のほうに引きずられすぎちゃうんですか。
うん。で、仕事してるとそれなりに楽しいじゃないですか。楽しいんですよ、友達とかいっぱいできて。でも、それで終わっちゃう感じがして、これも怖いと思ってね。まあ、そういう一生もあるだろうし、それで終わっちゃってもよかったんですけど。
──バンドに向く力が減るわけですね。
そう、減ると思ってね。僕自身はホントにそっちに全部のエネルギーを使おうって決断したんですけど。
──働いてた頃は、仕事で力を使うからお酒が美味くなったみたいですね。
そうそう。だから毎日、楽しかったよ。
──汗水たらして働いたあとに酒を飲む、みたいな。
そういうことを経験すべきだと思ったんだよね。いろんな人がいるんですよ……あ、でもこれネットに載るインタビューだからあんまり具体的には言えねえかな(笑)。
──なんですか?
例えばバンドで食えないからって、女の人に食わせてもらってる人とかも結構いたりするんですよ。でも、その生活っていうのはちょっと見失いがちになるんじゃないかなって思ってね。やっぱり自分の食う金は自分で稼がないといかんと思うし、そこから出た言葉じゃないと……。苦労してない人の書いた言葉っていうのは、やっぱり苦労してない人の言葉なんだよね。
──ヒモ的なリアリティが歌詞に出ちゃうっていうか。
うん。だから、もし「一生懸命やろう」っていう言葉をその人が書いたとしても嘘に聞こえちゃう。
──「お前が一生懸命やってねえだろ」と。
うん、ホントに自分から出てきた言葉じゃないと、人には伝えちゃダメだと思うんだよね。だから自分は楽なほうは絶対に選ばないようにしようと思ってやってきました、今まで。自営は誘惑すごい多いですよね。いろんな楽な道がいっぱい用意されてるんですよ。
──わかります。飲みの誘いも多いし。
そうそうそう。やろうと思えば毎日飲んだくれることもできるわけですよ。毎日飲んだくれてると、仕事がさっぱりはかどらない。
CD収録曲
- 沸騰する宇宙
- 阿呆陀羅経
- あゝ東海よ今いずこ
- 光へワッショイ
- ギラギラした世界
- 春の匂いは涅槃の薫り
- 悪魔と接吻
- 泣げば山がらもっこ来る
- 胡蝶蘭
- 地底への逃亡
- 愚者の楽園
- 地獄のロックバンド
- 今昔聖
人間椅子(にんげんいす)
和嶋慎治 (G, Vo)、鈴木研一(B, Vo)、ナカジマノブ(Dr, Vo)による3ピースバンド。1989年に出演したTBSテレビ系「平成名物TV イカすバンド天国」で高い評価を獲得し、1990年7月にメルダックより「人間失格」でメジャーデビューを果たす。その後インディーズでの活動や、ドラマーの交代などを経ながらも、コンスタントにライブやリリースを重ねていく。確かなテクニックに裏打ちされたライブパフォーマンスや、ハードロックを基調とした独自のサウンド、文学的な歌詞などで、音楽ファンの厚い支持を集め続けている。