ナタリー PowerPush - 人間椅子
イカ天出演から22年 傑作アルバム「此岸礼讃」堂々完成
最近の本を読んでも全く感動できない
──そうやって自分を探求していくような方向にいくと、精神的にしんどくなる気がしますけど。
うん、しんどいっちゃしんどいですよね。この話をあんまり突き詰めてすると「大丈夫?」って話になるんですけど。
──いやいや、聞きたいです。
でも、それは別におかしいことでもないと思ってるんだよね。なんでかっていうと、宗教っていうジャンルがありますよね。宗教をやってる人っていうのは自分との対話が重要じゃないですか、突き詰めれば。禅宗なんていうのもそういうことだし。あと哲学的なことを言うと、僕はニーチェとかも好きなんですけど、やっぱり孤独に帰るということを言ってる人が昔からいてね。だから別に俺だけじゃないと思うんだけど、それは。最近はヘッセを読んでるんですけど、やっぱり自分に帰るっていうようなことを書いてたんです、だから別に間違いじゃないと思ってます、そういうことは。むしろ安心するんですよ、そういうほうが僕は。
──読むものも古典中心というか、最近のものじゃないですよね。
うん。なぜかっていうと、最近のものを読んでも全く感動できないからです。
──一応読んでみたりはするんですね。
立ち読みみたいなことはちょっとしますね。僕も今表現してる人間だから言えるんですけど、なんか浅い気がしちゃうんだよね、今の人は。
──そりゃあヘッセとかニーチェと比べたら浅いですよ(笑)。
そう、浅くてダメなんだよね。だから、あんまり読めない。日本人では、やっぱり宮沢賢治がいいなと思って。なんか、ほかの人の本を読んでも、「あれ? こんな生活文みたいなこと書いていいのかな?」とか思っちゃったりして。自分でやってるから余計そう思うんだろうね。
──音楽にしても、古典を基準にしたら「パンチ弱えな」ってなりますもんね。
弱いよね。で、自分としてはある意味、人生は普通のところには戻れないんですよね、もう。「イカ天」にも出ちゃったし(笑)。普通じゃない世界を知ってしまったから。
──レールを外れた以上は、このレールに乗り続けるしかない。
そう。で、自分で何を表現できるかっていう方向をやるしかないと思って。それで、ますますこんな感じですね。
試練とか苦しみはすごい大事だなって
──一時期かなり鬱々としてたって話も聞きましたよ。
そこに至るまでに数年間は悩みましたよね、アルバイトしながら。毎日仕事するっていうのは、楽しくはあるんだけど……もちろんみんなやってることで、でもただお金のために仕事をするっていうのは、これが人間の幸せなのかなって考えながら毎日仕事して。やっぱりおかしいと思ったね、それは。そこで家庭とか持ってればよかったんだけど。働けば家族が幸せになるから。
──覚悟を決められますよね、妻子のために働くっていう。
そうそうそう。それは生きものとしてすごいまっとうなことだから。でも、やっぱりそういう方向にもいけなくて悩んだんですよ。難しい本を読むようになっちゃったのも、自分でそこに疑問を持っちゃったからで。
──その頃、「何か大変なことはあったけど詳しくは言えない」みたいなことをブログに書いてましたね。
ああ、あんまり書けないかな。要は、実家のほうで裁判とかそういうのがあって。
──大人のトラブルに巻き込まれたっていうことですね。
うん、親父が亡くなっちゃって、自分がそういうのをある程度やらないといけなくて。
──しんどいですよね、そういうものとはなるべく向き合わないで自由に生きていたいのに。
そうそう(笑)。詳しいことは書けないですけど、それがすごく嫌だったんだよね。あと僕、実家が青森で長男なので、その機会に実家に帰るべきかどうかとか、そういうのもあったから。帰ったら、もう音楽はやれない感じしたんだよね。やっぱり地方の人になってしまうから。それで悩んだんですね。
──元のレールに戻るか、この外れたレールのままでいくのかっていう。
そう、外れたレールのままでいくのか、田舎に帰って普通の生活をやり直すのかっていう。それで裁判のときにも、ホントお金のために人は動くんだなっていうことがすごく嫌になったんだよね。それは人間の一面なんだろうけど、それが基本で生きてるっていうことも目の当たりにしてね。
──それを目の当たりにしたら哲学とか仏教にいきそうですね……。
うん、そうじゃないものもあるんじゃないかなと思ったから。
──人間はなんでこんな煩悩にまみれてるんだ、でもそれだけじゃないはずだ、みたいな。そのときに白髪が一気に増えたとか?
そうですね、そのとき酒の量も一気に増えましたから。もっといろんなことに巻き込まれてる人もいるはずなんですけど、僕にとってはしんどかったですね。
──でも、腹を括るきっかけにはなって。
うん、なりましたね。そしてなんのために生きてるんだろう的な、別のものがあるんだっていうことがわかったんです、ずっと考えてたら。だからもう、あんまり迷うことはなくなりました。そういうことがあったから思うわけですよ、試練とか苦しみはすごい大事だなって。煩悩もそうなんですよね、大事ですよ。溺れることも大事かもしれない。溺れたままでいくのか、それともそれは違うって思えるかどうかですけど。
CD収録曲
- 沸騰する宇宙
- 阿呆陀羅経
- あゝ東海よ今いずこ
- 光へワッショイ
- ギラギラした世界
- 春の匂いは涅槃の薫り
- 悪魔と接吻
- 泣げば山がらもっこ来る
- 胡蝶蘭
- 地底への逃亡
- 愚者の楽園
- 地獄のロックバンド
- 今昔聖
人間椅子(にんげんいす)
和嶋慎治 (G, Vo)、鈴木研一(B, Vo)、ナカジマノブ(Dr, Vo)による3ピースバンド。1989年に出演したTBSテレビ系「平成名物TV イカすバンド天国」で高い評価を獲得し、1990年7月にメルダックより「人間失格」でメジャーデビューを果たす。その後インディーズでの活動や、ドラマーの交代などを経ながらも、コンスタントにライブやリリースを重ねていく。確かなテクニックに裏打ちされたライブパフォーマンスや、ハードロックを基調とした独自のサウンド、文学的な歌詞などで、音楽ファンの厚い支持を集め続けている。