ナタリー PowerPush - 人間椅子

イカ天出演から22年 傑作アルバム「此岸礼讃」堂々完成

酒は基本的には飲まないっていう生活をずっとしてます

──和嶋さんはお酒で一時期、大変なことになったわけですよね。

そうそう、肉体労働してたとき、それなりに毎日楽しかったわけですよ。職場の人間関係も和やかにいき、家に帰って酒を飲むとまた美味いし。それで毎日飲んでたら……多分アル中でしたね。

──手の震えが止まらなくなって。

ええ、楽器があんまりうまく弾けなくなって。なんのためにこういうことしてたのかなってホント思ってね。それから酒は基本的には飲まないっていう生活をずっとしてますけど。ハレの日にしか飲まないようにしてます。だから1年に何回かだけ。

写真左から和嶋慎治、吉田豪

──みうらじゅんさんとかに誘われても飲まない。

あ、みうらさんと会うときは飲みますよ(あっさりと)。

──あ、そうなんですか(笑)。

みうらさんと会うのが1年に何回かだけなので。

──ああ、なるほど。でも、よくお酒を断てましたよね。

やっぱりバンドをやりたいし、ギターを弾きたいからやめられた。(吉田豪に)アル中じゃないですよね? だからわからないよね、この感覚。

──ボクもイベントとかじゃないと飲まないようにしてますから。

ずっと飲んでて酒をやめると、結構苦しいんですよ。頭痛いし。最初、まず手が震えて、汗がすごい出てきて。頭は痛いし吐き気してっていう状況ですよね。酒の飲みすぎはヤバいですよ。それでダメになった人もいるからね。

──それまでは酒と音楽を両立させてたわけですよね。

うん。それはやっぱり「人の振り見て……」みたいなのが自分の中にあるのかな? アルコールでプレイがダメになってる人をいっぱい見てきたから、「いったいなんでこの人たちはバンドやってたのかな」って思うわけですよ。お客さんに失礼だなって。

──アルコールが曲作りにプラスになったことはなかったんですか?

ないです(キッパリ)。それはキッパリ言いますけど、そもそも酒を飲んで曲は作れないですよ。自分の気持ちが楽になるだけで、創造には役に立たないです。

──酒とドラッグはロックではカッコいいものとなってるけど、そんないいもんじゃない、と。

そういうロックの固定観念がありますけど、俺のロックの捉え方が人と違うのかもしれないね。ロックってやっぱり精神の自由さっていうか、それを表すものだと思うんですよ。物事ってだいたい、だんだんアカデミックになってつまらなくなっていくんですけど、ロックはアカデミックにならずにやれるし、素人ががんばればやれる。そこが素晴らしいと思うんだけど、その自由さがセックスとかドラッグとか、そういうところに結びつきがちっていうか、結びついちゃうんだよね。みんな同じもんだと思って。

──結びついてもいいものとされちゃうというか。

そう、されちゃう。でも、そこばっかりになると、いいものを作れなくなると思うんだけどね。だって現実にそこにいった人は外人でもいっぱいいるじゃないですか、ドラッグも、アル中になった人も。結局みんなやめてるんだよね。

──やめてるか死んでるかで。

うん。そこだけじゃないっていうことを言いたいかな、僕としては。僕も偉そうなこと言えないけどね、アルコールに溺れましたから。

──溺れてわかることってあるわけですよね。

ええ。今でも酒を飲んでステージに出る人もいっぱいいるけどね、先輩たちの世代は。でも若い人ってそうでもないんですよね。だってみんな打ち上げやらないもんね。

──ああ、それはよく聞きますね。

終わったらすぐ帰るんですよ。だからあんまり人とコミュニケーション取りたがらないっていうのが基本的に若い子はあるんだけど。イベントとかあってもバンド同士で友達にならないよね、すぐ帰っちゃう。それはビックリしたね。飲まない人も多いし。

──大槻ケンヂさんも「打ち上げは意味がない」とか言い出して、一時期やめてましたけど、人間椅子はまだちゃんとやる。

うん、打ち上げやりますね。節目では結構朝まで飲んだりもします。だってお酒好きですから、そりゃ楽しいですよ。

──やめたあとはお酒が美味しくなくなったっていう話も新鮮だったんですよね。

そう、ずっと断ってて飲むと、あんまり美味しくないんですよ、お酒って。でも、飲みだすとまた美味しくなるんですけど(笑)。

自分とは果たしてなんなんだろうって考えてる

──そんな人間椅子もデビューして20年ですけど、イメージがホント変わらないですよね。表現の仕方は変わってたりするんでしょうけど。

微妙には変わってますけど基本は変わってないですね。まあ変えようがないというか。自分たちとしては、子供の頃聴いてきたロックをそのまま日本で継承してやってるだけのつもりなので。洋楽もちょっとずつ発展してるから、その都度それにちょっと近い感じになったりもするんですけどね。でも、全然違う音楽のジャンルを真似るとか、そういうことはやらないです。変わらない。

──みうらさんとの対談で、「最近あんまり音楽を聴かなくなった」みたいに言ってましたけど。

ああ、僕はね。鈴木(研一)くん(Vo, B)は今の音楽も聴いてる。僕はいろいろ悩んだときがあったんですよ、生活と音楽をどう両立させようとか。そこからだんだん生活スタイルが変わってきちゃって、あんまり外野に振り回されることもないなと思ったんです。自分とは果たしてなんなんだろうって考えるようになっちゃったんだけど。

──外を掘るよりは自分の中を掘ろう、みたいな。

和嶋慎治

結局揺らぐんだよね、周りを見てると。自分という存在はなんなのかって考えるようになったら、テレビとかも観れなくなっちゃって。だからもう何年もテレビ観てないし、それであんまり人の音楽も聴かなくなっちゃったんだろうな。作曲するときはずっと音楽のことしか考えてなくて、自分の中から出てくる音を表現したいと思うようになって。意外に、人によってはやってる人はわりと人の音楽を聴いてないんじゃないかなっていう気もするしね。永ちゃん(矢沢永吉)がレコード持ってないとか有名な話だし。あとマイケル・シェンカーは人の曲を聴かないとか昔から言われてきたし。例えばジミ・ヘンドリックスだって27歳で死んでるわけでしょ。27歳までに聴いた音楽であれだけのことをやれたわけだから、だいたい人間が何か作る上で吸収できる基本となるものってだいたい10代のうちに終わっちゃってて、あとは年月をかけて表現していくわけで、それでもいいんじゃないかなって僕は思って。人の曲を聴くと、「あんまり良くねえな」って思うし。

──ダハハハハ! なるほど(笑)。

あ、感動するときもあるんだけど、それほど感動できなかったりするんです、申し訳ないことに。それで、やっぱり自分の感動を作っていくほうに時間を割いてる感じですね。

ニューアルバム「此岸礼讃」 / 2011年8月3日発売 / 3000円(税込) / 徳間ジャパン / TKCA-73676

  • Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. 沸騰する宇宙
  2. 阿呆陀羅経
  3. あゝ東海よ今いずこ
  4. 光へワッショイ
  5. ギラギラした世界
  6. 春の匂いは涅槃の薫り
  7. 悪魔と接吻
  8. 泣げば山がらもっこ来る
  9. 胡蝶蘭
  10. 地底への逃亡
  11. 愚者の楽園
  12. 地獄のロックバンド
  13. 今昔聖
人間椅子(にんげんいす)

和嶋慎治 (G, Vo)、鈴木研一(B, Vo)、ナカジマノブ(Dr, Vo)による3ピースバンド。1989年に出演したTBSテレビ系「平成名物TV イカすバンド天国」で高い評価を獲得し、1990年7月にメルダックより「人間失格」でメジャーデビューを果たす。その後インディーズでの活動や、ドラマーの交代などを経ながらも、コンスタントにライブやリリースを重ねていく。確かなテクニックに裏打ちされたライブパフォーマンスや、ハードロックを基調とした独自のサウンド、文学的な歌詞などで、音楽ファンの厚い支持を集め続けている。