ネーネーズ|沖縄から全国に届けたい、夏を告げる“真南風”

どんな曲でも3人で歌うことで“らしさ”が出る

──本村さんは「FaiFai」「乾杯」「あなたの声」の作詞・作曲を担当しています。もしかして、もともとはシンガーソングライター志望だったんですか?

本村 いえいえ。日記とか歌詞みたいなものは書いていたし、「いつか自分で作ってみたいな」とは思っていたんですけど、まさか3曲も入るとは思ってなくて。

沖山 普段から「歌詞は書けそうだな」と思ってたんですよ。理恵はMCでも独特の目線から話すことが多いし、想像力も豊かなので。いろいろな物事に対する考えが深いんですよね。

──なるほど。「FaiFai」はどんなテーマで書いた曲なんですか?

ネーネーズ

本村 小さいときの記憶がもとになってるんです。おじいとおばあが八重山の離島で暮らしていて、遊びに行くと、孫が喜ぶ顔を見るためにすごく張り切ってたんです。おじいは海に出て魚を獲ってきて、それをおばあが料理して。あるとき、親戚がおじいとおばあの家に行って、写真をLINEで送ってくれたんですけど、それを見た瞬間に小さい頃の記憶がバーッと蘇ってきて。そのときの気持ちを歌にしたのが「FaiFai」ですね。記憶や思い出はなくなるけど、歌にすればずっと残せるなって、この歌を作ったときに思いました。

上原 おじい、おばあの話をされると涙腺が緩んでしまうんですよね。私は理恵が見たような風景は見たことがないですけど、だから余計に「こういう風景、いいなあ」と思ってしまって。自分もおばあとの時間も大切にしたいなと思うし……。この曲は私がメインを歌わせてもらってるんですが、コンサートでも声を振り絞るようにして歌ってます。泣きそうな私を見て、この2人が笑ってるっていう(笑)。

本村 曲調はにぎやかで明るいし、泣くような歌ではないので(笑)。でも、うれしいですね。私自身の思いを書いた曲にこんなにも共感してくれて、思いを重ねて歌ってもらえるのは。

沖山 共感できる歌詞を書けるのがすごいなって思いますね。私は「あなたの声」のソロパートを歌っていて。初めて曲を聴いたときから「これは自分に合ってるな」と感じたんですよね。私もしょっちゅう「よし、がんばろう」と思ったり、立ち止まってしまったりを繰り返しているので。

上原 「がじゅまるは根を広げて じっと耐えていた」という歌詞もいいですよね。がじゅまるの根っこが足元にあっても「邪魔だな」と思うんじゃなくて、「立ち止まるときなんだ」っていう。

本村 「あなたの声」も美鈴が歌うことでめっちゃいいなと思えました。自分で歌うよりもさらに感情が込められていて、グッとくるんです。

沖山美鈴

沖山 知名定男先生が「あなたの声」に対して、「『黄金の花』の歌詞を書いた岡本おさみ先生に似てるところがある」とおっしゃっていて。

本村 最高の褒め言葉ですよね。私は小さい頃から八重山舞踊をやっていたんですが、お囃子を言うくらいで、歌っていたわけでもないし、三線も弾けなくて。全部ネーネーズに入ってから始めたし、「早くほかのメンバーに追い付こう」「ネーネーズの名前に恥じないようにがんばろう」と思ってやってきたんですけど、作詞と作曲をやらせてもらって、知名定男先生に褒めてもらえて。報われたような気もしたし、すごくうれしかったです。

──「乾杯」の歌詞も独特の視点から書かれていますよね。乾杯という日常的な行動の中に深い思いを込めていて。

本村 乾杯するときって、人によっていろんな気持ちがあると思うんです。「ああ疲れた。労ってほしいな」と思ってる人もいるだろうし、「今日は楽しもうね!」という意味の人もいて。それを歌にしてみた感じですね。

──メロディに関してはネーネーズらしさを意識していたんですか?

本村 あまり意識してなかったですね。ネーネーズらしさを考えてしまったら歌詞も曲も書けない気がしたから、やりたいようにやってました(笑)。例えば「FaiFai」は「みんなでオチャラケたいな」と思って作ったんですよ。志村けんさんの“変なおじさん”みたいなノリと言うか。

上原渚

上原 そうなんだ?(笑) じゃあ変なおじさんみたいな振り付けにする?

沖山 ははははは(笑)。

本村 (笑)。どんな曲でも3人で歌うことで“らしさ”が出て来ると思うんですよね。だから思い切っていろんなことをやってみたいなって。

沖山 もともとネーネーズは、いろんなタイプの曲を歌っているんです。沖縄民謡だけではなくて、ロック調の曲もあるし、ブルースやレゲエも歌っていて。知名定男先生も常にいろんな音楽を吸収しているし、イベントにHYやかりゆし58を呼ぶこともあります。

──メンバーが作詞作曲を手がけることで、ネーネーズの音楽の幅も広がっていきそうですね。

上原 いい経験になりました。さっきも言ったように「曲なんて絶対作れない」というおかしな自信があったんですけど(笑)、2人を見ていて「私もがんばってみよう」と思えたと言うか。

沖山 理恵に火を付けてもらった気がします。「みんなで書いた曲だけのアルバムが出せたらいいね」という話もしていたので、その思いに応えたいなって。

5代目ネーネーズにしか歌えない歌を

──提供楽曲についても聞かせてください。前川真悟さんの作詞作曲、YANAGIMANさん編曲の「千惚り万惚り」はレゲエテイストのナンバーです。

上原 初代ネーネーズが「No Woman, No Cry」(ボブ・マーリーの楽曲)を沖縄の言葉でカバーしているんですが、前川さんは「知名さんがレゲエに沖縄の言葉を乗せたのと同じことを俺はやっているだけだよ」と言っていて。「雨が降って、水たまりができて、そこに愛しい人の顔が浮かぶ」といった内容の歌詞も、今も昔も変わらない人の気持ちを描いているんですよね。

沖山 「千惚り万惚り」という歌詞もネーネーズの「No Woman, No Cry」にあるんです。「千ほどにも万ほどにも惚れています」という意味なんですが、前川さんはこの言葉の響きがとても好きらしくて、この曲にもふんだんに使われていて。

本村 「千惚り万惚り」と何度も歌ってます(笑)。ステージで歌うのも楽しみですね。ネーネーズのお客さんは年配の方が多いんですが、クラブにいる若い人みたいに手を挙げてもらうのもいいだろうなって。

──島袋優さんが手がけた「若夏ジントーヨー」も沖縄らしい雰囲気が伝わる楽曲です。

上原 聴いた瞬間に涙腺決壊でしたね(笑)。

本村 「誰でもみるような夢を見て 故郷出たけれど」で始まるんですけど、その時点でもう感極まっちゃいます。メロディもすごく吸収しやすくてスッと入ってくるし、歌ってるときに泣きそうになります。

──自分自身の経験と重なるということですか?

本村 そうですね。1回だけ本土に住んだことがあるんです。専門学校に行って就職もしたんですが、そのうちに「沖縄の環境って、めっちゃ大事だったんだな」ということに気付いて。沖縄の空気だったり、海だったり、三線の音色だったり。それはかけがえのないものだし、守れるんだったら守りたいなって。

上原 うん。私は沖縄を出たことがないんだけど、この曲で歌われていることはすごくよくわかりますね。

本村 切なさの中に強さも感じられるんですよね。「『帰っておいで』なんて言わないで」という歌詞があるんですが、「自分の夢を叶えるまでは親にも友達にも会わない」みたいな決意があるのかなって。

沖山 待ってる側からすれば「『帰っておいで』って言わせてよ。こっちだって会いたいんだから」という気持ちだろうし。胸が痛くなります。

本村理恵

本村 「会いたくて胸が胸が痛いよ」のところは、歌っていると本当にキューッと締め付けられます。

──宮沢和史さんの「亜壇の心」も奥深い味わいの曲です。

沖山 そうですね。しっかりと芯があって、壮大な景色が広がって。

本村 しっかり根を張っているような強さを感じますね。沖縄のことを描いているのかな?とも思うし。

上原 実はまだ咀嚼し切れていないんですよね、この曲は。3人の解釈もそれぞれ違っていて、「私はこう思う」という話もしているんです。ステージで歌い込んでいく中で、少しずつわかってくるのかな、と。

──これからも週に5日、舞台に立つ日々が続くわけですからね。「MAPAI」の楽曲が加わることで、ライブの雰囲気も変わってくるだろうし。

沖山 そうですね。アルバムの収録曲のうち、全部を歌うのはまだこれからなので。

上原 1つひとつ振り付けを考えて、曲たちをステージに上げていこうと思ってます。試行錯誤しながら、耳にも目にも楽しいライブにしたいので。

──新しいトライが多かったアルバムだし、今後にもつながるのでは?

本村 ぜひつなげたいですね。

上原 これからもいろいろと挑戦したいなと。

沖山 うん。作詞と作曲にも引き続き挑戦していきたいし、「これは5代目ネーネーズにしか歌えないよね」と思ってもらえるような曲を増やしていきたいと思います。

ネーネーズ
ネーネーズ「MAPAI」
2018年6月22日発売 / KING RECORDS
ネーネーズ「MAPAI」

[CD]
3240円 / KICS-3716

Amazon.co.jp

収録曲
  1. FaiFai[作詞・作曲:本村理恵 / 編曲:前濱YOSHIRO]
  2. 千惚り万惚り[作詞・作曲:前川真悟 / 編曲:YANAGIMAN / 沖縄訳詞:知名定男]
  3. 美童歌心[作詞:吉田康子 / 作曲・編曲:知名定男]
  4. 若夏ジントーヨー[作詞・作曲:島袋優 / 編曲:島袋優、迎里中]
  5. 人生半分・酒半分[作詞:ビセ・カツ / 作曲:知名定男 / 編曲:前濱YOSHIRO]
  6. 梅の香り[作詞・作曲:新川嘉徳 / 編曲:知名定男]
  7. 島季節[作詞:上原渚、上原里子 / 作曲:知名定徳 / 編曲:嘉手苅聡]
  8. 海の声[作詞:篠原誠 / 作曲:島袋優]
  9. 乾杯[作詞・作曲:本村理恵 / 編曲:前濱YOSHIRO]
  10. あなたの声[作詞・作曲:本村理恵 / 編曲:嘉手苅聡]
  11. 亜壇の心[作詞・作曲:宮沢和史 / 編曲:前濱YOSHIRO]
  12. ハーモニー[作詞・作曲・編曲:知名定男]
  13. ハリクヤマク ※ボーナストラック

ゲストミュージシャン:
前川真悟(Cho)、吉田康子(Vo)、知名定男(Vo)、山城和正(三板)

イベント情報
ネーネーズ「MAPAI」レコ発ライブ 2018
(※終了分は割愛)
  • 2018年7月9日(月)東京都 沖縄料理 居酒や こだま
  • 2018年7月10日(火)宮城県 enn 2nd
  • 2018年7月11日(水)北海道 札幌KRAPS HALL
  • 2018年8月27日(月)大阪府 BananaHall
  • 2018年8月28日(火)愛知県 オキナワAサインバーKOZA
  • 2018年8月29日(水)愛知県 オキナワAサインバーKOZA
ネーネーズ
1990年夏に沖縄民謡の重鎮である知名定男のプロデュースによって結成された沖縄音楽グループ。これまでに数回のメンバー入れ替えがあり、現在は5代目にあたる沖山美鈴、上原渚、本村理恵の3人で活動している。1991年4月発表の1stアルバム「IKAWU」で話題を集め、1997年まで年1回のペースでアルバムを発表。沖縄を拠点にしつつ各地でもライブを行っており、これまでに2度のヨーロッパツアーを成功させた。1999年にメンバーを一新し、2000年の「第26回主要国首脳会議」(九州・沖縄サミット)開催時には沖縄芸能派遣団の一員としてロシア、フランス、イタリアでパフォーマンスを行った。2015年にアルバム「reborn」をKING RECORDSからリリースし、メジャーへと復帰。2016年にアルバム「DIKKA」を発表し、収録曲の「ヤガマヤ」は沖縄音楽の配信サイト「ちゅらサウンズ」の週間チャートで1位を獲得した。2018年1月にメンバー1名が卒業。これによりネーネーズ結成以来初めての3人体制になり、同年6月にニューアルバム「MAPAI」をリリース。沖縄・ライブハウス島唄を拠点にライブを行っているほか、新作を携えて全国各地を回っている。