音楽ナタリー Power Push - ESTACION 南壽あさ子×鈴木惣一朗
2人が再び冬を描いた理由
南壽あさ子と鈴木惣一朗によるユニット・ESTACIONの新作音源「もうひとつの冬」がリリースされた。
昨年12月に“季刊”限定ユニットとして結成し、「少女歳時記<冬>」を発表したESTACION。約1年ぶりに届けられる今作はハイ・ファイ・セット「冬の海」、大瀧詠一「Blue Valentine's Day」といったカバー曲や、細野晴臣が参加したオリジナル曲「カシュカシュ」など冬をテーマにした楽曲が詰め込まれた作品に仕上げられている。ここでは南壽と鈴木にインタビューを実施。去年に引き続き、冬をテーマにした作品を作り上げた2人に今作の制作背景やユニットでの活動についての話題などを語ってもらった。
取材・文 / 桑原シロー 撮影 / 吉場正和
凛とした佇まいが冬に合う
──もともとESTACIONは“季刊”限定ユニットとして、四季折々の作品をリリースしていくとおっしゃっていましたが、予定が変更になったのか、2枚目の冬アルバムが届きました。
南壽あさ子 今年の2月にESTACIONでワンマンライブをしたんですけど、そのときに「少女歳時記<冬>」は8曲しか入ってないし曲が足りないってことになりまして。そこでルーツというか前々から好きだった曲を歌うことになったんです。
鈴木惣一朗 「しんしんしん」や「Blue Valentine's Day」のカバーをやったんだよね。南壽さんもはっぴいえんどが大好きだし、大瀧(詠一)さんへの追悼という意味もあって。この2曲は男性の歌だけど、前から女性が歌ってもいいんじゃないかと思ってましたから。あと昔からHi-Fi Setの「冬の海」が好きで、きっと南壽さんに合うだろうと思って組み込んだ。それが好評だったんですよ。ね?
南壽 私は周りの感想を聞いていないのでわからないんです(笑)。
鈴木 そうなんだ(笑)。で、これらの曲って全部冬の曲なんですよね。それを録音したい、って言ったんです。
──つまりライブでつかんだ手応えがあって、再び冬の作品を作ろうということになったと。
南壽 きっかけはそうですね。
鈴木 四季折々にアルバムを作るというプランも捨てがたいんですけどね。今後はどうなっていくんだろうか……。まあ予定は未定ってことで。
──わかりました(笑)。でもその決断がいい結果を生みましたね。もう1つの冬の名作が生まれたな、という喜びをひしひしと噛みしめているところです。
鈴木 冬だけ動き出すグループってあまりいない。南壽さんの凛とした佇まいが冬に合うってこともあるしね。
ちょっと力んだ偶数作品
──ほかの季節をテーマにした曲を聴いていないから断言できませんが、冬をテーマにしたアルバムは2作目ですけど今作の曲もすんなりと受け入れられました。
鈴木 ちょっとリキんだところがあるんだよね、2作目ってことで。
南壽 確かに惣一朗さん、リキんでました(笑)。
鈴木 前作ではお互いの音楽をすり合わせながら面白くやろうと思ってたわけですが、けっこういいってことがわかって今回は力が入ってしまった。つまり真面目に作ったということです。
──以前、惣一朗さんは“名作奇数説”を唱えてらっしゃったと思うんですけど、今回の2作品目“偶数のアルバム”はどういう評価ですか?
鈴木 よく覚えてるね(笑)。偶数のアルバムは鬼門だっていう説ね。それは変わってないですよ。
南壽 となると、今回は?
鈴木 だから力が入った(笑)。
南壽 レコーディング中、ずっと言っていたんですよ「力が入ってしまった」って。1作目も2作目も夏にレコーディングを行ったんです。前回は夏の最中に冬を想像することが難しかったんですけど、今回は2回目なのでそのあたりはちょっと慣れてきたというか。前作を冬に聴き直して、冬だとこういう聞こえ方になるんだな、とわかったこともやりやすさにつながっています。どんなに暑い日でも、冬の寒さを感じながら歌えました。
鈴木 南壽さんってこういう感じの人だから。キャピキャピしているところがない。 なんかこう、冬の木みたいな人だからね。
南壽 どちらかといえば1年中冬のような気持ちで過ごしています。だから努力して頭の中に冬を作り出す、ということもしませんでした。曲を書くときは夏の暑さの中で冬を思い、冬の寒さの中で夏を思いながら作ることがありますから、今回のレコーディングもそういうイメージでできたんじゃないかと思います。
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収録曲
- しんしんしん
- カシュカシュ
- 冬の海
- Blue Valentine's Day
- 雪
- 心に太陽を持て
- 冬は糸を連れ
- 灯台守
ESTACION(エスタシオン)
右 / 南壽あさ子(ナスアサコ)
1989年千葉県佐倉市出身のシンガーソングライター。幼少の頃からピアノを始め、大学時代に軽音部に所属。その後音楽活動を本格化させ、2010年よりライブ活動を行う。2012年6月には湯浅篤をプロデューサーに迎えたシングル「フランネル」でインディーズデビュー。翌2013年10月にはシングル「わたしのノスタルジア」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビューを果たす。2016年7月に所属レーベルをヤマハミュージックコミュニケーションズへ移籍することを発表した。同月に「エネルギーのうた(弾き唄い Ver.)」、8月に「八月のモス・グリーン」を配信限定シングルとして発売し、9月に移籍後初のCDシングル「flora」をリリース。また同年11月には鈴木惣一朗とのユニット・ESTACIONの新作音源「もうひとつの冬」を発表した。
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左 / 鈴木惣一朗(スズキソウイチロウ)
1983年にWORLD STANDARDを結成し、細野晴臣プロデュースのもと「WORLD STANDARD」でデビュー。音楽プロデューサーとしてハナレグミ、ビューティフルハミングバード、中納良恵(EGO-WRAPPIN')、南壽あさ子、湯川潮音、羊毛とおはな、あがた森魚といったアーティストの作品に携わっている。また音楽雑誌への寄稿や本の執筆も行っており、1995年に執筆した「モンド・ミュージック」はロングセラーを記録した。2015年12月には南壽あさ子とのユニット・ESTACIONとしてミニアルバム「少女歳時記<冬>」をリリース。2016年11月にはESTACIONの新作音源「もうひとつの冬」を発表した。