ナタリー PowerPush - ナオト・インティライミ
旅の果てに見つけた ナイスな瞬間をキャッチする
旅先で出会った「catch the moment」的な瞬間
──確かにメロディの切なさとかスムーズな展開に耳を奪われがちだけど、実は「恋する季節」ってストレンジですよね。
日本にいたままだったら2A(2コーラス目のAメロ)も1A(1コーラス目のAメロ)と同じメロにしてたと思うんだけど、歌詞を書いたあと、その羅列された言葉を見てたら「これ、もう別に1Aに戻る必要ないよね?」って気付いちゃって。だから1Aの「なぜだろう」から始まるメロディは1回しか出てこないし、2Aのあのラップ調のフレーズも1回しか出てこない。大サビも1回だけしか出てこないし(笑)。そういった決断をできるようになったのも旅をしていく中で感覚が研ぎ澄まされたおかげかな、とは思ってます。旅先ではいわゆる「catch the moment」的な瞬間、「今この瞬間、ここにいなかったら、こんなことは起きてないだろう」みたいなことがたくさんあったんですよ。エチオピアでハマルっていう少数民族の村に滞在できたのもそうだし、コロンビアで(国民的シンガー)アンドレス・セペーダと8年ぶりに再会して一緒にステージで歌えたことも、カリブ海のトリニダード島のカーニバルのメインパレードで歌えたこともそう。そういうことに巡り会えるっていう体験があったから「この瞬間を逃すな」「面白いと思ったなら、その直感に従って決断しろ」っていう精神が養われたっていう面はあるのかなあ。
──あっ、アルバムタイトルであり、今作のコンセプトでもあるんだろう「catch the moment」っていう発想自体、あらかじめあったものではなくて旅の途中で発見したものなんですか。
うん。ハマルの村での生活の中でパッと湧いて出たフレーズでしたね。そしてその考え方が収録曲のいろんなところに還元されている。例えば「恋する季節」なんかは歌入れも「catch the moment」的で。「曲ができて歌詞が書き上がったからイメージを周りのスタッフと共有するための仮歌を録っておこう」って日があったんですね。でも仮歌だし、スタジオにレコード会社の人間や事務所の人間は呼ばなかった。とりあえずエンジニアと2人で粗く録っておけばいいや、と思いながら歌ったんですけど、落ちサビの「うたかたの夢の続き」っていうフレーズを歌った瞬間「これ、改めて歌い直す必要ないじゃん」と。
──これは仮歌じゃなくて……。
「本チャンじゃん」と。2人で「これいいっスよね!」ってなって、そのままちょっと気になるとこだけ直して、わずか1、2時間で「できたー!」みたいな。今まで4枚のアルバムを作って、何十曲も発表してきたけど、あの曲の歌録りが一番楽しくて早かった。あれはまさに「catch the moment」した瞬間でしたね。昔のオレなら絶対に「これは確かにいいけど、あくまで仮歌なんだし、改めて録り直そう」と思ってたはずですから。
「泣くな! 笑え!」じゃなくて「泣いてたって笑え!」
──そのほかの曲の制作ってスムーズだったんですか? 旅に出ながらアルバムを作るとなると、スケジュールはけっこうタイトだったのかな、っていう気もするんですけど。
オレ、いっつもノドもと過ぎると熱さを忘れちゃうんだよなあ(笑)。たぶん作ってる最中はキツかったはずなんだけど、今となっては「そんなこともなかったかもな」って思っちゃうという。ただ、改めて思い返してみても基本的には楽しかった気がしますね。「トリニダードから帰ってきてから仕上げよう」って思ってた曲が4、5曲あって、そのミックスを同時進行でやったのはキツかったけど、アルバム全体の方向性や曲のイメージははっきりしてたから、そのほかのことについてはホント直感のまま突き進んでいけた感じはしてますね。まあ歌詞では悩んだけど、それは毎度のことだから、今回に限ってキツかったっていう気もしてないし(笑)。
──その歌詞なんですけど、基本的にポジティブなんだけど、バカみたいにネアカなわけではない。旅の行程をまとめた著書「旅歌ダイアリー」に書いてあるからそのまま言わせてもらえるなら、2度アーティストデビューに失敗しているし、本の中で紹介されている国は発展途上国中心。正直、キャリアにおいても旅の道中においても、楽しいことばかりではなかったと思うんです。なのに、それでも前を向き続けようとする。そういう強い決意みたいなものが感じられるんですよ。
ポジティブかなあ? けっこうナヨいことも言ってるんだけどね(笑)。「ナイテタッテ」なんか「モヤモヤ」するからって「部屋の壁をドンドドン 叩いちゃって暴れちゃって」るし、「未来スケッチ」の主人公は「傲慢な上司に はむかってやろうって思うけど それこそ勇気なんかないわけだし。「声をきかせて」とか「君生まれし日」なんかは大失恋ソングだし。
──でも「ナイテタッテ」のサビでは「泣いてたって笑え!」とハッパをかけているし、「未来スケッチ」でも「もっと特別な 自分だけの未来をスケッチしていこう」と最後にはちゃんと希望を抱いていますよね。
ああ、確かに。最終的にはやっぱりその境地に行きたいから。なんか「ボク悩んでますから……」っていうネガティブキャンペーン……じゃないな(笑)。悩みっぱなしはやっぱりイヤだし。もちろん悩まない人なんかいないし、みんないいことばっかじゃない。オレ自身、何かがダメになっちゃったら、その瞬間は人一倍落ち込むんですよ。「あー、ダメだったかー。じゃー次ー」っていうタイプではない。「うわあ……。ダメだったかあ……」っていうのが一回ドーンと入ってくるんだけど、それを受け止めた上で次のステップに行きたいっていう気持ちがやっぱりあるんですよね。だから「泣くな! 笑え!」じゃなくて「泣いてたって笑え!」なんです。
- ニューアルバム「Nice catch the moment!」 / 2013年5月15日発売 / ユニバーサル・シグマ
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3800円 / UMCK-9619
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3800円 / UMCK-9619
- 通常盤 [CD] 3059円 / UMCK-1445
CD収録曲
- introduction~Do whatcha wanna~
- Brand new day
- 恋する季節
- I'm chi-zu-ers
- 365
- 君生まれし日
- ナイテタッテ
- Ballooooon!!
- しあわせになるために
- 未来スケッチ
- 声をきかせて
- I FEEL IT GOOD
- Catch the moment
初回限定盤DVD収録内容
- ナイテタッテ(MUSIC VIDEO)
- しあわせになるために(MUSIC VIDEO)
- 恋する季節(MUSIC VIDEO)
- Yeah!(Live at 横浜アリーナon 2012.12.07 「ナオト・インティライミ アリーナツアー2012」)
- Hello(Live at 横浜アリーナon 2012.12.07 「ナオト・インティライミ アリーナツアー2012」)
- 君に逢いたかった(Live at 横浜アリーナon 2012.12.07 「ナオト・インティライミ アリーナツアー2012」)
ナオト・インティライミ
三重県生まれ、千葉県育ち。世界29カ国を515日間かけて1人で渡り歩き、各地でライブを行うなど、世界の音楽と文化を体感。帰国後となる2009年には自らのソロ活動のほか、サポートメンバーとしてMr.Childrenのツアーにも帯同する。そして2010年4月、ナオト・インティライミ名義でのメジャーデビューシングル「カーニバる?」をリリース。同7月には1stアルバム「Shall we travel??」を発表し、メジャーデビューからわずか8ヶ月となる12月には東京・日本武道館公演も開催する。その後も2011年リリースの2ndアルバム「ADVENTURE」がオリコン週間アルバムランキング3位、2012年の3rdアルバム「風歌キャラバン」が同1位を獲得、同年末には紅白歌合戦に初出場するなど快進撃を続け、2013年5月、4thアルバム「Nice catch the moment!」をリリースした。