ナタリー PowerPush - 中塚武 meets 須永辰緒
音楽とラーメンの師弟対談
須永さんの作るラーメンは編曲に近い
──須永さんのDJも、中塚さんの音楽も、音楽好きの人がその好きなままにのめりこんで最大限を出してるというカッコよさがありますよ。
須永 DJって基本的に趣味人なんですよ。趣味にとことんのめりこむ人。僕は趣味でラーメンを作るんですけど、最初に試作したラーメンを食べてくれたのは中塚くんでしたね。
中塚 めちゃくちゃうまいんですよ! ほぼプロ。レシピ本を待ってる人が多数いるくらいの領域なんです。
──自作ラーメンを食べてもらうときの緊張感って、音楽を作るときと近かったりしますか?
須永 そうですね。評価という点では気にしますね。DJでも作曲でも、人の評価はすごく参考にするんです。ラーメンの場合はいろんな好みや意見があるんで、みんなに合わせるんじゃなくて、自分の趣味の中でどうやって調整していくかというところなんです。自分の好きなラーメン作って自分で食べれば美味いことは美味いんですけど、はたしてそれが他人にも美味いのかはわからないんですよ。
中塚 須永さんの作るラーメンって、編曲に近いんですよ。管弦のアレンジみたい(笑)。
──ラーメンの話からこじつけますけど(笑)、そういう意味でいうと、中塚さんは賞味力、咀嚼力というか、味も音楽も吸収する力が強いんじゃないかと思うんですが。
中塚 辰緒さんもそうだと思うんですけど、僕の周りは五感が優れてますよ。
須永 勘がいい人が多いよね。
中塚 何が言いたいかもすぐわかってくれるし。
須永 ビッグバンドでもそういうことじゃん。今回、中塚くんがイガバンBBの人たちと一緒にやるのも、アイコンタクト以前に通じ合うというか、譜面見た途端に言わんとしてることをわかってもらわないとまとまらないでしょ。
中塚 ビッグバンドってジャズというイディオムのひとつの完成形じゃないですか。これは絶対音楽家として通っておかないといけないと思っていたし、曲ごとならまだしもこんなにまとめてビッグバンドの楽譜を書くことも今までになかったし。それに、イガバンBBのリーダーである五十嵐(誠)くんの咀嚼力もすごいんですよ。僕がビッグバンドのアレンジを五十嵐くんに渡す段階では、まだ音符だけで音楽的なアーティキュレーションを書いていないので、文章で言えば漢文みたいなものなんですよ。ただ漢字が並んでるだけ。それを五十嵐くんが僕のやりたいことを読み取って漢字カナ交じり文にして、みんなに伝えてくれるんです。僕と音楽の趣味が似てるというところもあるんですけど、僕は数いるビッグバンドアレンジャーの中ではラロ・シフリンが好きで、彼のアレンジは金管が主役なんです。五十嵐くん自身もトロンボーン奏者で金管出身なので、そこも僕にはすごく相性の合う点でした。
価値観のぶっ壊し方はオルガンバーで学んだ
──前作の「Lyrics」は歌モノのオリジナル中心だったんですが、その次を今回の新作「Big Band Back Beat」のようなビッグバンドによるカバーアルバムにしようと決めていたんですか?
中塚 はい。選曲については、僕もやはり古今東西有名無名問わず「これをビッグバンドにしたらカッコいいはず」と思った曲を選びました。
──意表を突いたアレンジの曲もあれば、アンリ・サルヴァドールの「カーナビー・ストリート」のように原曲に忠実なアレンジの曲もあって。カラフルで面白いです。
須永 中塚くんっぽいよね。
中塚 例えば「カーナビー・ストリート」について言えば、あの曲はブルーノート音階でやってるんですよ。アンリ・サルヴァドールはマイナーサードとメジャーサードの間で歌っていて。今は打ち込みの音楽が主流だから、その音階をあえて使うことはほとんど無いんですよ。鍵盤に並んでる音以外を使うわけですから、パソコンでは表現できない。音程と音程の間をひとつの音として歌うということ自体が失われたものになっているので、この曲はそういう意味でも採り上げたいと思いました。
──一方でWILD CHERRYの「プレイ・ザット・ファンキー・ミュージック」や、THE PEDDLERSの「ジャスト・ア・プリティ・ソング」は、原曲でのかっちり決まったリズム感覚をあえて裏切る大胆なアレンジになっていて。
中塚 いやもう、そういう価値観のぶっ壊し方みたいなのは、まさにオルガンバーで学んだことですよ。辰緒さんのリミックスって、壊すと思ったらわざと同じようにしたり、逆にぶっ壊しまくったりしていた。それが本当に面白いなと思ってたんです。その天衣無縫な感じが僕はすごく好きで(笑)。その影響が今回にも出ていると思います。
須永 リミックスっていろんなアプローチがあっていいんですよ。やってるほうもそれが楽しくてリミックスするわけだから。
中塚 「Lyrics」では自分のメッセージ性を出すというのがすごく大事なところだったんですけど、今回のビッグバンドでは、編集の妙みたいなものをもっと出したくて。最近はあんまりポップスのシーンで、「音楽だけで面白いことをしてるな」とか「このアイデア先を越された!」みたいに思うことが意外と少なくて。ちょっと国内向きというか、内向きな感じがしてたんです。欧米では、ポップスとジャズの垣根を超えた面白い作品が発表されてるんですよね。そこに日本側としてちゃんと回答したかったという気持ちはありました。
──ジャスティン・ティンバーレイクの新作とか、まさにそういう感じでしたね。でも世界的に見ても、シンガーを務める人がバックのアレンジまでしてしまうという例は、ほとんどないんじゃないですか?
須永 マシュー・ハーバート以降、新しい世代のジャズのビッグバンドがシンガーをフィーチャリングした作品ってのはいくつか出てますけどね、歌まで自分でやるというのはないかもしれないですね。
中塚 そこはちょっと面白くできたかなと。
収録曲
- Just A Pretty Song(THE PEDDLERS)
- Play That Funky Music(WILD CHERRY)
- スキップ・ビート(KUWATA BAND)
- Across The Universe(THE BEATLES)
- It's Your World(ギル・スコット・ヘロン)
- Be Nice To Me(トッド・ラングレン)
- Carnaby Street(アンリ・サルヴァドール)
- 白い森(NOVO)
※カッコ内はオリジナルアーティスト
中塚武 with イガバンBB
『Big Band Back Beat』発売記念
インストアイベント
2013年8月23日(金)東京都 タワーレコード新宿店7Fイベントスペース
START 21:00~
※観覧無料
中塚武 meets SOFFet with イガバンBB
10周年&新譜発売記念ライブ
2013年9月18日(水)大阪府 Billboard Live OSAKA
[1st]OPEN 17:30 / START 18:30
[2nd]OPEN 20:30 / START 21:30
<出演者>
中塚武 / SOFFet / イガバンBB
<料金>
サービスエリア 6300円
カジュアルエリア 4800円
中塚武(なかつかたけし)
1998年、自身が主宰するバンドQYPTHONE(キップソーン)でドイツのコンピレーションアルバム「SUSHI4004」に参加。国内外での活動を経て2004年にアルバム「JOY」でソロデビューを果たした。その後はCM音楽やテレビ&映画音楽、アーティストへの楽曲提供など活動の幅を広げ、2010年には自身のレーベル「Delicatessen Recordings」を設立。2011年にはレーベルオフィシャルサイト内にて新曲を定期的に無料配信する「TAKESHI LAB」をスタートさせた。2013年2月6日には約3年ぶりのオリジナルアルバム「Lyrics」をリリース。
須永辰緒(すながたつお)
1980年代よりDJとして活動し、1988年からはリミキサー / プロデューサーとしても活躍。1995年には東京・渋谷にクラブ「Organ Bar」にオープンさせ、2001年からはソロユニット「Sunaga t Experience」としての活動も始める。「World Standard」「須永辰緒の夜ジャズ」シリーズなどミックスCDも多数手がけており、コンピレーション監修やプロデュースワーク、海外作品のリミックスなど関連作品はのべ200作を超えた。2013年には「音楽史に残る名レーベルを現在のシーンに再訪(Re visit)させる」レーベルコンピレーション「REVISIT」シリーズが始動。6月にはその第1弾作品「REVISIT -Brunswick- selected by Tatsuo Sunaga」がiTunes Store限定でリリースされた。