ナタリー PowerPush - 中塚武 meets 須永辰緒
音楽とラーメンの師弟対談
今年2月にフルアルバム「Lyrics」を発表したばかりの中塚武が、早くも次のアルバムを完成させた。今度はビッグバンド「イガバンBB」とのコラボレーションによるカバーアルバム「Big Band Back Beat」だ。
ナタリーでは前作「Lyrics」発売時、学生時代からの盟友・土岐麻子との対談(参照:中塚武「Lyrics」リリース記念対談 with 土岐麻子)をセッティングしたが、今回の特集には中塚が師とあおぐ“レコード番長”須永辰緒が登場。2人の出会いや音楽観、さらにはラーメンの話題を通して、中塚の音楽制作に対する姿勢と新作「Big Band Back Beat」の魅力に迫った。
取材・文 / 松永良平 撮影 / 佐藤類
この華奢なやさ男がこんなトラックを作ってくるなんて
──お2人の出会いはいつ頃ですか?
中塚武 僕は辰緒さんのことは知ってましたけど面識はなくて。僕の曲を、まだ発売の予定もなかったのに須永さんがオルガンバーでかけてくれてたんですよ。須永さんがかけてくれたことでフロア人気が爆発して。
須永辰緒 2000年くらいだったかな。誰かにもらったんだよね。それはCM用に作られた音源で、すごく短かったからCDをコピーして2枚使いした。「ダバダバダ」ってスキャットの部分をリピートして、伸ばして使ってた(笑)。
──生でリミックスしてたんですね。
中塚 僕、むしろその音源が欲しいです(笑)。だから、そのあとエイベックスからリリースしたいというお話をいただいたときも、「出すんだったら辰緒さんにリミックスを頼みたい」って言ったんです。それで正式にお願いをしました。それがDelicatessen mixture名義のシングル「Aguas de Agosto」(2001年発売)です。
──須永さんは中塚さんの作るトラックのどこがいいなと思ったんですか?
須永 僕は裏方体質なんで、未知の音源でいいものがあるとプロモーションしたくなっちゃうんですよね。そのときに中塚くんの作った曲が僕のそういう体質に引っかかった。オルガンバーのラウンジシーンで自分が目指すフロアの雰囲気にもちょうどイメージが合致したんですよ。それで毎日毎日かけてたんです。本人とは正式にリミックスをすることになって初めて挨拶をして、最初から意気投合しましたね。
──会ってすぐ意気投合ということですけど、年齢の差はありますよね。
中塚 僕は普通に辰緒さんの音楽が好きでしたから。辰緒さんも僕に対してすごくフラットに、音楽だけで話かけてくれたので、すごく話しやすかったんです。だから僕が意気投合したというより、辰緒さんが僕の目線に降りてくれて話をしてきてくれたんです。
須永 僕は、この華奢なやさ男がこんなトラックを作ってくるなんて、時代ってすごい勢いで進んでるのかもしれないと思ってました。僕らはパンクとかソウルとかヒップホップとかを通過して新しい領域に踏み出そうとしてたときに、そういうものをこんな若い子が作っちゃってた。こっちが逆にいろいろ勉強させてほしいと思いましたし。何より、好青年だったというのがポイント高かったですね(笑)。
中塚 (笑)。
須永 かわいい弟のようでしたよ(笑)。中塚くんのやっていたキップソーンも面白いバンドでした。キップソーンのライブを観たときに、ハモりで歌ってる中塚くんを見て「歌えるんだ」とも思ってましたし。
──その時点で、今のシンガーとしての素地は見えていたんですね。
須永 中塚くんはソングライターで、家でパソコンに向かって曲作りをしてる人というイメージだったから、それがけっこう意外でしたね。
“渋谷系”ではない2人
──あと中塚さんの存在がちょっとユニークだったのは、渋谷系の代表アーティストの1人と見なされていながら、リアルタイムではフリッパーズ・ギターの「恋とマシンガン」は聴いてなくて、2002年にCMの仕事でカバーをしたときに初めて曲を知ったという。実は渋谷系を通っていないという、その事実にもすごく意味があるように思います。
中塚 そうなんです。1990年代前半はレアグルーヴとかを聴いていました。だから渋谷系というより、95年に辰緒さんがオルガンバーを始めたことのほうが僕には衝撃でした。オルガンバーに初めて行ったときに、ものすごくヒップなことが始まってる感じがしたんですよ。かかってるのはジャズだし、激しいわけでもないのに、なんでこんなにドキドキするんだろう、って。どちらかと言うと、いわゆる渋谷系のポップス的なものよりそっちのほうが僕にとっては渋谷なムードなんですよ。
須永 ちなみに僕は渋谷系の人たちと同世代ですけど、そっちは1ミリも通ってないんです(笑)。Bボーイの走りみたいなもので、渋谷系とか、まったくわからなかったですね。
中塚 あの頃、カヒミ・カリィの「ハミングがきこえる」を、辰緒さんのレーベルがライセンスしてアナログカットしていたんですよ。あの「音楽をフラットに俯瞰する」感じが僕には近かったんです。渋谷系とはまったく違う文脈を感じて。
須永 出来のいいジャジーなトラックという感覚で聴くと、あの曲はマスタリングし直して12インチにする価値があったんです。それと同じような意味で、僕はオルガンバーでもフリッパーズ・ギターの「恋とマシンガン」もよくかけてました。あの曲は渋谷系を通ってきた人にはアイコン的な存在ですよね。でも僕はそういうのは全然知らないから堂々とかけてて、でもそれが新しいファンの人の趣味と合致して、そこでまたひとうねりした。その流れの中で、中塚くんの作る音楽ともちょうどリンクしたんですよね。だから必然的に仕事を一緒にする機会も増えたんだと思います。
中塚 僕が「日産マーチ」のCMで「恋とマシンガン」をカバーしたときも辰緒さんはよくかけてくれてましたよね。
収録曲
- Just A Pretty Song(THE PEDDLERS)
- Play That Funky Music(WILD CHERRY)
- スキップ・ビート(KUWATA BAND)
- Across The Universe(THE BEATLES)
- It's Your World(ギル・スコット・ヘロン)
- Be Nice To Me(トッド・ラングレン)
- Carnaby Street(アンリ・サルヴァドール)
- 白い森(NOVO)
※カッコ内はオリジナルアーティスト
中塚武 with イガバンBB
『Big Band Back Beat』発売記念
インストアイベント
2013年8月23日(金)東京都 タワーレコード新宿店7Fイベントスペース
START 21:00~
※観覧無料
中塚武 meets SOFFet with イガバンBB
10周年&新譜発売記念ライブ
2013年9月18日(水)大阪府 Billboard Live OSAKA
[1st]OPEN 17:30 / START 18:30
[2nd]OPEN 20:30 / START 21:30
<出演者>
中塚武 / SOFFet / イガバンBB
<料金>
サービスエリア 6300円
カジュアルエリア 4800円
中塚武(なかつかたけし)
1998年、自身が主宰するバンドQYPTHONE(キップソーン)でドイツのコンピレーションアルバム「SUSHI4004」に参加。国内外での活動を経て2004年にアルバム「JOY」でソロデビューを果たした。その後はCM音楽やテレビ&映画音楽、アーティストへの楽曲提供など活動の幅を広げ、2010年には自身のレーベル「Delicatessen Recordings」を設立。2011年にはレーベルオフィシャルサイト内にて新曲を定期的に無料配信する「TAKESHI LAB」をスタートさせた。2013年2月6日には約3年ぶりのオリジナルアルバム「Lyrics」をリリース。
須永辰緒(すながたつお)
1980年代よりDJとして活動し、1988年からはリミキサー / プロデューサーとしても活躍。1995年には東京・渋谷にクラブ「Organ Bar」にオープンさせ、2001年からはソロユニット「Sunaga t Experience」としての活動も始める。「World Standard」「須永辰緒の夜ジャズ」シリーズなどミックスCDも多数手がけており、コンピレーション監修やプロデュースワーク、海外作品のリミックスなど関連作品はのべ200作を超えた。2013年には「音楽史に残る名レーベルを現在のシーンに再訪(Re visit)させる」レーベルコンピレーション「REVISIT」シリーズが始動。6月にはその第1弾作品「REVISIT -Brunswick- selected by Tatsuo Sunaga」がiTunes Store限定でリリースされた。