ナタリー PowerPush - 中塚武 meets 須永辰緒
音楽とラーメンの師弟対談
中塚家の実家レコーディング
──お2人が一緒に音楽の仕事をされてたのは2000年から2003年にかけてぐらいですね。
中塚 そうですね。Sunaga t Experienceのアルバム「DOUBLE STANDARD」(2003年4月発売)くらいまでですね。
須永 最初の頃はオペレーターとして打ち込みをしてもらっていたんです。そのうち、鍵盤も弾けるし譜面も書けるってことで、けっこう丸投げが多くなりました(笑)。「明日までにお願い!」って(笑)。
中塚 僕は横浜の実家住まいだったんですけど、そこを作業場にして辰緒さんも来ていただいて。ちょっと僕の作業で待ち時間があるときに、「僕の部屋にいろんなマンガあるんで読んでてください」って言ったら、「ゴルゴ13」全巻読破されたりとか(笑)。
須永 中塚家の冷蔵庫から勝手にものを出してきたりとかね(笑)。でも一緒にやってて行き詰まることとかはなかった。やっぱりあの実家感が僕を楽にさせるんでしょうね(笑)。行き詰まったら近所のラーメン屋に一緒に行っちゃうしね!(笑)
中塚 でも音楽を作ってるときも本当に面白かったんですよ。辰緒さんは今まである価値観をぶっ壊すんです。やっぱりヒップホップを通ってるというのも大きいと思うんですけど、例えば1個のスネアの音だと思ったら何層にもレイヤーされてできてる音だったとか、ものすごく発見が多かった。
須永 僕がよくリミックスで使うエコーとか、特殊なスネアの音とかに対して「あ、こうやってたんですか!」とか言われることがけっこう多くて。自分では変わったことやってるつもりはなかったんですけどね。
日本家屋の設計図をガウディ建築に
──中塚さんが須永さんとの仕事を通じて学んだのは、どういうものだと思いますか?
中塚 めちゃくちゃいろんなことを吸い取らせていただきました。僕は1から順々に積み重ねて音楽を作っていくタイプなんですよ。でも辰緒さんは終わりのイメージがもう最初にできていて、そこから逆算して音作りを考えるんです。それでいて、僕を自由に泳がせておいて、面白いほうに行くんだったらそれでいいと思ってるところもある。違う方向に行ってもそれが面白ければOKという感じで、僕も作業しながらどこかに連れて行かれちゃう気がしてました。
須永 僕の設計図は大したものじゃないんですよ。でも日本家屋みたいな基本的な設計図で始めたものを、できればガウディ建築みたいにしたい。そうするには自分の感性や知識だけじゃ埋まらない。僕はSunaga t Experienceというソロユニットをやってますけど、みんなの共同作業という意識があるんです。例えば中塚くんと作業してると、変わったコードとかを付けてくるんですね。「どうしてそういうコードを付けるわけ?」って聞いたら、「たぶん、僕がピアノを習い始めたのが遅かったからじゃないですかね?」って答えで(笑)。
中塚 辰緒さんはSunaga t Experienceの“Experience”にすごくこだわっているんですよ。「いろんな経験を持った人をゆるやかな価値観でまとめたのがSunaga t Experienceであって、そこに自分が大きく介在したいわけじゃない」っておっしゃってて。
須永 そういう自分の知らない要素を取り入れるほうが刺激になるし、そうするともう音楽を作る実力に年下もへったくれもないって感じになるんですよ。
中塚 だから辰緒さんのもとに人が集まるんじゃないですか? 音楽やってる人の気持ちに降りてきてる。ミュージシャンのかゆいところが全部わかってるんです。
須永 ガチガチの縦社会で生きてきた僕も、そういう交流によってずいぶんやわらかくなりました。
「僕は音楽家で行く」と決めた午前3時
中塚 そうやって辰緒さんと僕も一緒に音楽を作ってきて、2004年ぐらいかな。辰緒さんがDJイベント「夜ジャズ」を始められたときです。それまで僕もDJをけっこうやってたんですけど、「あ、僕は音楽家で行く」と決めたんです。
須永 そう言ったのは覚えてるね。酔眼朦朧とした午前3時くらいの話だったけど。
中塚 古今東西有名無名のいろんな音楽のピースがあって、それをひとつにまとめて全然違うものにするという辰緒さんのすごさは、一緒に音楽を作っていたときも感じてたんですが、「夜ジャズ」というキーワードが出てきたとき、さらにビックリしたんです。みんながうっすら気が付いてたんだけど言葉にできなかったものを、すでに一単語にまとめちゃってた。そのときに、僕はその中のピースとしての音楽を作ることはできるけど、無数にある音楽のなかからドキドキするような選び方ができちゃう辰緒さんには勝てないと思ったんです。だからDJではなく、僕のそもそもの本分である音楽家に絞ろうと決めました。
須永 まあ、話がおおげさだよね(笑)。たまたまだよ。俺はDJが好きだからね。中塚くんだって音楽が好きで、作りたいなと思って独学でピアノをマスターしたり、「Lyrics」みたいにシンガーとしてもアルバムを出したりしたじゃないですか。それが僕の場合はDJに向いてるだけ。中塚くんみたいな才能豊かな若いミュージシャンと一緒に作業したり、ヤン富田さんやいとうせいこうさん、小西康陽さん、近田春夫さんのような先輩方からいろいろ勉強させてもらったことがあったり、そういう付き合いを全部DJに反映してるだけなんですよ。ただ人よりもちょっぴりレコード買ってるかな、って(笑)。
中塚 ちょっぴり、ではないですよね(笑)。僕の家での作業に向かうときに「中塚さあ、家に着いたらネットやらしてくんない? ちょっとねえ、もうすぐ絶対落とさないといけないレコードがあるんだ」って(笑)。
須永 そういうこともあったね(笑)。
収録曲
- Just A Pretty Song(THE PEDDLERS)
- Play That Funky Music(WILD CHERRY)
- スキップ・ビート(KUWATA BAND)
- Across The Universe(THE BEATLES)
- It's Your World(ギル・スコット・ヘロン)
- Be Nice To Me(トッド・ラングレン)
- Carnaby Street(アンリ・サルヴァドール)
- 白い森(NOVO)
※カッコ内はオリジナルアーティスト
中塚武 with イガバンBB
『Big Band Back Beat』発売記念
インストアイベント
2013年8月23日(金)東京都 タワーレコード新宿店7Fイベントスペース
START 21:00~
※観覧無料
中塚武 meets SOFFet with イガバンBB
10周年&新譜発売記念ライブ
2013年9月18日(水)大阪府 Billboard Live OSAKA
[1st]OPEN 17:30 / START 18:30
[2nd]OPEN 20:30 / START 21:30
<出演者>
中塚武 / SOFFet / イガバンBB
<料金>
サービスエリア 6300円
カジュアルエリア 4800円
中塚武(なかつかたけし)
1998年、自身が主宰するバンドQYPTHONE(キップソーン)でドイツのコンピレーションアルバム「SUSHI4004」に参加。国内外での活動を経て2004年にアルバム「JOY」でソロデビューを果たした。その後はCM音楽やテレビ&映画音楽、アーティストへの楽曲提供など活動の幅を広げ、2010年には自身のレーベル「Delicatessen Recordings」を設立。2011年にはレーベルオフィシャルサイト内にて新曲を定期的に無料配信する「TAKESHI LAB」をスタートさせた。2013年2月6日には約3年ぶりのオリジナルアルバム「Lyrics」をリリース。
須永辰緒(すながたつお)
1980年代よりDJとして活動し、1988年からはリミキサー / プロデューサーとしても活躍。1995年には東京・渋谷にクラブ「Organ Bar」にオープンさせ、2001年からはソロユニット「Sunaga t Experience」としての活動も始める。「World Standard」「須永辰緒の夜ジャズ」シリーズなどミックスCDも多数手がけており、コンピレーション監修やプロデュースワーク、海外作品のリミックスなど関連作品はのべ200作を超えた。2013年には「音楽史に残る名レーベルを現在のシーンに再訪(Re visit)させる」レーベルコンピレーション「REVISIT」シリーズが始動。6月にはその第1弾作品「REVISIT -Brunswick- selected by Tatsuo Sunaga」がiTunes Store限定でリリースされた。